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第四十八章 ちょっと死闘いってくる

 同化した状態の全速力はコントロールがまだうまく出来ないが、ここまでだだっぴろい廃墟なら、敵以外に気をつけるものなど無い。

 奴との距離はまだある。


 目算と脳内の計算により弾き出されたベストな座標にて、俺は大きく跳躍した。

 その跳ぶ過程にて、棍棒を上へと振り上げ、手をずらし長く持つ。


 奴は余裕に構えるが、この一撃はそれまでの生温いものと一緒にされては困るな。

 本気の本気だ。この一撃にすべてを込める。

 それぐらいやらなくても、あれだけの力を示した奴に失礼に値する。それに、あれだけの力を持つ奴に腑抜ふぬけた攻撃など無粋で、無意味だ。


 空中でバランスを取り、長く持った棍棒を突き出すように体の前に構える。つまりは、突きの姿勢だ。

 奴より上へと舞い、俺は両手で握り締めた棍棒へと全神経を研ぎ澄ました集中を注ぎ込む。


 空中で一度静止する。最高地点まで達したのだ。

 俺は重力を味方につけ、奴へと落ちて行く。そして、そこで俺は武器に新たなるイメージを追加する。


 この攻撃をくわえるようと考えるまで、俺は現実的思考がやはり蔓延はびこっていたが、それをかなぐり捨て、思考をクリアにした。

 その事で浮かんだのが、武器の変形だ。常識で考えれば、武器は変形などしない。可変する武器もあるが、それはそのような武器であって、俺が握る棍棒は変化する筈が無いのだ。


 だが、考えてみれば……それは普通での話。

 この手にあるのは、ファンタジー的に材料は光、しかも即席。そんな特殊な棒だ。


 だから、俺はイメージする。

 奴の体を貫く、槍を……。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 棒の先端に光が集まり、変化する。

 先には鋭利な切っ先が現れ、さっきまで棒であった武器は槍へと早変わりした。

 そのまま両手で槍を握り締め、奴へと落下する。


「貫けぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 狙うは頭部だ。どんな生き物でも頭がやられりゃ死ぬだろう。


 俺の流星アタックは奴の頭部へと到達し、刺さる。

 だが、そこで止まらない。

 どんどん深く、深く……貫いていく。


「ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!!」


 奴が傷みでのた打ち回り、頭を強く振り回し俺を振り落とそうとする。

 俺は深く突き刺さった槍を支えにそれを堪え、その揺れを利用し逆に槍を奥へと押し込む。


「うぉぉぉぉっっ!!」


 ずぶ……ずぶ……っと奇妙な音を立て、俺が槍を差し込んだ箇所から、緑の液体が溢れ出す。

 こいつの血も緑か……。


 抵抗に抗い続け、俺は遂に槍で奴の頭部を貫き、口からその槍が飛び出す形になった。

 奴は断末魔のような甲高い絶叫を上げる。


「これが俺を舐めた結果だこのクソ野郎っ!!」


 俺は槍を引き抜き、体から飛び降りる。

 奴から5メートルほど離れた位置で、奴の痛みに悶える姿を睨む。


「まだ……死なねぇのか……」


 緑の液体を撒き散らし、奴は頭部の皮膚をくしゃくしゃに寄せ、まるで苦悶の表情を浮かべているようだ。


「油断はしない。もう一発だっ!!」


 俺は再び高く跳躍する。

 槍を両手で握り締め、深く握り、奴の体を目指して進む。


 しかし、そこで予想外の事態が起きた。

 苦しみながらも奴は俺を迎え撃つ準備をしていたのだ。

 空中で動きが制限される俺を奴はあの鋭い尾で、はたき落とすように縦に振るった。


「んぐっっ!!」


 槍でその一撃を防いでも、奴の質量は人間のか弱い二本の腕で防ぎきれるものではなく、間接的にそのダメージが伝わるようになっただけだ。

 俺はその尻尾に地面まで運ばれ、叩きつけられる。


「っつは!!」


 叩きつけられた俺の体は余りの衝撃に体勢を立て直すために動けない。

 そこに奴の追い討ちが来た。

 もぐら叩きのように尻尾を振り下ろし、俺を叩き潰そうとする。


 俺はその攻撃を地面で体を横へと転げることで、回避に成功したが、それはその場凌ぎで、次の連続攻撃には対応しきれなかった。

 振り上げられた尾をまた俺へと打ち下ろす。

 体を立てている余裕は無い。だが、転がって完全に回避などは無理だ。


 俺は部下を切り捨てなければならない上官の気持ちで、冷徹な判断を下した。

 足を犠牲にし、上半身を救うしかない!


「ぐぅっっ!!」


 膝下が完全に奴の尻尾プレスにより、砕かれた。それにより激痛が全身へと駆けずり回る。意識が飛びそうになるのを必死で堪えるので精一杯だ。


「はぁ……はぁぁ……」


 幸か不幸か、奴の攻撃が止む。

 だが、結論から言えばそれは俺へ止めを刺す、決断であったのだ。


 霞む視界の中、奴が緑に染まった口を開くのを見た。

 その口内にはほとばしる光の輝きが見える。


「ゲームオーバーってか……畜生っ! 何か生き残れる方法は!?」


 死にたくない。死にたくないっ!!

