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巫女になりたくないので回避します。  作者: 天ノ雫
【第4章】 不本意ながら巫女見習いです!編
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Lesson 73 計算ミスの真相

 

 「アドリアナお嬢様〜っ!何処にいらっしゃるんですか〜!?」


 「アドリアナ様っ!!早く出てきてくださーい!?」


 マレ侯爵邸に響くアドリアナ専属の侍女であるマリアとエミリーの声...



 あーもうっ、うるさいわね...いつまで探してるんだろ?いい加減そろそろ諦めて欲しいんだけど?



 アドリアナは蔵書室の高い棚の後ろに立ち、2人が通り過ぎるのを静かに待つ。


 アドリアナがダビデの邸を脱出してルシウス帝国へ帰ってきてから季節はもう初夏を迎える頃になっていた。魔石で空調管理をする程でもない今日は心地良い風が部屋に入ってくるため蔵書室に長く隠れていても居心地が良い。実をいうとアドリアナは昼食後、此処に来てすぐにうとうととし始めた為2人が探しに来るまで午後の予定があったのをすっかり忘れていたのだ。


 

 「お嬢様?今なら冷たく冷やしたチョコアイスケーキがございますよ〜?」



 え?チョコのアイスケーキ!?う...ううんっ!マリア、その手には乗らないわよ?私は絶対!アイスケーキなんか...で釣られない...くっ...(何とか堪えている)だって今出て行ったらやりたくもない瞑想やらお祈りをさせられるんだから!!私、無宗教なのにあんな何時間もお祈りとか瞑想するとか...想像するだけで眠たくなるしかないでしょっ!?...()()1日に1回課せられてる巫女の時間が私には苦痛でしかないんだもの〜っ!!



 「こうなったら...アレをやるしかないわね?」



 アドリアナは胸元のトラヴィス侯爵に貰ったブローチからウィッグを取り出し頭に被った。同時に取り出したマレ侯爵邸の侍女が着るメイド服を今着ているワンピースの上から着るとスカートの下から上手に脱いだワンピースを抜き取る。



 よし、これで何処からみてもマレ邸の侍女よ?



 いや、眼鏡を掛ければ何処からどう見てもリン(トリトン王国でアドリアナが使った偽名)である。アドリアナはマリアとエミリーの足音が遠ざかっていったのを見送ると棚の裏から出てこれから何処に隠れるかを思案し始めた。



 うーん...温室...は侍女がくつろぐ場所じゃないし庭園は庭師の仕事だし...あ!そうだっ!調理場に行って手伝うフリしてアイスケーキを戴くってのはどう?


 

 メイド服のポケットから取り出した眼鏡を掛けながら嬉々として調理場へ向かおうと一歩踏み出した時、アドリアナは今1番会いたくない人物と目が合ってしまった事に気がつき途端に氷のように表情が固まった。


 読書をしていたのか目の前に開きっぱなしの本を前に窓辺に座っているルークの薄紫(ライラック)色の髪がふわりと風になびくと、スパイシーでオリエンタルな香りが風に乗ってアドリアナの鼻を擽る(くすぐる)



 この香り...フォルティスが時々つけてる香りだったんだ。トリトン王国の舞踏会で休憩室でうっかり眠ってしまって起きた時、ブレスレットを隠すために上から巻いていたリボンからこの香りがした...ああー!?そっか...私が寝てる間にフォルティスが来てあのリボンを触ったからこの香りがリボンに移ったんだ!?なんで私何も気づかなかったんだろう〜っ!?

 というかフォルティス、まさかずっと此処に居た?...って事は...私がさっきメイド服に着替えてる所も...見られてたって事〜っ!?


 顔はなんとか平常心を保とうと笑顔を作るため必死で口角を上げようとしているアドリアナだったが、ルークの最初の一言を聞いた瞬間リンに変装している事が頭からすっぽり抜けてしまった。


 「君...何やってんの」


 「フォ...フォルティスっ!?あん...貴方なんでこんな所にっ!?...あ」


 私今リンに変装してたんだった!あ、でもフォルティスはこの姿でも私だってわかってるんだっけ?別にこの人の前ではリンのフリはしなくてもいいのか。


 「・・・・・・」


 ルークは何も言わず黙ってアドリアナを見ている。



 な、なによ?やっぱり着替えてるとこ見てたの...?聞きたいけど...恥ずかしくて聞けない!!

 一応隠しながら着替えたから見えてないはずだけど、もしフォルティスが最初から見てたならこんなとこで着替えてたなんて令嬢らしくないって言われるし、見てないならそれはそれでいいんだけどリンに変装した今の姿の理由を多分聞かれる...よね?

 しばらく沈黙して考えていた様子のフォルティスが小さくため息を吐いた後呆れたように横目で私を一瞥した。



 「その格好...僕には通用しないってわかってるはずなのに...はあ、無駄な事だよね」



 むっ、わ、わかってるわよ?フォルティスは鑑定眼とオーラで私の存在に気づくんだから...オーラを消すブレスレットをつけて無い時は無駄って事くらいは解るわよ!



 「いいの!!別にこれは貴方を欺こうとしてる訳じゃないし...それよりなんで此処にいるのよ?今日は何も約束してないよね?」


 「約束がないと来たら駄目なんだ?婚約者なのに?」


 ゔっ


 そうだ、この人私の婚約者なんだった...



