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第四章 ちょっと現実いってくる

 ズボンのポケットをまさぐり、アズハに渡された紙を取り出す。それをボォーっと眺めた。


「………………」


 その紙には水道局までの地図と移動手段が書かれていた。

 意外に近場だな。でもここら辺にそんな目立つ建物あったけ? いや、やっぱ正義の味方の基地みたくにカモフラージュしているのか? 見た目はラーメン屋だが地下には厖大ぼうだいな広さを持つ研究所がある、みたいな?


「はぁ……なんだかな〜」


 運命とかいうのは信じてないけどさ、もしもこれが誰かのシナリオならたまらなく腹が立つ。その誰かに対して殺す、とまでは言わないが、死んでくれ。

 全部がプニョプニョな世界だの便器から現れる少女だの……もう非現実はお腹一杯だ。おかわりなんていらないからグッタリのんびりさせてくれ。


『明後日の、朝十時頃に来て下さい』


 とアズハは言ってこの紙を俺に渡したが、常識的に考えて明後日は金曜日な訳で学校があんだけどな。つーか、見た目で判断するのは悪いと思うが、アズハだって学校はないのか? あれは高校生ぐらいに見えるが……。


『局長がすべて教えてくれると思いますから』


 別に何も知りたくない……と言うと流石に嘘になるがあながち間違いでは無い。俺は一般凡々いっぱんぼんぼんじんだ。そして、なんと言っても楽な人生を歩みたい。

 よーっし。この紙を投げてゴミ箱に入ったら行ーっかない!

 俺は手に握っていた紙を丸めてゴミ箱に投げた。


 丸めた紙は放物線を描き、ゴミ箱へと落ちて行く。

 入る! と確信した……。

 だが、紙はゴミ箱のふちにぶつかり…………弾かれた。


「NO〜〜〜〜〜〜!!!!」


 俺は両手で頭を押さえ、部屋中をゴロゴロと転がった。

 紙ではなく俺が絶望の淵へと堕とされた……。


 今日はホント付いてない……。体が締め付けれるような感覚におちいる謎の移動手段、『ダイビング』を二度体験し、その先で待っていた『水の世界(ウォーターワールド)』では『水害獣』とかいう気味の悪い生物の手厚い歓迎を受けた。

 服越しに臍辺りの皮膚を擦る。しかも水害獣は俺の体に手(前足?)を突っ込んで何かしてきた。それから特に異常は無いが、やっぱり気になる。


「あぁ〜やってらんねぇ!」


 わかったよ! 行けばいいんだろう! 行ってやるよ! 学校行くのも面倒だし……。

 立ち上がり、丸めた紙を回収し机の上に置いておく。


「もう疲れた! 寝る!」


 独り言を上げ、俺はベットにダイヴした。

 慣れない事をすると疲れるもんだ。それにしても……俺の順応性の高さには自分自身で驚いた。まるで、前から知っていたような……んな訳ねぇか。俺はファンタジーの住民じゃないし。

 一度寝返りをすると、意識が掠れて行き、深いまどろみに堕ちていく……。

 …………

 ………………

 ……………………





 浮遊感……。体が安定しない。


「ここは…………」


 俺の体は宙を浮いていた。眼下には懐かしの故郷がある。

 そうか……。これは、夢か。

 故郷と呼ぶほど大それたものじゃない。ただ、前に住んでいた場所だ。家は木造の古い家だった。引っ越した理由も、家が老朽化が進み危険だったからだ。特殊な理由は無い。

 世界が歪み、場面変更された。

 今度も故郷だったが、もっと狭い範囲を映している。


「あの子は……」


 長い一本道に、少女が一人ポツンと立っていた。

 栗色の髪が風に揺られ、長く伸びた前髪で目元を隠していたが、口が動き言葉を紡ぐ。

 それは音にはならず……ただ、寂しげに口が上下にパクパクとしただけだった。だが、何を言おうとしたのかはわかった。


「う・そ・つ・き……」


 嘘吐き……。誰が? 俺が? 俺はこれでも紳士だ、俺の訳がない。それは断言するさ。女性には常に紳士的に振舞う。特に二月辺りは……別によこしまな考えでそうしている訳じゃないさ。ただ、期待はしているが…すいません。

 とりあえず誰かに嘘吐きと言われる様なことはしてな……いと思う。


「じゃあなんで――――」


 少女が呟いた。


「え……俺が何を……おい! 俺が何をしたっていうんだよ!?」





「おいっ!!」


 あ……あれ?


「あ、そうか……夢か…………」


 あのまま寝ちゃったのか。カーテンが開きっぱなしの窓から日の光が射していた。だから身体が冷えてるのか……。


「寝たのにスッキリしねぇな……」

 

 夢を見ていたって事は完全に寝てない訳で……あぁ! ノンレム睡眠カモーン!!

