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第六十七章 ちょっと手合せいってくる

 武器に埋もれた俺は、美影ちゃんと仁冶によって、なんとか救出された。本当に、本物ではなくてよかったよ。


「二人とも、ありがとう」


 立ち上がって、二人へとお礼を言う。

 そうしてから後ろを振り返ると、酷い事になっていた。やっぱり、この武器さんたち戻さないとダメだよね。


「手伝うぜ」

「手伝います」


 どうしようか、と思案していると二人が手伝うと言ってくれたので、分担をして、片づけをした。




 片づけが完全に済み、武器が元通りの配置に戻って、達成感のようなものを感じていると、訓練ルームのドアの方から、隊長の声が聞こえてきた。


「日下部二等兵」


 無駄なものをすべて省いて、ただ俺の名前だけを呼んだ。

 俺は、片づけを手伝ってくれた二人にもう一度お礼を言ってから、すぐに隊長の元へと急ぐ。


「なんですか?」


 隊長の前に立って、そう訊くと、隊長は無愛想な表情を変えずに言った。


「私が相手をしよう」


「相手……?」


「そう難しく考えなくていい。ただの、模擬戦だ」


 隊長は靴を脱いで、畳の上へと上がる。俺も首を傾げつつそれに続いた。

 畳の上で、俺と隊長は向かい合った。


「既に同化はしているな。後は、好きに武器を出せ」


「わかりました」


 答えて、俺は今日一度出した薙刀をもう一度、出現させる。イメージが固まっていたので、割と早く出せた。

 薙刀の感触を確かめつつ顔を上げると隊長の手には、いつぞやの茶色の鞘が握られていた。


「出せたか。そうしたら、その武器に、『水の世界』に施されたコーティングを付与させろ」


 付与……? つまりは、追加オプションみたいなもんかな?

 確か、血が付着したのを弾いたり、一度完成させた棒を、穂先を加えて槍にしたりしたけど、そんな感じにすればいいのか?


「刃の部分のみにすれば十分だ。出来るか?」


「やってみます」


 『水の世界』のコーティング、それは、あのプニョプニョした地面や壁のことだよな? それを武器に纏わりつかせればいいんだな。訓練だから、安全対策か?

 まぁ細かいことは気にせずに、レッツラGO!

 一度しかあの感触を感じていないが、なんとなくだが、イメージは湧く。


 薙刀の刃を天井へと向けて、畳に突き立てる。両手でそれを握り、刃にひたいを当て、あのプニョっとした感触を連想し、纏わせる。

 すると、刃に当てた額が感じる刃のひんやりとした感じが無くなり、少しだけ温かみがある、ゼリーのような感触がした。


(主はのみ込みは早いようだな)


 小馬鹿にしてくるアトゥなんとかを無視して、隊長に目配せした。


「出来たようだな」と言って、隊長は鞘から刀を抜いた。「ルールは簡単だ。相手の体に武器を当てればいい」


 濡れたように美しく輝く銀の刀身に自然と目が行く。無駄な装飾が無く、シンプルな刀、機能性を追及した余りに悲しい刀だ。まぁ所詮は、武器は武器、それでいいのだけれど。


「そのための安全対策なんですね」


 プニョプニョした刃を指で突きながら尋ねる。

 厳しい表情を更に険しくし、隊長は柄を両手で握り締め、体勢を低く構える。


「レベルを測る。よって、手を抜くが、許せ」


「了解です」


 一度だけ、仁冶と美影ちゃんの方を見てみたが、少し離れた位置に並んで、俺と隊長が向かい合うのを見ていた。もしかして、これって試験みたいなもの? ちょっと、恐いな。


「そろそろ始めよう」


 腹の底に響く、ほんまもんの声ですなぁ、とか暢気に考えるも、どうやら真剣勝負のようだ。隊長から殺気は感じられないが、油断などは一切無い。

 面白い。正直にそう思った。

 隊長がどんな剣術を使うのかはわからないが、日下部流しか知らない俺は、どんな技が繰り出されるのか楽しみでしょうがない。


 薙刀の刃を隊長へと向けて、そえた両腕で硬く握る。


「いいですよ」


「……日下部二等兵、力を見せもらおうか」


 そう言って、正面から堂々と突っ込んで来た。なんだ、自信満々なのか?

