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第八章 ちょっと所長室いってくる

 アズハのノックの返事はすぐに来た。


「入りたまえ」


 どこか貫禄があり低くとも迫力がある声だった。これが、この水道局の所長の声なのだろうか?

 アズハがドアノブを捻り、開け放った。

 中には男が一人、執務机に腰を掛け机に肘をつき腕を組んでいた。アズハの髪の色もそうだが、この人も不思議な髪色をしている。白髪に輝きを持たせた、見事な銀髪だった。


直水なおみず局長、お連れしました」


「ありがとう、アズハくん。きみは部屋の外で待機していてくれ」


「はいっ」


 礼儀正しくお辞儀すると、アズハは俺に部屋へと入るように目配せし、廊下へと出た。

 俺はそれに従い部屋に入り、ドアを閉める。


「よく来てくれた……、日下部くん」


 局長が俺の名前を知っていても何も不思議じゃない。アズハだって俺の名前を知っていたのだから。

 アズハに直水局長と呼ばれた男は正面にある椅子を手で示し、


「そこの椅子に掛けたまえ。遠慮はいらないよ。少し、話が長くなるのでね」


「は、はあ……」


 俺の体が緊張していて思うように動かせなかったが、なんとか椅子まで歩き座る事ができた。気が緩まないように背筋をピンと伸ばし姿勢よく椅子に腰掛ける。

 座っている椅子も足が置かれた床の絨毯も、触れるだけで価値が分かるほどのものだった。これは、汚しでもしたら……。そう思うと、余計に体が強張った。


「そんなに畏まらなくていいよ。私は少し話をしたいだけだからね」


 そう言った局長の蒼黒そうこくの瞳は鋭く、俺を刺す。

 十分脅迫のレベルのような気がするけどな……。


「まずは私の自己紹介をしようか。私は、直水という。この第三水道局の局長を務めている。

 日下部くん、よろしく」


 淡々とした事務的な態度に言葉。少し気に入らないな……。しかし……随分と若いな。局長という地位の人間ならもう少し歳を取っている思ったが、見た目からは三十前後に見える。


「よろしくおねがいします」


「ふむ……。資料の写真だともう少し凛々しい顔をしていたが、どうしてそこまでやつれてしまったのかな?」


「えっ?」


 この人、俺と同じように俺の顔が見えているのか? アズハにも(たぶん)普通に見えていた俺の顔の異常がわかるのか?


「大分苦労したようだね。みな、気付かなかっただろう。だが、それが普通なんだよ。君は確かにやつれている……。だがね、それはこの世界ではなく、別の層での話だ」


 この局長も電波を受信するのか……。もう少し日本語で説明できないのか?


「もっと簡単に説明しようか……。この世界での君の体には何の異常も無い。しかし、別世界の君の体、それが何者かにエネルギーを吸収されているのだよ」


 もっとわかんねぇよ。


「解決法はあるんですか? ヤケに空腹感を感じるし、無性に暴れたくなるんです」


「そうだね……。結果から言ってしまえば、この世界に解決法は無いよ」


「……はい? 今なんと仰いましたか」


 一切の感情が消え失せた平坦な顔で局長はもう一度繰り返した。


「この世界に解決法は無い。つまり、きみに残された未来は……死だね」


 おいおいおい……。ここに来て解決どころか死刑判決かよ。うは……笑えないって。ちょっと油断したら涙が溢れるかも……。


「だがね、そう悲観する事は無い。後三日は生きれるよ」


 平坦な顔から一変して笑顔を浮かべ希望もない事を言った。


「ちょっと勘弁してくださいよ! 俺、後三日で死ぬんですか? 冗談じゃないですよ、意味分からないですよ! 責任とって下さいよ!」


 焦る俺に局長は笑いながら提案をした。


「こちらとて、君に死なれるのはとても困る。だからね、この世界には解決方法は無いが、異世界にならあるんだよ」


「異世界……?」


「そう、きみが二日前に訪れた、『水の世界(ウォーターワールド)』だ。あそこになら君の命を救う事が出来る方がいらっしゃるよ。一筋縄ではいかないかもしれないが、交渉をしてみる価値はあると思うけど……どうする? まだ生きたいかい?」


