第五十五章 ちょっと新年の挨拶いってくる
日差しが顔を照らし、それにより俺は目覚めた。どうやら、カーテンを開きっ放しだったようだ。
「んあぁーあっと……昨日は水害獣が来なくてよかった、よかった」
朝一でまだ硬い関節をほぐすストレッチをしながら、ぼそぼそと呟く。
今日の目覚めはどうやら、俺が最後のようだ。二人の姿は部屋には無かった。時計を確認すると、9時を回っていて、大分遅い起床だと理解する。
まぁ何はともあれ、今日は1月2日。アズハの話だと、午前中一杯はここで待機し、午後には帰れるらしい。
「んーやっと帰れるよ」
昨日は平和だったし、今日の午前中も平和であってくれると嬉しいものだ。
「今日ものんびり療養すっかな〜」
止めの伸びをし、俺は立ち上がった。もう歩いたりするのには問題無い。
テーブルの上を確認すると、ラップが掛けられた朝食が置いてあった。二人が、起きる気配が無い俺に気を使ってくれたのかな?
「ま、いただきますっ!」
そのまますぐに朝食を平らげ、片付けを終えると、暇になった。
二人は戻ってこない。
一人でやる事といっても……ん〜。
現代っ子を見習い、ケータイをいじる! って……そういえば、あけおめメールの確認ってしたっけ? 送られてきた時は騒いでて確認してないだろう。昨日一日はなんだかボンヤリとして、多分チェックしてない。
「不味いじゃんっ!」
来年は送ってもらえないよっ! ……でも、友達ってそんなに俺って居ないような。というか居ない。
こっちに引っ越してきて、中学の事件を引き摺ってたから……そんな友好関係を築かなかったんだよなぁ……。
まぁ凹んでいてもしょうがない。とりあえず見てみよう。
「ってい!」
ケータイを操作して受信ボックスを開く。
「おぉぉっ! 意外にきてる!」
驚いた事に結構着ていた。なんか登録して無い人からも着てたのは気になるけど……とりあえず、予想よりはあった。
一番最初に入ってるのは…………なっ!? 兄さん!!
〔あけましておめでとう。
兄も流石に泣けてきました。弟にここまで嫌われているとは……。
だから、兄さんは旅に出ます。
そして、次こそは心を開いてもらえるよう一段と成長して帰ってきます。
また会う日まで、弟に幸あらんことを祈る。〕
……ごめん兄さん。玄関の鍵を開けてあげられなくって。でも、心は一生開かないからね…。というか、また旅に出るの? 兄さん…とりあえず命だけは落とさないようにね。
あれ? またスクロールするぞ。
〔
ワスレルナ〕
だから恐いって兄さん!! 何を忘れちゃいけないんだよ!?
とりあえずだ。兄さんのメールは深く考えず、スルーだ。それにしても、また0時ジャストに受信してるよ。恐るべし……兄さん。
さて次は……友貴か。
〔あけおめだぁぁぁぁぁぁっ!!
さぁ、新時代への扉を開くのは俺たちだ!
共に進もうではないか、諸君。
我々の辿り着く先には無限の輝きが待っているような気がする!〕
最後は余計だな。まぁ友貴らしい。
それにしても、この文章は意味が分からんな。一斉送信されてるみたいだから、皆首を傾げているに違いない。
んーと次は…………山下。
〔ヘイヘイ! あけおめっとさん!!
夕日に向かってテンション上げ上げで行こうぜ!
レールガン並みのスピードで今年は頑張るんでよろしくっ!!〕
案外普通だった。でも、なんで一斉送信ではなく、俺のに着てるのは個別なんだ。いや、俺以外の人も個別かもしれないけど、このメールのどこら辺が俺専用の内容なんだ?
んーよくわからん。
まぁ次はっと……明良か。
〔あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。〕
シンプルだな。
特に突っ込みを入れる要素は無いな。
んじゃあ次はっと、水無瀬さんか。
〔あけましておめでとうっ!
皆さん、今年もよろしくお願いしますね。〕
んーこれまたシンプル。リアクションに困る。でも、水無瀬さんだから許しちゃう!
やべぇ……自分で言ってキモい。
はいはいっと次は、荒内さんか。あれ? メアド教えたっけ?
〔あけましておめでとうございます。
貴方の事をずっと見てました。
なのに、どうして私の事、見てくれないんですか?
ねぇ? なんで? どうして?
あの子が好きなの?
ねぇ! そうなんでしょう!?
なら、殺しちゃうよ……。
そうすれば……ね?
私を見てくれるでしょう?
好きなのに。
こんなにも好きなのに。
もっと言って欲しいなら幾らでも言うよ?
好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。〕
……こえぇぇぇぇぇぇ!!! マジで恐いんですけど。どこまで書いてあるの? というか荒内さん、キャラ変わってない? つーかヤンデレ!?
うわわ…どこまで続くの?
〔好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。
好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです
好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです
好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。
好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。
代筆、山下萌咲〕
て、てめぇぇぇかぁぁぁぁっ!!!!
山下め。やってくれる。随分と手の込んだ嫌がらせじゃないか。正直、ヤンデレでも荒内さんならいいかな、と思ってたのに…期待させんじゃねぇ!
