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巫女になりたくないので回避します。  作者: 天ノ雫
【第3章】 巫女探索の旅日記編
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Lesson 58 回顧 2


 「まあライラ様の御髪(おぐし)...とても柔らかくてふわふわしてますわ」


 「本当に!砂糖菓子のように甘いピンク色で羨ましいです〜」


 浴室から出て隣の部屋へ移動したライラはリオの姿を探したがリオは既に部屋に居なかった。侍女達によるとライラの支度が終わったらカリオン宮へ送るようにと仰せつかったらしい。リオは来客の訪問を控えていて自分の私室へ戻ったそうだ。


 「...まとまりにくいでしょ?...キルケ王国の侍女達は私の髪の手入れに四苦八苦してたわ」


 リオ付きの侍女、ルイーズとデイジーの褒め言葉にライラははにかんだような笑顔で言った。


 お世辞でもちょっと嬉しくなってしまう...同じ髪色でもシャーロッテの髪はカールしたようにウェーブがかっていてお人形みたいに可愛いけど私の髪は量が多いからアップヘアにする時は纏まり(まとまり)にくいのよね...

 

 「あの...リオ殿下は今日はお忙しくてもう会えない...かしら?」


 着替えて髪も整えて気持ちよくなって忘れかけていたけど...あのネックレスまだ返してもらってない。


 ライラはネックレスを思い浮かべると同時に先程リオに抱き上げられた感触がまざまざと頭に浮かんでぽうっと頰を紅潮させる。


 私...考えてみればリオ殿下の顔をあんなに間近で見たの此処に来てから初めてだったわ。トリトン近海に出没する海賊達の討伐にリオ殿下も加わってると聞いてる...鍛えた殿方にしては間近で拝見したリオ殿下は美しい横顔で...あ、あれ?何で胸がざわざわしているのかしら?


 「ウフフッ、リオ様は逞しかったでしょう?」


 ライラの赤くなった顔を見て侍女達はライラがリオのことを考えているとピンときたようだ。


 「えっ!?...あ...の...えっ...と...?...ああ!そう、ね?やはり普段から鍛錬してらっしゃるのかしら?」


 王子であれば剣術を幼い頃から嗜むのは当たり前という事はライラも知っているがデイジーに言われてついあたふたとしてしまう。


 「はい、リオ様は我が国のどの騎士よりも強く団長と同等レベルなんですっ!」


 「...アナタが自慢げに言ってどうするのよ、ルイーズ」


 「ああ〜?申し訳ありませんライラ王女様!」


 「良いのよ?...リオ殿下は貴女達にとても好かれているという事が解って嬉しいわ」


 此処に来て随分経つけど今日はこんな風にリオ殿下の侍女と話したりリオ殿下の強さを知ったり出来て嬉しい。カリオン宮の私の周りにいる侍女達は私がキルケ王国から連れて来た侍女で持ってくる話も限られているもの...もっとこれからは積極的に宮の外を歩いてみようかしら?


 そんな事をライラが思っているとリーシャに知られたら『王女様はそんな事しなくてもいいんです!』と間違いなくお説教されそうだが。


 「リオ殿下の本日のスケジュールですが空いているのは夕食の後だけですわ...失礼ながらその時間の訪問は難しいかと」


 「そう...よね」


 本来なら約束無しで会える立場では無い。リオは王太子で自分は婚約者候補の1人...それだけだ。正式に婚約者が決定するまではリオは自分だけに時間を割く事は無いだろう...ライラはそう考えていた。


 夕食の後なんて完全にプライベートな時間だし迷惑だわ。今日は諦めるしかないの?...でもどうしよう?あのネックレスは...リオ殿下は本当に返して下さるのかしら...返して下さるとすればそれはいつ?チェーンが壊れたって仰ったけど壊れてても良いからすぐに私に返して欲しかった。だってあれは...私が此処へ1人嫁ぐ為の勇気をくれた御守りなんですもの。


 ライラは不安そうに普段は身につけているはずのネックレスが下がっている胸の辺りで右手をぎゅうっと握った。まるで今も其処にネックレスが掛けられているかのようにーーー




  **




 「ふふ...しばらく会わない間に凛々しくなりましたわね?」


 ん?あの声は...ヴェルミナ?帰ってなかったのか。


 リオは聴き覚えのある声を耳にすると一瞬立ち止まった。リオの私室に着く数メートル手前からでも漏れ聞こえるヴェルミナの声は普段からよく通る声だが今日はいつもより増して明るくはしゃいだような大きな声で、分厚い扉を挟んでいる廊下側でも話している内容が分かる程だ。

 ヴェルミナは幼い頃からの知人で今では気が置けない仲だ。ヴェルミナはフォンヴァンデ公爵令嬢という家柄で婚約者候補に上がってしまったが、僕もヴェルミナも兄妹のようなものでお互いその気は無いが王族と貴族の家に生まれた以上仕方の無い事だと今の状況を受け入れている。

 僕はせめてもの抵抗で〝3人の令嬢から婚約者を選びたい〟と父上に申し出たが、ヴェルミナはこの状況を楽しんでいるようだった。...何故ならヴェルミナは僕の真の思惑を理解しているからだ。


 「昔はお母様に似て美しいお顔立ちでしたけど...こうしてみると兄弟ですわね?お兄様に似てきましたわ」


 「貴女と2コしか変わらないし今は僕の方が身長も高い...いつまでも子供だと思わないでくれる?」


 自分の私室なのでノックはせずに堂々と扉を開け部屋に入るとソファに座っているヴェルミナともう1人が同時に振り向いた。2人共リオの顔を見て待ちくたびれたといった表情である。


