第六十章 ちょっと両親いってくる
1月4日。今日、帰ってくるらしい。
そう、我が父君と母君が……ってまぁそんな凄い人じゃ……いや、凄いか。
二人はバリバリに働きまくってる。そして、二人ともなんだか色々と出来る。
父さんは、俺に剣術を教えてくれたし、それ以外にも色々な武器を使いこなす。なんで? と思い、聞いたが、
「趣味だ」
という返答だけだった。いや、趣味でハンマーぶん回したり、槍を突き立てたり、斧を振り下ろしたり……そんな事をするのか? もしかして、破壊活動が趣味とか? と勘繰ってみたが、その謎は明らかになっていない。
母さんの方は、料理は達人、礼儀作法は一流と、お嬢様的な感じながらも家事をパーフェクトにこなす化け物だ。
今更の様な気がするが、日下部は、母方の姓である。つまりは、父さんは婿養子だ。そこにどんな事情があるのかは知らないし、他の親戚の人と会う事は稀だ。考えてみると、父さんの親族に一度も会っていない気がする。
色々と問題があった結婚なのかな〜と思ったりするが、両親の仲は良好も良好、熟年ラブラブカップルだ。もうバカップルだ。人前にイチャイチャしたりする訳じゃないけど、見てると仲がいいんだな、と納得できる。
そんな親の元に生まれて俺は幸せだと思ってる。兄さんもきっと同じ気持ちだと思う。
まだ旅に出ていて、ここ一ヶ月は会っていないが、色々と変だけど、尊敬はしている……と思う。
俺の家族はこんな感じに愉快だったりだ。まぁ仕事の都合とかで引っ越しがあるのはちょい勘弁だけれどな。
俺は、そんな懐かしくも思う家族の事を振り返りベットから身体を起こした。
一度大きく伸びをし、すぐに活動を開始する。とりあえずは窓の開放。外は……ん〜曇りだ。
少し気分を落としながらも、リビングへと行く。
ちょちょちょい! と朝食作って、いただきます〜。ああ……一人だな……。
さて、今日帰ってくるのはわかっているのだが、何をしようか。特にやること無いし。
そうか……こういう時に、奴へと挑戦するんだっ!!
朝食の片付けなどを済まし、二階にある自室へと戻りマイパソコンの電源をON!
「ふふふ……勝負と行こうじゃないか、『放課後の学び舎』!!」
そうだ、俺は奴へと挑戦するんだ。今日こそ、一人は攻略してみせるぜ! あの数多のバットエンドを超えた先にある輝くトゥルーエンドへっ!!
パソコンが置かれたデスクの椅子へと腰掛け、俺はゲームを起動した。
俺のマウス捌きが唸るぜ!! キャッホイっ!!
メインヒロインルートに入ったデータの一つをロード。
さぁ……尋常に勝負!!
『あ、ここに居たんですね』
メインヒロイン、空峰静玖の立ち絵が画面中央に出現。ピンクの髪をした美人キャラだ。性格は天然。しかも相当の……。
ゲームをやる時はもちろんフルウィンドウだ!
『ん? 静玖か……』
主人公のボイスは無い。やっぱエロゲだしね。あれ? そういえば、いまだに主人公の名前って不明だな。説明書にも無かったような……どんだけクソだよ。
『ご一緒してもいいですか?』
静玖が主人公(名前〜!!)の横に座ったらしい。やっぱり立ち絵だとさ、色々と分かり辛いのよ。ましてや、このクソゲーでは、ミスなどが多々ある。死んだキャラが勝手に蘇るぐらいだ。もちろん、蘇った描写は一切無し、再登場にに対して主人公の突っ込みも一切無し。
ここで選択肢が出てきた。ほのぼのとした場面の筈、なのに! このゲームは一切の油断がならないのだ。
俺は選択肢をじっくりと見た。
〔もちろん〕←
〔ここにきみの居場所なんて無いよ〕
〔死ね〕
あぁぁぁぁ!! なんだよ、一番上以外鬼畜だ。というか、主人公はどれだけ静玖の事が嫌いなんだよ!?
