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第五十二章 ちょっと惨劇の浴場いってくる

 予想通り、友貴からのメールは着ていた。

 作戦指令室は激しい戦闘により打っ壊され、今は代わりの移住キャンプで傷の療養中だ。後は安静にしてれば治る、と軍医さんが言ったので、その通り大人しく現代っ子な感じにケータイをいじってる。


 時刻は14時12分。正しい筈だ。俺のケータイが嘘をついていなければ。

 とりあえずだ。友貴からのメールを確認しよう。


〔明日の夕食時にお前の家を襲撃するっ!!

 つまりは、遊ぼうではないか!〕


 という内容のメールが、30日に入っている。当然のごとく俺は返信してないので、31日の……まぁ今日の朝に、


〔そうか……無視とはいい度胸だ!

 明良を誘って突撃隣の晩御飯をやるからよろしく☆〕


 だとさ……。まだ今日の夕食には時間があるので、適当に無理だってメールを返しておいた。

 これで、友貴の方は大丈夫なはずだ。家には両親とも多分、局長の手により出張に出させられているだろうし。


 そこでもう一つの問題が出てきたのだ。

 両親がらず、俺もここに居る訳で、この兄さんからのメールな訳だ。


〔年越しは大好きな弟としようと思ったのだが、鍵が開いていない。

 弟よ、兄は決して浮気などしていない……だからこの弟の心のように硬く閉ざされた扉を開けてくれたもう〕


 ごめん……兄さん。このメール無視していいかな? ってしたいんだけど、家の前で俺が現れるのを健気に待っている兄さんを想像すると胸が痛い。

 ……ん? このメール、スクロールするぞ。

 あれ? 文字が無いな。どこまで改行が続くんだ? え……? これって…………、




 キヲツケロ〕


 恐いよ兄さんっ!! 何この改行しまくった後の一言!?

 俺は恐くなって兄さんのメールを無視することにした。


 後になって気付いた話だが、今までの兄さんからのメールはすべて下にスクロール出来た。何故か兄さんからのメールを受信する時に文字数の割に時間が掛かるのは、これが原因だと、その時になってやっとわかった。

 ちなみに、どんな内容が書いてあったかは秘密だっ! 言ってしまうと、俺の男としての股間こかん……じゃなくて、沽券こけんに関わる。


 まぁメールチェックが終わった訳で……どうしよう、暇だ。

 現代っ子ってだけで携帯依存症じゃない俺には耐え難いぞ。元々俺はアウトドアだ、インドアは嫌い……というか苦手。ゲームは好きだけどね。


「ん〜なんかやる事ないかな……?」


 動かずにやる事…………妄想? ……俺はどうやらどこまでも人間のくずのようだ。

 そういえば……俺って二日間、風呂に入ってないんだよな? それって不潔じゃないか?

 アズハや美影ちゃんがお見舞いに来てくれないのって、これが原因?


「……これは、意地でも清潔感溢れる体にせねば!!」


 俺はふしだらな思いにより、いざ風呂への道程の一歩を刻んだ。

 と行きたいが、どうにも体の調子が悪く、少しずつしか歩けない……。



 数分後……俺は、生きる屍と化していた。

 コンクリートとは違い、砂利の地面は俺の横に倒れた体に容赦無く食い込む。

 俺がこんな体で外に出たのが悪いのはわかっている。だが、いくらなんでも一歩目で転ぶってどれだけ幸先が悪いんだよ。


 あぁ……神よ、俺に救いを…………。


「……直輝さん、そんな所で何をしているんですか?」


「返事が無い、ただの屍のようだ」


「…………えっ?」


 くそぉ定番のネタでは、美影ちゃんをスルーするのは無理だったか。って美影ちゃん!?

 不味いって勝手に出て来たのを怒られちまうっ!

 俺は顔を上げないようにし、押し黙る。

 そんな臆病な俺に、美影ちゃんの優しげな声が降り注いだ。


「こんな所で寝ていると風邪を引いちゃいますよ。一人で……立てますか?」


 おぉぉぉ! 神様、天使って居たんだね。俺、今ならどんな宗教勧誘でも二つ返事で承諾しちゃいそうだよ。

 と……冷静になろう。とりあえず、俺は一人で立てるのか?