 「...リオ」


 その人物はガーネットのような深い赤色の瞳で僕を射抜くように見ている。彼は僕の従兄弟でルシウス帝国の民であり天才魔導師と噂されるルーク・マギア・フォルティスーーートリトン王国の貴族令嬢だった僕の母と彼の母は姉妹で僕達は幼い頃から親交があり今も度々こうやってルークは僕に会いに来てくれる。


 「リオ様〜!先程のプリン美味しかったですわ」


 「プリン?」


 「シームルグの卵を使用して作った虹色のプリンですわ!お茶会(ティーパーティー)に来れば食べれましたのに...フォルティス公子、来るのがひと足遅かったですわね?」


 「ふーん...残ってないの?ライリー?」


 ルークは傍らに立ちお茶菓子を並べているライリーに声を掛けた。


 「材料の卵はプリンだけじゃなくてクッキーを作る時にも使用したからそれならあるけど?...でもこれは...」


 ライリーはさっき自分がティーセットを乗せたワゴンを引いて部屋に入った時、ルークが此処にいた事に心臓が飛び上がる程驚いた事を心の中で反芻していた。


 ルークは今皇太子殿下(アルフレッド)(めい)でアドリアナを捜していて忙しいと聞いた...何でトリトン王国に居るんだ!?

 聞きたい事や言いたい事は山程あるがヴェルミナとリオがいるこの場では大人しく給仕をするしかない。俺は平民の菓子職人(パティシエ)だしな。


 「〝でも〟?」


 ライリーが言い淀んだのを見てすかさずルークが反応する。


 「ああ、いいよ?僕の分を出すから。君はこっちを彼女に届けてくれ」


 リオが机の引き出しからミントグリーンのリボンでラッピングしてある袋を2つ取り出すとその内の1つをライリーに手渡した。ライリーはちらりとルークを見たがルークの興味は既にリオが持っている袋に向いていた。


 「リオ様...〝彼女〟って...誰ですの?まさかっ!?」


 「そろそろ〝餌付け〟が必要かと思ってね?」


 「スイーツで彼女は釣れませんわよ?なにせ高貴な方なんですから!」


 「そうだな...今時スイーツで釣られるなんて君とあの令嬢くらいだ」


 ルークが遠い目をしてリオが出してくれたクッキーを口に入れつつ呟く。虹色に模様が入ったクッキーはサクッと軽快な音を立ててあっという間にルークのお腹に収まった。


 〝あの令嬢〟?


 「そういえばルーク...早すぎないか?〝氷雪の女王祭り〟にはまだ日があるだろう?...それに婚約者もいないようだし」


 リオは遠い目で思い浮かべているであろう〝あの令嬢〟がつい先日婚約したばかりの婚約者の事だと推測した。ルーク本人からはまだ聞いてはいないが数日前にルシウス帝国と縁がある者達からそんな噂があるとリオは聞き及んでいたからだ。


 「え!?婚約者って...どういう事ですのっ!?聞いてませんわ!!」


 「ん〜...まあ僕も婚約するつもりとか無かったんだけど流れでそうなったみたいなんだよね...」


 「まあ!フォルティス公子、それは相手の御令嬢に失礼ですわよ!?」


 ヴェルミナの表情は面白いほどよく変わる。


 「はあ...てか何でこの人ここに居るの?リオと話出来ないんだけど?」


 ルークは苛々して言ったがヴェルミナは特に傷ついた様子は無い。幼い頃からの知人という事もありプライベートで会う時はいつもこうやってお互い遠慮の無い物言いをする。

 だがルークにはあまり時間が無かった。アドリアナがルシウス帝国から消えてもう数月経つ...今日はリオにその話をする為にトリトン王国へ1人でやってきたのだが、お茶会が終わって回廊を歩いていたヴェルミナにバッタリ会い、仕方なくリオが来るまで話し相手をする事になってしまったのだ。


 「ヴェルミナ、悪いんだけど今日は帰ってくれる?今日の埋め合わせはまた別の日にしよう」


 ルークの苛々した様子を感じ取ったリオはヴェルミナをどうにかするべきだと察知し、笑顔でヴェルミナに言った。


 「ええ〜〜っ!?」


 「...今度ヴェルミナが好きなシーフードレストランに一緒に行ってあげる...それでいいかな?」


 ヴェルミナに向けたリオの笑顔は先程から固まったままである。


 「しょうがないですわね、それで許してあげますわ!」


 バタンッ


 ヴェルミナが部屋を去った後、2人は大きく息を吐くとお互い顔を合わせて大笑いした。


 「はははっ!...はあーやっと帰った」


 「...相変わらずちょろいね」


 「ん?ああ...ヴェルミナは素直で扱いやすいよ」


 リオの爽やかな笑顔からは黒い部分が垣間見えた。


 「それ、婚約者候補の1人にいう言葉?」


 呆れたようにルークはリオを見る。


 「でも邪魔だっただろう?」


 「まあね。...お喋りなヴェルミナには僕の話はまだ聞かせられないし」


 「だと思ったよ。...で、僕に何を頼みたいんだ?」


 「君は察しが良くて助かるよ」


 ルークは不敵ににやりと笑った。





リオとルークのやりとり...見た目は爽やか王子と爽やか公子。中身は何考えてるのかわからない腹黒で似たもの同士ーーー

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