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第五十四章 ちょっと忘却いってくる

 チュンチュンチュンと鳥の囀りが心地良く……。いや、体はまだ本調子じゃない。

 あぁ……何時だ? 結局昨日は……というより、今日は馬鹿騒ぎして、2時ぐらいに寝たんだよな。

 まだ他の二人はソファで気持ちよさそうに寝息を立てていた。

 可愛いなぁ……と眺める自分が段々とオッサンに思えてきて、自己嫌悪へと陥りそうなので、すぐに目を背けた。


「あぁ……水害獣が来なくてよかった〜」


 大きく伸びをし、襲撃が無かった事を素直に喜んでおく。

 さて、これから明日まで来なければもう小躍りしちゃうんだけどな。一月二日まで、と一応は期間の指定はされている訳だしな。


「んあーあ……」


 欠伸あくびをし、俺は立ち上がって、玄関へと向かって歩く。そのまま、靴を履き、外へと出た。


 外は、まだ日が昇りきらず、山の向こうから輝きだけが確認できる。

 相変わらず駐屯地はボロボロになっているが、多少は整備されたらしく、地面の凸凹が減っている気がする。

 軍人さんも本当に大変だなぁ。

 なんとなく、舞台の裏側を知るような心境で、裏方の大変さと頑張りを理解し、一歩大人へと近付けた気がする。


 もう外には人が忙しく駆け回っていた。何をそんな焦っているのかは、俺にはよくわからないが、恐らくは世界の命運が掛かっている事なのだろうと思う。

 そう思うと、自分は世界を守る戦いの最前線に居るのだな、と実感が湧いてきた。


「うぉぉ……なんか責任を感じる〜」


 真剣に考えては居なかったが、『ダイバー』が全滅すれば、世界は滅びる訳だ。ん? いや、そこまでは単純ではないか。

 まぁ何にしろ、俺はもう国にとって必要な人間なんだろうな。


「あっ、直輝さん、やっぱり外に居たんですね」


 後ろからアズハの声が聞こえてきた。

 すぐに振り返り確認すると、当然のごとく、アズハの姿があった。寝起きの所為か、表情がポヤーっとしている。ん〜いつもは表情を引き締めてる感があるから、この無防備な感じ…………って俺は何を考えているんだっ!


「おはようございます」


 俺の思考はなんとか読まれなかったようだ。普通に挨拶をしてきた。

 何故かは知らんけど、俺だけに対しての読心術を皆が会得しているから困る。


「あ、おはようございます」


 笑顔で答える。スマイルは重要さ。たとえ、0円の安売りをされても、価値は落ちないのである。つーか当たり前。本気で店で笑顔を求めてやってきたら、それはもう末期か、バイトの子目当てかのどっちかだ。


「ぐっすり眠っちゃいました」


 おどけたようにアズハは言った。

 でも、それは今に限っては本当に安らぎの言葉である。


「俺もですよ」


 だから、俺もそれを共に素直に喜ぶのだ。


「って直輝さん、たとえサイレンが鳴っても、行かせませんからね!」


 おっと…そう捉えたか。どうやら、俺がまた無茶をすると思っているようだ。流石に、自分の体だ。どれだけ酷いかなんてわかっているさ。


「大丈夫ですよ。美女二人との生活を楽しまずに死んでたまるもんですか」


「も、もう! ふざけないで下さいっ! 本気で言ってるんですからね!」


「ええ、俺も本気ですとも」


「だからー……うぅぅぅ」


 はいはい。ご馳走様です。赤い顔して俺に迫ってきて、上目遣いなんて……あぁたまりません。って最近俺……なんか完全に変態になってないか?

 まだ怒るアズハをなんとか宥めようと奮闘していると、司令室から、またもや寝起きでポヤーっとした美影ちゃんが登場した。


「アズハ、直輝さん……おはようございますー」


「おはよう、美影ちゃん」


「おはよう……じゃなくてですね! 直輝さん、無視しないで下さい! 真剣に言ってるんですから!」


 俺の軽やかなスルーにアズハが憤慨し、語気を強める。

 美影ちゃんは寝惚けているので、状況を理解出来ず、目をパチクリとさせていた。


「えっとわかってますよ。妻の帰りを待つのが夫の務め!」


「あぁ……直輝さん、普通は、夫の帰りを……じゃなくて! ちゃんと私の話を聞いて下さい!」


 なんだかアズハって人間が分かって来た気がする。ドジッ子で、世話好きで、色々と一人で背負っちゃったりして、からかいがいがある。そんでもって、なんだかいつも自分自身に緊張感を持たせようと気張るけど、空回りって感じだな。

 あは、なんだよその萌えキャラ。


「直輝さん! なにをそんなにのほほんとしてるんですか! あわ……なんで急に撫でて来るんですか!?」


「いや〜可愛いくて……ついね」


 ヤバイ……オッサン発言だ。

 美影ちゃんを見ると、なんだか汚物を見る目で、俺を見てる。って何時の間に完全に目覚めたんだ!?

