Lesson 12 各々の休暇〜リリアーナ
「あ...」
気持ちいい風...
リリアーナの頬を一筋の風が通り過ぎた。
リリアーナは今、アドリアナとティナの3人でロッタ湖の中心地点辺りに到着したボートの上にいる。
ボートには漕ぎ手は乗っていない。しかし安定した速度で決まったコースをゆっくり湖の中を進んで行く。
ボート自体にコースを設定する魔法をトラヴィス侯爵が施しているそうだ。
〝トラヴィス侯爵〟と言えば学院のクラスメイトであるアンバーとジャスパーのお父様で、元第3騎士団長と聞いた事がある。大魔導師の能力を持ちながら早くに中央から退いた変わった方だとも...
マレ領を訪れて初めてマレ侯爵とトラヴィス侯爵が親友だということをアドリアナに聴かされて驚きましたわ。
まあでも...あの2人がアドリアナと仲が良い理由もこれで納得がいきますわね。
いくら領地が隣と言っても貴族が持つ領地は広大なので、気軽にお隣さんにご挨拶...という訳にはいかない。
貴族同士の交流は社交界にデビューしてからと言うのが一般的だ。
デビュー前...しかもデュ・アンカーズ帝国学院に入学する前からのおつきあいで、あのトラヴィス侯爵に直接魔法の指南をして頂いたと聞いた時も、驚いた私ははしたなくも口を大きく開けてしまった。
学院の貴族令嬢達の目的は花嫁修業と将来有望なお婿さんを見つける事というのが大半で、魔法習得に一生懸命なアドリアナは学院では異質な存在だ。
アドリアナが侯爵令嬢で物語に登場してくるお姫様のような美少女だから仲良くしても皆何も言わないけど(言いたくても言えないのが正しい)...双子は特別学院でも目立つ容姿で揃いも揃って魔法も剣術も優秀で、本人達の知らない所で貴族のご令嬢の間では将来有望なお婿さん候補になっているのだ。
私のように下級貴族の場合、皇宮で働く為の資格が欲しくて学院に入学する人も多いけれど、アドリアナのマレ侯爵家は経済的にも裕福だし護衛もたくさん雇う事も出来る。
魔法なんて必要ないくらいの令嬢なのにアドリアナは魔法も薬学も剣術も全ての学問を優秀な成績でクリアしている。
そんな何事にも挑戦するアドリアナと同室でこれから4年間一緒に学んでいけるなんて、楽しくないはずが無いわ。
ティナも話しやすくて面白いし学院に来て良かった。
それにしても...
マレ侯爵家の領地...初めて来たけどこんな綺麗で大きな湖があるなんて...
ボートから湖の水面を見ると数メートル底に泳ぐ魚が透けて見える程の透明度だ。そしてこの美しい湖では特産のマレ真珠の養殖を行っている。
ウチの領地は少し行けば海があるけど崖だけで港があるのは隣の領地だし、観光出来る所と言えば牧場ぐらいしかないわ。
学院に入ってから初めての休暇。
休暇に入ってしばらくは実家でのんびり(?)過ごしていたけど、寮で同室でクラスメイトのアドリアナの実家である、マレ侯爵が治めるマレ領地で過ごす事になった。
リリアーナは普段は大人しく目立った行動はしないが、優しそうな容姿とは違って感情に流されない理性的な所もある。
フォンス家には、リリアーナの下に10歳の弟と5歳の妹がいる。
リリアーナは長女に生まれたからか昔から面倒見が良く、現在はティナの暴走をよく止めていたりする。
弟と妹から離れて優雅な毎日が送れるなんて...フフッ、アドリアナとティナのおかげね。
リリアーナは湖面の水を掬って水を掛け合いこする2人の姿を見てこっそり感謝した。
「ねえっ、アドリアナ〜?昨日行ったお土産屋さん後でもう1回行こうよ〜?マレ真珠のヘアアクセ買いたいの」
「マレ真珠なら研究所へ行く途中も取り扱っている店がいくつかありますわ。可愛いモチーフを使った普段使いも出来る商品を扱った人気な店もありましたわ」
「そうなんだ?あの辺りのお店素通りしちゃってたわ」
どうやらアドリアナもまだ行っていない店のようだ。
「マレ避暑地のパンフレットを取り寄せて隅から隅まで読みましたから」
パンフレットの表紙も美しいけど宿泊するコテージが湖の周りに点在している景色が素晴らしくて何度も眺めていたのだ。
おかげでパンフレットを見なくてもこの辺りの地理や気になるお店の場所は大体把握できていると思う。
「さっすがリリアーナ!抜け目ないなあ」
「じゃあ後でそのお店行って...あ、何日も滞在するしどうせなら自分でデザインする?」
「えっ!?」
「デザイン出来るの?」
「デザイン出来ますの?」
アドリアナの言葉に2人が声に出したのはほとんど同時だった。
「うん。出来上がりに少し時間がかかるけど」
「やった〜」
「楽しそうですわね」
「リリが言ってたお店のも見に行こうね。デザインの工房は明日は夜パーティーがあるから朝食の後行こっか!」
「そっか〜明日のパーティーはアドリアナの...」
ドドドドド!!
ティナが言いかけていたが最後の方の言葉は辺りに響く爆音で掻き消されてしまった。
「何?なんの音?」
3人は爆音が何処から聴こえているのか辺りを見渡そうと振り向いたが探す間もなく強制的に理解させられた。
ザッパーン!!
水飛沫が3人の頭のてっぺんからつま先まで勢い良く掛かったからだ。
「キャア〜ッ!?」
「なに〜!?びしょ濡れじゃない!」
「あー...ゴメン!!勢い良すぎた」
濡れて乱れた額にかかった髪の毛を両手でかきあげて見上げると、そこには両の手の平を合わせて頭を下げているリアムと、遅れて後方からやって来て呆れ顔でリアムを見るライリーが水上バイクに跨っていた。
毎度びしょ濡れのアドリアナ...
今回は仲良く3人でw
※ 更新は不定期になります。




