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巫女になりたくないので回避します。  作者: 天ノ雫
【第3章】 巫女探索の旅日記編
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Lesson 55 リオ


 「...で、このキラキラした方達は何処のどちら様なの?リン?」


 ライラ王女はそう言うとニコニコと微笑みながら孔雀石(マラカイト)のような深緑色(ヴィリジアングリーン)の瞳を此方に向けた。



 〝虹色の光る玉〟を渡す為にライラ王女に会う約束をしていたアドリアナは今日は薬室の仕事を早めに上がらせて貰うと、真っ直ぐにライラ王女のカリオン宮へ向かった。勿論アンバーとジャスパーも一緒に。カリオン宮へ向かう間、すれ違う侍女や貴族達からは興味津々といった視線が容赦なく2人に注がれるのを感じた。


 この金髪双子...無駄に顔も美形だからどうしても目立つのよ。


 目立つから一緒に行動するのは避けたいけど放っておくと何するかわからないし私のいない所で私の正体をポロッと言われても敵わない...取り敢えず2人が明日ルシウスへ帰るまでの短い時間だけよ...!一緒に居て余計なことをしないように監視するしかないわ。


 そう決心して2人を王宮に連れて来たものの、リンとして目立たないように変装しているにも関わらず双子と一緒だとより目立って意味が無い...とアドリアナはカリオン宮に来る道すがら後悔していたのだった。



 「私が通っていたアンカーズ学院の友人で...トラヴィス侯爵子息のアンバーとジャスパーですわ、ライラ王女様」


 「アンバー・テラ・トラヴィスです」


 「ジャスパー・テラ・トラヴィスと申します」


 2人が軽く膝をついて挨拶をするとライラ王女は慌てて2人に立ち上がるように言った。その後ライラ王女に促され、アドリアナ達はソファに座り、本日初めての休憩を此処でとる形になった。


 「まあ...リンのご学友?こんなに素敵な双子と友人だなんてリンが羨ましいわ。...私は学校に通った事がないからラインハルトとシャーロッテがルシウスに留学したと聴いて私もルシウスに行きたいって思っていたの」


 「ラインハルト様とシャーロッテ様が留学なさった頃すでにライラ様はトリトン王国にいらっしゃいましたから...」


 リーシャがテーブルの上に金色に縁取られた美しい花模様のティーカップを並べていく...アドリアナはテーブルの中央に置かれたチーズケーキやチョコタルトに目を奪われていて早く食べたくてしょうがないと言った感じでそわそわしている。


 「リンはお仕事の後で疲れたでしょう?軽食も用意させたから遠慮なく食べてね?」


 「はいっ!とっても美味しそう〜っ!頂きま〜す!」


 ライラ王女のその言葉を「待ってました」とばかりにアドリアナは取り皿を左手に右手を伸ばしたが、アドリアナより先に両側からスッと伸びた2つの長い腕がアドリアナが狙っていたチョコタルトを素早くトングで掴んだかと思うと左手の皿の上にポンと乗せられ、驚いた眼鏡の奥の蜂蜜色の瞳は大きく開かれた。


 チョコタルトが2つ!?


 アドリアナが動くより早く手に持った皿にピンクとミントグリーンの砂糖菓子でそれぞれ飾られたチョコタルトが2つ置かれているのを見たアドリアナは自分の両側に座っているアンバーとジャスパーの表情(かお)を交互に見た。


 アンバーはニヤニヤしてるしジャスパーはニコニコしてる...2人とも私がすごくお腹空かせてるのを知ってるから...


 今日は薬室がいつもより忙しくて昼食はハムのパニーニを少しとフルーツを2、3個摘んだ程度でしっかり食べていなかったからか2人には私の今のお腹事情を知られちゃってたんだよね。


 「チョコタルトだけじゃお腹空くからコレも食べた方がいいんじゃない?」


 と、ジャスパーが一口大のサンドウィッチを皿に2つ乗せてアドリアナの目の前に置く。


 「お前チーズも好きだよな〜」


 と、タルト生地のグラタンをアンバーがサンドウィッチの横に置いてくる。


 「・・・・・・」


 もう、何よ2人とも...?私が凄くお腹空かせてる食いしん坊みたいに...


