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第六十一章 ちょっと三学期いってくる

 三学期は特に問題なくスタートを切った。と言いたいのだが、そんな事はもちろん有り得ない。いや、あってはならないのだ。

 そう、あの祭り者の校長が許す筈が無い。


「ひゃっはぁぁっ!! 生徒諸君、元気にしていたかな? さて、ここでいきなりだが、去年は忙しく開催できなかったイベントを今年は開催したいと思う!」


 始業式に壇上に上がった校長は、ハイテンションだった。生徒達もそれに乗せられ、意味の分からないテンションへとなっていく。

 何故かはわからないが、始業式がライブ会場のような熱気に包まれた。

 俺はその様子に呆れながらも、やっぱりこの学校は平和だな、としみじみと思った。



 そんな時間をオーバーしまくった始業式を終え、生徒達は教室へと戻っていく。

 冬休み中に会っているので、特に懐かしみも無い友貴や明良と並んで教室への道程を進む。


「なぁ直輝、あの校長って本当に校長なのか?」


「さぁ……でも、校長だから校長なんだろう」


「うんうん、校長だって言ってるんだから、校長だよ」


 俺と明良は投げやりな回答を友貴へと示した。

 その回答で何故か満足出来た友貴が、「そうだよなっ!」と言って鼻歌を始めたのだから、まぁいいだろう。

 こんな感じに、俺たちは三学期も変わらず行動を共にするのだろう。




 教室へと戻ってきた俺たちは、それぞれ自分の席へと散り、それぞれの行動開始する。

 友貴は、何時も所持しているノートに何かせっせと書いていた。

 明良は、のほほんとした顔を浮かべて、教室を見渡している。

 それで……俺は、何をしようか? 別にすることないんだけどな……。


 と、そこで、ある事実を思い出した。山下による悪戯で、純岡や荒内さんのメアドをゲッチュ……と言っても、まぁ許可がある訳じゃないから、ちょっと確認を取ってみて、OKなら登録しよう。

 純岡とは、嫌われたまんまは嫌だし、荒内さんとはなんだかんだで純岡へのフォローなどなどを頼みたいし、そういうの抜きで仲良くなりたいしね。


 という事で、まずは攻略しやすい荒内さんから。

 自分の机で、分厚いハードカバーを読む荒内さんに声を掛けた。


「あの、読書中だけでいいかな?」


「え? あ、日下部くん、どうしたんですか?」


 懐かしい気がする。そういえば、荒内さんとは、休み中に一度も顔を合わせていなかったっけ。

 荒内さんが色素の薄い黒の瞳を丸くして、俺を見上げる形で捉える。


「えっと……冬休み中にさ、俺のケータイに山下が荒内さんのケータイからふざけてメールを送ったでしょ?」


「メール……?」


 キョトンとし、動きが止まる。数秒そうしていると、ハッとしバックの方へと手を伸ばした。膝の上に黒い学生鞄を乗せて、ガサゴソと漁りだす。目的の品が見付かったのか、バックから手を出した。

 その手には、少し古めの機種で厚めの青の光沢を放つケータイが握られていた。


 余り操作に慣れていないのか、ボタンを一つずつ確認するように押している。


「えっ……」


 荒内さんの手の動きが止まった。


「どうしたの?」


「えっと……メール、日下部くんに……送信ボックスにありましたけどいつの間に山下さんはやったんでしょうか」


「さ、さぁ……」


 俺に聞かれても。

 荒内さんは再び操作を始めた。だが、その動きはすぐに止まる。


「ええっ!?」


 あの反応からするに、恐らくはメールの内容を確認したのだろう。ご愁傷様です。

 慌てた荒内さんが、あわあわと震えながら俺を見る。


「日下部くん、ごめんなさい!」


 申し訳無さそうに頭を下げられてしまった。


「い、いや、いいから。悪いのは全部、山下だし」


 何時ぞやと同じく、すべての罪を山下へ……。というよりは、今回は決定的に山下がすべて悪い。


「で、でも、本当に……その、ごめんなさいっ」


「いいからいいから。あのさ、それで……メアドさ、登録しちゃっても大丈夫かな?」


 何気なく本題へと踏み込んでみる。


「あっ、うん。いいよ。その、私も……山下さんが勝手に登録しちゃったのそのままにしていいかな?」


「そりゃあもちろん」


 という事で、荒内さんのメアドを入手した。

 次は、次こそが問題なんだ。食物連鎖のいわゆる消費者の頂へと上り詰めた最狂生物、純岡七海!! 奴のメアドを手にするべく、俺は戦いに挑むっ!!


