表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/68

第六十五章 ちょっと初訓練いってくる

 美影ちゃんに連れられて、無事に訓練ルームとやらに辿り着けた。やはり、幾ら複雑でもアズハが迷ってしまうのは、ドジッ子属性の所為らしい。


「隊長さん、二人を連れてきました」


 ドアのノックをせずそのまま行け行けGOな美影ちゃんは、堂々と訓練ルームに入っていく。その行動に臆しながらも、俺はすぐに続いた。仁冶も、躊躇いがちだが、続く。


「……来たか」


 入ってすぐ、部屋の一角にある、畳の上で、座禅をし精神統一をしていた伊久万隊長の鋭い眼光が俺と仁冶を刺した。随分と懐かしな気がする。でも、そんなことより、視線が痛い。

 モノホンの眼光を浴びて、引き攣る足取りながらも、美影ちゃんに促され、隊長の元へと近付いていく。

 ふと、視線をさまよわすと、畳の上には、隊長だけではなく、アズハの姿もあった。

 あれ? 最初から居た? 突然現れたような気がするんだけど……。たまたま、見落としてただけかな。


「直輝さん、それに仁冶さんも、こんにちは」


 アズハが俺たちの方を見て、柔らかく微笑んだ。ちょっと、元気が無いように見えるのはなんでだろう?


「こんにちは」


「こんちは〜」


 俺は隊長の前のなので、一応は堅苦しく挨拶をする。仁冶は変らず、軽い感じだったので、余り意味を成さないような気がするのは、きっと考えない方がいい。主に、精神衛生上でのことで。

 美影ちゃんは、靴を脱いで、畳の上に上がった。それにならい、俺も靴を脱ぐ。


「二人も、こちらへ来てくれ」


 幾分、鋭さが和らいだ隊長の声が、俺と仁冶を呼ぶ。

 見ると、隊長と向かい合う位置でアズハと美影ちゃんは腰掛けていた。つまりは、あの位置に座ればいいのかな?

 そう解釈して、俺と仁冶はアズハと美影ちゃんが座る少し後ろに腰を下ろした。


 それを認め、隊長は座禅を崩し立ち上がった。


「既に聞いている者も居る事だろう。今日は、実戦に向けての訓練を行う。アズハ、不来方、緋元の三人は、それぞれ、自分の技を極めろ」


 三人は隊長の指示を受けて、頷いた。


「すぐに訓練に入ってくれ」


 それぞれが、それぞれの返事をして、三人はバラバラに散った。アズハは、部屋から出ていてしまったし、美影ちゃんは少し離れた位置に移動したが、畳の上で目を瞑って突っ立ったままだ。仁冶は、畳からは下りたものの、美影ちゃんと同じように、目を瞑り立っている。

 それを見回すようにしていた隊長の視線は俺に固定された。


「日下部二等兵、きみには、もう少し能力の詳しい説明をしよう。今日は黄金狼……アトゥムの方にも来てもらっている」


「えっ? どこ――」


「主は、私の能力を忘れて訳ではあるまい」


「うおっ!?」


 目の前に、本当にすぐ顔の側に、アトゥなんとかが居た。そうか、こいつの能力は種無し瞬間移動マジックだったっけな……。俺も一度体験したしね。

 アトゥなんとかの獣顔を近付けられ、正直たじろぐ。つーかこいつ、犬だか狼だかは知らんが、イケメンだな、おい!


「ふんっ、相変わらずのアホ顔だな」


 そう吐き捨てて、アトゥなんとかは俺から離れた。といっても、なんかペットみたく、俺の横に座っている。


「アトゥムが来たところで、能力について説明を始める」


 隣に居るアトゥなんとかを気にしつつ、隊長の話に耳を傾ける。

 隊長は、ゆっくりと語り出した。


「一度、作戦に参加した日下部は、『清き水』の重要性をその身をもって、理解した事だろう」


 まぁあんな本来なら全治三ヶ月とか掛かりそうな怪我したからな……。そんな状態でも動ける同化状態には、正直、恐怖を覚えた。って隊長が言いたいのは、水害獣に対抗できる力、という意味だろうけど。


