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巫女になりたくないので回避します。  作者: 天ノ雫
【第4章】 不本意ながら巫女見習いです!編
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Lesson 80 初めてお目にかかります 2


 ん、待てよ...?本当のマレ令嬢が起きている間は凛の会話が聴こえてたという事は...今この会話は凛に聴こえているという事か?


 「マレ令嬢...今凛は何してる?」


 「え...と気絶してしまって...心の中で呼びかけましたが意識はありません...フォルティス公子にされた事がよほどショックだったようです。私と入れ替わった原因もそれが原因みたいですけどやっぱり何かあったんですよね!?」


 「あー...うん。本当のマレ令嬢が存在しているとは知らなくてその...僕は君にさっき...いや何でもない...!」


 アドリアナに言われルークは正直に答えようとしていたがふと思い止まる。


 目の前にいるマレ令嬢は彼女じゃない...11歳の幼い令嬢だ。


 「え?何ですか...?」


 言える訳がない。寝ていて知らないとはいえキスされたというこの事実を聞いてもしこの子のトラウマになったら、マレ令嬢(凛)に後でなんて言われるか...!


 ルークは今は意識はない凛が目覚めて入れ替わった後に自分に詰め寄るだろうアドリアナの姿が容易に想像出来て身震いした。


 今は意識はないが凛が気づいた後2人は此処で話した内容の情報交換をするだろう...つまり目の前のマレ令嬢に言った言葉は彼女に筒抜けという事だ。


 「じゃあ...君は僕とマレ令嬢がどういう関係かは知ってる?」


 「え!...こ...婚約者...ですよね?」


 成る程...11歳のマレ令嬢は婚約者の意味は一応わかっているらしい。僕が質問をする度に怯えた瞳でこちらを見ている...小動物のようだな。


 ルークは愉しくなってきたのか部屋の隅でうさぎのように小さくなっているアドリアナの前に立ち追いつめる。


 「そう、君は僕の婚約者だ。だから凛はこんな真夜中に僕の寝室にいたワケなんだけど...」


 「し、寝室っ!?...そ、そうですよね...?」



 〈凛はフォルティス公子の事は期限付きの婚約者だと言っていたけど、こんな真夜中に男性の部屋を訪れるなんて余程信頼している相手か、やっぱり好意を持っている相手だからかしかないと思うけど...でも、わ、私は凛ではないしどうしたらいいの?〉



 はわわわ...ともはや表情が保てなくなってきたアドリアナの顔は蒼く困惑している。


 「...時間も時間だしこのまま泊まる?」


 中身は違うと解っていてもルークはアドリアナが慌てて困っている表情(かお)を眺めるのは楽しいらしい。


 「えっ!?そ、それは困ります!!婚約者とはいえまだ結婚していませんから!!」


 「だけど君はソラを使えないだろう?...魔法はやり方さえ覚えれば使えそうだけど、どうやら君が表に出ている間は能力値も低下するらしい。ペットは自分が認めた主人しか命令を聞かないから」


 「そうですか...ソラは凛のペットですものね」


 アドリアナは腕に抱いているソラを見下ろすと悲しそうに肩を落とした。


 まあ別に僕がこの子を送ってもいいんだけど...本当のアドリアナをこのまま帰らせるのは非常にマズい...魔法が使えないこの子を1人にする事は危険だ。せめて凛に交替するまでは僕がついている方がいいだろう。


 

 〈そう...だ、私には魔法が使えないからソラの背に乗ってマレ侯爵邸に戻る事はできない。それに...すぐ交替出来たらいいけれどこのまま私が表に出ていたら皆にいつものアドリアナと違うとすぐに気づかれてしまうかもしれない〉



 お互い考えている事は違ってはいるが、アドリアナがこのまま此処に留まっていた方が2人にとって好都合だった。


 「で、では...魔法が使える凛と交替するまで此処にいてもいいですか?」


 「勿論。...あ、夜中だし今日は部屋を用意する事は出来ないから君はこのベッドで寝るといい。僕は隣の部屋の長椅子で寝るから気にしなくていいよ」


 「え...!で、でもフォルティス公子っ...それは悪いです」


 「うーん...まあ僕が君をマレ侯爵邸にこっそり送り届けることは出来るけど〝凛〟はどうやらこの本の内容を話すために来たらしいんだ。こんな真夜中に僕の寝室に来る程急いでたと言う事はこの本の内容について早急に話したかったんだと思うんだけど...残念ながら僕にはこの本の内容は読めないんだ。君はどう?」


 ルークはベッドに上に置かれた本を手に取りアドリアナに見せる。


 「え!?本...ですか?...『巫女がいた世界』?え...これ...巫女について書かれた本なんですか!?」


 ...!読めるのか...魔力は使えなくても巫女見習いの視力はそのままなんだな?


 アドリアナの口から出た言葉にルークは歓喜した。そして自分のベッドを使えないと言うアドリアナに心よく使ってもらう為にルークはある提案をした。


 「そうらしい。...君、僕のベッドで眠れないなら眠たくなるまで一緒にこの本を読んで欲しいんだけど...嫌?」


 「...一緒...に...?」


 ドクンッ


 優しく微笑みかけられたルークの赤い瞳と目が合ったと同時にアドリアナの心臓が忙しく(せわしく)鳴り出した。アドリアナにとってルークは、4つも歳上の婚約者というよりは兄のような存在だと感じていたのだが...