「当たり前です!!」


 クックックと笑みを零し、すぐに真剣な表情に戻った。その変化に寒気を感じる。この人を理解するのは難しい。いや、常人の理解できないレベルなのかもしれない。


「そうか……。ではその方法を説明をしよう……と言いたいところだが、そうはいかない。君に一つ約束をしてもらいたい。そうすれば、生きる方法を教えてあげよう」


「なっ!?」


 こいつ、やってくれる。命をエサに交渉か……。こちらに選択権なんて無いじゃないか。最初から俺の答えをわかっていてやっている。

 局長は気味の悪いを笑みを俺に向け、俺の返事を待つ。

 スッと息を飲み込み、俺は、


「その約束とは?」


「おや、賢明だね。ますます君という人間を気に入ったよ」


「それはありがたいです。それで約束とは?」


 俺は精一杯に皮肉っぽく言った。

 その無力な抵抗を嘲笑うかのような笑みをし、答えた。


「君が、『清き水』に入る事を約束すればいいんだよ」


 その言葉に思わず目を細めた。こいつは何が言いたい? 俺は魔法も超能力も持っていないぞ? あんな化け物の相手は御免だ。


「君は、君という人間の価値を分かっていないようだね。まぁ……その説明も約束をしてくれるのならいくらでも話そう」


 っく……。本当に交渉がお上手だこと。感心して反吐が出ちゃいそう……。


「さて、どうするかね? 大丈夫さ私は約束を守る人間だ」


 どうするも何も無い。俺は死にたくなどない! 俺の命が危ないのがハッタリである可能性があるが、自分の体の事は自分自身が一番理解しているつもりだ。

 俺はきっと…………近い内に死ぬ。

 今日の目覚めは確かに悪くなかった。あまりにも、体を軽く感じる程に……。実際、鏡に立つと異常だというのがわかった。

 もう……体がスカスカだ。局長の言う三日というのも、元気に過ごせるので無く……寝たきりでということだろう。


 局長は人当たりがよさそうな笑みを浮かべ、俺の返答を待つ。


 ……………………あぁ……わかっているさ……俺は、


「いいでしょう、約束します」


 首を傾け、押し殺すように笑う局長に俺は鋭い眼光を浴びせる。

 顔を俯かせたまま局長は口を開く。


「判断が早いのは嬉しいものだが……君のは、いささか蛮勇の域に達していないかな。おっと……これ以上苛めるのはあまりよくないね……」


 局長が顔を上げる。その顔を見た時、俺の体に戦慄が走った。

 さっきまでの人と違う!? そう思えてしまうほど、顔を見た時に受ける印象がまるで変わっていた。

 局長の顔には人間味溢れる笑みがあった。それは、今まで見せた機械的な笑顔とは違い確かに人のものだ。


「すまないね。私は仕事用の顔、というのを持っているのだよ。いつもの調子でやっているとどうも部下の信頼が得られず、事がうまくが運ばないものでね……」


「は……はぁ……」


 二つの顔を持つ人間なら腐るほど居るだろう。だが、その顔を切り替える瞬間など早々お目に掛かれるものじゃない。変わるのは表情だけではなく、雰囲気すらも変え、まるで別人へと変貌する。本人に、本当の自分はどちらかなどわかるのだろうか……?


「さてと……ここからは局長としてではなく、直水として話をしよう。正直に言うと君を私たちのやる事に巻き込むのは反対だ。だが、そうは行かないのだよ。上が煩いのもあるが、一番はこの世界に時間が無いということだ……」


 自分の命が危ないという状況の人間にとって世界の命運などどうでもいいものだがな……。つまり、今の俺にとってはどうでもいいのだ。俺は世界を救うという大義名分だけで動くほどお人好しでもないし、馬鹿でもない。

 そこに自分の命が絡まないのなら……俺はきっと本気で出来ないだろう。それが、俺の本質だ。


 頭の中で勝手に自論を展開する俺に局長は口を動かし続けた。


「君の今の状態を克服する話をするに当たって、少し昔話をしよう……。少し長いが我慢してくれたまえ」


 ……どうやら話はこれからが本番らしい。昔話をするのにも文句は無い。アズハや局長が言う事を俺は電波情報としてしか認識出来ないからな。何があったのかを知れば少しは理解できるはず。そう、未プレイのゲームを解説されても分からないのと一緒。基礎知識がなければ何もわからないものさ。


「では……まずは、始まりの物語を語ろうか……」


 局長がそう切り出し、長い長い歴史の講義が始まるのだった…………。 

次の章は……たぶん完全に解説のようなものになるかと。

やっと解説できて嬉しいのですが、退屈だったら申し訳ないです。

では、また…………。

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