「報告を聞いたところ、無事に同化を成功し、変異体との戦いに勝利したようだな。最初の敵が、変異体とは随分と運が悪いが、無事でなによりだ」


 労いの言葉は嬉しいが、ミスターボール(あの変異体のあだ名)の話をされると、傷が痛むような気がする。なんかずきずきとさ……。やっぱ、無茶はするもんじゃないね。


「さて、そこで、だ。同化をしたという事は、その時から代償を背負う事となる。まだたったの一度だ、体に深刻な影響は無いだろう。しかし、この先、違和感を感じたのなら、すぐに私の方に伝えてくれ」


「はい」


「ここで代償について少し説明を付け加える。代償は、ただ同化するだけでも私たち、『ダイバー』の体に影響を与える。だが、代償は力の使用、酷使でも加速するのだ。対水害獣武器の具現化、水潔獣の能力の使用、それにより体に更なる負担が掛かる。

 もちろん、代償は人それぞれであり、また、進行スピードも人それぞれだ」


 アトゥなんとかも、確か戦闘中に言っていたような気がする。能力を使うと、代償が増えると。あああ……すんげぇ後悔してるよ俺。情けねぇな……。


「戦闘時に、能力を控えたくなるであろうが……それは、『ダイバー』の背負うべき、超えるべき壁だ。自分を軽く考える事は悪いが、代償については、しょうがない、と割り切ってもらいたい。そうしなければ、最終的には世界は滅びることになる。

 ……では、次は能力についてだ」


 隊長はアトゥなんとかに目で合図を送った。アトゥなんとかは、頷くような仕草をして、隊長の横へと、種無しマジックで移動した。


「日下部のパートナー、アトゥムの能力は、このとおり、瞬間移動だ」


 そこで割り込むようにしてアトゥなんとかが口を開く。


「正確には、空間への干渉だ。瞬間移動は、その活用方法の一つにすぎん。ぬしには、空間への干渉というイメージが湧かないであろう」


 小馬鹿にしているような態度……いや、馬鹿してんのか。


「ま、まぁそんな感覚は意味がわからんな。変異体との戦闘した時に、一度使ったが、なんか妙な感覚だったからな」


「必死さゆえに成功した。あれは、本当に運がよかったのだ」


「そうかい」と俺は情けない気持ちになりながら、「それで、俺にも自由にあれを使用できるようになるんですか?」


 と隊長を見上げる。


「もちろん、可能だ。それも、アトゥなんとか単独で行うより、より強力になる。これは、前に説明したとおり、人間は水潔獣の力を引き出せるからだ。訓練をすれば、いずれ自分のものにできるはずだ」


 おお! それは凄い! 俺もマジシャン、というか超能力者の仲間入りだね。あんま嬉しくないのはなんででしょう……。やっぱ、代償か。


「さて、それで能力の訓練についてなんだが、それはアトゥムと協力し、やってもらいたい。能力の仕組みは、水潔獣一匹ごとに違く、説明はできないのだ。これから毎週、その訓練をここで行うつもりだ。他にも、水害獣に関する講義、水害獣との戦闘シュミレーション、対人訓練なども行う。

 対人訓練に関しては、主に、『清き水』内での、戦闘訓練だ。武器は、水潔獣の力を借りたものを使用し、相手の体に触れた場合の外傷を無くすイメージを付与する。これなら、怪我の心配は要らない」


 つくづく便利な武器だ。いや、水潔獣が凄いのか。


「さて、早速だが、アトゥムとの訓練を始めてくれ。私は、局長の方に用があるので失礼する」


 言うだけ言って、隊長はすぐに部屋を出ていってしまった。なんというか、つまりはアトゥなんとか先生に教えてもらえばいいのかな?