 純岡は自分の席で、珍しく一人で居て、ポヤーッとした表情で頬杖していた。

 なんだろうか、大概は女子に囲まれて楽しく談笑しているのに、今日の純岡は暗い雰囲気が纏わり付き、なんとも近寄り難い。それを察して、仲良しのクラスメイトは近付かないのだろうか?

 まぁ今の俺には好都合のような微妙な感じだ。しかし、男なら、当たって砕けろだ!


 汗が洪水のように溢れてくるのに抵抗せず、思う存分に放出する。

 そうだ、今から戦う敵は、水害獣なんて目じゃないぜ!


 そして、俺は遂に……辿り着いてしまった。

 俺が横で突っ立っていても純岡は反応を示さない。もしかして、無視か? それとも気付いていないだけ? というか、この状況、クリスマスイブの時に似てる……つーかまんまだぞ。

 ヤバイ……もしかして、死亡フラグ?


「…………はぁ」


 純岡がついた溜息にピクッと肩が跳ねる。やべぇ……物凄いヘタレってるよ。

 くそぉ! こんな所でビクビクしていたってしょうがない! 男にはどんなに無謀でもやらねばならない時がある、ような気がする!

 俺は決心した。すると、内側から溢れんばかりの力が込み上げ、そして俺を戦いへといざなう。


 次の瞬間、俺の口は勝手に動いていた。


「おはよう、純岡」


 普通の挨拶。しかし、そこには紳士スキルにより好感が持てるような一つ味が違う甘い吐息のような、スイートな要素が入っている。オプションで、前歯が光るが、それは今回のところは控えた。

 突然の声掛けに純岡が、ハッとしたように勢いよく声の主、まぁ俺の方を向いた。


「日下部? ……おはよう」


 おぉぉ! 挨拶が返ってきたよ! 凄いよ! って感じに妙にテンションが上がる。

 純岡はそれだけ言うと、また顔の向きを戻そうとする。しかし、調子に乗った俺は、それを阻む。


「なぁ純岡、メールの事なんだけどさ」


 あえての速攻を仕掛けた。

 純岡の冷たげなセピア色が、長めの前髪から睨むように覗かせる。


「メールがなに?」


 なんだか鬱陶しいと思うんだよね、あの前髪。そんな事をボンヤリと考えつつ、紳士モードをキープしつつ会話を続行。


「あー気付いてるだろうけど、山下が勝手に純岡のケータイから俺にメールを送ったらしいんだよ。それでさ、これを機会にメアドを登録しちゃっていいかな〜、とね」


「…………はっ?」


 ひぎゅぅ……俺はそんな効果音が聞こえるような感じで、怖気付く。それほどまでに、純岡のあの一言は鋭く、痛かった。

 純岡がケータイを制服のポケットから物凄い勢いで取り出し、目で追えないスピードで操作をし始めた。

 そして、例のメールに辿り着いたのか、わなわなと怒りで震えた。


「も〜〜え〜〜…………」


 どす黒いオーラが純岡の全身から溢れ、教室に立ち込める。急いで周囲の確認をしたが、クラスメイト達は表情を引き攣らせたり、恐怖に怯えていた。なんという純岡パワー!

 何故かは知らないが、クラスメイト達の半数以上が純岡の横に居る俺を見て、手を合わせ、「ご愁傷様です」と唇を動かした。い、いや、今回は俺は一切悪くないって!