俺は慎重に選ぶ。このゲームをプレイした結果、まともな選択肢をとっても、意味なんて無い。よくわからないけど、死ぬ。主人公が死ぬ。
さて、どうしようか。俺は…………、もう〔死ね〕で。
選択肢を選んだ。
『死ね』
主人公のボイスが無い所為で、余計に冷たく感じる。
『えっ?』
静玖の立ち絵がキョトンとした顔に変化した。
さぁ、果たして主人公は生き残れるのか!? その時を、固唾を呑んで……ってオートにしてないからクリックしないと。
『だから、死ね』
『ええっ!?』
急に画面が変更された。何!? CGだと?
そのCGはもうネタバレ満載。主人公が死ねって言っていたのは、後ろに立つ変な男だった。
まだキョトンする静玖が端っこに描かれ、主人公とその怪しい男が対峙している。
『ほう、よく気付いたな、天野宮の弟子よ!』
怪しい男が言った。サブキャラなのかボイスは無い。
天野宮って誰!? 今初めて出てきたぞ! おい! ちゃんと説明しろよ。そんなプレーヤー(俺)を無視して、物語は進行していく。
危機感を煽るBGMが流れる。しかし、何故かファミコン音源だ。
『バレウ=ミラ=モールよ、闇の眷属たる貴様がなんのようだ!!』
あれ? 主人公さんどうやら怪しい男を知ってるみたいだ。俺は知らないぞ。
というか、『放課後の学び舎』ってタイトル無視しまくりだな。もう電波的だ。
その後、勝手に戦闘して、主人公が勝利した。というか、主人公が滅茶苦茶強い。今までのバッドエンドってその力で防げたような……。まぁ細かい事を気にしたら負けだな。
とりあえずは一区切りを付け、一度セーブ。そして、さっきの選択肢のところに再ロード。
今度は〔もちろん〕を選んでみた。
『もちろん』
主人公がそう答えると、あれ? またCGだ。
…………ってあれ!? なんでそこでHシーン始まるの!? 考えてみればこのゲーム初の遭遇だぞ。
エロシーンのCGのクオリティは尋常じゃないほど高かった。やっぱエロゲですから、ってそこだけよくてもシナリオがクソだからここまでプレイする奴いねぇよ!
というか、さっきの後ろに潜んでいた怪しい男はどうしたよ!? あいつの目の前で何をいちゃついてんだ主人公! それにいつの間にフラグ立てたんだよ!?
ああ! もう! 突っ込みを入れるポイントが多過ぎる……。
Hシーンのテキストをサラサラと流して行く。エロボイスが俺の部屋へと響き渡る。
不毛だ。不憫だ。やべぇ欝だ。
一人だけしかいない家で、エロゲはキツい。何がキツいって、それは……心が空虚になるのさ。なんか失恋をした時のようなさ……まぁいいや、とりあえずダメだ。
まだ続いてるよ。無駄に濃厚だよ。さっさと終われって。
ってあれ!? 静玖が全裸になって挿れますよってタイミングで、バレウさん登場したよ!
それで容赦なく剣を振り下ろしたよ。
画面が真っ赤だ。
そして、BAD ENDという表示がでかでかと、画面中央に黒い画面をバックに赤文字で血が滴るように表示された。どこまでやる気をそぐ気だ。
……そういえば、あそこって学校の中庭だよな。それに時間設定は昼休みだった筈。おいおい、主人公よ、いくらなんでもそんな所で、そんなタイミングでやんなよ。どこまで鬼畜なんだよ。静玖をどこまでも辱めるなんて人として終わってる。
ああ……もうやる気が無くなった。
ゲームを終了させ。俺はぐったりと椅子へともたれ掛かる。あのタイミングでバレウさん登場は予想外だ。きっと自慰行為へと勤しむプレーヤーをビックリさせる……制作会社がもう鬼畜だ。
俺はまぁ……ゲームとか、そもそも二次元でその興奮する気持ちはあんまわからんから、手が伸びることはないけどね。
さて、何をしようか……。僅かに逡巡を脳内に巡らせた。
あ、そうだよ! 水無瀬さんの家に行ってみないとな。と、すぐに行動は決まった。
俺が立ち上がり、衣服が仕舞ったあるタンスの取っ手を掴んだその時、玄関を開く音がした。そして、すぐに二つの声が聞こえてきた。
「ただいまー」