 アトゥなんとかに、愛くるしい子犬的な視線をプレゼントする。


「…………それでは、同化をするか」


 無視されたし……。まぁいいや。ノリがいいとは思えないし。

 アトゥなんとかが光となって、俺を包み込む。あの時は必死になってやったけど、とりあえず今は、一つ一つ段階をイメージしながらやろう。


 まずは、こうして光が俺の体に纏わり付いた。それを体の中に入れるように、受け入れていく。

 光は段々、その明るさを弱め、俺の体内に取り込まれていく。なんだか全身が少しだけ火照った感じがする。

 完全に光が入り切ると、頭にノイズが加わった。


(無事に成功できたようだな)


 アトゥなんとかの感覚が、俺の感覚に溶け込んで行き、ノイズのように感じられる違和感が収まっていく。数十秒、意識の統一へと時間を割くと、気にならない程度まではする事が出来た。


「よし、なんか割とスッキリだな」


 最初の時よりましな感じだ。なんというか、馴染んだような気がする。


(見た目とおり主は体で覚えるタイプの人間か。私の負担も最初に比べると、大分軽くなっておる)


 褒めてくれた。いや、別にアトゥなんとかのためにやったわけではなく、あくまで自分のためにやったんだけどね。


(そのまま、武器を出してみろ)


「了解」


 右手と左手を一直線上に並べ、それぞれ筒状に指と手の平の間を開ける。

 さてはて、薙刀でも出してみるか。昨日見たドラマで、出ていたので、それがすぐにイメージできた。

 体内に収まっていた光の一部が、腕から外に開放され、俺の脳内イメージした形を作り上げていく。


 70センチほどの反った刀身、130センチほどの金色の柄をした、薙刀を脳内に細かく描いていく。

 それに伴い、棒状に伸びた光が、だんだんと質感を帯び始め、先端部分も太くなり、鋭利な刃を形作る。

 更にイメージをより明確なものにし、一気に仕上げた。


「完成っ!」


 俺は、想像したとおりの見た目をした薙刀を両手で持って、頭上に掲げる。初めてやっと時より、早くなっている。

 周囲に人が居ない事を確認してから、俺は宙を一閃する。


「よし……」


 薙刀なんてまともに使ったことが無いが、流石は俺の想像した武器だ。しっかりと手の平に馴染む。


(主は扱いに慣れた武器はないのか?)


 せっかく上がってきたテンションへと水差すようにアトゥなんとかが脳内で俺の声を掛けてきた。

 慣れた武器。それならもちろん、剣だ。刀もそうだが、やはり……俺は剣だろう。

 小学校、中学校と馬鹿をやった俺は日下部流剣技もとい、オリジナルで両刃にアレンジした剣技を封印した。


 剣を持つと、たまに自分が自分でなくなるような錯覚を感じる。それは、物凄く不快でまるで内側から俺を何かが侵食してきているような感じがするのだ。

 それが嫌なのもあるが、今は……きっと、剣を握っても納得できる技は繰り出せない。既に剣は、俺の中では罪の印になっている。


「やっぱり女々しいな……」


 手に収められた薙刀。

 俺は、きっと……いや、絶対に剣を求めている。それが、戦いへの本能なのか、過去への決別なのか、未来への一歩なのか……判断できない。

 俺が……納得し、再び、剣を手にするのは何時になるだろうか……。


 戸高さん、今なら分かるよ。どうして、あの時、一緒に謝ったのか。


 だからこそ、俺はもう……誰かのために剣は振るえない。何かのために剣は振るえない。


 それがけじめで、背負う罪と責任だ。


「あぁ……」


 だらんと手が下がる。



 俺は……何時になったら成長できるんだろう…………。

訓練っぽいことをやってないんですよね……。

さて、また遅くなりました。というより、これぐらいのペースでもキツいかもしれないという危機的状況であります。

どうしてこう、いきなり忙しくなったんでしょう。


次回予告?

気になる『清き水』のメンバーの能力が明かされる!?

そして……直輝は遂に種無しマジックへと挑戦する。

(説明的な部分と、動きがある部分が半々ぐらいになるのかなぁ……あれ? 真面目だ!)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