 それに夢の内容の所為もあるな。あんた誰だよって話だ。茶髪の友達なんて友貴ぐらいしかいねーって。

 はぁ〜……。そーいえば誰も起こしてくれなかったな。父さんも母さんも帰ってないのか?


 俺は自分の部屋を出てリビングへと向かった。


「いねぇな」


 あ……そういえば、昨日の朝に確か、


『帰りは明日の夜になると思うから、明日の朝のぶんまでご飯作っておくから』


 って母さん言ってたっけ。

 二人とも仕事忙しいんだな。まぁ兄さんが働かないのが悪いんだろうけど。今頃はどこで何をしているのやら……。自分探しの旅って具体的に何やんだろ? まぁ死んでなきゃいいか。


 さて、とりあえず顔洗ってくるか。




「うわ…………」


 洗面所の鏡で見た自分の顔はなんだか大変な事になっていた。目の下にどす黒いくまさんが出来ていて、顔は全体的にゲソッとしていた。


「これは……不味い、というか、なんで? まさか、ダイビングの所為?」


 つーかいくらなんでも痩せ過ぎだろ! 別にダイエットしたかねぇよ! あぁぁ……俺のハンサムフェイス!

 俺は鏡の前で項垂うなだれた。

 それともあの水害獣に何かされからか…? いや、殺すぐらいならあの場で…でもサディスティックだったら…………NO〜〜〜〜〜〜〜!! 

 俺が苦しんでいるのを見て楽しんでんのか!? やめ、やめてくんろ〜〜!! うお、訛った。


 俺は絶望色に染まって行った…………。


「欝だ……死のう」


 包丁求めて三千里、俺は台所へと覚束無おぼつかない足で歩いていく。


「包丁〜包丁〜〜ホウチョ〜チョウチョ〜〜♪」


 もう頭ん中がグールグル……パ〜! パッパラッパパ〜!

 台所にきれいに並べられた、手首がよく切れそうな包丁を一本手に取る。


「包丁〜片手に〜〜笑って逝こう〜〜♪」


 あは、あはははははははは……あは……ははは……はぁ〜。


「何やってんだろ……俺」


 握っていた包丁を元の位置に戻し、再び項垂れた。

 あー今日も厄日だ。うん、そうに違いない。でなきゃ死のうとは思わないさ……たぶん。


「とりあえず朝飯を確認しよう。そうすれば生きる希望が湧いてくる……はず」


 すぐ横にあった冷蔵庫を開き、中を確認した。

 中には、ラップされた皿が二皿あった。それぞれに、『晩ご飯用』、『朝ご飯用』と書かれた紙が貼られていた。

 『晩ご飯用』の方を確認すると、ハンバーグと野菜炒めが入っていた。

 『朝ご飯用』の方には、煮物と鯵の開きが入っている。


「よしっ! 全部食おう!」


 二つの皿を取り出し、まとめて電子レンジにぶち込んだ。

 温め終わるまでの間に、自分の部屋からバックと制服を持ってきた。

 ちょうどリビングでワイシャツを着て、制服をズボンに足を通している時にレンジが、チンッと温め終わった事を告げた。

 ベルトを締め、レンジの所に小走りで向かう。

 レンジを開くと良い匂いがキッチンに広がった。


「腹が減っては戦は出来ぬってね〜」


 とりあえず二つの皿はリビングへの食卓へと運んでおく。後は、白米さんをゲッチュだ!

 台所へと戻り、炊飯器を開く。


「白米ちゃ〜ん発見!!」


 My茶碗に杓文字ですくったモデルの歯の様に白く輝く白米ちゃんを詰めていく。

 山盛りにした所で、満足し炊飯器の蓋を閉じた。

 さ、て、と〜、後は食うだけ!!


 俺は晩飯を食べていないという肉体的な理由と、あんなゲッソリとした顔を嫌だという精神的な理由の二つから、食欲が異常なまでに高まり、食う事しか知らないゾンビの様に俺は疾風の如く朝食を平らげたのだった……。




 朝食の後片付けを済まし、残りの制服の上を着て、バックを肩に背負しょい、準備万全!

 滅入る気分を必死に誤魔化し、俺はただ只管ひたすらにテンションを上げ続けた。

 そのテンションをキープし続け、玄関に行く。

 玄関に並ぶ靴の中から自分の靴を探し当て、足を入れる。


「レッツラGO!」


 なんだか馬鹿げて、余りにも滑稽で……自分自身に苦笑した。

 この時ばかりは想像力豊か、という自分の才能を恨んだ。



 想像した最悪の未来――死、という考えを紛らわす為、俺はただ、滑稽に笑い続けた。

少し長くなってしまいました。

展開の速いのが好きな人には、少しだらだらしていて、面白くないと思います……ごめんなさい。

それにしても、なんだかな〜って感じの主人公です。

いえ、そんな直輝が私は好きですが……。

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