表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/68

第五十一章 ちょっと生還いってくる

「んん……? ここは……?」


 ぼやける視界により、視線が定まらない。

 どうやら俺の体は仰向けで寝させられているようだが、背中に当たる柔らかな感じと、温かく体を包む感じから、布団の上で毛布を被せてもらい眠っていたようだ。


「……ッッ!」


 体を起こそうとするも、全身に激痛が走った。俺は何か大怪我をしたのか?

 どうにも記憶がハッキリしない。

 ここに寝させられるまで俺は何をしていたんだっけ?


「あ…………そうか……」


 水害獣がこっちの世界に現れて、それで…鉄パイプで戦って……それで……?

 んん? その後はどうなったっけ?


「ボケるにはまだ早いぞ……」


 頭の上に幾つものハテナマークを浮かべていると、聞き覚えのある声が溜息をつくように言った。

 俺は首だけを曲げて、そいつを見る。


「あああっ!!」


 俺はその金色の獣、アトゥなんとかを見たことでモヤモヤとしていた記憶がハッキリと思い出せるようになった。


「私の顔を見て、すべて思い出しおったか?」


「思い出したよ……だから全身痛いんだな。ってなんで同化が解けてんの!?」


 そうだよ、アトゥなんとかと面と向かって会話をしているって事は同化が解けているって事だよ。やべぇ頭がまだ回りきっていない。


「お主に主導権があるとはいえ、私からも解除は可能だ……」


「ほう〜」


 俺は新たな知識を脳内に納めた。

 とりあえず、記憶の整理はついた。後は、ここはどこかって問題だ。


「ここは、あの駐屯地の救護車の中だ。お主は、あの戦闘で相当の無茶をし、再生速度が間に合わず気絶したのだ」


 また俺の思考を読みやがったな……。読唇術ならぬ読心術だな。この化け物め。

 さて、まぁそんな事はどうでもいいんだ。あの戦闘の最中……昔の感覚を思い出さなかったか? それに……さっきまで見ていた夢は、その時のものだ。


 俺の本質は戦闘狂なのか? バーサーカー的な……。


「あのような戦い、私自身にも負担が掛かる。もうやらんぞ……」


 アトゥなんとかは吐き捨てるように言って、あのドッキリマジックを使い姿を消した。

 俺はその消えるまでを見送るように見て、瞼を閉じた。


 どうして……俺は、戦いになるとあそこまで興奮する? 自分自身が恐くてならない。コントロールはきくんだ……だから恐い。つまりは、あの血みどろの戦いを自分の意志でやってる事になる。

