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巫女になりたくないので回避します。  作者: 天ノ雫
【第3章】 巫女探索の旅日記編
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Lesson 63 百合に願いを 2


 湖から戻った後アドリアナはライラに挨拶をして早々に帰る事にした。ライラはアドリアナとまだ話したそうにしていたがリオとヴェルミナの前ではこれ以上混み合った話はできそうに無いと判断して後日ゆっくり話す事になったのだ。


 はあ...やっと着いた。今日は長い1日だったな...


 馬車を降りたアドリアナはジョーカー家の御者に挨拶をすると今まで張り詰めていた緊張感を解くかのようにふうーっと深く息を吐いた。白い息が夜の闇にふわりと浮かび上がる。雪は降っていないが今夜は空気がとても冷えていてアドリアナは両の手のひらを合わせ冷えた指先を温める。


 「ただいま...ん?」


 エリアスの家に帰宅したらアドリアナはいつもなら店の扉から入るのだが今夜は店の外にも漏れ聞こえるほどの客達の声を耳にして勝手口から入ろうと決めた。王宮での華やかなパーティーの後で疲れていたアドリアナは一刻も早く自室のベッドに倒れ込みたかった。勝手口の扉を開けようと取手に手を掛けたところで気配を感じ振り返ると其処にはフィンが立っていた。


 「リーブス令嬢...」


 どうしたんだろう?帰る時にまたトリトンの貴族令嬢達に囲まれちゃったからジョーカー家が手配してくれた馬車で帰ってきたのに...それにしても追いつくの早いわね?あ!ペットに乗って来たのかな?護衛の任務は今日1日だし私がちゃんと帰ってるか心配で見にきてくれたとか...?そういえばエリアスに先に帰る事を言いそびれてそのまま帰ってきちゃったけどどうしよう...忙しそうなヴェルクライン卿に連れて行かれた後見てないからまさか...非番なのにまだ捕まってるのかな?あの後仕事させられてるんじゃ...エリアス可哀想。


 アドリアナは貴族令嬢に囲まれていたせいかいつもより表情が堅く言葉少な目なフィンを前にエリアスの心配をしている。


 「ディアス卿?何か言い忘れた事でも...?明日にはルシウスに帰るんですよね?せっかくトリトンまで来てもらって護衛させてしまって申し訳ありません。その...留学から帰った時にはこの御礼は必ずさせて頂きますので...」


 騎士団の仕事や自分の家の用事で忙しいだろうにわざわざトリトン王国まで駆けつけてくれたディアス卿には本当に感謝でしかない。


 アドリアナはアンバーとジャスパーの要請で縁もゆかりもない〝リン・アクア・リーブス〟という架空の令嬢の護衛を任されたフィンに申し訳ないと感じていた。


 「いや...御礼ならこれからたっぷり頂くから気にしなくていい...」


 「...え?」


 最後の方よく...聞こえなかったんだけど...いまなんて言ったの?


 祭りの騒めきが街中のあちこちから聞こえてくる中フィンの言葉の最後が聞き取れなかったアドリアナは開けようとしていた扉から離れるとフィンの(そば)へ近づき聞き返そうとした...しかしフィンは言葉を発する事なく、近くまで来たアドリアナの左手首を掴んで勢いよく自分の方へ引き寄せた。


 えっっ!?


 フィンが引っ張った拍子にバランスを崩したアドリアナは

思わずフィンの胸に手をつく。あまりにも顔が近く顔を見る事に一瞬躊躇したがアドリアナは抗議する様にフィンを睨んだ。

 

 「ディアス卿...急に何をするんですかっ!?」


 アドリアナの怒気を含む表情とは逆に暗闇の中で浮かぶフィンは愉しそうに微笑(わら)っていた。


 何笑ってんのよ?私はちっとも楽しくない...って...え?何で瞳の色が紫色に...?


 アドリアナは不敵に微笑(わら)うフィンの顔ではなくフィンの瞳に目を奪われる。エメラルドグリーン色のはずのフィンの瞳が気づけば不気味な紫色の光を放っていた。


 この瞳の色...どこか...で...


 フィンの紫色の瞳を見たアドリアナはその瞳から目を離す事が出来なくなっていた。暗示をかけられたかの様に身体の自由が奪われ、やがて強い睡魔に襲われたアドリアナの意識は朦朧とする。


 「...やはりお前だったか...」


 意識が遠のくアドリアナの眼鏡を取り焦点が定まらない蜂蜜色の瞳を見たフィンはニヤリと不敵に笑いながら言った。


 なん...で?どうしてディアス卿...が...


 意識の薄れゆく中、フィンの姿が別の人物に見えたような気がしたがそれを確かめる事は出来ないままアドリアナの意識は完全に落ちた。脱力したアドリアナを抱き止めたその男の姿はフィンではなく以前メルクアースで会った魔導師...ダビデだったが既に意識のないアドリアナには知る由も無い。


 「...ふ...ハハッ...とうとう手に入れたぞ!」


 メルクアースであの女好きの馬鹿王子が連れて来た時は興味が無かったから何も調べなかったが...近くでよく見ればこの女の魂には2つの意識が混在している。片方は殆ど表に顕れていないようだが()()方の(うつわ)にするには好都合だ。


 「もうすぐです...貴方(あなた)を目醒めさせるのは私...貴方の忠実なる下僕(しもべ)であるダビデいえ、アスタロトですから」


 闇夜に現れた龍に飛び乗ったダビデはアドリアナを腕に抱え飛び去っていった。





  *





 「ねえパラス令嬢...ディアス卿を見かけなかった?」


 湖で百合を浮かべた後パーティー会場へ戻ってからはフェリシティを混じえてリオとライラ王女と歓談していた僕はある事に気づく...


