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第六十二章 ちょっと盗難事件いってくる

「これぞ、フラグを立てるチャンスっ!!」


 大体の情報を集め終わった友貴が、俺の席の前に戻ってくる。そして、明らかに間違った方向へと利用しようとしていた。


「おいおい、そんな事を考えずにだな、普通に犯人を捜そうよ」


「うん、そうだよ友貴くん。犯人には死の制裁を……」


 あれ? 明良がさっき物凄く不吉な言葉を……。

 俺が疑わしい視線を向けると、明良はキョトンとし、黒髪を僅かに揺らせた。


「ん? どうしたの直輝くん」


 気のせいだよな。明良がまさかそんな事を言う訳ないよな。うん、そうだよ、うん。

 のほほんとした顔をする明良が、どことなく凄味のあるオーラを発していたが、やっぱり気にしないことにした。


「それでさ、友貴、どういう状況な訳?」


「ああ、今から説明するよ」


 そう言って、友貴は何時も所持している小形のノートをポケットから取り出し、説明を始めた。


「えーっとだな、事件が起こったと思われるのは、三時限目から今の昼休みの間だ。うちのクラスが、三時限目に体育で体育館でバスケやっただろう? その時の体育を荒内は見学してたらしいんだよ。それで、白熱した試合が展開されている内に、暑くなって来たから、ジャージを脱いだらしいんだよ」


「あれ? つまりは、盗まれたのってジャージってことか?」


「ああ、そういうこと。そんで、そのジャージを暑さでフラーッとしていたために放置してきちゃった訳だ。そんで、今に至る。つまりは、三時限目終了後から、この昼休みの間に誰かが持ち去ったのさ」


「落し物とかで拾われた可能性は?」


「それは無い。既に、本人が確認を取ったみたい」


「という事は、盗難事件……」


「大正解!!」


 ってマジかよ。若さゆえの過ちというやつか。まぁ、荒内さんの体操着だろう? 皆欲しがるだろうな……。俺も欲しいし…………ってなにを考えてるんだ!?

 集めた情報を公開しきったのか、友貴はノートをポケットに仕舞い、椅子へと座る。


「んで、どうすんの?」


「クラスメイトの危機だよ、もちろん犯人探しを手伝うよね?」


 友貴の言葉に珍しく明良が一番に意見した。今日はなんだか積極的だな。いつもならどうでもよさげにしているのに。


「まぁ俺も明良に賛成だけど。友貴だって、フラグがどうたらって事は手伝うんだろ?」


「もちろん! ってことで! 早速、事件現場へと行って見ようぜ!!」


 俺と明良は友貴の提案に頷き、早速移動を開始した。




 事件は会議室でどうたらって感じに、現場にやってきた。


「あれれ? どうしたんだい、ご一行様は?」


 体育館に着くと、今回の事件の被害者である荒内さん、それと純岡に山下も居た。

 山下が俺たちを見て、怪訝な顔をする。


「フラ……じゃなくて、犯人探しを手伝いに来たのさっ!」


 一瞬フラグと言おうとした友貴だったが、俺がチラリと視線を送ってなんとか阻止。そして、まともな事を口にさせた。


「……どうして日下部がいるの」


 俺に対する憎らしげな視線を隠す気も無く、思いっきり、もう清々しいほどに曝け出す純岡が呟いた。


「どうしてって、そりゃあ荒内さんの危機だからな」


「じゃあなんで……。やっぱりいい」


 何か言い掛けたが、途中で口を噤み、俺から視線を外して軽く俯く。

 相変わらず意味が分からんな。


「ねぇ、荒内さん、ジャージって何時から使っているやつなの?」


 純岡と俺がそんなやり取りをして、その横で友貴と山下がテンションを上げてなんか面子で戦っている最中(ってこいつらやる気あんのか?)、明良が平常なのほほんとした声で、伏目がちな荒内さんへと尋ねていた。