 狂人と化した純岡が、教室の後ろ端で空気を読めずに(読まずに)キャイキャイと騒ぐ山下へと、ゆっくりと、しかし着実に近付いて行く。


「もぉぉぉえぇぇぇぇぇ…………」


 ホラー映画顔負けだね。いや〜ハリウッドを超えた。制作費0円の超大作の誕生だ! もう全米が鼻で笑ったね。

 山下以外のクラスメイトたちは空気を読んで、皆、端へと寄る。

 純岡と山下、二人は教室の真ん中で静かに視線をぶつけあった。


「どったのさマイハニ〜〜」


 まだ何時ものペースを崩さない山下。


「萌咲、このメールはなに? ねぇ、一体なんなの!?」


 恐いです純岡。ええ、なんかもう人間を超越してますって。

 そんな最狂生物の威迫を正面から至近距離で受けているというのに、山下は冷や汗一つかかず、のほほんと笑っている。


「あっはっは〜それは、ナナミの真実の想いをフィクションまじえてお送りした長編ラブストーリーの序章部分なのさ!」


 意味が分からないぞ山下。というかさ、もうそろそろ保身に入った方がいいと思うな。うん、このままだと確実に殺されるぞ……。

 暢気な態度に更に顔を般若へと近づける純岡が、拳に力を込め始め、プルプルと震え出した。それは、殺意への我慢のように見えるし、狩りへの歓喜のようにも見える。


「反省する気……無いんだね…………だったら」


 刹那、純岡の姿が消えた。いや、違う! 超高速で山下の懐へと潜り込んだのだ。


「わお! 流石はウチの嫁!」


 懐までやってきた純岡が、肘で必殺の一撃を山下の腹へと沈める。

 そこまで接近されているのにもかかわらず、余裕の笑みを浮かべて、その一撃を山下は受けた。


「でも、ウチはヘタレなヒカベとは違って簡単には倒せないよ!」


 後ろへと飛ばされた山下だが、吹っ飛ぶほどの攻撃を受けたにもかかわらずダメージを受けたようには見えない。ってかこんな状況でも俺を馬鹿にすんじゃねぇ!


「萌咲、バックステップで衝撃を和らげたわね……」


 実際に攻撃を加えた純岡は見ているだけの俺よりも早く、その原因を突き止めた。

 両者、構え直す。ここからが、異種格闘技戦の本番だ。


「ナナミ、いざ尋常に勝負!!」


「臨むところ!!」


 なんでこんなバトルになったんだっけ……。あ、そうか、俺が原因か。まぁいいか。

 最初は怯えていたクラスメイト達は完全にギャラリーとなって、二人に声援を送っている。

 俺はいつの間にか横に立っていた明良や友貴と遠い目で見守った。


「萌咲! よくもあんなメールを!!」


「まさかここまでナナミが喜ぶとは思わなくって……」


「これのどこか喜んでいるように見えるのよっ!?」


「ん〜全部?」


「わかったわ……もう一切の容赦、しないんだからねっ!!」


「えっ!? ちょ、ちょっと、ナナミ!? そんなにマジにならないで、ね?」


「もう遅いっ!!」


「あ、あわわわ、違うのよナナミ! これは、ヒカベがやれって……」


「問答無用っ!!」


 っていう感じに、担任教師、前川先生こと、我らがまっちゃんが訪れるまで激しい戦い……というよりは、純岡の一方的なラッシュが続いた。

 あれだけ攻撃されて生きている山下も、あれだけの攻撃ができる純岡も、人類の規格外だと思ったのは俺だけでは無いはず。

 それにしても、俺が不幸にならない珍しいパターン。ああ、俺、感動……。





 そんな朝の出来事は、まだあの事件が起きる前の話だ。

 そう、事件発覚は、昼休みの事だった。

 何時ものようにそれぞれの弁当を持って、俺の席へとやってきた明良と友貴だったが、弁当を広げると、友貴は俺の机をバンッと強く叩き、雄々しく叫びを上げた。


「今、日本は危機であるっ!!」


 それは、藤崎工業の社長令息としての言葉だろうか? と思ったが、それは違った。


「今は昔、たくさんの魔法使いが闊歩していた時代が既に遠く、幻想のように感じられる。性情報の氾濫により、被害は甚大である。小学生なのに卒業してしまうやからが現れたり、弟を襲っちゃうちょっと大胆な姉の登場もまた、その危機を加速させる!

