Lesson 2 マレ侯爵邸 2
「アドリアナお嬢様、美味しい焼き菓子がございますのでティータイムに致しませんか?」
2人の侍女らしき女性はニッコリ微笑みながら引いてきたワゴンに乗ったティーセットを順序よくテーブルに並べていく。
えっと...この女性達はアドリアナの身の回りのお世話をする侍女だと思うけど...クウ〜〜ッ!名前全然わかんなーい!!
「そ、そうね。そうしようかな」
「承知いたしました」
名前は思い出せないけど優しい雰囲気の侍女達はティーカップに紅茶を注いでくれ、砂糖も2つ入れて私の目の前にそっと置いてくれた。
猫舌の凛はすぐに紅茶は飲まずにマドレーヌを1つを手に取り口に頬張る。
お、美味しいっ!しっとりしてて...バターの味も濃厚だし。
夕食前にこの世界に来た凛は空腹だったのを思い出してパクパクと一気にマドレーヌを3つ食べた。
2人の侍女はアドリアナが食べる様子をジーっと見ていたが、次々にスイーツを頬張るアドリアナを驚きの表情で見ている。
ん?食べ方なんかおかしい?だって貴族のお嬢様の食べ方なんて私わからないし...っていうかお腹空いてるしコレ美味しいんだもん。
「まあお嬢様。本日はよくお召し上がりになっていますね。料理長もきっと喜びます!」
「旦那様が夕食に間に合う時間にお帰りになるそうです。お嬢様食べたい物はございますか?」
え、ナニナニ急に2人とも嬉しそうにどうしたの?
「えと...じゃあお肉?」
明るいけど今何時だろ?夕食かあ...お腹空いてるし早く食べたい!!
「肉料理ですねっ!マリア!」
「料理長に伝えてくる!」
高い位置で1つに束ねた胡桃色の髪の侍女は急ぎ足でドアへ向かうとお辞儀をしてから部屋を出て行った。
あの女性はマリアね。よし、覚えた。
今私はアドリアナだしこの世界の事も私の記憶じゃ曖昧で情報量少な過ぎだし、それとなくこのお屋敷の人達と仲良くなって情報を収集しなくては...。
「そ、そういえば今って何年だっけ?」
「今ですか?ルシウス暦235年第3の月です」
第3の月?3月って事?季節が日本と変わらないならまだ肌寒い頃だ。ルシウス暦235年...確か私が前世で結婚したのはルシウス暦241年で18歳だから今の私は...
「12歳!?」
「あ...アドリアナお嬢様のお誕生日は第8の月なのでまだ11歳ですよ」
マリーゴールドの花の様な橙色のサラサラストレート髪をした侍女がニコニコしながら答えた。
11歳。そうか...この頃だと社交界も関係ないしあの皇子と会うのもまだ先か。日本にすぐに帰れないかもしれないし、ここでしばらく暮らさなくちゃいけないとしたら、小さい頃で良かったかも。
此処に来ていきなりもう結婚してて旦那様いたら私絶対無理だし?
つい最近、初彼をゲットしたばかりで恋愛初心者の凛に結婚生活などと出来るわけがない。
前世のアドリアナは16歳に巫女になって17歳で婚約、18歳に結婚する。このルシウス帝国の皇太子、《アルフレッド》と。
周りに決められた結婚だし相手は皇太子で他国の姫とか他に奥さんもいて、朧げに思い出す《アドリアナ》の表情はどれも寂しそうだった。
「お嬢様、こちらの紅茶の茶葉は先日皇室から贈られた物なんですよ!」
侍女が「如何でしたか?」と続けようとしたところ、アドリアナは飲みかけていた紅茶を口からブッと吐き出してしまった。
「きゃあっお嬢様!!お怪我はございませんか!!??」
「何かあったの?エミリー...ああ〜っ!!すぐにお湯をご用意致します!」
やっと部屋に戻ってきたと思ったらマリアは急いで隣の部屋へ行き、すぐにタオルとお湯を持ってきた。マリアと、やっと名前がわかったエミリーがスカートに溢れた紅茶の液体をタオルで拭いていて、マリアはアドリアナの口元を優しく拭いていた。
アドリアナは《皇室》と聞いて蒼ざめた表情でティーカップを持ったまま真っ直ぐ前を見つめた。
「あ...あの...《皇室の茶葉》って...?」
え?もう皇太子出てくる??
※更新は不定期になります。