 アドリアナが食べたいと言ってもいないのに2人はアドリアナの好物を次々と目の前に取り分けていく...


 そりゃ全部好きだし食べたいとは思ってたけどこんなにたくさんライラ王女様の前で食べるとか恥ずかしいでしょ!?


 「...まあ...リンとお2人はとても仲がよろしいのですね?」


 ライラ王女とリーシャは見合わせてクスクスと笑っていた。


 「申し訳ございません、王女様の前で...2人とも幼馴染なので私に遠慮がないんです...っ」


 「フフッ、そういえば今回の〝虹色の光る玉〟は此方のお2人に手伝って頂いたとか?」


 「あ、はい。偶然ディムダの森で会ってびっくりしました」


 リーシャが前もってアドリアナから受け取っていた〝虹色の光る玉〟が入ったバスケットをライラ王女の前にそっと置くと、ライラはその大きな卵を覗き込んだ。


 「コレが?〝虹色の光る玉〟...?」


 ライラ王女は不思議そうに首を傾げる(かしげる)

 

 そりゃそうよね...何処からどう見てもこの卵やたら大きいだけで〝虹色〟じゃないし〝光〟ってないし...でも見た目が虹色の卵は中身が無い偽物(フェイク)だってアンバーとジャスパーが言うから...でもホントにコレでいいのかな?


 アドリアナは段々自信が無くなっていた。


 見れば見るほどダチョウの卵にしか見えなくなってきた...〝虹色の光る玉〟って実はシームルグの卵とかじゃなくて全然違う物だったりして...!?


 コンコン


 「失礼するよ?」


 ノックと同時にアドリアナ達がいる部屋へずかずかと入ってきた男は真っ直ぐに此方へやってきて驚いて呆然としているライラ王女を一瞥(いちべつ)した。その男はライラ王女に挨拶をする訳でも部屋へ勝手に入ってきた非礼を詫びる訳でも無く、バスケットの中の大きな卵をじっと見つめている。


 透き通った海のような明るいアクアマリン色のサラサラの髪、若草のようなペリドット色の瞳。ライラ王女様の私室に堂々と入って何もお咎めなしって...まさかこの人...?


 「うん、まあ割ってみないとまだはっきり判らないけど〝虹色の光る玉〟で間違いなさそうだ」


 ...や、やっぱり。


 「本当ですか?...でも何処をどう見ても虹色ではありませんわ」


 「ライラ王女...コレは割って初めて〝虹色〟になるんだよ?」


 若草のようなペリドット色の瞳の男は優しくライラ王女に微笑(わら)いかけたが、本心からではなくどこか演技のような不自然な笑顔に見える。


 「そう、なのですか...?」


 ライラ王女の不安そうな表情。男の笑顔が心からではなく社交辞令だと解っているのだろう。


 「シームルグはトリトンの騎士じゃ太刀打ち出来ないんだけどよく手に入れる事が出来たね...運良く留守だったかな?」


 「...残念ながらシームルグはいましたわ。拘束している間に卵を手に入れました」


 なんだろう...この人...すごく上から物言ってくる感じ...嫌な人だわ。〝トリトンの騎士じゃ太刀打ちできない〟ってキルケの騎士だって魔法が使えないわ。...この人もしかして婚約者候補達に無理な課題を与えてる?まるで婚約者を1人に決める気がないみたい。


 アドリアナは直感で感じた。この男はまだ名乗っていないがライラ王女にこのトリトン王国の王宮でこんな態度を取れる人物は王族くらいしかいない...ライラ王女の婚約者なら失礼な事だとは思ったが、困っているライラ王女を助けたくてアドリアナは2人の会話に割り込んでしまった。