 しかし、最もここで問題視されるのは、少子化という存在だ!! 子ども作らねば日本の未来は無い! その言葉により、人々はせっせと夜の営みへと興じる!!


 何故分からんのだ!? 俺たちは、魔法使いになれる可能性を持っているというのに、大した考えを持たずに、その神聖なる身を穢すのだ!

 そう、クラスメイトがもう卒業をしていようが関係ないのだ! ずっとその童貞という名の道程を歩み続ければ、人は、人類は、魔法使いへと昇華し、夢へと羽ばたく!!」


「結局は童貞のひがみだな」


 俺は長々と語った友貴の意見を一言で一蹴する。

 明良は、よくわかっていないようで、キョトンとし、どうでもいいと判断したのか、弁当へと箸を伸ばし始めた。


「なっ!? 直輝、その上から的な発言……まさか!?」


 驚愕する友貴に、俺はフッと微笑を浮かべて、答えた。


「ああ、実は、」


「な訳ないよな」


「な訳ないな」


「「はぁ〜〜……」」


 のんびりと弁当を食う明良の横で、俺と友貴は項垂れる。別に俺は、あんまり気にしてはいないがな。


「やっぱさ、チェリーボーイは高校の内に卒業したい」


 友貴がしみじみと言った。なんだか、不憫でならない。

 俺は久し振りの母さんの弁当をおいしく頂きながら、会話を続ける。


「別にそんなに焦らなくてもいいんじゃないか? その内さ、チャンスは来るって」


「いや、そんなのんびり構えてたらきっとやって来ないぞ? 俺たちはな、エロゲやアニメや漫画の主人公じゃないんだ! 勝手にほいほいと女の子がやってきたり、ハーレムだったり、可愛い幼馴染が居たり、ツンデレなクラスメイトが居たり、ロリっ子がクラスにいたり……」


「ツンデレとロリっ子なら居るじゃないか」


 そう言って、本人たちに気付かれないように二人を示した。


「ま、まあ居たな……。それは置いといて、だ! 居ても、フラグが立たねぇだろ?」


「まぁな……。クラスメイトってだけだな。それが、現実だ」


「だろう? だからな、こちらから動かないと、永遠に童貞で、マジで魔法使いデビュー出来ちまう訳さ……」


 悲しそうに俯く友貴だが、やはり不憫でならない。

 ずっと会話に参加していなかった明良が、首を傾げながら尋ねてきた。


「ねぇねぇ、二人はなんの会話をしてるの?」


 無邪気で穢れを知らない純粋な輝きを放つ漆黒の瞳が、友貴を刺す。俺は別にそこまでダメージはないさ。だって、純粋だもんね。


「あ、あぁぁ、もう少し大きくなったらな、うん」


「大きくなったらって、僕は同級生なんだけどな……」


 俺は、寂しそうに箸を銜えながら落ち込む明良が、汚れない事を祈るばかりだ。


「まぁさ、明良……うん、大人になるまで待とうな」


 親父的発言を俺は未来の希望に乗せて発した。そう、どうか明良が友貴色に染まらない事を心から願って……。



 そんな感じに賑やかな食事をしていると、教室が騒ぎ始めた。

 様子の変化を感じ取った友貴が、すぐに状況の確認に走る。


「……なにがあったんだろ」


「ん〜僕は子ども……まだまだ子どもぉ」


 凹んでる明良はスルーして、俺も状況を知りたいので行動を開始しようとした。だが、その必要はすぐになくなるのだった……。

 そう、純岡の一言により。


「誰が瑞希の体操着を盗ったのっ!!」


 これが、今回の事件の始まりであった……。



 犯人は、きっとばれたら……DEADですね!

 あっはっはっはっは……犯人の末路に同情。

お久し振りです。

復活!! と言いたいのですが、残念ながらちょこちょこと書いて、一章分書き終わったので投稿です。

なので、もう少し待っていて下さいな。


ここからは、学校編も水道局編も偏ったり……多分するけど、短く繰り返すような展開で行きます。


次回予告?

果たして、青春時代の悲しき罪を背負った犯人は!?

そして、出番が少ない彼が頑張る……?

(ん〜投稿はいつになるだろう)

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