 って突き刺さるような威圧感。やっぱり無駄な思考に使う時間も余裕も無いな。


 たいして距離は開いていなかったが、予想以上に早い接近だ。突き出すように構えた刀の切っ先は既に目前に迫っている。

 俺は、その攻撃にも満たない突きを、薙刀の長い柄を使って、受け流す。しかし、隊長はその対応を予期していたのか、受け流された方向に予め体重を掛けていた。そのために、体勢を立て直すのが早い。


 すっ、と俺の首すれすれを銀の輝きが通り抜けた。なんとか回避に成功し、俺はすぐに距離を開ける。

 隊長との距離は3メートルちょい。武器のリーチを考えれば、俺にとっては絶妙な位置なのだが、隊長の技が、最初の特攻のように動きの多いものだと、正直条件は変わらないかもしれない。


「…………」


 隊長は、所謂、青眼の構え、というまぁ剣道でいうと中段の構えだ。その構えで、今度はゆっくりとジリジリと距離を詰めてくる。

 薙刀なんていのは冗談で使った事はあるが、真剣に使用した覚えは無い。というか、剣以外は専門家したら、へっ、て感じに馬鹿にされるレベルだ。

 だから、剣が使えないなら何でも同じだってことで、やっぱ選択は適当になるわけだ。


「…………」


 俺は、隊長を威圧するように睨んでみたが、ピクリとも反応しない。これじゃあ動きがまるで読めない。

 一歩こちらに寄ってくれば、俺は一歩下がる。

 今の状態での接近は正直に言うと厳しい。


「来ないのか、ならば」


 親切な事に攻撃前に合図をくれた。

 力量の差が、もう隊長には測れたのか? だとしたら、相当のプロだな。俺は、まだサッパリだよ。まさか、あんな雑な攻撃が隊長の本気であるはずが無い。だけど、どこまで行けるのかは想像もつかない。


 今度の接近は、最初ほど無謀なものではなかった。早足で歩み寄り、八相の構え、わかりやすく言うと、右手を鍔に当てて、左手を柄のギリギリ下を持ち、顔の横にもって行く構えだ。斜めに体を向け、攻撃と守りを兼ね備えた剣術の基本の構えである。

 さっきの青眼の構えにしても、随分と古典的、というか堅苦しいものだった。由緒正しい剣を学んだのだろうか?


 って今はそんなことはいい。もう目の前に来ている。

 得物の違い、ここは俺から攻撃した方のが距離を詰められないので有利なのだが、もしも、それを潜られれば俺は負けだ。ならば、防御へと回るのか? いや、それでは勝てない。

 どうすればいい。袈裟斬りを繰り出そうとして来ているぞ。


「んぁぁっ!」


 もう自棄だ。攻撃に転じてやる。ごちゃごちゃ考えたところで、俺の薙刀の技術なんてたかが知れている。

 俺は、薙刀を大きく横に一閃。それに即座に反応した隊長は、隙の無いバックステップで距離を置いた。


「追撃だぁ!」


 もうテンション上げて、そのまま特攻。別に、正面から行くのはただ、死にに行くんじゃない。作戦ぐらいある……と思う。

 斜め下に構えられた隊長の刀、俺は、隊長自身を狙う振りをして、刀へと刃を打ち下ろす。


「くっ」


 振り上げようとされていた刀は、俺の強打を受けて、衝撃を伝播させ、隊長自身の腕へとダメージを与えた。やはり、自暴自棄的な特攻に見えていただけに、予想外な攻撃だったに違いない。


「甘く見すぎていたな」


 隊長は横に移動し、俺の背後を捉えようとする。

 俺はそこまで甘くは無い。接近すらさせてやらないさ。薙刀を握る手をずらして長く持ち、それを右足を軸にして、体ごと回転させる。随分とお粗末な技だ。だが、無茶な攻撃は相手を恐怖させる。生きるために戦うのと、死んでも一矢を報いようとする戦いは、まるで違う。


「……そう来たか」


 呆れた様子の隊長の声が耳に届く。そりゃあまぁ、馬鹿げた技だけどね。インパクトはあるけど実際は隙だらけで、実力を持つ者に通用するのは一度きりだろう。


「まだまだ行きますよ」


 回転を一回しただけで、止め、また勢い良く隊長の懐に潜り込もうとする。これもハッタリ的な行動だ。薙刀で相手の懐に飛び込んだところで意味なんて無い。相手は刀な今、もう自殺行為である。まぁだからこそ、俺は突っ込んだ。