 アズハは、更に喚いている。どうやら、褒めてもお世辞としかとらないタイプ。んー攻略への糸口…………って俺の思考が、エロゲーチックになってる。


 あれ? 待てよ……。

 アズハの声が、響き渡り。

 そして、美影ちゃんが恐い顔。


「なんだ……俺、なんか忘れてる…………」


「もう、だから! 直輝……さん? どうしたんですか? いきなりボーっとして」


 ずっと怒り続けていたアズハが、俺がおどけるのを止め、真剣な顔で思案するのを見て、困惑しだした。

 美影ちゃんはなんだか複雑な顔で俺へと視線をよこす。


「ッッ!!」


 急に頭痛が襲ってきた。なんだよこの、マインドコントロール的な、または催眠術……とりあえず、俺は何かを忘れている。それは確かだ。


「だ、大丈夫ですか!?」


 アズハが頭を押さえ、苦しむ俺に更に近付く。心配そうに顔を覗き込んでくるが、何故か逆に痛みが増した。

 ぬぉぉ……美少女を見ると苦しみが増す謎の病めぇぇ!! アズハの心配そうに見詰める顔を堪能できてないじゃないか! じゃなくて、なんで痛みが増長するんだ!?


 …………一瞬、頭が真っ白になった。

 そして、ある情景が脳内で、ビデオテープのように再生される。


 浴場のような場所。

 俺は痛みに堪え、歩いて行く。

 美影ちゃんのが声が、響いた。

 アズハの声。

 アズハの……………………………………裸体。


「思い出したぁぁぁっ!!!!」


 そうだよ、違和感はこれだ。うん、そうなんだ。ずっと2時に起きたつもりが、5時になっていたのは、その間に風呂に行ってたから。

 そして……アズハが居て、えっと……見ちゃって……どうなったんだっけ?


「ルーメイ……」


 そう、その時は倒れる俺を起こすように美影ちゃんに頼んだら、今みたく何故かルーメイを呼んで…………あれ?

 俺は美影ちゃんの方を見た。アズハも動揺を示しながら、美影ちゃんを見る。


「美影ちゃん……?」


 手に……レイピアがあった。それも、記憶にあるぞ。

 恐い顔をして、俺へと近付いて来る。


「直輝さんだから……緩くしておきましたが、今度は全力で行きます。大丈夫です。痛みは無いですよ。あっても、忘れられますから……」


 抑揚の無い平坦な声。俺はゾッとした。


「美影……?」


 アズハも要領を得ず、戸惑いを浮かべていた。だけど、少し……何かを理解している様子で、次に行う美影ちゃんの行動に対しての混乱だと、見て取れた。

 俺はその変異体をも凌駕する無言の恫喝に、身動き一つ出来なくなった。

 レイピアの間合いに俺を捉えた美影ちゃんは、怒りを押し殺した清冷せいれいなる心と体で、


「エッチなのは嫌いです!」


 とエロい俺……じゃなくて、エロい人間を全否定する言葉と共に、レイピアを突き出した。すぐ眼前に迫ったそれに身震いするも、美影ちゃんを信じて、行動には出ない。実際は、まだあの威迫に当てられて、自由に動けない。

 すると、奇妙な感覚が襲ってきて、脳の働きを阻害し、指示通りに動かなくなる。その気持ち悪い感じの中、浴場の記憶がフラッシュバックした。いや……させられた。


「もう……完全に、消しますっ!!」


 プツンと、途切れた。何かが切れた。

 急に頭の中に入っていたものが消えた。そんな感じだ。


「何をしたの……? 美影ちゃん……」


「ごめんなさい!!」


 その美影ちゃんの悲痛な叫びを最後に…俺の意識は途切れた。最後見た光景は、振り下ろされるレイピアだったと思う…………。



 それから、俺はどうも記憶の欠落を抱いたものの、勘違いという事で片付け、平和に暮らしている。その記憶がなんだったのかは気になるが、もう最初からその記憶なんて無かったように思えるので、どうでもよくなった。

 そうだよ。物忘れなんてよくある事だよね…………。

更新が遅くなると言っておいて、一日に連続投稿です。

なんだか、一人称書けない病は直りました。でも、三人称書けない病にかかりました。


さて、補足説明ですが、本編での直輝は美影のなんらかの力により、浴場での記憶を完全に消去されています。正確には、知覚できないレベルまで記憶を薄くされています。

何故消せないのか? それは、直輝のエロティックパワーが成せる業です。いえ、冗談です。


さて、この章は本来なら長かったのですが、二分割しました。でも投稿は明日にします。修正が必要なので……。


次回予告?

恐怖、虚言、真実、平常、普通、豹変、権力、素直…………直輝は何通もの刺客に襲われる。

果たして、その衝撃に耐えられるのか!?

(格好良いかな? でも、この次回予告は真実です……とでも言うと思いました?)

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