 だってさっきまでここ、ふんわりしてた空気だったのにライラ王女様の表情が何だか堅いんだもん。


 「ふうん...?君は?」


 「...リン・アクア・リーブスと申します。トリトン王国の輝ける星に出会えて光栄です」


 アドリアナは立ち上がると軽く会釈をした。


 〝輝ける星〟はトリトン王国では王太子を意味する。


 「リーブス令嬢...見ない顔だ。君のようなまだ幼い令嬢が〝虹色の光る玉〟を手に入れてくるとは...ライラ王女、僕は貴女(あなた)の交友関係に興味が湧いてきたよ」


 男はアドリアナと両隣りに座っているアンバーとジャスパーに視線を向けた。


 「初めてお会いします、トリトン王国の輝ける星...ルシウス帝国から参りました、アンバー・テラ・トラヴィスと申します」


 「同じくジャスパー・テラ・トラヴィスと申します。恐れながら私共はルシウスの民...ライラ王女様のお悩みを解決するお手伝いをさせて頂いただけです」


 「成る程...ルシウスの民を味方にしているとは...大人しそうな見た目とは違ってなかなかの戦略家のようだ」


 「え...あの?」


 ライラ王女はアドリアナ達3人と瞳がペリドット色の男を交互に見て困惑している。


 戦略家って...キルケ王国の王女様がそんな戦略立てる訳ないじゃない、たまたまよ!...あの時アンバーとジャスパーが偶然助けてくれたからシームルグの卵をゲット出来たけど、私だけではあの蛇にも苦戦してたわ。


 「フォンヴァンデ令嬢からも〝虹色の光る玉〟を手に入れたと報告が先程来た。明日の午後、ティータイムで一次報告をしようと思うんだけどライラ王女、不安なら其方の方々も連れてくるといい」


 不敵な微笑()みと「じゃ僕は忙しいから」と一言言い残しリオ王太子は部屋を後にした。


 トリトン王国の王太子はどうやら高圧的な態度の冷徹な男のようだ。


 なんだか...誰かに似てるような気がする。既視感(デジャヴ)


 「あれがトリトン王国の王太子かあ〜なんか偉そうな奴だったな?」


 アンバーがソファに深く背中を投げ出して両腕を上げて伸びをしている。アンバーには先程の雰囲気が重たかったからか肩が凝ったらしい、伸びの後は頭を左右に傾け首のストレッチまでしている。


 「アンバー、王女様の婚約者だぞ?失礼な事を言うな」


 「...良いのです、いつもあんな感じですから慣れていますわ」


 「明日のティータイムって2人はルシウスに帰るから私だけですけどティータイムに行きますね?王女様!」


 フォンヴァンデ令嬢は性格キツそうだしあの王太子は性格悪そうだし...そんなところにライラ王女様を1人で行かせられないわ。


 「本当に!?リンが来てくれるのなら安心ですわ!」


 王女様の嬉しそうな表情(かお)...癒される〜!王女様に少しでも役に立ってあげたいな。


 フフッ、とアドリアナが隣でこっそりにやついているのを見たアンバーとジャスパーはクックッと笑いを咬み殺しながらアドリアナの耳元にそっと近づくとライラ王女には聴こえないように小声で囁いた。


 「まーた余計な事に首突っ込んでんのか」

 「他人の世話より自分の事考えたら?」



ルシウスへ帰る道中にて・・・


「まさかアドリアナがトリトンにいるとはな?王女様が探してるアイテムあと2つあるらしいしまた週末来よう!」


「アンバー...僕達がしょっ中トリトンへ行く事で目をつけられるかもしれないよ?アドリアナの目的を忘れたのか?」


「忘れる訳ないだろ!?元の世界に帰る方法を探しにトリトンにいるんだろ...?」


「そう、だからなるべく邪魔をしちゃ駄目だ。...どうしても行きたいなら変装して行けばいい」


「そっか!!その手があったな?」


ジャスパーも邪魔する気は満々だった。

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