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第五章 ちょっと学校いってくる

「ちょーーっと色々あって遅れましたぁ!!」


 自分の教室、1-Bのドアを勢いよく開きそのまま勢いを乗せ叫んだ。

 教室からの返事は沈黙だった……。愛すべきクラスメイト達はなんだか冷ややかな目を向けてくる。担任教師、前川…通称まっちゃんもまた冷たい視線を俺に向けていた。


「えっ……あえ……へ?」


 全力で戸惑う俺。

 その息をするのも忘れてしまうような緊張感が教室を包んでいた中で、クラスメイトの一人がクスッと笑みを零す。

 すると、それを始まりにクラスメイトほぼ全員が笑い出した。


「……へっ?」


 笑いに包まれた教室で俺だけが拍子抜けした顔で呆然とした。

 その呆然とする俺に向かって我らが担任、まっちゃんが声を掛ける。


「驚かせてすまんな。ちょうどお前の話をしていてな」


 半分呆けた顔で俺は聞き返した。


「俺の話……?」


「いや、まあ……あはは……気にするな」


 出席簿で俺の頭を軽く叩き、あはははと棒読みの笑いを発しながらまっちゃんは教室から去っていった。


「いやいや……気にするって」


 状況を把握できない俺はただ混乱した。




 朝の出来事を簡単に纏めるとこうなる。

 ホームルームでなぜか俺の話題になった。そんでもってその話をしていて、ちょうど教室に入ってきたら笑えるよね、という話をしていた所で俺の登場。出来過ぎている感を感じ、皆は最初、こいつタイミング見計らってたんじゃ……、という深読みをして冷ややかな視線をぶつけてきたらしい。だが教室が沈黙する中、一人一人がそれぞれに、でもまぁ馬鹿な直輝がそんなことしないか、という結論にたっし笑いが巻き起きたらしい……。

 正直、最後は余計だ。


「まぁ噂をすればなんとやらってわけさ」


 自分の机で突っ伏す、微妙に気分が沈んだ俺に友貴が言った。


「んでさ、どんな話をしてたのさ」


「ん〜? まぁガキのお前が入る話じゃないさ。なぁ明良」


 友貴の隣りでボォーっと突っ立っていた明良が、意識を現実へと引き戻し答えた。


「あ、うん。そうだね……。まだまだ子どもの直輝くんには早いよ」


「いや、お前ら二人も高校生だろうに」


「知らなかったのか? 実はな俺、五年の浪人人生を乗り越え入学したんだぞ? だから二十歳はたちだ」


 どうも友貴が言うと冗談に聞こえない。別にオッサンぽい顔をしている訳ではないが、成績があれだし……。それに、オッサンぽくなる時もある。でもまぁ中学からの友達な訳で、そんなことは無い……はず。