「面白い戦い方をするな」


 だが、そこまで隊長さんも甘くない。刀で宙を薙ぎ、牽制してきた。無茶な接近はさせてもらえないか。


「お褒めの言葉として頂戴します」


 陽気に笑って答えたはいいが、どうするか。もうオーバーな意味不明攻撃に対しての警戒を始められてしまった。

 一旦、仕切り直しだな。多めに距離を開けて、俺は一息つく。隊長からはどうやら向かって来る気は無いようだ。


「日下部二等兵、そろそろレベルを上げよう。やはり、基本技で押さえるのは、馬鹿にし過ぎていたようだ」


 ……馬鹿にしたままでよかったのだけれど、これで少しは本気になった訳だな。少しだけやる気が出てきた。俺はそこまで隊長と力の差は……あるけど、見える程度の距離に居るはずだ。

 隊長の構えが変わる。左足を大きく後ろへと引き、握った刀も左寄りに斜め上へと切っ先を向けて固定される。

 遂に、隊長の剣術が見れる訳だな。


「もう一度、こちらから行かせてもらおう」


 素早い特攻。最初と同じだが、いや、まるで違う。構えに隙があるように見えて、無い。

 っちぃ、こっちだって本気で相手をしてやる。薙刀というハンデはあるが、刀、剣を相手にすると、自然と心が高揚とし、たまらなく愉快だ。

 へらへらと笑みが零れそうになるのを堪えて、もう懐に潜って来た隊長の、今まで比べられないほど鋭い突きに対応をする。


妙月たえづき


 隊長が何か呟いたが、うまく聞き取れなかった。喉元を貫かんとする、銀の刀身に身震いしつつも、すぐさま薙刀の刃で受け止める。幅広の刃が役立った。なんとか押さえられたが……重い。隊長の一撃が、さっきまでと比べれものになんないぐらいに、重い。


「防いだか」


 どこか感心した様子の隊長は、続けて、横に刀を振ってきた。俺はそれにもすぐさま反応し、薙刀の柄を畳みに打ち付けて、刀身の接近を防いだ。だけど……この攻撃も、重い。


「ほう、これならどうだ」


 余裕な感じに、続けて刀を振り下ろしてくる。


「っつは!」


 片膝を着いて、薙刀を天へと掲げるように横に構えて、柄の中心部分で、隊長の刀を受け切った。幾らコーティングされていても、やっぱり、隊長の攻撃が重い。体がびりびりと痺れるみたいだ。


「……中々だ」


 また褒めてくれたが、これが勝たなくてはいけない戦いなら、余りに惨めだ。こちらが、全く攻撃へと回れる様子が無い。それに、あの様子、まだまだ実力を隠している。

 どうにも事前の俺の評価からは、能力が高いと思ったのか、満足そうな様子をする隊長だ。一度距離をとって、何か思案している。それを見て、俺は薙刀を構え直し、対峙する。


「予想以上で嬉しい。日下部二等兵、これに耐えてみろ」


「えっ?」


 隊長が、ぶれて見える。なんだ、これは? 小刻みに高速で動いているのか? それとも……能力というやつなのか?


「私だけ、きみの能力を知っているのは、フェアでは無いだろう。私の能力は、」


 言いながら、隊長のぶれが大きくなっていき、やがて、横に三人隊長が並んでいるように見えた。全く同じ構えで、気配も三つある。


「『分身』だ。残像ではなく、完全に三人の私が居ると考えていい。ただし、これにもデメリットはある。質量が分割され、攻撃に重さが持たせられないのだ」


 あの攻撃が三分の一になったところで、脅威に変りない。寧ろ、三人に増えて、耐え切れるかどうか大いに疑問だ。

 これが……能力で、『ダイバー』の戦いという事か……。


「詳しい説明はまた今度にしよう。では、耐えてみせろ」


 三人の隊長が接近してくる。全員、同じ構えで、油断も隙も見られない。


「……それでも、やってやるぜ!」


 死にはしない。ならば、最後まで、全力で戦おう。これは、いいチャンスだ。

 統一されていた動きが、ばらけた。一人が正面、あとの二人が、それぞれ両サイドに回る。まぁ単純で、恐ろしい攻撃だ。見事にタイミングは揃っている。つまり、三人が、三方向から同時攻撃を繰り出してくるわけだ。

