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巫女になりたくないので回避します。  作者: 天ノ雫
【第2章】 キルケ王国編
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Lesson 39 魔女ユーリカ 3


 アドリアナの傷の手当てが終わり魔女ユーリカは自家栽培したハーブをブレンドしたハーブティーを5人にもてなしてくれた。

 ユーリカの店はこじんまりとした小さな店だったが中はスッキリと片付けられていて、絨毯やクッションなどは落ち着いたボルドー色でそろえており所々に置いてあるオレンジ色の光を放つランプは部屋全体を柔らかく照らしていた。


 貴族の豪奢な屋敷に比べたら質素に見えるかもしれないけど、1人で住むのには十分な広さだしこのクッションの刺繍も可愛いし居心地いいな...薬品や材料が所狭しと並べられている棚は大きさ別で並べてあるし、ユーリカは几帳面なのね。


 いい香り...これ寝る前に飲んだらぐっすり寝れそう〜!脚の痛みも少し軽くなったみたい。傷薬買って帰ろうっと。


 「さて...じゃあ誰から占おうか?」


 「ハイハイっ!!私〜っ!!私の〝運命の相手〟はいつ現れるのか教えてほしいの」


 アドリアナがハーブティーにほっとひと息ついているとティナは「待っていました」と顔に書いてあるのが解るくらい勢いよく手を挙げた。


 魔女ユーリカは頷くと目の前の水晶玉に手を翳し(かざし)て覗き込んだ。水晶は透明ではなくオレンジ色や紫色...何色もの色が混ざり合うようにゆっくりと動いている。


 「ふむ...もう現れているようだ」 


 「えっ!?誰だれっ!?どんな人!?」


 「う...ん...顔は見えないが...貴族か裕福な家の者だ。お互い見知っているが今は恋仲になる時期ではないようだ...時が経てば自然に惹かれ合うだろう。お嬢さんは今のままの自然体で接すればいい」


 「もう出会ってるのね?誰だろう〜?じゃあ次はリリの番ね!!」


 「何を占いたいんだい?」


 「え...あの...(わたくし)は...」


 「リリは2人の男の間で悩んでるの!!どっちを選んだらいいかしら?」


 ぶっ...2人の男って...ティナの言い方>>


 アドリアナは飲んでいるハーブティーをうっかり吹き出しそうになった。


 「た、確かにティナの言う通り悩んでいますし...それで占って下さい!」


 「わかった...お嬢さんは優しくてよく考えてから行動するタイプだね。家の事で相手を決める事に躊躇してる」


 「は、はいっ!その通りです!」


 なんでわかったのかしら?


 「今悩んでる者達はお嬢さんに生涯関わっていくだろう男達だ。だが...」


 だが?


 3人は揃ってユーリカの言葉に耳を傾ける。


 「お嬢さんを心から愛す男は1人だ」


 リリの事愛してる男って...明らかにラインハルト王子の事じゃん。


 「お嬢さんは何方(どちら)を選んでも幸せになるだろう」


 「それじゃあどっちでもいいって事?答えが出ないじゃない?」


 「ティナ」


 アドリアナは答えがはっきりしないからか憤慨気味のティナを諌め(いさめ)た。


 占いって曖昧なところあるし確かに何方(どちら)に転んでもリリは幸せになると思う。責任感があってしっかりしてるし真面目だし幸せな家庭を築く為に努力は惜しまないだろう。


 「私は現在(いま)の状況から占うからね...だがお嬢さんの気持ちが変化すれば別だ。お嬢さんが何方(どちら)かの男に気持ちが傾くなら思うままに行動する事だ」


 「リリの気持ち次第って事ね?」


 「そう...考え過ぎず自分の心に正直に行動する事によって道は開くだろう」


 「わかりましたわ。確かに私の気持ちは曖昧ですし...努力しますわ」


 努力で気持ちは決まらないと思うけど、やっぱりリリって真面目だなあ。


 「最後はアドリアナね!〝運命の相手〟は決まってるけど一応聞いとく?」


 「何っ?運命の相手が決まってる?どう言う事だ!?」


 私達から少し距離を置いてアーロン卿と休憩していたはずのテオドールがティナの余計な一言でガタガタと大きな音を立てて椅子から立ち上がった。

 いつも優しいはずのテオドールが今は〝何も聞いてないぞ?〟と言っているかのような鬼の形相でアドリアナをにらんでいる。


 まだ見ぬ〝運命の相手〟に嫉妬しているというより、〝彼氏がいる事を内緒にしていて知られてしまった時〟の父親の態度のようだ...


 アーロン卿は落ち着かせようとテオドールの肩を両手で押さえつつ思った。


 ティナめ...要らない事言わなくていいのに...


