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巫女になりたくないので回避します。  作者: 天ノ雫
【第3章】 巫女探索の旅日記編
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Lesson 56 ジーグside# 王太子側近の悩み


 私の名はジーグ・ラッテ・ヴェルクラインーーー

 ヴェルクライン伯爵家の長子として育ち、我が国トリトン王国の次期王となる現王太子、リオ殿下の側近として仕えてからもう1年程になる...


 ヴェルクライン伯爵家はトリトン王国では代々重要な役職に就いている訳でも無く現当主の父上も王宮へ赴く事は少なく専ら領地経営に専念する事が多い。そんなヴェルクライン家の僕が王太子殿下の側近を任されたのには理由がある...リオ殿下の母上である今は亡き皇后陛下の親しい友人であった僕の母がリオ殿下の乳母だったからだ。

 おかげで私は幼い頃からリオ殿下に1番近しい所にいて、成人すると当たり前のようにリオ殿下の側近に収まった。


 〝リオ殿下の側近〟ーーーいずれトリトン王国の王となるリオ殿下の側近をしている私は将来安定だと周囲から羨ましがられるが...リオ殿下が王に即位した暁には私は正直こんなブラックな職場から移動させてもらおうとこっそり企んでいる。普通の貴族なら誰もが王族と親しくなりたいと願うだろう...ましてリオ殿下なら王ともなれば親しい者には重要な役職(ポスト)を任せるかもしれない。


 しかしそんな甘い考えは捨てた方がいい...私は断言する。何故ならリオ殿下は普段は笑顔を周りに振りまきながら自分にとって不必要な者を事もなげに切り捨てる容赦の無い主君だからだ。...そして昼夜問わず人の健康状態など気にせず24時間何時でも私をこき使う...あの方は〝綺麗な顔をした悪魔〟だ。

 


 

 「ジーグ、ティーパーティーの準備は出来ているか?」


 「リオ殿下...昨日の今日でティーパーティーとか無茶言わないで下さい。殿下の(めい)でメルクアース訪問の調整やら殿下の誕生日記念パーティーの招待客リストやらやる事山積みなんですよ!?」


 そう...側近とは面倒な雑用ばかり押し付けられる裏方の地味な仕事だ...昨日も部屋へ帰ってから仕事をして、そして終わらない内に次の朝になるとまた新しい仕事が増える...はあ、終わらない...!!私1人ではリオ殿下の側近は務まらないと思うのだがリオ殿下は側近を増やしてくれないんだよなあ。


 「なんだ、もう早々と根をあげてるのか?婚約者候補と僕、あと数人程度の規模のティーパーティーだぞ?...フ...ン...お前の能力がそれまでという事か...僕はお前の事を買っていたつもりだったが見込み違いだったな」


 リオはニヤニヤと含んだ微笑みをしながらワザとらしく残念そうに肩を落とす。


 「大体ですね?婚約者候補が3人もいるという事もスケジュールを密にしているというのに何なんですか!?()()無理難題は!!...婚約者候補の中にはキルケ王国のライラ王女もいるんですよ?王女様に何かあったらそれこそ国際問題だというのに...」


 「僕の伴侶となる人だ、選定方法に妥協はしたくないんだ...お前ならわかるだろう?」


 「・・・・・・」


 いや...わかりませんよ。

 10年以上共に過ごしているこの私でさえも貴方(あなた)が考えている事を理解する事は難しいですよ?...というかライラ王女様を婚約者候補にした時点で普通は王女様一択でしょうが!?


 キルケ王国との今後の関係性を考えればそう考えるのが普通だ。


 「僕はこの3つのアイテムを探すというミッションを通して婚約者候補の令嬢達の能力と人柄を見極めてこのトリトン王国の王妃に相応しいかどうかを判断するつもりだよ?身分が上とか外見とか僕の好みとかそんな事で決めるのは令嬢達に失礼だろう?」


 「...最もらしい事を仰っていますが、ただ結婚を先に伸ばしたいだけじゃないんですか?」


 「...嫌だなあ、そんな事したら僕の即位も遅くなるというのにそんなワケないだろう?」


 ...うーん...含みのあるあの表情(かお)...本心から言ってるのかどうかも怪しい...


 リオ殿下との会話はいつも一癖も二癖もあるため、私はいつもどう返すのかが正解なのかに悩むが、結局最後まで正しく返せていないんだろうな。


 「はあ...」と自分にしか聴こえない程の小さく遠慮がちなため息をした後、執務室の扉が勢い良く開かれて私もリオ殿下も扉の方へ瞬時に視線を移した。


 「リオ様〜っ!!」


 あ・・・


 勢いよく執務室のドアが開いたかと思うと一目で美しいとわかる金髪碧眼の令嬢がリオ殿下の元へ駆け寄ってきた。


 またこの方は...