……はぁ……じゃあ気を取り直して、次は…………水科校長?
〔あけましておめでとう。
日下部くんはちょんと宿題をやっているかな?
三学期もたくさんイベントを考えているから、期待していいからね。
何故メールアドレスを知っているのか…それはね、権力だよ。〕
校長先生ーーーー!! ダメだよ、職権濫用だよぉぉっ!!
なんだか、あの学校のモラルというか、色々と不安になってきた。
こっちのが兄さんのメールより現実的で恐い。だから、忘れよう。いざ、忘却の彼方へ。
では、次に行ってみようか。えーと……んん? 純岡!? メアド教えたっけ? そもそも……教えたって送って来るはずがないだろう!
〔あ、あけまして……おめでとう。
べ、別に、萌咲に送れって言われたから仕方なくなんだからねっ!
勘違いしないでよね! フンッだ。〕
メールなのに文章がツンデレだ。というか、いつ……デレフラグ立てたっけ俺……。
まぁいい、続きを読もう。
〔だからっ! 調子に…その、調子に乗るなっ!
もうメールなんて金輪際しないんだから……。
あっ……で、でも、返信してくれたら、返さない事もないから。
無理に返さなくってもいいよ。あたしの事、嫌いだと思うから……。〕
な、なんだ!? この焦燥は、何を俺は焦っているんだ?
〔あのさ、日下部はあたしの事……嫌いかもしれないけど……〕
ヤ、ヤバイ……にやけてしまう。なんだか、純岡がデレるって最高! キャッホイ!
…
〔どれだけ…嫌われても……あたしは、その……好き、だから。
勝手だけど……他の人に言わないでねっ。
言ったら、パンチだからね!
それじゃあ……さよなら。〕
……? さよなら? え? さよなら?
どういう事? ねぇ…普…通は、またね、だろう? なんでそこだけ、微妙に拒絶が入ってるの?
あ……スクロールできる。結構下まで行くな…………。
〔
もう……生きていく気力が無くなっちゃったの。
最後だから、日下部言うね。
あたし、病気なんだ……。〕
急展開。ちょ……笑えない。って冗談とか言ってる場合じゃないな……。
続きを……。
〔病院にも匙投げられて……。
余命、半年って言われたの。
だから、悔いが残らないようにって、学校へ通った。
そう……大好きな日下部が居たから……。
すぐに想いを伝えたかった……。でも、あはは……素直になれなかった。〕
なんだこれ……目から汗が…………。
ケータイ! 勝手に震えるんじゃねぇ……あ、違う……俺の手が震えてんだ。
〔好きでした。大好きでした。
でも、日下部は……大切な人が居るみたいだから……。
あたしが入れる余地なんて無さそうだから……。
だから、さよならです。
こんな形だけど、気持ちを伝えられたから、満足です。
日下部が幸せならあたしも幸せだから……。
薬呑んでも……もう限界みたいだから…………。〕
おいおいおい……やべぇぞ全身が震えてる。あぁ、涙がうざってぇ! 鼻水も少し我慢しろよ…。
〔さようなら〕
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
もう体が元気なら暴れ狂いたい。でも、恨めしい……どうしてまともに地団駄も踏ませてくれねぇんだよっ!! 畜生っ!!
ボロボロになりながら、純岡のメールがまだ続きがある事に気付いた。まだ……スクロールする。もしかしたら……考え直したかもしれない!
食い入るようにケータイの画面を見詰めた。
〔
この物語はフィクションです。登場する個人名以外はすべて嘘っぱちです。 by山下萌咲〕
……………………ふっ。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
全力で釣られた。完全に釣られた。
くそぉ……だって、病気持ちの純岡でもOKだったのに……って俺ってかなりの女ったらしだな。結局は、誰でも良いのか俺!?
ってんなことはいい!
「山下のばっきゃろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
うぅぅ……ぐす……うぁぁ……ぐすん…………。
とりあえず悔しくて泣いた。情けなくて泣いた。山下のセンスに泣いた。俺自身の単純さに泣いた。
もう泣きまくった。
今日は厄日だ。そう思うのだった。
なんだろう……物凄い疲れた。もうヤダ。
山下が恐いよぉ…皆が恐いよぉ……人間って恐いよぉ……。そんな感じに、ちょっと人間不信になり、変なトラウマが出来た。
この章は、全力で遊び切りました。というか、山下無双的な感じです。
本編での山下のメールの意味がわかりましたか?
わかった人が居たら、登場キャラによる濡れ場シーン……いえ、冗談です。キャラを汚すのは脳内だけに。(え?)
無駄を省くと行っておいて、どうしましょう……。なんだか、ストーリーの進行が果てしなく遅いです。
ですが、完結させますともっ!
そういえば、勘違いをさせてはいけないので言いますが、直輝の性格は私の性格ではありませんよ。ええ、変態なんかじゃないんだからっ!
なんですかその……憐憫の眼差しは……。本当ですって。
女にはあそこまで男の正直な気持ちが書けないって? それはナンセンスです。成せば成る、と思いますよ。
次回予告?
「異界は常に現実世界を蝕もうと……」
「いえ、オタク文化は今にも現代人を……のが正しいですよ?」
そんな感じに次回は展開する……?
(次回予告になってないとか言っちゃらめぇぇ!)