 これでは、俺の方が獣じゃないか。


「直輝さん……目覚めたんですねっ!!」


 俺の思考に水を差すように、救護車の中アズハの声が響いた。

 なんだか不思議な気分だ。本来なら、アズハが戻ってきたのを俺が安堵する側なのに、アズハが泣いて俺の生還を喜んでいる。


 俺はさっきまでの自己否定的な思考を捨て、お互いに生きていた事を喜ぶことにした。

 アズハは目を赤くして、俺へと駆け寄ってくる。


「よかった……アズハはやっぱり無事だったんですね。美影ちゃんももちろん無事ですよね?」


「私たちは特に問題はありませんっ! それよりも……本当に良かった…………」


 俺の寝転がるベットの端っこに顔を押し当てて、アズハは嗚咽をもらしていた。

 こんな馬鹿を本気で心配してくれるなんて…。


「直輝さんっ!! やっと起きたんですねっ!」


 アズハに優しい言葉を掛けていると、入口から美影ちゃんの大声が聞こえた。

 振り返ると、当然のごとく、そこには元気な姿の美影ちゃんが立っていた。その後、アズハと同様に俺へと駆け寄ってくる。


「話はアトゥムルスから聞きました。……無茶をし過ぎですっ!」


「あはは……ごめん」


 怒られちゃった……テヘッ…………ごめんなさい、空気を読むべきですね。

 美影ちゃんはすごく真剣な顔で俺を睨んできている。俺はそれに見合う真剣な顔で、だけど……明るく謝罪をした。


「どうして……そこまで無理をしたんですかっ! ……心配……したじゃ……ないですかっ!!」


 若干ツンデレ気味に美影ちゃんは怒鳴り、静かに涙を流した。

 まだ二人とも出会ってから一ヶ月も経ってないのに、どうしてそこまで俺のために泣けるんだろう? 不思議な話だ……。


「どうして……そんな俺なんかのために……泣けるんですか? だって……俺、会ったばかりだし、能無しだったし……」


 この場の空気に合わないものだとはわかっていた。でも、訊かずにいられない。

 ぽつぽつと言葉を紡ぐ俺に、しゃくり上げながらアズハが言った。


「何を……言ってるんですか? ……直輝さんも同じじゃないですか……」


「え……?」


 それは……どういう…………あっ。

 そこで、俺は自分の目が湿っているのに気付く。そして、それは溢れて頬に涙の道を作り、頭が乗せられた枕を湿らせていた。

 俺は自分が気付かない内に泣いていた。


 でも嫌じゃない。それだけ、二人の事を心配して……今、心から生還を喜び安堵しているのだ。

 不安だったのはお互い様だったのである。その事実を知るのはすぐだった。




 俺が倒れてからすでに二日経っていたらしい。つまりは、12月31日、大晦日だ。

 目覚めなかった理由は単純に、俺が暴走しすぎたからだ。痛覚を麻痺させ、人間では有り得ない、そしてやってはいけない戦闘を繰り広げた為である。これについては、アトゥなんとかから文句を言われたし、アズハや美影ちゃんも、


『二度とやらないで下さいっ!!』


 と声をそろえて怒ってきた。

 でもしょうがないじゃないか……。ああでもしなければあんな化け物には勝てはしない。そんな顔をしていたら、アズハと美影ちゃんにまた怒られた……うぅ。


 あの戦闘で、駐屯地の半分が廃墟と化した。だけど、あの衛星レーザー攻撃での自衛隊の被害はゼロだったらしい。あの場での上官……変異体との戦い前に話した人は、武藤むとうさんといって、陸軍大佐で、『ダイバー』との作戦をいくつかこなしているらしく、水害獣対『ダイバー』の戦いの凄まじさを身を持って知っていて、すぐにあの場を離れさせたらしい。

 まぁその対応は正解だった訳だ。


 それから、『水の世界』で何が起こっていたのかをアズハと美影ちゃんが説明してくれた。

 L1の数がただでさえ多かったのに、更に増え、そこにあの変異体の出現……しかも二体だ。つまりは、一体は取り逃がし、こちら側へ、もう一体は向こうで戦っていたらしい。

 救護車で出会った二人はほとんど無傷に見えたが、同化による治癒能力によるものなのか、戦い慣れにより無傷で勝利を収めたのは謎だ。


 俺が眠り続けていた二日間の間、水害獣の出現は無かったらしい。

 今度こそ、終わりである事を願うばかりだ。


 ……そういえば、もう31日なんだよな。友貴辺りが俺の家に訪問とかしてそうだ。後でメールを確認しなくては……。

 おぉちゃんと日常的思考も出来るな。よかったよかった。染まり切ってはいないようだ。

 やはり、人間ってのはたとえ日常と非日常の繰り返しを送っても、そうそう変わらないんだな。


 友貴が言ってたっけ、


『俺は巨乳か貧乳を選べというのなら、間違いなく美乳を選ぶっ! そう、美乳を選べば、その中に巨乳も貧乳もカテゴライズされているからだ。形が良くて、小さいのも大きいのも楽しめる。


 直輝、わかるか? 選択を迫られても自分の選択を狭める必要なんぞ無い。現実ってのは、明確に決められた選択肢なんてものはほとんど無い。なら、考えて考えて、自分の納得の行く答えを作ればいい。求めるだけでなく、迫られるだけではなく、自分をみずからで導くんだよっ!

 って誰か偉い人が言ってたような気がする……』


 例えが友貴らしいし、最後に一文余計なのも来るのもらし過ぎる。

 ちょっとずれるが、ようはそういうことだ。日常か非日常か、そんな思考の偏りを選択しろというのなら、俺は自分のこの人生を選択する。

 または、この世界だ。


 俺の人生にしろ、世界にしろ、日常と非日常が絡み合って出来ているんだ。

 だから、俺がどこに居ようと、水害獣の脅威を忘れず、学校の仲間達との楽しい生活も忘れない。

 それは、辛い選択かもしれない。


 でも、それが俺だったりするのだから、導く自分自身を信じるだけだ。

 その先に、輝かしい未来が有らん事を………なんてね、がらじゃないって。



 失いかけた命に、失いかけた日常…………今は、噛み締められる。

 とりあえず今は……三人が全員生還した事を喜ぼう。

はい、最後の友貴の話がカッコよさ気ですね。

私が巨乳か貧乳どっちがいいって聞かれたら……自分のありのままの胸に我慢しますって答えるさ!

今ね、読者から著者は女だったのか!? っていう声が聞こえてきた気がする。


女がこんなエロい男の主人公の話を書いて何か問題でも?

男女差別はいけません。山下も作中で嘆いていたではないですか……。


次回予告?

日常と非日常が重なり合い、新感覚なハッピーデイ!

久々な平穏に直輝は…………命を落と……!?

(な、なんで!?)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