 「フォンヴァンデ公爵令嬢、殿下はただいま執務中です。アポイント無しでその上ノックも無しでいらっしゃるのはマナー違反ですよ?」


 ジーグがキリッと厳しい瞳でヴェルミナに苦言を呈するが彼女はジーグのお小言はいつもの事だからと気にもとめていない。


 「またまた〜?ジーグったら堅い事言わないの!婚約者なんだからいいでしょっ?ねえ、リオ様?」


 「ヴェルミナ、いくら君が僕の幼馴染とはいえあまり馴れ馴れしいのはどうかと思うな?他の婚約者候補に示しがつかないだろう?」


 ヴェルミナ・レ・フォンヴァンデ公爵令嬢ーーートリトン王国近衛騎士団長を務めるフォンヴァンデ公爵の一人娘で16歳、リオ殿下の1つ下だが幼い頃のリオ殿下の剣術を指南したのがフォンヴァンデ公爵でフォンヴァンデ令嬢は毎日のように王宮に遊びに来るうちにリオ殿下とも親しくなった。乳兄弟である私とも勿論長い付き合いになるからか前触れ無しにこうやってリオ殿下に会いに来てしまう...一人娘で溺愛されて育った為かフォンヴァンデ令嬢は自由奔放な性格で遠慮をしない...王太子妃、いずれは皇后となるつもりならフォンヴァンデ令嬢は一から教育をした方が良いと思うが...いかんせんフォンヴァンデ公爵は令嬢に甘い。


 「あら?リオ様の奥様はもう私に決まりでしょう?フフッ、だってもう全て手に入れましたもの〜!」


 ヴェルミナのエメラルドのような美しい瞳が無邪気にキラキラと光っている。


 え...!?


 「そうだな...さすがはフォンヴァンデ公爵家...といった所か」


 ちょっと...待ってくださいよ!?


 「リオ殿下、フォンヴァンデ令嬢が3つのアイテムを揃えていたなんて私は聴いていませんが!?」


 「...あー...ジーグに言うの忘れてた」


 こ...この御人(おひと)は...!そんな重要な事を側近が知らないとかあり得ないでしょう!?


 「昨日全部揃ったからリオ様には通信用の魔石で知らせたんだけど、あれ?ジーグ知らなかったの?」


 ヴェルミナのきょとんとした表情(かお)にジーグはがっくりと肩を落とす。


 この2人に常識は通じない...諦めて仕事をしよう。


 「はあ...ではティーパーティーではライラ王女様とフォンヴァンデ令嬢がお持ちになるアイテムを披露するんですね?...リオ殿下、他に私に言い忘れている事はありませんか?ティーパーティーはあと3刻しかありませんからこの後はもう変更は聞きませんからね?」


 「ククッ...わかったよ」


 俯いて肩を震わせながら笑いを堪えながらリオは了承した。


 トリトン王国の次期王と次期王妃がこの2人になれば絶対側近は苦労するな...早く次の就職先を探さなくては...


 毎日のストレスから早く解放される事を夢見ているジーグは再び決心するかのように右手をぎゅっと堅く握った。




  **




 陽の2の刻ーーー


 リオが住まうギルダ宮横の庭園でティーパーティーが始まろうとしていた。急遽リオに呼ばれた少人数のティーパーティーだが既に庭園にやって来た招待客は錚々(そうそう)たる面子(めんつ)ばかりだった。

 

 「ライラ様の右隣にフォンヴァンデ公爵家御令嬢、左隣はジョーカー伯爵家御令嬢です」


 アドリアナの傍らに立ったリーシャが隣のテーブル席へと目線をやりそっと耳打ちした。


 フォンヴァンデ公爵令嬢...相変わらず見事な金髪(ブロンド)と大きく魅力的なエメラルド色の瞳だ。彼女がそこに居るだけでぱっと華やかになる。えーと、ライラ王女様の左がジョーカー伯爵令嬢...あれ?


 「エリカ様...?」


 「リン、ジョーカー令嬢を知ってるの?」


 「あ...う、うん」


 まさかエリカ様がここに居るって事は彼女もリオ王太子殿下の婚約者候補?


 アドリアナが驚いてエリカの横顔をじっと見つめていると視線に気がついたエリカがアドリアナに気がついてこちらに向かって軽く手を振った。


 気づかれ...ちゃった。ライラ王女様も見てる...どうしよう?他の婚約者候補と仲良くしてるって思われちゃう...!私はライラ様が好きでライラ様を応援してる...けどっ、エリカ様も好きだし...


 板挟み...である。




 「エリアス」


 「ジーグ」


 「ティーパーティーはリオ殿下が招待したお客様以外通さないでくれ」


 「了解。今日の招待客は少ないから部外者は目立つ、俺達に任せろ」


 「...頼りにしてる」




 「エリアスと話していた人って...」


 エリアスが持ち場に戻って行く後ろ姿を見送りながらリーシャに小声で訊ねる。


 「リオ殿下の側近のヴェルクライン様よ」


 「側近...」


 なんだかお疲れ気味だったけど王太子殿下の側近のお仕事って大変なのね。


 リーシャはその後庭園にいる近衛騎士団長のフォンヴァンデ公爵、トリトン王国国立学院の理事長でもあるジョーカー伯爵、エリカの兄で文官を務めるディーン・リード・ジョーカー...とアドリアナに教えた後、ライラ王女の席の傍らに戻って行った。


 「ねえジーグ...リオ様はまだ?」


 「フォンヴァンデ令嬢、リオ殿下はまもなくいらっしゃいます。...メインのデザートの出来上がりの最終チェックをしております」


 「ふうん?リオ様ってスイーツにはこだわってるものね?今日はどんなスイーツかしら?楽しみだわ〜!」


 今日のフォンヴァンデ令嬢はこの前見かけた時の服装とは一転してミントグリーン色を基調として繊細なレースがふんだんに使用された華やかな装いだ。


 スイーツ...!?

 リオ王太子殿下ってスイーツにウルサイ〝スイーツ男子〟なの?...冷たそうな人だと思ってたけどちょっと見方変わったかも。


 アドリアナの中では〝スイーツ好きに悪い人はいない〟というのが持論だ。


 




リオに振り回されるジーグ...


ジーグとエリアスは同級生。エリアスが騎士になるために通っていた学校でジーグも2年間通っていました。

貴族と商人の家と身分は違いますが気が合う2人...

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