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巫女になりたくないので回避します。  作者: 天ノ雫
【第4章】 不本意ながら巫女見習いです!編
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Lesson 79 ユーリカの行方 2


 「あの...っ、遅れて申し訳ありません!フォルティス公爵、公爵夫人」


 「ああー君は謝らなくていいよ?約束の時間より早く来た2人が悪いから」


 私の後ろからゆっくり余裕で歩いてきたフォルティスは公爵夫妻を一瞥すると控えていた侍女に飲み物を出すように伝えている。



 2人が悪いって...公爵夫妻になんて事言うのよっ!?



 「マレ令嬢はこの時間、巫女の祈りの時間だと伝えてあったよね?」



 え、ちょっと!?フォルティスってば待たせて悪いと思わないどころか時間より早く来た2人を責めてる?



 「もう〜そんな事知ってるわよルーク。私はマレ侯爵夫人とたくさんお喋りしたくて早く来ただけだからマレ令嬢は謝らなくていいのよ?」


 「フォルティス公爵夫人、お気遣い感謝致します。さあ、アドリアナも座って?昼食を始めましょう」


 今日は両家の初顔合わせの昼食会だ。初顔合わせと言っても社交界で既に顔見知りである4人は部屋の外にも笑い声が聞こえるほど楽しく談笑していたようだ。さっきまで緊張していたアドリアナはこの和やかな雰囲気に拍子抜けしてしまった。



 私はてっきり...魔法の天才って言われてるフォルティスが私の婚約者になるなんて勿体無いって思われてるんじゃないかと思ってたんだけど...なんだ、心配して損したかも?


 

 フォルティス公爵夫妻からはアドリアナに対する嫌悪感は感じられない。嫌われているわけでは無いと解ったアドリアナは安心したのかほっと軽く息を吐いた。


 「そういえば婚約披露パーティーに夫婦揃って出席出来なくて申し訳ない...全てマレ侯爵に任せてしまったな」



 フォルティス公爵は皇族の証でもあるアルフレッドと同じ海色(マリンブルー)の髪で兄である皇帝陛下と瓜二つだ。公爵夫人は薄紫(ライラック)色の髪にフォルティス卿と同じアメジスト色の瞳...フォルティス卿とフォルティスの容姿は完全にお母様譲りなんだ...優しい雰囲気はフォルティス卿にそっくりだわ。

 うーん、それにしても家格の高さからくる気品なのかな?フォルティス公爵夫妻はうちのパパとママより落ち着いた雰囲気だし...話し方に余裕を感じる。



 「トリトン王国の海賊討伐の応援に行っていたと伺っておりますからお気になさらず...婚約披露の準備はフォルティス公子が全て取り仕切っていたので私はする事が無くて楽でしたよ?」



 そうだったの...?ユーリカとダビデの捜索もしてるし忙しいはずなのに婚約披露パーティーの準備までやっちゃうとか...どこまで有能すぎるのよ!?...ちょっと働き過ぎじゃない?



 最近のルークはアドリアナが〝この人いつ寝てるの?〟と疑ってしまうくらいの仕事量の多さである。


 「あ、でもアドリアナとフォルティス公子の衣装だけは私が選びましたの。だって会場のセッティングもさせてくれないんですもの〜」


 エレノアは娘の婚約披露だからと張り切っていたが結局ルークの方が仕事が早く、衣装以外は全てルークが指示を出したのだった。


 「ウチのティーパーティの準備は全然してくれないのに...余程嬉しかったのね?」



 嬉しい...?フォルティスが?んん?何を...?



 アドリアナはフォルティス公爵夫人の言葉がすぐに理解出来ず首を傾げた。ルークは隣に座っているのだからすぐに聞けば良いのに、ちらりと横目で見ると不機嫌そうに顔をしかめているルークに何となく話しかけづらいアドリアナは出そうとしていた言葉を思わず引っ込めてしまった。




  *


 


 「...これが〝巫女の石像〟?」


 フォルティス公爵家とマレ侯爵家の顔合わせの後、アドリアナとルークはそれぞれ自分のペットに乗り〝巫女の石像〟があるフォルティス公爵領の森へやって来た。


 遅れていた学院の勉強や巫女見習いの件で忙しくてなかなか来れなくて結局今日まで延ばし延ばしになったんだけどやっと来れたわ。

 〝巫女の石像〟はダビデの襲撃以降は皇宮の騎士が24時間体制で警護にあたっている。いつダビデが現れるかわからないから私だけ暫く此処に来るのを止められてたんだけど〝巫女見習い〟が〝巫女の石像〟を1度も見た事が無いのもおかしいから...とフォルティスを連れて行くのを条件で今日はパパから許可を貰った。パパは...というとママも一緒にフォルティス夫妻と昼食会の後のティータイムを楽しんでいる。

 フォルティス公爵はトリトン王国の海賊討伐を終わらせて帰って来たと聞いていたけど怪我1つ無いしさほど疲れて無いのか余裕そうだったな。...やっぱり()()2人のお父様だし強いのかな?



 「...君は...何か感じる?」


 「え...?感じるって...何も感じないけど?フォルティスは何か感じたの?」


 ルークに言われて巫女の石像にそっと触れてみたがアドリアナには何も感じとる事は出来ない。


 「じゃあ僕の鑑定眼だけか...このオーラに気づくことが出来るのは」


 「オーラ!?この巫女の石像に...誰のオーラが残ってるのっ?」



 私は全然オーラなんて感じないんだけどフォルティスが言うんだから間違い無いよね?オーラが残ってるって事はこの巫女の石像の近くで魔力を使った証拠...