 〈え?え!?い...今の...何?急に心臓がドキドキして...?なんで急に...ああ!!フォルティス公子がとても綺麗すぎる顔だからなんだわ。私、今までこんな整った顔の男性に会った事がなかったから私の心臓が免疫がないだけで...そう、そうよ!〉




 

 「ーーーそれで...『巫女がいた世界』の第5章には巫女のゆかり...つまり魔女ユーリカの夫について記されています」


 「〝夫〟?...イライザ妃の父上か」


 アドリアナとルークはベッドの上でうつ伏せになり、アドリアナが拡げた本を覗き込むようにして2人は小声で話している。ルークの部屋は防音魔法がかけられていて部屋の音や声が外に漏れる事は無いと解っていても、ついヒソヒソと話してしまう...話している内容も内容なだけに大声では話せないようだ。


 「ええと...ユーリカの夫は子爵家の次男で16の時に牧師になった...とあります。18の時異世界から来た10歳のユーリカと出会い、ユーリカが巫女になる前まで教会で面倒をみた...ユーリカが巫女になった後牧師は男爵の称号をもらってユーリカの後見人をしていた...」


 「...へえ」


 「巫女になったユーリカはキルケ王国の王宮にいましたが18の時巫女の任を解かれています。理由は...能力が無くなったから...?え?」


 「キルケ王国のラインハルト王子に聞いた話だけど、巫女は皇族や王族以外と結婚すると能力を失うといわれているけどユーリカは結婚前でも徐々に能力が弱まっていったらしい」


 巫女については未だ知らされていない部分が多くある。ユーリカがキルケ王国の元巫女という事はマレ令嬢がずっと調べている〝元の世界へ戻る方法〟について何か知っているかもしれない。もしかして僕に早く知らせようとしたこの本の内容は...


 「そんな事あるんですね?私は巫女には絶対的な能力(ちから)があるものだと思っていました」


 

 

 〝男爵となった夫と私は巫女の任を解かれたと同時に結婚し、キルケ王国のある辺境の村で小さな薬屋を始めた。薬の調合は巫女の能力が弱かった私が唯一出来る事で生活する為の術だった。夫は引き続き牧師をしていたが私と一緒に薬の調合を始めてから薬草の研究に没頭していった。夫は亡くなる直前、私に言った...『ゆかりがいた所に私も行ってみたかった』とーーー”


 〝巫女の能力も近頃失われつつある。おそらく次代の巫女が現れる兆しだろう...私の予想に間違いがなければ次代の巫女はルシウス帝国に住む侯爵令嬢である彼女だろう。彼女は私と同じ日本から転移した...話した感じではおそらく今の外見より年齢は少し上だ。そして...彼女の中にいるもう1人の存在...自分自身がそのまま転移した私と違って彼女は別人の身体の中に入り込んだ状態だ。1つの肉体に2つの人間...だがこの状態は長く続かないだろう...このままではいつかは何方(どちら)かが消滅するかもしれない〟



 〈これ...って...!え...凛か私の何方かが消える...という事!?どう...しよう...これってフォルティス公子に言ってもいいの?〉



 読んでいくうちに自分の事が書かれていることに気づいたアドリアナはその頁から目を離せず茫然としている。そんなアドリアナの変化に気づいたルークは心配そうな表情で覗き込んで言った。


 「どうかした?顔蒼いけど...」


 「あ...の...凛と私の何方か1人がいずれ消えるって...」


 「え!?」


 アドリアナの身体は小刻みに震えている。


 「この本の最後の章はユーリカが最近書いたものらしく、私や凛の事が書かれています。...私は...この身体は私なのに消えてしまうの...!?」


 「マレ令嬢、落ち着いて?それはユーリカの予想であって必ずそうなるわけじゃないだろう?」


 「でもっ...確かに今の状況はおかしいと思う。今のまま...私は凛と一緒に居たいのに...!」


 アドリアナの蜂蜜色の瞳が潤んで見える。ルークはどうにかして落ち着かせようとアドリアナの頭を撫でた。


 「マレ令嬢...思っている事は抱え込まずに口に出せばいい...君も凛も〝アドリアナ〟で僕の婚約者なんだからもっと曝け出してくれていいんだ」


 「〜〜〜っ!」


 蜂蜜色の瞳から涙が頰を伝っていく。感情を必死で押し込んでいたつもりだったのにルークの言葉を聞いた途端涙が止まらなくなったアドリアナはルークのシャツを引っ張り顔を隠すように埋めた。小さく嗚咽が聞こえる中、ルークは何も言わずアドリアナの背中を優しく撫でた...アドリアナが泣き疲れて眠りにつくまで何度も...





〜次の日のソラ


「にゃ?大きくなれないニャ〜!?」


「ああ、ソラは当分そのままだ」


「アドリアナ〜なんで大きくならないニャ!」


「え...?どうしたの?お腹空いた?」


 〈へ?なんで言葉が通じてないニャ?〉


「ソラ...この子はアドリアナだけどいつものアドリアナじゃないんだよ」


 〈ルークはなに訳わからないこと言ってるんだニャ!!〉


 顎を指でこちょこちょされたソラは機嫌良くゴロゴロと喉を鳴らしながら納得いかなかった...


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