 おかしいな...さっきリーブス令嬢はジョーカー家の馬車で帰っていったが護衛のディアス卿が居なかった...わざわざトリトン王国まで来たディアス卿が任務を放棄するなんて事あるわけ無いと思うんだけど。


 ルークは近くにいたティナに声をかけた。ティナの隣に居たリリアーナとラインハルトもルークの話に耳を傾ける。


 「ディアス卿ならトリトン王国の貴族令嬢達にまた囲まれてたわよ?ディアス卿今日出席していた貴族の中でも1番目立ってたもの〜これを機会にお近づきになりたいわよねっ?そういえばリーブス嬢はディアス卿がしばらく動けそうにないから先に帰るって言ってたわよ?」


 「ふーん...じゃああの騎士は?」


 「騎士?」


 「リーブス令嬢をエスコートしていただろう?」


 「ああ...!あの素敵な騎士様ね?あの人もディアス卿とタイプは違うけど目の保養だわ〜」


 いや、そんな感想はどうでもいいんだが?パラス令嬢の話は格好良いやら独身貴族の男やらの情報は豊富だがどうも偏り過ぎている...


 「あの方でしたらリオ殿下の側近の方に連れて行かれてそのまま会場に戻っていませんわ」


 リリアーナの言葉を聞いたルークは途端に険しい表情になる。化粧直しの為に休憩室へ行ったフェリシティが見たら驚くだろうルークの赤い瞳は怒気を孕んだ深い赤色に変わっている。


 「...何やってんだジーグ...リーブス令嬢の護衛が1人も居ないじゃないか...!」


 「護衛...って...リーブス令嬢ってルークはそれ程親しくないんだろう?馬車で帰ったなら心配する事はないんじゃないか?」


 ラインハルト王子はリーブス令嬢が〝愛する者の瞳〟の光を浴びた事を知らない。...リオの婚約者はライラ王女に決定したが同じく光を浴びたヴェルミナとジョーカー令嬢同様にリーブス令嬢も海賊に狙われる可能性がある。海賊のリーダーのあの男...バーガンディ色の髪の男を捕えていない今、リオの弱みだと思われる令嬢達を保護しなくてはならない。


 「ディアス卿と新米とはいえ騎士が1人ついていれば安心だと思ったのに...はあ...」


 ルークは自分の浅はかな考えに後悔するかのようなため息を大きくついた。


 「ソーマ!」


 ルークの呼び掛けと同時に突風が吹いた。会場内に飾りつけられた花々が宙に舞う中現れたのは銀色の毛色の狼、ルークのペットのソーマだ。


 「え...えーっ!?」


 ティナは驚いてリリアーナにしがみつきルークとソーマを信じられないような目で見つめる。


 そう、今ルークがいるトリトン王国の王宮はペット禁止である。


 「ルーク...お前!?」


 リオも驚いて突風から守るようにライラを自分のマントで覆うとルークに向かって非難の声を上げた。


 「これは緊急だからリオ...後は頼んだ」


 〝後〟とはトリトン王への説明の事を言っている。


 「後は頼むって...は?」


 「婚約者を無事家まで送り届ける...重要な案件だ」


 何も起きなければそれでいい...だけど何故か胸騒ぎがする...


 ソーマの背に飛び乗ったルークは真面目な表情(かお)でそう言うと突風と共に消えた。パーティー会場に居た出席者達は大きな銀狼とルークが消えた後事の経緯をざわざわと口にする。


 


 「え...ちょっと?どう言う事?フォルティス公子、今〝婚約者〟って言ったよね?」


 「確かにそう聞こえましたわ」


 「いつ婚約したの〜?フェリシティが知ったらマズイわよっ?...ていうかフォルティス公子アドリアナの事はどうするのよ?」


 ティナはフェリシティがこの事実を知った時の事を想像すると恐ろしいのだろう...ブルッと肩を震わせた。

 ペットの出現時の突風には慣れている2人は冷静にルークの言葉を聞き取っていた。


 「...婚約者って聞いてないんだけど?...一体誰の事を言ってるんだ!?」


 婚約者がトリトン王国にいるのか!?...緊急って...パーティー会場のど真ん中に狼を呼ぶ程なのか?


 リオはルークが消えた宙をぼんやり見つめたまま訳がわからないといった表情(かお)で腕の中で頰を赤く染めたライラをギュッと抱きしめている。


 リオ殿下...苦しいですわ。


 ソーマの出現によって荒れてしまった会場を下女達が慌てて片付ける中、茫然としているトリトン王を横目にリオがこの状況を理解するまでライラはリオの腕の中から解放される事は無かった。



 

「まあ...これは何がありましたの!?あらっ?ルーク様はどちらに?」


メイク直しを終えて戻って来たフェリシティに聞かれ、慌てるティナとリリアーナ。


「はー...ルークは婚約者を送るって出て行ったよ」


「婚約者?...婚約者がいるなんてルーク様そんな事...私に言っておりませんわ...!」


リオはトリトン王に説明を終えて疲れていたのかうっかりフェリシティに言ってしまった。


「ちょ...リオ殿下〜〜!!??」


フェリシティの身体から火の粉が飛んで来たがすぐにティナの氷の魔法で押さえ、大事にならずに済んだ。


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