 アドリアナは数月前にあった出来事を思い浮かべた。


 ダビデとの交戦後にフォルティスの体調が回復するのを待ってから何故(なぜ)私がフォルティスの婚約者になったのかをアルフレッドやセシリア皇女様も交え(まじえ)て説明を受けた。だけどまさかあのメルクアース国での婚約式が公式に認められてしまうなんて思うわけないじゃない!?アレは演技で...私がヴィンセント王子から逃げる為の作戦だっただけなのに?...フォ、フォルティスが...まさかあんな...あんな事するから...!!本当の婚約式としてアルフレッドが承認しちゃうし!...あ、ありえない…()()、考えてみたらティナやフォルティス卿、テオドールに見られてたし...恥ずかしいっ、思い出すだけで恥ずかしすぎる〜っ!!...ん?そういえばなんでフォルティスはフリじゃなくてほんとに...その...わ、私にキス...したの?



 思い出したくないのにあの光景がまざまざと甦ってきてアドリアナの顔は紅潮して熱を帯びてきた。



 暑...っ、でも聞きたいけどこれもずっと今さら恥ずかしくて聞けてないんだよね...ホントこの人何考えてるんだか。



 「今日は比較的涼しいけど...君暑いの?...それとも何か考えてた?」


 

 この人...もしかして私が考えてる事まで鑑定眼でお見通しなんじゃないの?...何でそんなに微笑(わら)ってんのよ〜っ!?



 ルークが笑いを堪えているのを見ると何処まで知られているのか不安になると同時に嫌味に聴こえてくるのは気のせいだろうかとアドリアナはふと思った。


 「暑くないわよ別に!何も考えてないしっ...そ、それより今日は何か用事でもあるの?」


 「...用事が無いと婚約者の顔を見に来たら駄目なんだ?」


 はあ?


 「...フォルティスってああ言えばこう言うわよね?」


 「ところでリーブス令嬢はこれからどうしたいんだ?」


 「え...あ!そうだっ、逃げなくちゃ...」


 変装した意味を忘れる所だった。


 そこへエミリーが蔵書室へ入ってきて私達に気づくと早足で近づいてきた。


 「あっ!フォルティス公子様!!お嬢様は...あら?その侍女は...??」



 ああもうっ!!フォルティスが話しかけるからエミリーに見つかったじゃないの!!


 

 「知りたいようだから教えてあげるけど...僕はだいぶ前から此処にいたけど君が隠れていた場所は此処から見えないからメイド服に着替えるのは見ていない。君のオーラで此処にいる事は勿論知ってたけど。...君さ、僕が気づいていないとでも思ってたの?」


 「...え」


 「君は考えが浅はか過ぎるんだよ、マレ令嬢」


 「あっ!?ちょっとっ!!」


 眼鏡をスッと外され両手でそれをアドリアナが取り戻そうとした瞬間、ルークは左手でカフェブラウン色のウィッグを取った。ウィッグの下からは軽く纏めていたターコイズブルーの長い髪がふわりと広がる。


 「...な...にするのよっ!?フォルティス!!」



 エミリーが驚いた表情でこちらを見ている。ああー!今まで何回かこの変装で逃げてたのに今回見られたからもうこの方法使えないじゃないのっ!?



 「何...って君の本当の姿はこっちだろう?マレ侯爵令嬢。祈りで眠くなるなら僕が付き合ってあげようか?」




  *




 「・・・はあ〜...」


 あれからフォルティスは用事が無い日は私の祈りの時間に合わせてマレ邸に来るようになった。アンカーズ帝国学院は今夏季休暇中でフォルティスは殆ど毎日やって来るしエミリーとマリアは私が祈りの時間をすっぽかさなくなったから嬉しそうだしフォルティスが来るとすごい歓迎ぶりだし。マレ邸の皆もパパもママもフォルティスに絶対的信頼を置くようになった。

 何よ?婚約者って言ってもアルフレッドが認めた公式な婚約式をしたからって...私は認めてないしフォルティスだってアルフレッドに言われてしょうがなくって感じだし!


 祈りの時間にああやって付き合ってくれるのだって私が〝巫女見習い〟だから、アルフレッドに報告義務があるからだと思う。実際、あの人は3日前の祈りの時私に...


 アドリアナは3日前にしたルークとの会話を思い出す。


 「ダビデは僕があの時再起不能に近いくらい痛めつけたからしばらくはルシウス帝国には近寄らないと思うけど、力が戻ればまた君を狙うだろう...巫女見習いという事実をアルフレッドやルシウスの民が知っている方が君は何処にいても自然と見守られてる事になるし君にもし何か起きた時にすぐに対処しやすい。だから君は巫女見習いを受け入れて今は巫女の祈りをマスターすればいい。まあ、実際君に教える人はいないけど巫女ってのは急に目醒めるものらしいしね?」


 「じゃあ毎日の祈りの時間は無駄なんじゃないの?」


 「無駄?...僕はこの時間は婚約者との意味のある時間だと思うけど」


 「い、祈りは無駄でしょ!?それに...フォルティスは私をアルフレッドと婚約させようとしてたのに何でっ...あんな...事っ...あ」


 あ...!言うつもり無かったのについ...!


 うっかり口を滑らせた事を後悔しながら手のひらで顔のほとんどを覆い隠しつつ横目でちらりとフォルティスを見るとバツが悪そうな顔をしたフォルティスが困ったように口を開いた。


 今考えてみれば...少し耳が赤かったような気がするんだけど...私の見間違いだったのかな?



 「あー...()()は」



 〝あれ〟は?


 何なのよ?そもそも自分の親友と婚約させようとした相手にキスするとか...どういうつもり?


 はあ...今思い出すとなんかムカムカしてきたんですけど?


 「確か...計算ミスって言ってたよね?」


 この際だから聞いてあげようじゃないの?言い訳を!?


 「え...?ああ、そう。アルフの姿で婚約式を終わらせるはずだったんだ。アルフの姿で婚約式を済ませれば君は正式な婚約者にならざるを得ないからね?」


 ふ、ふーん?私をはめようとしてたワケね!?

 


 

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