 だけど、その質問の意味が、というよりは、必要性があるのかどうか謎だ。


「えっと……入学してからずっと使ってるよ? でもなんで?」


 戸惑いながらも答えた荒内さんに明良は微笑みを浮かべ、思案する顔になった。


「ん、ちょっとね」


 軽く濁しながらの言葉を発して、明良はフラフラと俺たちから離れていく。


「……何時にも増して意味が分からんな」


 そんな奇行とも呼べる明良の言動にクエスチョンマークが頭の上に浮かぶが、とりあえずは無駄な事を嫌う明良が、なんか意味があるんだろうな、って事で納得しておく。


「よーっし、そんじゃあ、手分けして情報収集してみっか」


「ってあれ? 面子は終わったのか?」


 面子をポケットへと仕舞いながら友貴が全体に伝えるように言った。


「ああ! 俺の勝利!」


「うぅぅ、休み中にまさか藤崎があそこまで成長しているとは……侮った」


 本当に悔しそうにしている山下だが、なんかよくもまぁ二人とも面子にマジになれるなぁと思うばかりだ。


「って話がずれた! 手分けして情報収集すんぞ! あ、言い忘れてたけど、俺たちの後に体育をやったのは、1−Aだ。まあだからさ、半分は1−Aにレッツラゴーだ!」


 仕切り直す友貴の言葉を受け、とりあえずは分担。

 俺と友貴と山下が1−Aに行く事に、他の明良、純岡、荒内さんは他のクラスなどを回る事に。




「ミーヤっ!! ういッス!」


 堂々と他クラスに入って行く勇ましい山下が、窓際の席に一人、読書をする水無瀬さんへと元気に挨拶をした。


「あれ? どうしたの、モエ? それに、直輝くんも」


 本に帯を通して、キョトンとする。

 友貴は1−Aに知り合いが居るらしく、そっちに行っている。


「行き成りで悪いんだけどさ、四時限眼の体育でさ、体育館に荒内さんのジャージがなかったかな」


「荒内さんのジャージ……?」


 情報が足らな過ぎたために軽い説明を山下がした。

 記憶を反芻する水無瀬さんに時間を与え、俺は黙って待つ。

 その間にクラスを見渡してみたが、友貴が黒縁の眼鏡をした男子生徒と話をしていた。あれが、知り合いの奴かな?


「ジャージ……無かったと思うな。ごめんねっ」


「いいよ、ミーヤ、ご協力ありがとうございますっ!」


 ビシッと軍人のように敬礼をする山下。なんつーかこういうの好きだなこいつ。

 しかし、意外にもノリノリで水無瀬さんもビシッと敬礼し返した。

 そういえば二人って、中学時代からの仲だっけか……。


「おーい、直輝。なんか、勉が微妙にわかるかも、だってさ」


 眼鏡くんと話す友貴が、俺を読んで手招きをする。水無瀬さんに軽くお礼を言って、友貴の方へと移動した。


「こいつ、俺の下僕の……じゃなくて、友達の日下部直輝。そんで、直輝、こっちはクリスマスのイベントの時に知り合った、香坂勉こうさかつとむ


 友貴が調子に乗ろうとするのをギロリと睨み、訂正させ……ってなんか今日、これ二回目だな。

 そんでから、その香坂とやらへと目を向けた。

 黒髪を短めに揃えられていて、黒縁の眼鏡をしている。身長は低めだけど、凛々しい顔立ちで、なんだかエリート感が漂っている。


「よろしく、日下部くん」


「ん? ああ、よろしく」


 なんだろう……香坂から、どこかで感じたような気配というか、なんか感じる。


「どうしたんです?」


 顔にそれが出てたのか、首を傾げ、香坂が目を合わせてくる。


「い、いや……なんでも。それで、犯人を見たのか?」


 自分でもよくわからない感覚だ、人に話したところでどうにもならない。そう思い、すぐに本題へと移った。


「犯人を見たというか……。その、四時限目に1−Aが体育で、ボクは用事があったので、早めに体育館に移動したんですよ。その時に、三人の男子生徒が、制服姿で体育館から出てきて、一人がジャージを手に持っていたので、忘れ物を取りに来たのかな、と思ったんです。でも、もしかしたら、そのジャージが荒内さんの物である可能性があると思いまして」


 ……ほう、有力情報だ!


