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巫女になりたくないので回避します。  作者: 天ノ雫
【第4章】 不本意ながら巫女見習いです!編
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Lesson 79 ユーリカの行方 3


 「...うーん?入団テストの筆記試験の過去問は...あ!あった〜っ!!コレね?...えっと、念の為に3年分くらいは持って行った方がいいわよね?」


 分厚い過去問の本を3冊棚から抜き左腕に乗せたアドリアナはその隣に並ぶ騎士団入団テスト関連の書物を順番に目で追う。アドリアナは夏季休暇中の課題は数日前に終わらせていたから皆が課題に取り組んでいる間にティナの為に騎士団入団テスト関連の書物を選ぶ事にしたのだ。


 「実技は授業で習ってるけどこの本は読んでおいて損はないかも...これも為になりそう...あ!こっちも読みやすそうっ!」


 1冊2冊...とアドリアナの左腕には書物が次々と積み重なっていく。気がつけば分厚い10冊の書物が左腕に乗っていて、ずっしりとした重みを感じてアドリアナはようやくハッとした。


 

 は...ついこんなに選んじゃってた...でもどれも大事な内容が書かれてるし私じゃ決められないな...


 

 棚の前でうーん...と考え込んでいるとさっきまでアドリアナがいた方向から図書館の中らしからぬ元気な声が飛んできた。




 「リリアーナ、この問題の答え教えてくれっ!」


 「あ!またリリに頼ってるっ!!も〜!テスト勉強にならないって言ったでしょ?」



 

 「・・・・・・」



 はあ、リアムまだ騒いでるの?そろそろ図書館の人に注意されそうなんだけど?



 館内で書物を整理している司書がちらちらとリアム達の方を見てるし...もう!ちょっとは静かにしなさいよ?...ってあれ?ライリーが司書を呼び止めて何か話してる?騒がしいから謝ってるとか?




 「〝沈黙(サイレス)〟」


 「・・・!!〜〜〜っ!?」


 アドリアナがはらはらと様子を見守っていると、司書が立ち去った後ライリーはリアムに魔法をかけた。どうやらライリーは館内で魔法を使う許可を取っていたようだ。首都アンカーズでは皇宮は勿論だが公共施設内でも対人魔法は禁止されている。



 ただ、やむを得ない理由があれば許可を取って使用する事は可能だから...あの司書もリアムの声に迷惑していたのかすぐに許可を出したのね。



 館内の静けさが戻るとティナ達は課題に集中しているのか穏やかに時間が過ぎていった。窓から茜色の空が見える頃には皆課題を終わらせて、アドリアナ以外の皆はアルバアラス寮に帰って行った。夏季休暇はまだあと4日も残っているが課題や試験勉強をする為に早めに寮へ戻っている学生は多い。



 さてっと...閉館まであと1刻くらいは時間あるわね。まあ多少遅くなったとしても護衛の騎士達が付いてるし!



 アドリアナは明日寮へ戻る予定にしていた事もあり1人図書館に残って試験勉強の続きを再開した。数メートル先には第2騎士団の騎士が2人、アドリアナの視界に入らない位置で護衛している。



 「ふわあ...疲れた〜!...ん?」


 館内に照明が照らされたと同時に明るくなった目の前に見える棚に視線を動かしたアドリアナはある本の背表紙を見て目を見開く。



 なに...?あの本?...〝巫女がいた世界〟...!?



 ガタッ!


 思わず勢いよく立ち上がってしまったアドリアナだが、此処が静寂な図書館である事を思い出し慌てて周りを見回した。見れば館内は先程より人も疎らで司書達はカウンターで仕事をしているのか此処からは姿が見えなかった。



 ほっ...さすがにこんな時間だもんね?図書館に残ってる人も少ないみたいで良かった〜。



 立ち上がり数歩歩きさっき目に入った気になる題の本の前に吸い寄せられるようにたどり着いたアドリアナはそれを手に取る。



 巫女関連の書物は確かあっちの棚にまとめてあったはずだけど...何で()()だけここにあるんだろう?



 巫女関連の書物は巫女もしくは巫女と同等の能力を持つ者にだけ読む事が出来る。



 普通の人間には知られたくない巫女の機密事項が記された書物は巫女以外の者にはどうやら普通の内容の書物に見えるらしいのだけど...それならわざわざこの1冊だけ此処に置かなくてもいいわよね?



 「〝巫女がいた世界〟?この本初めて見るわ...」


 

 何が書かれてるんだろう...?

 ドキドキしながら表紙を開いたその時、いつの間にか背後に近づいていた人物によって出来た影で最初の(ページ)は真っ暗で見えなくなってしまった。


 「何してんだ?アドリアナ?」


 ドキーッ!!


 「な、なんだあ...アンバー?もうっ、驚かせないでよっ!?びっくりしたでしょ!!」



 いつの間に後ろにいたのよ〜〜っ!?心臓止まるかと思った...!!