「よい……しょっ……ッッ!!」


 無理っぽい。立とうとする動作だとどうやら痛めている箇所に負担が掛かり、全身を激痛が駆けずり回るようだ。

 あの戦闘はそれだけ……死の危険があった訳だ。


「無理みたいですね。肩をお貸ししますよ」


 俺は首だけを上げ、美影ちゃんを見た。

 美影ちゃんは膝を曲げ、かがみ、俺へと体を近付ける。


「ありがとう」


 お礼を言って、遠慮無く肩を貸してもらった。

 補助を受け立ち上がると、身長さの所為か、俺の体がどうしても美影ちゃんにもたれ掛かるようになってしまう。


「ごめん、まだ体に力が入らなくて」


「いいえ。私とアズハがすぐにでもこちらに戻って来ていれば、そんな体にさせずに済んだんです。だから……悪いのは私たちです」


 弱々しく美影ちゃんは微笑んだ。逆に胸が掻き毟られるような感じがし、悲しくなる。無茶をした俺を怒ったが、やっぱりそれは心配から来ていたものなのだ。そう考えると、嬉しくなる。なんとも俺は単純だ。

 バランスは悪いもののなんとか歩けはした。美影ちゃんはどうやらまた、キャンプへと戻そうとしているが俺は当初の目的を思い出し、


「美影ちゃん、ここに風呂ってあるかな? 出来れば、入りたいんだけど」


 と断られるのを覚悟で聞いてみたところ、美影ちゃんは何か思案するような顔をした後、答えた。


「お風呂ですか……。そういえば、直輝さんは二日間、お風呂には入っていないんでしたね…」


「うん、それで出来れば〜」


「有りますよ。そちらに連れて行って欲しいという意味ですよね?」


「おぉ! 流石は美影ちゃん、わかってらっしゃる」


 そういう事で、俺は風呂に入れる事になった。

 しかし……これがまさか惨劇の扉を開くか否かの分岐点とは……今の俺には知るよしも無い事だ。




 仮設された風呂へとやっとの事で辿り着き、四肢が軋む体が安堵する。


「着いた〜っ!」


 歩くだけでもヒットポイントが削られていくある意味感動をするまでに貧弱な肉体を罵詈ばりしつつ、ここまで頑張った事へのお礼を込めて擦ってあげる。二律背反な思いの融合はツンデレ的安らぎを俺に感じさせた。


「後少しですね」


 美影ちゃんの言葉に、俺は少し気分が害された。確かに、まだ入口に立っただけで、中へと入るまでは本当の到着ではないが……。

 微妙に意気消沈しながら、俺は美影ちゃんに肩を貸してもらい、中へと入っていった。


 内部は…なんというか、普通に風呂だった。つーか銭湯だった。

 戦闘区域にあるから銭湯…………さむっ!! って俺が自分で考えたんだ……。


「随分と普通な感じに風呂だね…」


 大浴場的なものもあれば、シャワールームもあった。俺は軽く汗を流せればいいから、シャワーで充分だ。

 この銭湯っぽい建物の中には俺と美影ちゃん、そして一つだけシャワールームが使用されているだけだ。


「誰か居るみたいだね」


 こんな中途半端な時間帯にも入っている人は居るんだな。


「……あれ? もしかして…………」


 美影ちゃんが俺の言葉を無視して、一人自分の世界に入っていく。何が、もしかして、なんだろう?

