Lesson 9 契約 5
えっ?何それ!?
「〝水の精霊使い〟って何?加護とは違うの?」
「君は...ホントに何も知らないんだな」
ルークは目を見開き、呆れたようにはあ...と溜息をついた。
「〝加護〟があれば訓練無しでその属性の魔法が使えるようになる。〝精霊使い〟になった君は水の精霊を呼べば現れるし精霊の力を操る事もできる」
「え...っと水の精霊を呼んでどうするの?」
「はあ?...必要になった時だけ呼べばいいよ、自分の魔法が通用しない時とか?」
「なるほど...ソラとは違うのね」
ソラは移動する時用だけど、ウンディーネは緊急時の護衛って感じか...ふむ...
ソラはベッドの上で丸くなってスヤスヤと寝ている。
「それから...無闇に〝水の精霊〟を呼ばないようにね」
ルークはそう言って立ち上がると、部屋に備え付けのカップと水の入ったピッチャーを手に取り、水を注いだ。親指と人差し指でパチンと鳴らすとカップの中の水が瞬時に沸いた。
お〜!水がお湯になった!!
何その便利な魔法!?
この世界にはガスや電気は無い。替わりに魔法で湯を沸かしたり料理をするのだが、アドリアナはマレ邸の料理人達がやっていたのと同じようにポットに火を点けて湯を沸かしていた。生活に必要な小さな火を扱う魔法は、火の魔法を得意としていなくても誰でも使用できる。
アドリアナもアルバアラス寮の自分の部屋で紅茶を飲む時は魔法を使うが、ルークの魔法は目から鱗だった。
「君の魔法はまだ確実に安定している訳じゃない。精霊を呼ぶには魔力を使う...魔力を使えば体力も消耗する」
ルークはカップにスプーンで何か入れるとかき混ぜながらアドリアナに「ほら」と手渡した。
あったかい...あ...チョコレートの匂いがする。
「ありがとう」
猫舌だからすぐ飲めないんだけどカップ持ってるだけで温まる...
この人さっきから優しいんだけど...?気が利き過ぎてなんか怖いな?
不審に思いながらもアドリアナはふうふうと冷ましながら少しずつココアを飲む。
「それより君、なんでまた空間移動したんだ?またびしょ濡れになってるし...」
「あ...えーと...その...」
薬草取ろうとして滝壺に落ちたなんて言ったら鼻で笑われそう...
「どうせ薬草探してて川に落ちたとかだろうけど?」
「川じゃないわよっ!滝壺に落ちたんだもん!」
しどろもどろでどう言えばいいのかわからないでいると、まだ何も言っていないのに鼻でフッと笑われ、ほとんど正解の答えを言い当てられたアドリアナは、言わなくてもいいのについ勢いで言ってしまった。
しまった!!つい口が滑って...川も滝壺も変わらないじゃない?訂正するとこじゃないでしょっ、そんなとこ!
「滝壺って...君、仮にも侯爵令嬢でしょ?馬鹿なの?」
馬鹿って...馬鹿は言い過ぎじゃない?
「危ないとか思わないの?まだ満足に魔法もコントロール出来ないのに?」
ぐっ...言い返せない...だって魔法があれば大丈夫だと思ったんだもん。
「魔法は使えても身体は生身の人間だ。魔法だって失敗する事もある...君に何かあれば家族が悲しい思いをする」
う...仰る通りですっ!私が考えなさ過ぎました。
12才の子に説教されるなんて...というかこの子ホントに12才?
怒りを含んだ赤い瞳が静かに此方をみていた。
「ごめん...なさい。これからは考えてから行動します」
なにこれっ!?なんか私この子に負けた感じがするんだけど?...でも言ってることは正しいし、でもやっぱり悔しい〜〜っ!!
「...ねえ君さあ、この前...」
ん?
「アドリアナっ!!」
バアーン!!
ルークが何かを言いかけた時、部屋のドアが勢いよく開いて同時にティナとリリアーナが飛び込んできた。
フォルティス公子?...何が言いたかったの?
※ 更新は不定期になります。




