第五十章 ちょっと最初の罪いってくる
事件は放課後に起こった。
掃除を終え、後は連絡事項の確認と挨拶をすれば終了というところまで来た。それは特に問題は無く、俺が担任に教室掃除が忘れていたゴミ出しを頼まれたのだ。
学校側からの印象を悪くする気は無い俺は、それを二つ返事で了承し、焼却炉へと向かった。
短時間だから、大きな問題など起きる筈が無いと思っていた。
それが……失敗だったのだ。
ゴミの処理を終え、教室へと戻った俺が見た光景は……防ぎたかった場面だった。そのために俺は戸高さんの側に居たはずなのだ。
戸高さんはクラスメイトに囲まれて、罵倒されていた。
凶悪な言葉をぶつけるのは一部の者だけで、ほとんどが冷たい目で見守る傍観者たちだ。だが、それも立派な加害者だ。
全身が氷結するような、そんな感じがした。
でも次の瞬間には、俺は怒りで燃え上がっていた。これを防げなかった自分に、そして戸高さんへと危害をくわえるクソどもに!
周りを煽り、いじめを増長させるいつもの五人と、そこには今日俺と給食中に火花散らした元友人が居た。
今まで止めようとはしなかったものの、少し不快感を示しながら傍観していた彼が、何故……率先として参加しているんだ!?
「お前が悪いんだっ!」
「イタ……イっ!」
元友人……池谷は戸高さんの髪を引っ張り、怒声を浴びせた。
俺はそれにより、何かが完全に弾け、心の枷が完全に取っ払われた。
「池谷っ!!」
咆哮を上げ、戸高さんへと駆け寄る。
「日下部っ!?」
俺の登場に驚き、池谷は戸高さんの栗色の髪から手を離し、後ずさる。
「お前ら……よくもっ!!」
池谷へと殴りかかる。だが、それは周りを囲む扇動者の一人によって阻まれた。二人掛りで羽交い締めにされ、身動きできなくなる。
「お前が悪いんだよ……。急に俺に余所余所しくなってさ……なんで女一人に夢中になって、俺を無視すんだよ!?」
池谷は唾を飛ばしながら、俺へと激しく問い掛けた。
俺が戸高さんと関わるようになって、池谷との遊ぶ時間が減った……いや、無くなったに等しいか。それで寂しかったとでも言うのか?
「友達を取られたような感じがして……戸高さんに手を出したでも言うのか!? 池谷、いつからそんなに馬鹿になったんだよ!?」
「馬鹿なのはお前だろうが! それに、お前が戸高さんに付きっきりで、それを恨んで戸高に危害をくわえて居る奴が居るんだぞ!?」
俺に負けない大声で、池谷は言った。
その言葉は俺に圧し掛かるように、突き刺さるように……ショックを与える。
「俺の所為で……いじめが増長してるってのか……?」
「その通りだよっ! 俺だってその一人だ! 戸高と居て何が楽しいんだよ?」
「は? お前……それを本気で言ってんのか? だとしたら……」
「当たり前だ! 俺たちと遊んでた方が楽しいだろう? そんな根暗と二人っきりで居るよりは!」
言葉の綾だったのかもしれない……。ただ、俺に戻ってきて欲しかった思いで、言ったもので……他意はなかったのかもしれない。池谷はそんな奴じゃないってのは知っていた、でも今の俺には冗談でも許せなかった
「こ……の……クソ野郎がっ!!」
俺は羽交い締めしてくる二人の生徒を払おうと全力で暴れる。足を使って攻撃することで、それは簡単に達せられた。
捕縛から脱出し、俺は池谷にもう一度殴りかかる。
今度は成功した。
「うぐっ!!」
池谷は呻き、床へと倒れ込む。その様子を見ていた扇動者の五人が俺を囲む。
1対6……圧倒的数の差で不利だ。
俺は扇動者とりあえず無視し、恐怖で蹲る戸高さんの手を取り、逃げようと思った。だが、うまくいかず、戸高さんを避難させてあげるだけで終わった。
「ぐあっ!」
扇動者の一人が、俺の腹にパンチを入れる。中々にきいた。その怯んだところに他の者が、追加攻撃……。
数の差は余りにも大き過ぎた。これではこちらから攻撃が出来ない。
タックルをくらい、俺は掃除用具が入るロッカーにぶつかった。
ガゴン、ガシャンッと内部で掃除用具が転げまわる音がした。それを聞き、にじり寄る奴らを一瞥して、ロッカーから一本のほうきを取り出す。
立ち上がり、それを剣のように中段で構える。
「来いよ……本気で相手をしてやる」
俺は父さんから習った剣術を使う事にした。もちろん喧嘩に使うのは禁止されているが、俺はもう怒りが頭がおかしくなりそうで、そんな約束が吹っ飛んでいた。
その後は、本当に圧倒的で悲惨な惨状でしかなかった。
そして自らの力に恐怖する。
俺は……初心者が一目見てわかるほどの、強さを持っていたことをここで理解し、納得した。
ほうきを持ったぐらいで戦況は変わる筈が無い。そう睨んだ奴らは関係無く突っ込んでくる。
俺は慣れた足捌きで、教わった型の一つを体へと具現する。
父さんはこの剣術の流派は特に無いと言った。ならば、我が家のオリジナルなのか? ということで、勝手に名字で呼んでいる。
