Lesson 4 落ち着かない... 2
心臓の鼓動が...やたら速い。
アドリアナは顔をあげた。
「わっ...?」
和瀬君ッ!?...いや和瀬君に似てる...というか髪と瞳の色が茶色だったら和瀬君そのものなんですけど!?
健康そうな少し焼けた肌、濃い群青色の髪、サファイヤブルーの瞳。凛の初彼、和瀬 颯真に顔も声も全く同じ青年が其処にいた。
えっ、ええっ??ちょっと待って?訳わからない...ここは前世だよね?
颯真にそっくりなテオドールをぽかんと見上げたまま、アドリアナは混乱していた。
「覚えている訳ないでしょ?前に会ったのはあんたが12歳だからアドリアナは8歳だもの」
アルドル公爵は腕組みするとソファにドカッと座った。アルドル公爵は第2騎士団団長で、黒にボルドーの制服を着ている。女性騎士...しかも騎士団団長を任される程、実力も人望もあった。
「小さい時は可愛かったけど...お前しばらく会わない間に美人になったな」
〝お前〟って...そ、その顔でお前って呼ばれるなんてっ?想像つかないんだけど!?
しかも年齢も16歳であんまり変わらないし今現在の和瀬君そのままで...その顔でその声で笑顔って...
アドリアナの瞳が揺らいだ。
あ...駄目だっ...留めなきゃ変に思われる...
「...アドリアナ?そ、そう!アドリアナは私似だからね、将来楽しみだわ。ねえ?ヴァシリスもそう思うわよね?」
全く喋らないアドリアナを緊張してるせいだと思ったのか、エレノアは助け船を出そうと話題をヴァシリスに振る。
何か...言わないと...
そう思っても何を言うかは全く出てこないし声も出そうに無かった。アドリアナの目に涙が溢れそうになった時、誰かに左手を取られた。
「久しぶりだし屋敷を案内するよ、こっち」
え...
アドリアナが呆気に取られてるうちにテオドールに握られた左手を引かれて、皆が見守るなか部屋から連れ出された。
*** ***
「あの...公子、何処へ?」
〝公子〟は公爵家の子息の事だ。ファーストネームは家族や親しい間柄で使う。アドリアナは一瞬呼び方に悩んだが一般的に呼ぶ方を選んだ。
「子供の時一緒に遊んだ事がある小さな庭園だよ」
テオドールが連れて来た庭園は屋敷の裏手に作られており、すぐそばには森が広がっていた。
「パーティー会場の目の前にも庭園はあるけど、こっちはあまり人が来ないから穴場なんだ」
もしかして...私が泣きそうなの気付いて此処へ連れてきたとか?
庭園を見渡すと小さなブランコが風に揺れていた。
木陰の椅子に手を引かれて座るように促され、自然にアドリアナは座った。時折優しい風が通り過ぎていく。
風が気持ちいい...それに此処は森の木々の匂いがする。
「...この庭園いいわ」
小さなブランコに広すぎない庭園...近所の公園を思い出すなあ。学校の帰りに和瀬君と真尋と3人で寄ってストバスとかしたな〜...
「ここ気に入った?...そういえばお前あのブランコ好きだったよな〜...乗る?」
テオドールはアドリアナを椅子に座らせてその場を離れていたが、簡単なティーセットを持っていつの間にか近くまで戻って来ていたのだ。
そっか...私が此処に来る前のアドリアナはテオドールと遊んだりしてたんだ。テオドールにとっては妹みたいな存在なんだ。
「いえ、今日はこんな格好だし...でも次は乗りたいです」
少し気持ちが落ち着いたのかアドリアナが微笑んで言うとテオドールは驚いた顔で一瞬アドリアナを見た。
やっぱり...私はアドリアナじゃないから違和感感じるのかな。
「お前...あ...そうだ。さっきフォルティス卿が連れて来てくれたって聞いたけど、知り合い?」
「あ...えっと、それは...そのっ」
どう...しようっ?なんて説明すればいいの〜〜??正直に空間移動の事言う?水の精霊の加護とか...?
どう答えていいのかわからずにもじもじしていると、テオドールがカップに紅茶を注いで渡してくれた。
「ありがとうございます...えっと...偶然弟さんと知り合って...ですね。それで一緒に連れて行ってくれる事になって...」
ああ〜...歯切れが悪いっ!何処まで言っていいもんだかわかんない...!
テオドールって...なんか気付いてる??
※更新は不定期になります。