 「アルドル卿知らないの?アドリアナは精霊の...モゴッ」


 「何でもないのっ。もう〜ティナってば私に運命の相手なんているわけないでしょっ!?」


 これ以上余計な事を言う前に...私もフォルティスの忘却魔法をマスターしたいっ。


 アドリアナは「ははは...」と乾いた笑いをしながらまだ喋ろうとするティナの口元を塞ぐ手に力を入れ、本題に入る。


 「魔女ユーリカ、私は運命の相手とかに興味はないわ...それより近い未来、私は何をしているかを知りたいの」


 「いいだろう...お嬢さんの未来は...ん?これは?」


 ユーリカは水晶玉に見入るように顔を近づけると瞳を大きく見開いた。


 「なに?何が見えるのっ!?」


 ティナが身を乗り出すようにユーリカの水晶玉を覗き込んだ。しかしティナの目にはただの色とりどりな水晶玉にしか見えなかった。


 「お嬢さんの周りに...〝運命の星〟が集まっているね」


 運命の星?運命の相手の次は運命の星か...


 「お嬢さんの未来は...運命の星に導かれる。未来が運命の星の導きで変わりつつあるようだ...」


 未来が変わる?皇太子(アルフレッド)との結婚は回避出来るって事?そうだったら嬉しいんだけど...婚約して欲しい〟的な手紙が届いたばっかりよ?


 「ただ運命はとても強い力で元に戻そうとするだろう」


 「・・・・・・」


 そうよね、簡単にはいかないわよね〜やっぱり婚約断ろう!絶対!!放っておくとズルズルと結婚する事になったらイヤだ。


 アドリアナはユーリカの言葉を聴いて改めて心の中で決意を固める。


 「ねえねえ?よくわからないんだけど...結局アドリアナの未来はどうなるの?」


 「運命の星との関わりによって希望する未来は吉とも凶とも出る...よく考えて行動することだ」



  **



 「...うーん」


 何だか私だけ占いの結果良くなかったよね?《吉とも凶とも出る》って...


 「私が〝今のまま進め〟でしょ?リリが〝自分に正直になれ〟でしょ〜で、アドリアナが〝よく考えて進め〟かあ」


 「ティナは運命の相手にもう出会っているようですわね?一体誰なのかが気になりますわ」


 アドリアナが占いの結果を気にしていると感じたリリアーナはすかさず話題をティナに振った。


 「そうよね!え〜?誰だろう?ウチの学院の生徒かなあ?...ハインベルク伯爵のとこのイーサン?ウェルアーチ男爵のとこのエイドリアン?...それとも...」


 今更ながらティナの顔の広さと貴族の子息の情報網には驚かされるなあ。まだ社交界デビューしてないのに?

 それより気になるのは...魔女ユーリカが私に小声で耳打ちしたあの言葉だ。


 

 《お嬢さん、必要な時はいつでも来るといい。その時は...1人もしくはお嬢さんの本当の姿を知る者と来るようにね》



 あれって...私の正体わかってるって意味?だよね...?一体ユーリカには何が視え(みえ)たんだろう...気になる...それに...



 《これはお嬢さんが困った時に飲むといい。少しだが役に立つだろう》



 耳打ちされた時にそっと右手に握らされたのは〝キャンディー包み〟された小さな包みが2つ。アドリアナはとりあえず左ポケットにそれを仕舞った。


 「じゃあ他の占い師や魔女のお店行ってみよっか〜!護符(アミュレット)のキーホルダーとかアクセサリーを売ってる店もあるって!!」


 ティナがまたもや我先に走り出している。楽しい事に関してのティナの行動力はいつもの2倍である。


 そっか...ここでもお土産買わなきゃね。マレ邸の皆は恋の護符(アミュレット)とか喜びそうだし...ん?そういえば私ユーリカの傷薬買い忘れてた!!


 「リリ、私傷薬買うの忘れてたからもう一回ユーリカのお店行ってくるね!」


 「え?じゃあ私も行きますわ」


 「大丈夫!すぐそこだし」


 リリアーナが止める間も無くアドリアナはユーリカの店へと続く曲がり角に入りリリアーナの視界から消えた。そしてこの数秒の間にアドリアナの姿が消えてしまったことを皆が知るにはそう時間はかからなかった。





〝運命の相手〟?いつの間にそんな奴!?アドリアナが運命の相手より未来の事を占って欲しいと言っていたが、俺はその運命の相手が誰なのか知りたいんだが?


「...テオドール...そろそろ子離れ...妹離れしたらどうだ?お前に好意を持つ令嬢は少なくないんだぞ?」


アーロン卿の言葉はテオドールの耳を左から右へと流れていった。

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