日下部流剣技、時雨。
剣を上段へと構える。これは構えの一つであり、技の一つでもある。振り上げられた剣を、相手へと強打するのではなく、弱い攻撃を素早く繰り返し行い動きを封じるのだ。
俺はそれをほうきで完全再現する。
重量や形の違いは問題だが、こんな雑魚どもにはこの程度のハンデでは足りないぐらいだ。
俺は一人、二人へと攻撃する。
奴らは俺が上段からの振りしか使わないのを見て、両腕のガードを頭上へと上げる。
それが狙いの一つだ。
日下部流の最も優れた部分は、技の一つ一つが繋がっている事だ。初期の構えから多種多様な変化をし、止まる事をしらない攻撃を繰り出す。それは余裕を与えず、予測すらもされせない。
奴らは下へのガードを失った事により、俺の剣撃に変化が起きる。
日下部流剣技、時雨弾き。
上からの対応へと意識が移った時、時雨は対象を外し地面へと向かう。だが、それは一瞬ですぐに弾けて、振り上げる剣へと変化する。がら空きの脚部、または腹部に奇襲するのだ。
このような変化により、相手を打ち倒すまで攻撃は猛追を続けるのだ。
ほうきという武器のおかげで大怪我を負わすことが無いと思うと、試してみたかった技をどんどんと繰り出す。
俺は狂喜した。実戦の中で更なる磨きが掛かる自分に剣技に……。
もう暴走と呼んでもいいものだった。
ほうきには血が付着し、明らかなほどのダメージを与えていた。周りのギャラリーも息を呑み、怯え出す。
でも止まらない。こいつらの戸高さんへのやった事への怒りが、そしてこの高まる高揚感がそれをさせないのだ。
俺はだから、蹲り降参する奴らへと追撃をし、斬るイメージで殴り続けた。
数分後、誰かが呼んだ教師に、数人掛りで押さえつけられた。疲れが無ければその教師たちも打ち倒してしまったかもしれない未来に身震いする。
興奮状態の俺に教師達は説教をする。だが、届くことは無かった。
頭の中で、只管にさっきまでの技を脳内で洗い直していた。
それに、俺は間違ったことをやったつもりは無い。戸高さんへの仕打ちに比べればまだ足りないぐらいだ。だから、俺は謝る気なんて全くといって無い。
反省する様子を見せない俺に諦観へと至ったのか、帰るように言った。
それに従い、俺は学校を出た。
校庭には遊ぶ生徒達の姿があり、それを横目に見て、校門へと歩く。
校門には見慣れたシルエットが立っていた。戸高さんだ。もう随分と落ち着いている。いじめ慣れというやつなのだろうか。俺は悲しくなった。
「直輝くん……あ、あの……ありがとう……ね」
戸高さんは俺を確認すると、頭を下げてお礼を言った。
「……どういたしまして」
俺は笑顔を作った。それが偽りだと戸高さんはすぐに気付くだろう。
後から来る罪悪感に俺は苛まれていた。喧嘩に剣を使った、あそこまでやったのはやり過ぎだった……。
戸高さんは笑顔を曇らせる。
「助けてもらって……悪いんだけど……さ。やっぱり暴力は……あのダメかな、って思うから。一緒に謝ろう?」
「えっ?」
それは驚くべき発言だった。何故、傷つけてきた人間に戸高さんも謝るんだ? 謝るとしたら俺一人だろう……?
「あたしにも責任はあるから……だから一緒に謝るの……」
子ども諭すように戸高さんは優しく告げる。
……それでも俺は、どこか納得が行かなかった。
その後、先生から自宅へと連絡が入っていたらしく……まぁ当然だけど、両親にこっぴどく怒られ、特に父さんからは剣の使用をしばらく禁止と言い渡された。兄さんも苦い顔をして、「どんまいっ」と言葉は軽かったが、顔は真剣だった。
それは当然だし、構わないと思った。今は……剣を握るのが恐い。ただ……棒を握るだけでも恐い。人を傷つけるだけだと思えてしまい、恐い……それに、あの喧嘩の最中……俺は俺ではなくなっていた気がしてならないのだ。
その日の内に、俺は両親と共に謝りに回った。
大怪我の一歩手前ぐらいにはいっていて……姿を見ると罪悪感が込み上げてきて、傷付けた事には素直に謝れた。
次の日、戸高さんと共にその人たちの自宅を回った。
戸高さんが横に居ると、やはり本当の気持ちで謝るなど無理だった。
俺は初めて自分の剣で他人を傷付けた日から三ヶ月、剣を握る事は出来なかった。
そして、この出来事により、俺は戸高さんを今度こそ絶対に守ると強く胸に刻んだ。
遂に日下部流剣術がっ!!
ずっと剣がどうこうのって言ってた伏線回収ですね。
まぁ……直輝には他にもたくさん過去がありますけどね…………またその内に。
もう五十章ですけど、物語が……何章まで行くんでしょう? 余裕で二百とか……うわ、読者の皆さん付いて来てくれるかな?
そんな不安を抱く今日この頃……。
次回予告?
奴は言った、「巨乳か貧乳なら、俺は美乳を選ぶ!」と。
そんなこんなで物語は展開していく…………?
(もう意味がわかりません……)