「それで、男子生徒の特徴はわかる?」


 質問をすると、申し訳無さそうに俯いた。


「すみません、ちょっと覚えてないです……」


「そうか……」


 そんな感じに、中々な情報を得られたが、犯人を断定するまでには至らなかった。

 純岡から、山下のケータイに電話が来て、一度教室に戻り、集まる事となった。俺は、最後に香坂へとお礼を言い、三人で教室へと戻った。




「明良、それでその情報はマジなのか?」


 友貴が明良へと尋ねた。

 教室に戻り、俺の席を囲むようにして、犯人探しをしたメンバーが揃った。


「うん、色々な人に話を聞いてみたところね、犯人は1−Dの悪者三人組みたいだよ」


 戻って早々に、二つのグループが得た情報を総合、といっても、俺たちが仕入れた情報は明良が得た情報をより正しいものにするだけの事だったが、まぁ犯人は断定出来た。


「という事は、解決な訳か?」


 俺が皆を見る。


「訳だね〜」


 山下が拍子抜けした顔をしながら、へローンとした声で答えた。


「すぐにでも絞めに行きたいけど、もう昼休みも終わるから……」


 怒りに血をたぎらせる純岡が残念そうな顔をしている。絞めるって……一体、何をするつもりなんだ。


「あ、で、でも、財布とかケータイじゃないですから、悪用のしようなんて無いから、大丈夫だよ」


 被害者である荒内さんは、どうやら自分の価値がわかっていないようだ。荒内さんが着ていたジャージだぞ? いくらすると思う?

 それに、だ! 女子なら絶対にされたくないだろう……。自分のジャージで……いや、なんでもない。自主規制します。


「荒内さん、わかってないみたいだね」


 明良が珍しく寂しげな顔をする。

 やっぱり、明良でもわかるよな……。


「え、え? な、なにが?」


 キョロキョロせわしなく視線を動かす荒内さんを、皆が同情の眼差しで見守った。


「あ、でもね、五時限目、抜け出して大丈夫だよ。それに、その犯人さんたち、よく裏庭で授業をサボっているらしいから……」


「神にょん、抜け出しても大丈夫ってどういう意味?」


「そのまんまだよ。担当の先生が少し遅れて……かなり、遅れて来ると思うから、大丈夫」


 明良……お前、何をやった? 少し身震いするも、ここは荒内さんのためにも、俺たちは授業を抜け出して、犯人を成敗する事に決定した。

 ん〜なんだろう、今日の明良はやっぱりどこか積極的だ。

 まさか明良が犯人というオチは無いだろうな……。




 学校の裏庭にやってきたはいいが、どうしようか……マジで、その三人が居るんですけど。

 しかも、ジャージを見て楽しそうに笑ってるんですけど……。

 犯人確定? ねぇもうEND!?


「ありゃあ……堂々としてるなぁ」


 友貴がなんか頭を押さえて苦笑。その気持ちはよくわかる。


「死亡フラグだね、あれ。神にょんナイスだね!」


 同じく苦笑いを浮かべる山下が、憐憫の眼差しを三人の男子生徒へと向けた。


「どうして、あんなに私のジャージで話が盛り上がるのかな?」


 まだボケボケの荒内さん。いいんです、ええ、いつまでも純粋な貴女でいて下さい。


「…………」


 明良は笑ってなかった。なんか、ん〜あれだよ、そう……怒るタイプで言うと、静かに怒る感じの人。そんな感じに、明良から底知れぬパワーを感じた。

 まぁ俺も静かに怒っているさ。なんつーか、クリスマスイブでの体育倉庫での一件があって以来、どうにも守ってやらなくてはいけないような気がしてならない。

 俺って、体育倉庫で泣いてる女の子は守りたくなるというデフォルト設定がなされているのかな?


 さて、俺の怒りなんてどうでもいいんだ。

 横にさ……もう、燃え上がってバーニングな、そうだよ……皆、自然と道を譲ってあげてしまいそうになる恐い顔をする純岡が、居るんだ。


「あいつらぁぁぁぁぁ……」


 一歩、下品に笑う三人組に近付く純岡。足が地面についた時に、ジュッて音がしたのは幻聴だと思う。


「罪は……命を持って…………償う……」


 今の純岡の言葉は、マジだ。眼が、眼が、血走ってる!

