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巫女になりたくないので回避します。  作者: 天ノ雫
【第2章】 キルケ王国編
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Lesson 47 私を忘れて下さい

 

 《アドリアナ・ステラ・マレ侯爵令嬢


 無事にルシウスに戻って来れたと聴いて安心している。前回の手紙の内容だがマレ侯爵と話す前に一度貴女(あなた)の気持ちを聞きたい。休暇が終わる前に会えないだろうか?

 陽の2の刻頃に会おう、待っている。


 アルフレッド・ソル・グイド・ルシウス》



 

  **




 「・・・う...ん...」


 


 僕は眠っていたのか...?いつから...?それにいつの間にフォルティス公爵邸に戻ったんだ?


 ルークは瞳を開けるとムクッと上半身を起こし自分の部屋を見渡した。


 カーテンから差し込む光...太陽の位置が高い...今は昼間か?


 カチャッ


 「ぼ、坊ちゃま!!目醒められたんですね!?良かった〜っ!!...ハッ、こうしちゃいられない...旦那様、旦那様〜〜っ!!」


 ソフィがノックも無しに部屋に入って来たと思ったら僕を見た途端大騒ぎして部屋を出て行った。起きたばかりの僕にはいつも元気いっぱいのソフィの声が頭に響いてキツい。


 「五月蠅い(うるさい)なあ?何であんなに大騒ぎして...」


 いや...待てよ?今日って何日だ?そもそもどうやって帰ってきた?僕はメルクアースに...居たはずだが。確かマレ令嬢を助けに行ったはずだ...彼女に会ってその後...あれ?何だっけ?はあ...思い出せない...いや記憶はこの際どうでもいい。彼女は...何処だ?


 ルークはアドリアナがキルケ王国へ戻ってからも実は数日間眠り続けていた。アドリアナに余計な心配をかけさせたくなかったアレックスは〝寝不足だから寝れば治る〟と伝えたものの、ルークは結局6日間も眠り続ける事になった。〝忘却の書(リブロデルオルビド)〟による記憶操作は1人2人なら問題無いが、メルクアースの王宮の大広間に居た招待客全員の記憶操作をしたルークは魔力が枯渇するだけではなく自分自身の記憶まで曖昧になってしまった。


 「クウッ...」


 頭がズキズキする。それに夢で何か...重要な...何かを視た(みた)ような気がするのに思い出せないーーー




  **




 「フム...では君はルシウスを出て行くのか?」


 「はい、此処へ来てからもう2年程経ちましたけど相変わらず何も掴めないまま進展もなくて。このままだと皇太子殿下と結婚する事になりそうですし...そうなってしまったら私が元の世界に帰るのは難しくなります」


 アドリアナはトラヴィス侯爵邸に居た。マリアとエミリーには新学期始まってすぐに行われるテスト勉強をするから暫く部屋に来ないように伝えて、窓からソラに乗ってマレ邸をこっそり抜け出してきたのだ。


 「しかしこの手紙の内容だと君の意見を聞きたいようだし、何か別の用事が有るのかもしれないぞ?」


 「...ただ直接皇族から申し込まれたら私は立場上断る事が出来ません。...会わなければ皇太子殿下も私に言う事も叶わないですから」


 そうだ。あの手紙の感じからフレッドはまだ皇帝陛下に〝私を婚約者候補に加えたい〟と伝えてないと思う。明日私の意向を聴いてから伝えるつもりなのだろう...前世ではそんな気遣いは皆無だったと思うけど今のフレッドは少し...いやかなり優しい。だけど皇族には違いない...いつ皇族の権力を振りかざして私に命令するか解らないのだ。今は会わない方がいい。私がいなくなれば私の意志はそれとなく伝わるだろうし時が経てば興味も無くなるだろう。


 「うーん...しかしなあ、ヴァシリスとエレノアは私の親友で君の事を目に入れても痛くない程可愛がってるし...私がこの件を黙っているのにも限界があるぞ?」


 確かに私がいなくなったらパパはマレ侯爵家やアルドル公爵家の者達を総動員してでも私を探し出そうとするだろうし元第3騎士団団長であるおじ様の能力(ちから)も借りるだろう。そうなれば知ってて知らないフリをするってなかなか難しいもんね。


 「...ではこう考えて下さい。私は皇太子殿下と結婚したら死ぬ運命だと...私は彼から逃れないと未来が無いんです!...これはパパとママには言えなくて...おじ様だけにしかまだ話していません」


 「まさか!!...それって...君は...一体何を視た(みた)んだ!?」

 

 「〝夢〟...です。とても生々しい...これから起こる事が少しですが夢に出てくるんです」


 少しでは無いが前世の記憶が夢に出てくるのは間違いない。トラヴィスのおじ様に協力を仰ぐなら言っておいた方が良いかもしれない。


 予知能力か?


 アドリアナ嬢はこの国...いやこの世界ではない場所から2年前やってきた。異世界からやってきた者は特別な能力(ちから)を持つ者がいると言う...言い伝えでは遠い昔に異世界から来た女性が巫女になった...と。

 ルシウス帝国は魔力を持つ者の方が多いからアドリアナ嬢の能力(ちから)は確かに優れてはいるが特別と言う訳ではない。ただ...何か未知の可能性を秘めている気がしてならないのだ。ケットシーやウンディーネを扱えるのは彼女がもしかして次の...いや、今は未だ憶測に過ぎない...悪戯に混乱を招く事はしてはいけない。私は引退はしたが現在(いま)第3騎士団の顧問兼相談役でもある...


