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第六十四章 ちょっと熱血男いってくる

 日曜日はやってくるのです。そうです、やってきちゃうのですよ。


「はぁ〜〜」


 盛大な溜息をつき、もう諦めた俺は水道局の入り口を潜った。

 受付で、前のようにカードを提示した。すると、局長室ではなく、訓練ルームの方に向かえと言われた。

 確か、隊長さんに連れられて、一度行った場所だ。なら大丈夫かな。


 という事で、案内は断った。




「ここどこだぁぁぁぁっ!!」


 迷った。もう迷いました。

 俺の無様な叫び声は、水道局のどこら辺だかわからない廊下に響き渡る。


「迷ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ……あれ? 俺、叫んでないぞ。まさか、同じ境遇の奴が近くに居るのか?

 キョロキョロと見回す。すると、一人の男の姿を捉えた。向こうも俺の叫びを聞いたのか、首を忙しく動かし辺りの確認をしていたようだ。

 ふと、目が合う。


「あっ……」


 両者共に間抜け面をさらした。

 その男は様子を見るようにしてこちらへと近付いてくる。一歩、また一歩と近付くにつれ、なんとなく妙な感覚が襲ってきた。

 最近だ。この感覚を感じたのは……でも、何時だっけ?


 ってまぁいい。今は目の前のこの男の方が問題だ。男との距離は、目算するに、ザッと3メートルちょい。

 ちょっと暗めの廊下だが、そこまで近付けばどんなに目が悪い奴でも特徴がわかる。

 近付いてくる男……多分、二十歳ぐらい。その男の髪は、見事な赤だった。ワックスかなんかで、横の髪がツンツンと立てられている。前髪も軽く上に上げられている。どことなく、感じる雰囲気が友貴っぽい。


「おたくは〜どちらさん?」


 目の前までやってきた男は、腰を曲げて俺の顔を覗き込んできた。


「えっと……『清き水』の日下部です」


「んん? 日下部……?」


 覗き込んできた男の瞳は黒だったが、どこか、光が宿っているように見えた。服装は、現代っ子風で、黒のジーパンやら紺のコートやらを纏っている。

 頭を引っ込めて、腰を上げて、正面で向かい合った。身長は、俺より少し小さいぐらいだ。でも、体格は服越しでもわかるぐらいにガッチリしている。


「日下部ね〜」


 男は何度も俺の名前を呟いては、ん〜と唸った。


「あの、俺の名前が何か?」


 俺の問い掛けにも反応せず、男は唸り続ける。

 さっき、迷った、と叫んでいたが、ここの関係者なのだろうか? でも、だとしたら迷わないような……ってアズハは迷ってたか。


「あっ! わかったぁ! あれな、日下部って、そう! 『清き水』の新入りだ!」


 わかったのが嬉しいのかはしゃぎながら、俺に、そうだよな? と期待の眼差しを向けてきた。それに逆らいたいと思ったのは、雰囲気が友貴に似ていたからに違いない。


「はい、『清き水』に……んと」


 そこで考える。一応、何時所属した事になるんだ? あの、カードをもらった時か? それとも、ディスなんとかを受け取った時なのか?

 よくわからんな。まぁいい、細かい事はどんまいだ。


「最近入った日下部です」


 よし! 大正解! と喜んでくれたので、まぁこれでいいだろう。


「それで、あの、貴方は?」


「ん? オレ? オレの事をそんなに知りたいのかぁ……しょうがないなぁ」


 どうやら性格も友貴に酷似しているようだ。非常に、うざったい。


「オレは、『清き水』の緋元仁冶ひもとにやってもんです! 普段は大学生なんぞをやっています。うんじゃ、よろしく! 日下部くん!」


 握手を要求しているのか、右手を前へと差し出してきた。

 それに俺は答えて、左手を出して答える。


「よろしくお願いします」


 大学生、とのことなので幾ら友貴っぽい雰囲気でも敬語を使用しておくことにした。


「ま、そんな硬くならなくてもいいから。普通に喋っていいよ。うん、友達に話すみたいに」


 まるで心を読んだかのようなタイミングでの発言に、俺はまたも読心術の使い手か!? と内心ではびくびくしていた。

 頬を少しだけ引き攣らせながらも話を続ける。


「えっと、はい努力します」


「よーっし! ってことで、共に行こう」


 ガシッと俺の右肩に手を置いて、緋元さんが俺が来た廊下をビシッと指差す。


「あの、緋元さんも迷っているんですよね?」


「おうよっ! つーことで、闇雲に進もうぜ! てか、緋元さんってのは止めてくれ。緋元って呼び捨てか、なんなら、名前の呼び捨てでOK!」


「はぁ……。じゃあ、仁冶さん……」


 と言ったところで睨まれた。なんだろう、こんなやり取り、アズハともしたような……。しかも、シチュエーションも全く同じような……。


「仁冶は迷っていたんですよね?」


 言い直すと、よろしい、と一言答えてから、


「まあ迷ってけど、適当にぶらついてりゃなんとかなるさ」


「地図とか壁についてるじゃないですか。それを見れば、」


「探したけどさ、ここら辺ないみたいなんよ。だから、青春真っ最中の日本男児たる我らは、恋する乙女のようにぐんぐん闇雲に歩みを止めずに進み続けようぜ!」


 テンションがひたすら高い仁冶に流されつつも、適当に歩くことになった。

 俺が来た道を二人で並んで歩く。考えてみると、この人は『清き水』の人だ。あの赤い髪はやはり代償なんだろうか?

