Lesson 7 空色のソラ 1
「ではパパ、ママ行ってきます!」
ルシウス暦235年第5の月。
アドリアナは今日、デュ・アンカーズ帝国学院で学ぶ為に首都アンカーズへ旅立つ。
「明日の入学式は見に行くわね」
エレノアはアドリアナをぎゅうっと抱き締め、右頬に軽くキスをした。
「うん」
「嫌な事があったら帰ってきていいからな」
「もう〜パパったら甘やかさないで!大丈夫だから>>>」
ヴァシリスと軽く抱擁するとアドリアナはヴァシリスの右頬にキスをした。
「アドリアナ〜っ!」
「行くぞ〜!」
頭上からアンバーとジャスパーの声が聞こえて見上げると、2人は2羽の鷹に乗って空を飛んでいた。首都アンカーズは初めてのアドリアナは2人と一緒に行く約束をしていたのだ。
「ちょっと待ってて!...ソラ!!」
「にゃー」
いつの間にかアドリアナの脚に頭を擦り付けていた水色の子猫がぽわんっと白い煙に包まれ、そして煙の中からアドリアナより大きくなった水色の猫が現れた。
「ファル、ソクル!ソラもアンカーズは初めてだからよろしくね」
「にゃにゃ」
「いいわよ。綺麗な水色の毛並みね」
「迷子になるなよ」
ファルとソクルは下まで降りてきて低空飛行している。
「お前いつの間にペット見つけたんだよっ?」
「その子まだ子供じゃない?喋れないし」
「いいの!仔猫だけど飛べるんだからっ、ね〜ソラ?」
「にゃーん」
空の色に似た水色のふわふわした毛並みとラピスラズリのような深い青色の瞳の仔猫。
3日前の朝、アンカーズ学院の学生寮へ送る荷物を準備している時...アドリアナの部屋のバルコニーに登って困って鳴いていたのが、ソラだった。
毛は水色だが白い雲の形の様な模様が入っていて、空を眺めているような仔猫だから名前は《ソラ》にしたのだ。
小さくてお喋り出来ないけど私の話は理解できるし大きくなって空も飛べるし...とってもお利口さんっ。
この世界では、人間の言葉を話せる動物が多数いる。そんな動物は私達のペットであり友達でもあり仲間にも成り得る。異世界から1人、前世にやってきたアドリアナにとってソラは何でも話せる友達なのだ。
ソラみたいな水色の猫は珍しいってエミリーとマリアは言ってたけど...トラヴィス侯爵に今度会ったら聞いてみよ。
ソラはアドリアナを背中に乗せるとふわりと宙に浮いた。ファルとソクルも空高く舞い上がる。
「アドリアナ、気をつけてね」
「はーい!じゃあ行ってきます!」
*
首都アンカーズ。
ルシウス帝国建国と同時に造られた帝国最大の都市。此処にルシウス帝国の中枢となる皇族、大貴族が住まい、皇宮、教会、美術館などの重要な建築物が集まる。帝国中からありとあらゆる特産物が運ばれ、アンカーズで手に入れる事が出来ない物は無いと言われる程の活気が溢れた街だ。
「わあ〜〜っ!人がいっぱい!!米粒みたい>>>」
「はあ?米粒ってなんだよ」
アンバーが不思議そうに聞き返す。
あっ、米は此処には無かったっけ...?
「豆粒みたいねって事よ」
マレ領の街、イルマーロも住みやすい街で人が多く感じたが、此処は比較にならない程の賑わいだ。
アンカーズの街の入り口で通行証を所持しているかをチェックする術がかかった門があり、其処をソラに乗ったまま何事も無く通過した。門が点滅すると門番に停められるらしい。
門を通り抜け、そのままアンカーズの街を真っ直ぐ進めば皇宮があり、西に教会、東に美術館とデュ・アンカーズ帝国学院がある。学院横に併設されている2階建ての白い洋風な建物が学院の寮、アルバアラス寮だ。
3人はアルバアラス寮の玄関前に降り立った。3人の直ぐ後ろに続々と色んなペットを連れた学院生達がやって来た。ペットも様々で真っ白な梟や虹色の綺麗な鱗を持つ蜥蜴もいる。
おお〜...この光景...異世界の住人って感じ。
「部屋確認して荷物の片付けしようぜ」
「夕食までに片付いたら良いね。アドリアナ、また後でね」
「うん、またね」
寮の玄関を入ってすぐ目の前の壁に部屋割りが貼ってあり、皆それを確認して自分の部屋へ向かう。寮に入って左側が女子の部屋、右側が男子の部屋になっているようだ。
アドリアナはアンバーとジャスパーとは逆方向の廊下へ歩いて行く。
階段を登って直ぐ目の前の部屋がアドリアナの部屋だ。
コンコン
取り敢えずノックをしてから返事が無いのを確認してからアドリアナはドアをそーっと開けた。
寮は2人で1部屋使う。大きな窓を挟んで対称的にベッド、机、収納棚が並んでいた。
すでに同部屋のもう1人の荷物は解かれて片方の机の上には本が並んでおり、整理されている。しかし当の本人は部屋には居なかった。
もう1人って確かリリアーナ・ウィリデ・フォンス...フォンス男爵家の令嬢だ。
ペットのソラ...水色でふわふわ小さな猫...猫かな?
学院&寮生活も始まり、新たなキャラも登場。
※ 更新は不定期になります。