 まぁいいか、段々と痛みに慣れてきたというか、歩く時に体に負担を掛けない方法を見つけたので、距離が少ししかないシャワールームまでなら一人で行ける。


 俺は美影ちゃんに掛けていた体重を、すべて自分で背負う。

 体を離しても美影ちゃんは気付かずに一人、まだ自分の世界だ。元から不思議ちゃんオーラがあるから、マイワールドを持っていても別に普通だろう、と俺は考えそのまま奇妙な歩き方でシャワールームへと向かう。


 この奇妙な歩き方はしょうがないのだ。これが一番、痛む箇所に負担を掛けない究極の歩き方なのである。


「あ……と……三歩ちょい」


 シャワールーム前の脱衣場まで後少しだ。

 そこで、俺の進行を妨害する叫びが銭湯内に轟いた。


「直輝さんっ! 今すぐ外に出ますよっ!!」


 美影ちゃんの声だった。何故かどこか切羽詰っているご様子だ。


「あれ? 美影居るの?」


 ん? この声……。シャワールームから女性の声が……。


「なら、タオル取ってくれないかな? 今出るから」


 俺から正面の位置にあるシャワールームの中の水の音が消え、ゆっくりとその禁断の扉が開かれていく。


「えっ?」と俺。

「……はい?」とアズハ。

「あぁ……」と美影ちゃん。


 …………俺は硬直せざる得ない。

 なんだこのハッピーハプニングは、俺に幸せ過ぎて死ね、と?


 シャワールームから出てきたのは、紛れも無くアズハだった。桃色の髪はしとしとと水滴を垂らし、湯上りで上気した色白の肌は少し朱色へとなり、淡緑の瞳はキョトンとしている。

 そして……あはは、アズハって着痩せするタイプだったんだな的に、水無瀬さんをも凌ぐたわわに実った実がふたーつ……。


 更に下は……というと、湯気がナイスな仕事をし隠していた。湯気くんのバカァ! って違う、違うぞ感謝する!


「あは、あははははははははは」


 俺は乾き切った笑い声を上げた。

 すぐにでも体を反転させて逃げたい。でも、もっと見たいし……じゃなくて、体に自由が利かないんですよ。


「あわ……あわ……あわわわわわわわわわっ!!」


 ずっと呆けたようにしていたアズハは俺発見から数秒後に変化を見せた。あわあわと慌て出し、わなわなと震え出す。

 俺にどうしろと?


 必死に目線を逸らし、俺は少しでもいいから遠ざかろうと後ろへ一歩……ってところで、体がグラッと傾き、前へと倒れ込む。

 前にはまぁ当然のようにアズハが居る訳で……必然的に突っ込んじゃう訳で……。


 きみの体にダイブっ!!

 俺はアズハの肉感的な裸体へとぶつかる。ちょうど顔が胸の谷間に突っ込む形でだ。そう、某人気RPGのパフパフ的な……いや、なんでもない。

 そのままアズハもバランスを崩し、一緒に床へと倒れ込む。


「イッッ!」


 アズハが呻くも、俺はそれどころではない。仰向けで倒れるアズハの上に覆いかぶさるように俺はうつ伏せで乗っかっている。更には顔を吸い付くような感触が圧迫して……。


 あわ、あわわ、あわわわわわわわわわわわっ!!


 不味いって本能が爆発寸前。このままもう少年誌では語れないあんな事や……こんな事を!?

 落ち着くんだ。いや、それよりも早く立ち上がって密着した体を、って俺って一人じゃ立てなかったような気が……というかそんなんだよ。


「あの、あのあの……直輝さん? その落ち着いてっ! わ、わわわ私をお、おおお襲っても……!!」


 アズハも冷静を欠き、暴走状態だ。

 ならば、ここは美影ちゃんに助けを!!


「美影ちゃんっ! 頼む、俺の体を起こしてくれっ!」


 ……返事が無い。美影ちゃん?

 人の気配は感じられるが、何をしているんだ?