「おいおい! そんな目で見るなよ! 俺はピチピチの高校一年生だ!」


「ピチピチって……お前、それ死語じゃないか?」


「いや〜時は流れるもんだね〜。じーさんは若者文化についていけないね〜」


 友貴は腰を曲げてノンビリとした年寄りの口調で喋った。


「二十歳にしてはお年寄り過ぎる喋り方だね」


 天然なのか鋭い突っ込みなのかはわからない明良だった。二人とも良い奴らだが、やっぱり癖が強すぎるような……。

 そんな事を考えながら友貴と明良のやり取りを見ていると、授業開始を告げる古臭いチャイムの音が鳴った。




 一時限目は数学。数学と書いて睡眠と読むのが正しい。いや、うちの学校だけか? つーか俺だけか? まぁそんなのはどうでもいいこと。

 教科書はとりあえず机に出しといて、俺は教室の窓側の隅の席という寝るのにベストな位置という事で、お言葉に甘え存分に寝る。


 俺の成績は中の上ぐらいだ。寝ている教科は、数学以外は、え〜っと…体育とか実習系の授業以外は寝てるか……。

 それでこの成績だ。俺って優秀〜。

 そういえばある日、教師達が嘆いていたっけ……。


『お前はやれば出来るやつなんだがな』


 どこかで聞いた事があるような言葉をマジな顔で言われた。そんな顔するなよ照れるじゃないか〜。って茶化したしたけど、あれはやっぱりマジだったんだろうな。

 一度だけ、確か一学期の期末試験は本腰を入れて、という訳ではないが少し準備をして臨んだら……意外や意外、学年トップテンに入ってしまった。


 カンニングだと疑われたりしたが、その容疑が晴れると先生方は態度を一変して、


『これからもこの調子で頑張れよ!』


 と期待の眼差しを向けてきた。正直に言うとうざったい。そう思ったから、二学期は特になんの努力もしなかった。

 そこで、お前はやれば出来る子コールがきた訳だ。やってもうざい、やらんでもうざい。困ったもんだ。

 数学教師が必死になって説明する公式の話を子守歌に寝ようと思った。

 だが、そんな俺の頭の中に今朝の想像がぎる。


 水害獣とかいう謎の生物に何かをされて俺の体は何か異常をきたしている。不自然なほどに痩せこけた顔、おさまらない食欲。

 そういえば……、クラスの連中は誰も俺の顔に突っ込みを入れなかった。もしかしてファンタジー特有の本人しか見えません、感じません、とかいう展開じゃないだろうな?

 うおっ……笑えない。

 自慢の特技、正確な腹時計が狂うじゃないか。分刻みのカウントは自慢だったのに……。ってそんな小さな事をクヨクヨと悩んでいる場合じゃない。

 最終的な死の訪れを恐れるべきだ。


 この異常の正体は、水道局に行けばわかるのだろうか?

 もし、そうなら……俺はすぐにでも行きたい。

 だけどアズハは日にちと時間を指定したぐらいだ。きっとそれ以外の時間だと門前払いされてしまうのだろうな。

 ……はぁ〜。困ったもんだ。


 憂鬱な気分を晴らしたい。思いっきり運動とかしたいかも。

 あ〜今日は体育あったっけ? ……ねぇか。


 俺の絶望と同時に古臭いチャイムがもう一度鳴り響き、授業終了を告げるのだった。




 二時限目の現国と三時限目の世界史は夢の世界で聞き、なんとか獰猛なまでの空腹感を押さえた。寝れば大抵は忘れられるというのは本当らしい。誰だろうか、そんな素晴らしいことに最初に気付いたのは。俺は顔も知らないその人を猛烈に尊敬した。


 だが、問題は四時限目なのだ。家庭科の授業で調理実習をやるらしい。簡単なものを作るらしいのだが、そんな難易度の問題はどうでもいい……。

 寝れないじゃないか!

 問題はそこだ。

 昨日の睡眠はノンレム君との出会いがなかった所為か、どうにも疲れが取れなかった。だから、午前中一杯は寝て過ごそうと思っていたのに。もちろん空腹感を押さえるのも寝たい理由の一つだ。

 さて、どうするか……。


 とかいう思考を繰り広げる俺の前にはすでに材料が並べられていて、家庭科教師の説明が始まっていた。

 ほとんど聞いていなかったが、作るものはわかった。どうやらサバの味噌煮を作るらしい。

 それさえわかればこっちのもんだ。

 俺は寝る時間を確保する為、料理に全力で取り組んだ。



 結果から言ってしまえば十分程で作り終わった。

 そんでもって寝た……。

 あーよかった。料理のスキルがあって。

 男の俺に料理を教えてくれた母に感謝、感謝だ。


 なんだか学校生活を普通に送れている自分が居て、不思議な気分になった。昨日、あんな非日常を体験したのに、日常は崩れない。それは嬉しい限りだ。

 水害獣との出会いで、自分の世界というのがすべて粉々に砕け散った気がしたのが、それは勘違いだったようだ。

 異世界の存在を知ろうが、トイレから人が現れようが……俺の世界は確かに存在した。


 水害獣と戦わなくてはいけない、という誰かに植え付けられたような幻想が俺を支配していたが、それはいつの間にかに消えていた。


 その幻想が消えるのと同時に、激しい空腹感が和らぐのを感じた…………。

これが、またのびてしまった…。学校での話は一章だけで終わりにしようと思ったのだが……何故でしょう?

そうか……。自分に文章を構成する能力が足らないから……。

ということで、次回も学校の話です。

いい加減、この作品の(たぶん)メインとなる水道局についてを書きたいのですが……ん〜。

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