 そんなことを考えつつ、仁冶の髪の毛を見ていると、目が合った。


「どうした? ん? あーこの髪か」


 ツンツンと立てられた髪を軽くつまむと、仁冶は笑顔で説明してた。


「ご想像通り、代償さ。元々は黒髪だったんだけどさ……えーっと何時だったかな。まあ忘れたけど、戦闘に出るたびにちょっとずつ赤みを帯び始めてたんだよね。命削られたりするわけじゃねぇからあんま気にしてない」


「そうですか」


「でもなぁ、やっぱ大学に行ってるわけでさ、目立つやなんやで面倒だから、日常では黒髪のウィッグを装備してる。日下部はまだ代償は?」


「特には……。それか、気付いてないだけで何かあるかもしれませんがね……」


 代償か。これさえ無ければ、もう少し気分が楽になるのだが……。

 仁冶が、ふーん、と呟き、話題を変えてきた。


「ま、代償なんていう暗い話題はノーサンキューってわけで、日下部はさ、どうやって『清き水』に入ったんだ?」


「えーと……。なんというか、トイレに行ったら、アズハが居て」


 最初の出来事を軽く説明すると、大袈裟なジェスチャーで驚きを表してくれた。


「おぉぉぉ! アズハちゃん可愛いよなぁ……。ってさ、待てよ、それってスカウトか? まさかのVIPなのかお前!?」


「いえ、ヘッポコです」


「ヘッポコのために、わざわざあの局長さんがね〜」


 どうやら仁冶とは局長の認識が近いようだ。別にどうでもいいことだが……。


「よくわからないですけど、アトゥなんとかのパートナーとかなんとかで」


「おぉぉ! やっぱそれってVIPじゃね? あの偉そうにしてる金の毛したやつだろう?」


「多分。でも、まぁ俺自身はヘッポコです」


「ふーん、本人がそう言うならそれでいいけどさ、ま、頑張れや」


 何に対しての、頑張れ、なのかはわからないが、とりあえずは頷いておく。


「でも、オレとは大違いだな」


 そう最初に言って、自分がどうやってこの戦いに関わりを持ったのかを仁冶は話し始めた。


「オレはさ、怪我してる水潔獣を街で見付けたんだよ。なんか犬みたいのが倒れてんなぁ、って感じに近付いてさ、怪我の状態を確認をしようとしたんだよ。そしたらビックリ、その犬みたいのが喋ったのさ。それを一緒にいた友人に言ったら、頭大丈夫か? っていう対応をされだよ。それもそのはず、その犬みたいのを見えてたのオレだけだったんだ」


 前に局長や隊長さんに説明された、波長、というやつだろう。波長の合うものなら意識せずとも、水潔獣の姿が確認できるらしい。つまり、その水潔獣こそが、仁冶のパートナーだったというわけだ。


「それからが大変だったな。オレの頭を心配し始める友人をさほっぽって、動物病院にいったわけさ。どうなったと思う?」


「医者に見えないから冷やかしだと思われたんですね」


「その通り! 白い目で見られてさ……あの時は悲しかったなぁ。まあそんなわけで、何件か回ったんだけどさ、全部そんな調子で、挙句にはオレが病院を紹介されちまう始末さ」


「大変でしたね……。それで、どうしたんですか?」


「まあそうなれば、自分で治療するしかないわけで、家に帰って自分でなんとかしたさ。治療が終わると、またその水潔獣が喋り出したのよ。そんで、色々と話されたわけ。まあ内容は、『水の世界』がどうたらとか、最初はマジで電波かと思ったよ。でもさ、この水道局に案内されて、なんやかんやあって、こうなった訳さ」


 そう言って自分の赤毛を指す。こうなった、つまり、水害獣との戦争に参戦したというわけだろう。

 自分以外がどうやってこの戦いに関わったのか気になってたけど、なんか面白いな。こういう風に関わることもあるんだな、と思う。いや、仁冶の反応を見るに、俺のが特殊なんだろうな。


「あ、やっと見つけました」


 その後も適当に廊下を歩き続けていると、聞き覚えのある声が背中に投げ掛けられる。声を聞き、足を止めて振り返ると呆れた様子の美影ちゃんが居た。


「おぉぉ! 美影ちゃん、オレを探してくれてたんだな!」


「……不本意ですが、そうです」


 あからさまに嫌そうな顔をしながらも美影ちゃんは、仁冶に対応していた。

 一通りのやり取りを終えると、俺と仁冶、二人を見て美影ちゃん言った。


「『空を翔る罪深き剣の主』さんに、『紅蓮の先駆者』さんも、『孤高の贖罪者』さんがご立腹ですよ」


 ……どうやら美影ちゃんは電波を受信中らしい。困ったものだ。でもまぁ、何が言いたいのかは大体理解できた。


「それじゃあ、案内を頼みます」


 申し訳ないが、正直、道がわからない俺は美影ちゃんに頼るしかなかった。


「わかってます」


 拗ねたような口振りで、美影ちゃんは俺と仁冶の一歩前を行き、訓練ルームとやらまで案内してくれることになった。



 大変なのはこれからだな、と内心で呟きつつ、俺はなんとなく溜息をついた。

ごめんなさいぃ。大分、遅くなりました。

色々とごたごたしていて……本当に申し訳ないです。


はい、新キャラです。余り熱血っぽくないですけど、直輝が慣れてくるとどんどん熱くなっていく予定です。

それにしても……一人称を暫く書いていなかったので、微妙かと。それと、直輝的なテンポがなくなってしまっているのも自覚してます。


諸事情により更新がこれからも安定しませんが、それでもよろしければ、こんな作品ですが、読んでやってください。


次回予告?

訓練の時間がやってきた。

どこまでも付き纏う代償。そして、奴の言葉に怯えるチキンハート!

(だから、最後に余計な一言を……)

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