 「...わかった。じゃあ君が帰る前に私に忘却魔法をかけるといい」


 「え!?私、そんなの使えないですっ!」


 「大丈夫だ。君の今の能力(ちから)なら私の記憶から永遠に消す事はまだ無理だろうが、半年くらいは効果は保つ(もつ)...運が良ければ半年くらいは見つけられずに済むよ」


 「解りました...自信は無いけどやってみます」


 〝忘却魔法〟なんて試しでもやった事ないのに...私に出来るかな〜...


 「あー...あとその魔女ユーリカの所へも寄るんだろう?」


 「あ、はい」


 何となくだけどユーリカはまだ何かを知ってる気がするんだよね。この間は皆が居たから詳しく聞けなかったし、オーラを消す(キャンディー)も追加しておきたい。

 本当はもうちょっと日を空けて会いに行くつもりだったんだけど早まっちゃった。


 「これを持って行きなさい」


 「これ...は?」


 「魔法を封じるブレスレットだ。心配しなくても自分で外せる...こっちのブローチは物を小さくして閉じ込める事が出来る。持って行きたい物が有れば此処に入れるといい」


 んー...四次元ポケットみたいなもんかしら?


 トラヴィス侯爵は徐に(おもむろに)目の前のクッキーが乗っている皿に向かってブローチを翳した。するとブローチに填められた大きな水晶のような魔石にクッキーが皿ごと吸い込まれてしまった。


 「あっ?クッキーが...!?」


 あっという間におじ様はブローチからクッキーの皿を取り出し何事も無かったかのようにクッキーを1つ指でつまむとパクパクと食べている。


 「念じれば出し入れが出来る。最近私が作った物なんだがまだ試作段階だから試して感想を聞かせてくれると助かるよ。...また帰ってくるだろう?」


 おじ様の少し悲しそうに微笑む姿を見ていると、暫く会えないんだと実感してすぐに声が出ない...


 「はい...勿論...ですっ!」


 涙が瞳に溢れてくるのをぐっと堪えながらなんとか声を絞り出し、アドリアナはルークがやっていたのを思い出しながら〝忘却の書(リブロデルオルビド)〟と唱える。


 トラヴィスおじ様の私と今日話した記憶を消して!


 明るい黄色(イエロー)の光を放つ魔法の書物が宙に現れた。


 やった...!成功したわ!!


 トラヴィス侯爵の頭から抜け出て来た黄色く光った文字が魔法の書物に吸い取られるとパタン、と閉じて消えていく...


 これでおじ様はパパとママに嘘をつく必要はないのね。


 「トラヴィスのおじ様、では帰ります。お土産皆で召し上がって下さいねっ!」


 「あ...ああ、ありがとう、頂くよ」


 記憶を吸い取られたせいか少しぼうっとした表情のトラヴィス侯爵はソラに飛び乗り窓から出て行ったアドリアナを見送った。


 「えーと...何の話をしていたんだったかな?」




 「父上!」


 「あれ?誰か居たのか?」


 テーブルの上に置かれた2つのティーカップを見てジャスパーが言った。


 「ああ...さっきアドリアナ嬢がキルケ王国の土産を持ってきてくれたんだ」


 「え〜っ!?アドリアナ来てたのか!?俺達も呼んでくれたら良かったのに〜!!」


 アンバーは心底がっかりした表情でトラヴィス侯爵の目の前の長椅子にドカッと座った。ジャスパーとの連日の勉強で脳に疲労が溜まっているのか目ざとく見つけた土産の菓子箱から普段は絶対食べないマカロンを見つけてパクパクと食べ始めた。


 「帰ったばかりで土産を配るのに忙しいんだよ、きっと。どうせ3日後にはアンカーズ学院で会えるだろ?」


 ジャスパーはテーブルに置かれたお土産の護符(アミュレット)のキーホルダーを親指と人差し指でつまむとブラブラと揺らしながら眺めている。


 「まあそうだけどさ...」


 それにしても顔ぐらい見せてくれたっていいだろ?





  *




 『パパ、ママ、マレ侯爵邸のみんな...ゴメンなさい。私は此処を出て行きます。理由は...聞かないで下さい。

 今やらなければいけない事があるから...全て終われば帰ります。だからそれまでは私の事は探さないで』



 『ティナ、リリ、リアム、ライリー...学院で仲良くしてくれて有難う。次に会えるのはいつになるか分からないけど、皆の事大好きよ!また会える日まで元気でね!』



 「よし...っと...じゃあソラ行こっか」


 アドリアナはしたためた手紙を机の引き出しにそっと仕舞った。アドリアナの部屋の開け放たれた大きな窓からソラに乗って飛び立つ。


 1人で住み慣れたルシウスから離れるなんて正直怖い...此処は日本でも外国でもない私の前世で記憶があっても内気なアドリアナの記憶だけで情報は私が此処に来てから得た知識だけだ。でもこのまま何もせずにアルフレッドと婚約するくらいなら私は侯爵令嬢の地位なんて捨てる。平民として暮らした方が長生きできるかもしれないし帰る方法だって見つかるかもしれない...死ぬのを待つくらいなら私は此処を出るわーーー









ここで《キルケ王国編》終わりです。


次は《アドリアナ逃亡日記編》←仮題です



ここまで懲りずに長々と読んで下さってありがとうございます!

そろそろ物語も中盤越えてきた所かな?って感じです。

これからの展開どうなるのか気になる...という方、評価&ブックマークお願いします♪


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