 ならば、防ぐのではなく、カウンター、または回避しかない。


 それぞれが、別の箇所を攻撃してくるに違いない。


「来いっ!」


 もう虚勢だが、張らないよりはマシだ。三方向からの猛追、普通じゃ避けれない。ならば、マジックを使用するしかない。


「はっ!」


 三人の隊長の声が重なり、それぞれ、足、背、首、を狙って刀を横殴りする。

 頭の中のイメージは固まっている。あの、武器が立て掛けられた場所に瞬間移動だ。イメージを濃くし、どんどん鮮明に…………、


「ぐぼっ!!」


 間に合いませんでした。

 三方向からの攻撃をもろに受けて、流石に少し痛かった。つーか、痛くても、いい感じに攻撃が入って、どの方向にも倒れられない。手から力が抜けて、薙刀だけが、畳に寝転がる。


「ん? どうやら、アトゥムの力に頼ろうとしていたようだな」


 お察しの通りです……がはっ……。

 どけられた刀によって、俺はやっと畳の上へとうつ伏せで倒れられた。ああ、畳ちゃん、あんたってやつはどうしてこうも優しいんだ。


「直輝さんっ!?」


 遠くで美影ちゃんの声がした。慌しい足音が聞こえる。


「不来方、心配する必要は無い。怪我は無いはずだ」


 はず、というのが恐いですよ隊長。ええ、だって本物の刀で戦っていたわけですし。


「日下部、大丈夫か?」


 仁冶も駆け寄ってきていたようだ。


「一応は大丈夫です。でも、衝撃は来るので、やっぱ痛いっす」


「すまなかったな。避けると思っていただけに、加減を忘れていた」


 期待をしてくれたのは嬉しいけど、やっぱ、痛いっす。


「直輝さん、湿布いりますか?」


 美影ちゃんの声が降り注ぐ。シップか。確かに、あざぐらいにはなりそうだな、この痛み。


「出来れば欲しい――」


 と最後まで言い切る前に、喧しいサイレンの音が鳴り響いた。それと共に、頭の方に妙なざらつきを感じた。アトゥなんとかと初めて同化した時に感じたのと似ている。

 なんだ? まさかの緊急事態か?

 うつ伏せなので、皆の様子がわからないが、なんとなくだが、慌てているような空気が感じられる。


『太平洋にL5の水害獣が出現。『清き水』の隊員は、至急、ヘリポートにお集まり下さい』


 女性の声でアナウンスが流れた。


「……水害獣!?」


 俺はすぐに体を起こした。


「日下部二等兵、きみもヘリポートへ」


 隊長が訓練ルームから出て行く美影ちゃんと仁冶を示した。


「はいっ!」


 返事をし、すぐさま二人の後を追おうとしたが、隊長が呼び止めてきた。


「『受信端末ディス』を行く間に確認してみろ。まだ、指令が表示されるのは初めてだろう」


「はい!」


 もう一度返事をしてから、俺は二人を追った。

 ディスなんとか、指令をくだす変な機械だったっけな。ポケットに入っているはず。廊下を走りなりながら、それを取り出して見てみた。


〔L5出現、至急、第三水道局ヘリポートへ〕


 簡略された内容が表示されていた。きっと、詳細はその場で説明されるのだろう。

 そういえば……あの時に感じたざらつき、こいつのせいじゃないか? 前に、局長がディスなんとかを手渡してきた時、嫌でも気付く、と言った。あれが、そうなのかもしれない。


「まぁ細かい事はいいか……今は、急がないと」



 俺は前を行く二人を全力で追った。

隊長さんの能力も明らかに〜。

そして、サイレンが鳴り響く〜。


ふぃって感じです。お疲れモードです。どうも、夏ばてのようです。

でも、私より先にパソコンが悲鳴をあげているという事態……不思議。

皆さんも夏ばてには気をつけてくださいね。


次回予告?

え!? あの人が!?

え!? あそこ!?

(そんな感じです……多分)

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