 「いやー、家の蔵書は魔法関連のものばっかりだから此処に来たんだけど広過ぎて何が何処にあるんだかさっぱり解らないな?」


 「何の本探してるの?」


 「...騎士団の入団試験関連の本」


 「えっ!?」


 

 アンバーも...騎士団の入団試験受けるの!?そ...そういえば前に騎士団に入りたいって言ってたっけ?



 「それなら今日ティナが借りてたから明日ティナに言って見せてもらえばいいんじゃない?もうアルバアラス寮にいるわよ?」


 「ティナが?アイツも入団試験受けるのか!?」


 「そうよ?...2人共定期テストもあるのに大変ね...私も何か手伝える事あったら言ってね?」


 

 アンバーがダビデと戦って負傷した時の事を思い出すとアドリアナは何かしてあげなくてはいけないという義務感が沸いてくるようだ。




  *




 「アンバー、送ってくれてありがとう。アンバーとジャスパーも明日アルバアラス寮へ戻るんだっけ?」


 「ああ、じゃあ明日な?」


 「うん、また寮で」



 第2騎士団の護衛もいるのにわざわざマレ邸の前まで送ってくれるなんて...いつの間にアンバーってば紳士になっちゃって。


 

 自室に入ったアドリアナはフフッと笑う。手にはあの〝巫女がいた世界〟という書物を持って...





 『巫女がいた世界』



 〝私が生まれた所はキルケ王国でもメルクアース国でもルシウス帝国でもトリトン王国でもない。この4つの国ではない地球という星の日本という小さな国...それが私の故郷だ。

 日本には太陽も月も海も緑豊かな大地が有り、此処と似ている所もある...だが此処では魔法や貴族階級が当たり前だが私が知る地球上の国に魔法は存在しないし日本には貴族階級もない。

 私は10歳のある日、公園で遊んでいる時にこの世界のキルケ王国へ転移した。後から解った事だが、私が転移したキルケ王国は比較的治安が良く当時10歳だった私が1人路頭を彷徨っていた所を運良く教会の牧師が助けてくれ、その後私が独り立ち出来るように面倒を見てくれた。私はその牧師に感謝しても仕切れない程の恩があったが2年前、その牧師は亡くなってしまった。牧師は亡くなる間際まで私が日本に戻る為の手段を探してくれた。私が本当の名前〝大原ゆかり〟に戻る為に...〟




 〝大原ゆかり〟?って日本人!?この本の巫女って私と同じ転移者って事?この人はキルケ王国の巫女だったんだ...



 夕食の後入浴を済ませたアドリアナは濡れた長い髪にタオルをかけたままベッドに寝転びながら今日借りた本を読み始めた。




 〝転移して6年後、私は巫女になった。しかし私は歴代の巫女のような強力な聖なる力は備わっていなかった。日々結界を維持する為の祈りは欠かさなかったが2年後、恩人である子爵家の次男だった牧師との結婚をキルケ王国国王から許された。日本へ帰る事を常に願ってはいたが淡い恋心を(いだ)いていた歳上の牧師と結婚した私は幸せだった。私達の間には娘が1人生まれ娘が王の側妃になった後、巫女の能力(ちから)が弱まっていた私は牧師と共に小さな村へ移り住んだ。そこで私は薬と占いの店を始めたーーーー〟




 え...まさかコレって...この巫女ってユーリカの事?じゃあ...この本はユーリカが書いた...



 アドリアナはその先の頁をパラパラとすっ飛ばし本の後ろの方のある頁で手を止めた。




 “巫女の能力も近頃失われつつある。おそらく次代の巫女が現れる兆しだろう...私の予想に間違いがなければ次代の巫女はルシウス帝国に住む侯爵令嬢である彼女だろう。彼女は......〟




 「・・・っ!!」


 ガバッ


 その文章の先を急ぎ目を走らせていたアドリアナだったがパッと顔を上げ、何を思ったのか急にベッドから起き上がるとソラを呼んだ。


 「アドリアナ?もう夜遅いニャ〜?」


 ソラは寝ていたところを起こされ呼び出されたせいか眠そうに目を擦っている。


 「ソラゴメンね?着いたら寝ていいから...行くわよっ!!」


 フワフワの背中にボフッと勢いよく乗ったアドリアナにソラは〝えー?〟と戸惑ったがご主人様の言う事は絶対だ。







 〜ある日のアルドル公爵邸〜


「テオドール、どう?気に入ったコはいた?」


「母上、いえ団長...私にはまだ結婚は早いかと」


「なーに言ってるの、アドリアナだって婚約したのよ?遅いくらいだわ!!ねえ?エレノア?」


「ディミトラお姉様の言うとおりよ?...うーん...じゃあこのご令嬢はどうかしら?髪の色は違うけど瞳の色は夕焼けのような茜色でほら、少しアドリアナに似てるでしょ?」


「え...!?叔母上?」


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