「ルーメイ」


 俺の呼び掛けを無視し、美影ちゃんは友であり相棒である水潔獣の名を読んだ。

 気配が一つ増える。ルーメイが現れたようだ。

 なんとか首だけを上げて、美影ちゃんの方へと目を向けると、ルーメイが光となって体を包み込んだのを確認できた。


 何故に同化をされるんですか? それに恐い顔までしちゃって……。

 美影ちゃんとルーメイが完全に同化を終え、俺とアズハの所に歩み寄る。

 一歩、一歩をまるで噛み締めるように近付いてくる。その間に暴走し切ったアズハは、何かごちゃごちゃと言いながら、もう一度シャワールームへと入っていく。


 上に覆い被さっていた俺は、床へと叩き付けられ、それだけの衝撃でも全身が悲鳴を上げた。痛みで呻きながらも、なんとか美影ちゃんへと視線を向ける。


「……美影ちゃん?」


 まだ何が奇声のようになり掛けるアズハの叫びがシャワールームから木霊する中、悠然としキリッとしたクールな表情の美影ちゃんに俺は恐怖する。

 歩きながら、左手を右斜め下にバッと広げ、その手の平から光が溢れた。


 まさか……武器を出す気なのか?

 光は細く、鋭く変化して行き、剣の形を取った。

 白の刀身に、水色の柄、刃渡りは80センチほどの、レイピアだ。


 既に美影ちゃんは俺の横へと立っている。もちろん、剣を構えながら……。


「あの〜美影ちゃん、それで一体……何をするつもりで?」


 若干怯えた俺の声を、甘美な響きと感じるように口を三日月形に歪める。


「直輝さんに……お仕置きするんですよ? まさかここまで節操の無い方だと思いませんでした。美影は非常に残念です」


 淡々と言葉を紡ぎ、失望の眼差しを俺に刺してくる。


「そんなの使ったら……お仕置きでは済まないような……」


 ギラリと怪しく光る白の刀身に身震いする。だが、俺には逃げる術など無い。

 悠然とたたずむ美影ちゃんの表情は、一切の感情が消え失せ、虚無の面持ちだ。その真の冷たさを秘める表情で、左手に握るレイピアを振り上げる。


「大丈夫ですよ……。峰打ちにしますから……」


「いや、レイピアって両刃の刺突用だよ? 峰とか無いよ……?」


「あははっ、そんなの知ってますよぉ。だって、自分の武器ですよ? 熟知しているに決まっているじゃないですか〜」


 声が可愛らしいけど、言ってる事はかなり遠回しの死刑宣告だ。


「なら、それは下ろそう、ね? ね?」


 懇願するように美影ちゃんへと訴える。


「え? 直輝さん、もう覚悟できたんですか? じゃあ振り下ろしますよ?」


「いや、違うって! 振り下ろすじゃなくて、下ろすのっ! うわ、ちょ、目がマジなんですけど!?」


「当たり前ですよ。こんな事、冗談でやる訳が無いじゃないですか。そこまで……美影は人が悪くないですよ」


「ちょ、ちょちょっ!! や、ややや、やめ……うわ、うわわわっ!! 恐いよ、本当に恐いよ……!? え? なんでそんなに奇妙な笑みを……マジですか!? マジなんですね!? 本気の本気なんですね!? ええっ!? そこは『冗談ですよ〜驚かして、ごめんね』でしょ?

 わわっ!? クククってキャラが変わってるよ美影ちゃん!?

 うわ……あわわ、ちょ、や、やめ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」



 ――BAD END――


 このエンディングの条件は、

 1、変異体との戦いで痛覚を麻痺させ戦う。

 2、風呂へと行くを選ぶ。

 3、大浴場での美影ちゃんが考え込むところに声を掛けない。

 4、アズハを見た時に、紳士的な態度を取らない。

 5、兄のメールをスクロールさせ、『キヲツケロ』の文字を見る。


 以上の五つの条件が重なり合う事により、『美影の愛の鉄槌END』となります。

 次のプレイをお待ちしております。



 って勝手に終わすなっ!!

 俺の人生はまだ終わっちゃいねぇ!!

微妙にエロです。というか、直輝がもうただの変態です。

美影の一人称を、美影にしてみたり……なんか似合うような。このまま使ってしまおうかな。


5万6千PV突破! 1万アクセス突破!

ありがとうございます。物語は色々と紆余曲折しながら、まだまだ続きます。(無駄を省くのを考えないと)

これからも、よろしくお願いします!


次回予告?

ロードをし直し、新たなルートへ進んだ直輝だったが……!?

そして……新時代の幕が開ける……。

(なんだか格好良いな。でもエロゲみたい……)

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