 その後、猛ダッシュで接近。突然の襲来に動揺を示した三人だったが、そのリアクションタイムは命取りだ。いや、瞬時に反応できても、今の純岡を止められる人間なんぞ存在しない。


「や、やめ、ギャァァァァァっ!!」


「お、俺たちが何を、ウワァァァァァァっ!!」


「い、命だけは、グアァァァァァっ!!」


 ボコボコだよ。うわ〜無限コンボ並みに続いてる。


「直輝、俺さ……純岡のフラグは立てなくていいや」


 まだそんな事を考えていたのか、友貴。


「同感だよ……」


 純岡と結婚したら、きっと尻に敷かれてカカア天下、間違い無しだね!

 でも、もしかしたらデレデレになって……いや、そこに至るまでに命が幾らあっても足りないだろうな。


「あの、それよりも、七海、止めた方が……」


 優しいですね荒内さん。貴女はやっぱり女神です。そのままでいて下さい。全人類のために。出来れば、俺のために。ってあれ?


「今日のナナミは朝からアグレッシブだったからね〜」


 山下は超絶コンボを続ける純岡を見て、楽しそうだ。そういえば、朝、山下って純岡にやられてたな。


「ふっ……好い気味だな」


「えっ?」


 さっき、明良の黒い発言が聞こえたような気が……。

 すぐに明良を見た、しかし何時もと変わらずのほほんと……ってこの状況でのほほんとしてられるのは凄いが、そうじゃなくて、さっき、黒い笑み浮かべてたよな?


「ん? どうしたの、直輝くん」


「い、いや……なんでもない」


「そう」


 俺の視線に気付いた明良が小首を傾げたが、そこの動作が余りにもわざとらしかった。

 もしかして、本気で怒ってるのか? 奴らに?

 でも明良はそんな他人に興味を示す事なんて滅多にない。あんなどこにでも居るような不良さんに興味を持つか? だとしたら、何故?


 ……まぁいいか。元々、明良の考えてる事なんてわからないし、今日はなんだかずっと変だったしね。

 という事で、あまり深くは考えない事にした。




 それから、三人組から荒内さんのジャージを回収し、事件は締め括られた。

 純岡がキツく……キツ過ぎるぐらいに叱ったんだ、もう悪い事なんてしないだろうな。


 今は、学校も終わり、犯人探しをしたメンバーで打ち上げをする事になっていた。なので、帰り道を、六人という大所帯で移動中。


「いや〜久し振りにあんな馬鹿見たよ」


「うん、藤崎並みに馬鹿な連中だったね」


 先頭を友貴と山下が進んでいる。なんかガミガミ言い合いを始めていた。

 その後ろには、荒内さんと純岡。一番後ろには俺と明良が居る。


「…………ん? どうした明良」


 明良がずっと俯きながら、何かに耳を傾けていたので、気になって聞いてみると、


「あいつら……反省していないか」


 とボソボソッとよくわからない事を呟いていた。


「明良?」


 更に混乱する俺。そんな俺に、明良が含みのある微笑を向けてきた。


「ちょっと用事を思い出したから、僕は帰るね。皆に伝えておいて」


「えっ、ちょ、ちょっと明良?」


 呼び止めようと思ったが、そんな声は届かず自転車の限界を超えるような動きで向きを反転させ、反対方向に走り去っていった。


「やっぱ、意味わかんねぇな」


 仕方なく、他の人に明良が帰った事を伝え、明良抜きでそこらのファミレスでギャーギャーやった。店員がチラチラと見てきていて、つまみ出されるかと不安になったが、まぁなんとかなった。




 次の日、学校で出会った犯人三人組は、なんか人が変わってた。


「おはようございます」


 校門前で礼儀正しい挨拶をされた。しかも、掃除をしながら。

 やっぱり、純岡の力は偉大だな、と思ったが、ただ殴られただけであそこまで人格が変わるものなのか? 謎だ。



 なんか俺って今回、何もやっていないような……。というか、やってねぇ…………。

はい、また復活!! と叫びたいのですが、残念ながら後もう少しお待ち下さい。


直輝は本当に何もやってませんね……。

まぁ次回予告で言ったとおり、出番が少ない彼が、大活躍(?)です。

なんだか、更に謎が深まるキャラになりました……。


次回予告?

現実と非現実の僅かながらの接触、それは破壊か共存か……。

次回! 直輝は猫のもらい手を見つけられるのか!?

(あれ? 途中まで格好良かったのに……なんで?)

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