 「この結界も張られたのはつい最近なんだ...おそらくこのオーラの持ち主、ノットヒル村の魔女ユーリカが新しく結界を張り直したんだろう」


 「え...ええっ?ユーリカ!?」


 予想外の名前が出てきてアドリアナは混乱している。


 「ユーリカの店に残っていたオーラを僕はこの石像からも感じた...結界を張ったのはユーリカだ。君は巫女見習いだし巫女のオーラはわかると思ったんだけど」


 巫女見習いは僕の鑑定眼より感じ取る力は弱いみたいだな。


 「え...?じゃあユーリカが巫女なの?」


 「結界を張る能力はあるようだけど、ユーリカは既に引退した元巫女だそうだ...キルケの王室から聞き出した情報だから間違いない。...あ、これは極秘情報だからパラス令嬢達にも言ったら駄目だからね?」


 「...解ってる」



 巫女について記された文献を色々読み漁ったからわかるけど、引退した巫女は能力(ちから)が殆ど消えてしまう。ただ結界を張る能力だけは次の巫女が現れるまでは残されるけど〝元巫女〟なんて世間に知られるのは危険だ。特にユーリカのように皇族と結婚せずに一般人に紛れて暮らしている巫女は...


 

 「僕はユーリカを探してはいるけど彼女の今の生活を脅かす事はしたくないんだ。...ユーリカはキルケ王国のイザベラ妃の実母だから王室に守られるべきなんだけど彼女はそうはしていない...彼女が知っている巫女や魔王の情報を一刻も早く手に入れたいとは思うけどユーリカの正体は明かせない...だから慎重に捜索しているんだけどなかなか見つからないんだ」


 はあ...と長い溜息がルークから漏れる。



 そっか...!ユーリカがイザベラ妃のお母様だからクラーク伯爵と面識があったんだ?...そうよ、考えてみればただの魔女のお願いで私を助けてくれるなんて有り得ないもの。



 アドリアナはトリトン王国へ逃げる際、手助けをしてくれた時のユーリカとユージーンを思い浮かべた。



 それにしても...フォルティスがこれだけ探してるのに見つからないなんてユーリカって実はかなりの実力者!?私も何か協力出来たら良いんだけど巫女見習いはダビデに狙われているからってやたら行動制限されてるんだよね...



 「...ユーリカに会えたら魔王攻略の手掛かりが掴めるかもしれない...とはいえ念の為言っておくけどマレ令嬢は1人で勝手に動かないようにね?」


 「わ、わかってるわよ」


 うーん...今までの私の行いのせいかやっぱりフォルティスには信用されてないらしい。





  *





 アンカーズ帝国学院の夏季休暇があと数日で終わりを告げようとしていたある日、アドリアナ達は図書館の一角でテキストと睨めっこ中だ。ダビデとユーリカの行方は相変わらず掴めずにいたが、アドリアナ達にとっては魔王の復活の阻止よりも目前に迫る課題の提出期限と定期テストの勉強が最優先事項だった。


 「ああーッ!もう...!全然解んねえっ!!」


 「おい、リアム...静かにしろ」


 「だってさあ?ライリー!この〝風圧を生かした魔法の特性による相乗効果〟って何だよ?こんなの授業で習ったか?」


 「それってリアムが寝坊してサボった日の授業で習った内容じゃない?...ていうか〝風〟はリアムの得意魔法でしょ?そんなの解って当然よ?」


 ティナがリアムに厳しいのはいつもの事だが自分の課題でそれどころでは無いのかいつも以上に冷たい態度だ。


 「リアム?このページを読めば理解出来ますわ」


 リリアーナが安定で優しくフォローに回る。



 ああ〜...久しぶりだ、この感じ。



 アドリアナは騒がしい4人を交互に眺めているうちに自然にニンマリと顔が弛んでくるのが解ったがこのいつもの日常を満喫する事に幸せを噛みしめる。



 コレよ...コレッ!!学生といえば友達と図書館でテスト勉強だよね!?魔王とか巫女とか非現実的よ〜?



 連日の巫女の祈りに嫌気がさしていたアドリアナは最近現実逃避気味である。



 ユーリカの行方が掴めない今、私がジタバタしてもしょうがないし今は目の前の出来る事をやらなくちゃ...



 「ねえ、アドリアナはもう提出課題終わった?帝国史のレポートってどんな感じで書いたの〜?ちょっと見せてっ!」


 「いいわよ?...そういえばティナって皇室の騎士団の入団テスト受けるんだっけ?そろそろそっちの勉強もしなきゃいけないんじゃないの?」



 殆どの学院生の就職先が決定するのは卒業前だが騎士団を希望する者は夏季休暇が終わってすぐに入団テストが始まると聞いてる。合否も確か早く決まるし、卒業前から騎士団の訓練に参加するってテオドールが言ってたもの。



 「う...っ、そうなの...筆記試験と実技があるんだけど筆記がもうすぐなんだよね〜もーやる事だらけで頭ん中パニックよ〜っ!!」


 「落ち着いてティナ?レポートなら私も手伝いますわ」


 「ありがとう〜っ!!リリっ!!」


 ひしっとティナがリリアーナを抱きしめている様子をリアムが羨ましそうに見ている。


 「じゃあティナのレポートはリリに任せるとして、私は入団テストの筆記試験対策に必要な本を探してくるわ」


 「...っ!アドリアナ!!〜〜2人共心の友過ぎだから!」


 ティナは喜びのあまりアドリアナとリリアーナを同時にギュウっと抱きしめた。




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