「今、帰った」
母さんと、父さんだ。なんてナイスなタイミングなんでしょうか。
仕方なく水無瀬さんの事は後回しにし、俺は懐かしの両親とお話をすることにした。
一階へと下りて行き、リビングに出る。まだ、玄関から物音が聞こえる事から、色々と荷物があって玄関にまだ居るのだろう、と思った。
リビングで待つのではなく、玄関まで行く事にする。
「母さん、父さん、お帰りなさい」
玄関にはもちろん俺の両親がちゃんと居た。たくさん荷物を外と内との境界の段差を越えさせ、重ねていく。
「あら? 直輝、居たのね、ただいま。すぐに反応してくれればよかったのに。玄関の鍵が開けっ放しだから不安になっちゃったじゃない」
先に反応をしたのは母さんだ。長い事会っていないことへは触れなかったが、どこか安堵した顔をしたので、やっぱり心配していてくれていたのだ。
母さんの名前は、夏輝という。多分俺の名前や兄さんの名前は母さんかからだと思う。
「直輝、母さんの荷物を運んでやれ」
後から反応した父さんは、実に冷たい。でも、これが通常なのだ。厳格で寡黙な、昭和の父親像のような人だ。
俺は父さんに言われた通り、母さんが持つ荷物を受け取り、運び入れる。
開人、それが父さんの名前だ。なんかやけに格好良い。それに、アニメの主人公ぽくて堅苦しい父さんには似合わない。
仕事帰りの二人、似たような黒いスーツをビシッと着こなしていた。
母さんは長めの黒髪を編むようにして一本に纏めていた。黒の瞳はいつも優しげな見守る光を放っている。身長は低めで、顔もそれ相応に幼げ。もう40歳になる筈だが、20代に見えるという、恐ろしい母だ。
父さんも黒髪の黒に瞳で、髪は少し短めに整えられる。周囲を威圧するような雰囲気を持つが、意外に茶目っ気があったりする不思議な父だ。変な事を教えられ、俺は恥をかいた経験が何度かある。父さんは父さんで、若作りだ。化け物だ。やはり、40歳に行く筈なのだが、25、26ぐらいに見える。
是非とも二人の血を色濃く継ぎ、若い見た目をいつまでもキープしたいものだ。
そんな思いを抱きつつ、俺は荷物を運びを手伝った。
リビングで家族の団欒(兄さんは居ないが……)をし、ちんぷんかんぷんな仕事の話をされたり、聞かれたので仕方なくこっちも学校での話なんかもした。
そんな感じに日常を送る。
やっぱり不思議な気分だ。ポケットには、ディスなんとかという現実を蝕む物を持っている。だから、混ざり合うのだ、日常と非日常が。
その後、両親が珍しく余り仕事が無いようで、冬休み中は結構家にいた。
俺は冬休みの宿題に手をつけていないことを思い出し、せっせとやったりした。
後は水無瀬さんに謝りに行ってみたり、友貴と明良とワイワイやったり、そんな風に過ごした。
割と問題なく、冬休みは終わった気がする。あったと言えば、日曜日に水道局へ行ってやったら、意味の分からないテストをやらされた事ぐらいだろうか……。まぁいいや。
とりあえずは、明日から久し振りの学校。ディスなんとかがお呼び出しをしない事を祈って日々を送ろう。
この時、自分の過ごす日常が少しでも普通だと思っていた俺だが、そんなものはとうの昔に無くなっていて、それをを知るのはもう少し後の事だった。
俺は、どうなって行くのだろう…………。
はい、ずっと出てこなかった(微妙には出てたけど)両親のご登場です。会話が少ないのは、今一、キャラが決まって……いえ、なんでもないです。
さて、冬休み終わりです。でも、リアルタイムでは五月ですね。物凄いずれです。困ります。
そういえば、最近は更新が遅くなって申し訳ないです。他の作品で毎日投稿してあるやつは、最後まで書き終わってるために、投稿できるだけで、別にサボっている訳じゃないです。
すみません、言い訳ですね。
次回予告?
学校の三学期開始! 校長が騒いだり、友貴が騒いだり、皆が騒いだり……。
そして、冬休みに出番が無かった彼女が不幸な目に!
(どれだけ苛めたいんですかね……)