 あぁぁ……冷静になれ、死にたくないという言葉で思考を阻むな!

 何かあるはずだ、何か有る筈なんだっ!!


 俺の期待を裏切るように光は増大し、その輝きを増させる。


(右を見ろっ!)


 俺の思考にアトゥなんとかが割り込んできた。


「今は黙ってろっ! こっちは忙しいんだっ!!」


(だからだ! 早くお主の右側にあるあの瓦礫の山を見ろ!)


 俺はわめくアトゥなんとかに従い、俺はそれを見る。


(その瓦礫の山の上に座る自分をイメージしろ!)


「何を言って、」


(死にたくなければ早くしろ! そのイメージはできるだけ鮮明に現実であるようにだ!)


 意味が分からないが、俺は何故かアトゥなんとかを信頼し、そのイメージを極限までリアルに脳内に描く。


(そのイメージを現実であると思え。疑いの余地を無くすのではなく、それが現実だとただ認識しろ!)


 俺は言われた通りに、そこの瓦礫に座っているのが現実だと脳にすり込む。


 そうしている内に、奴の口から狂ったように凄まじい輝きを放つ光が放たれた。

 俺はなすすべなくただそれを見た。…違和感を感じる。


 奴が放った光は、地面へと当たり土を焼き払うかのように掘り進めた。そこには俺は居なく、ただ地面が削れただけ……違和感はこれだ。


 いつの間にか、俺は移動している。

 さっきの奴の口を見た時には場所は変わっていた。見え方がまるで違うからわかる。


「……これは」


 この瞬間移動、まさに……アトゥなんとかの種無しマジックじゃないか。


(成功したようだな……)


 アトゥなんとかは安堵しているようだ。

 俺はその声を、先ほどまでイメージしていた瓦礫の上で、更にはイメージしたポーズで聞いた。

 是非とも詳しく知りたいが、今はまだ戦闘中だ。


「どういう仕組みかは知らんが、とりあえずそれは後にする。今は奴を倒すのが先決だ」


 俺の打撃で変色していたり、頭部から緑の血を噴出したりしている変異体は、俺の姿を見失っているようだ。


(主の言うとおり、奴との決着が先決よ……。私のこの力、過信するでない。慣れない内では逆に自分を不利にする)


 言いたい事は分かる。最初俺は、移動した事に気付けなかった。そんなのを戦闘中になんどもやってりゃあ隙を突かれてこの世とさよならだ。


「わかってるさ……だが、一つ頼みがある」


 あの能力には頼る気は無い。だが、この戦闘に勝利を収めるためには……あれしかない。


(…………なんだ?)


「……痛覚、完全に麻痺させてくれ」


(!? 主は私の言った事を理解していないのか!?)


「ごちゃごちゃ煩い! 奴がもう俺を発見して、こっちを見てる。さっさとしろ!」


 超絶スピードの治癒でも治り切らない足を無理矢理立たせ、変異体と対峙する。

 本人もビックリな瞬間移動により、奴もまた混乱したのかこちらへと攻撃をくわえてこない。多少は脳味噌が詰まっているようだ。


「おい! 足の痛みがひかねぇぞ! さっさとやれ!」


(……無茶な戦いをすれば死ぬぞ。または再起不能になる……。それに、力を酷使すれば代償も大きくなる可能性がある……)


「はっ! んなこと知るかっ! どちらにしろ負けたら死ぬんだよっ!!」


 アトゥなんとかからの返事を待たず、俺は奴に向かって走る。

 返事なんて必要ないのだ。

 答えは、この自由に動く足にある。


「最初からそうしてりゃいいんだよ!」


 血がしたたれ落ちる両足を駆けらせて、俺は呆けたように動かない変異体へと槍を突き刺す。


「ブゥゥゥゥゥゥゥ!!」


 悲鳴が駐屯地に木霊した。

 俺はそれから、引き抜き、突き刺す、引き抜き、突き刺す……繰り返し続けた。

 緑の鮮血で俺の体はべとべとになる。


 狂ったように刺し続けた。


 ブンッと奴が痛みをもがくように、激しく尻尾を振る。

 俺はそれを危険視し、後方へと低く跳躍した。


 再び槍を構え直し、奴に向かって大きく跳び込む。

 その行動は空中で阻まれたのと同じものだ。だが、今回は押し切る!


 待っていました、と振り上げられた尾は俺を狙い横殴りで振った。

 その尻尾に俺は迷い無く受けて立つ。接近してくる尾に槍を向け、穂先で貫く。


「ウゥゥゥゥッ!」


 短く呻り、俺の槍が突き刺さった尻尾をそのまま俺へとぶつけてくる。

 メキッと肋骨が軋んだ。


「がはっ」


 体内から込み上げてくる血を軽く吐き捨て、俺はそのまま吹き飛ばされながら槍を奥へと押し込んでいく。

 ブンブンと振り回す尾に纏わり付き、放さない。

 槍をその動きに合わせて、上下左右へとずらしていき、体を抉っていく。


 その間、何度か地面へと叩きつけられたが、特に問題は無い。肋骨を数本と、背骨にひびがいった程度だ。

 その代償で、俺は奴の尻尾を完全にずたずたにし、引き裂いた。


 奴は怒ったのか呻るような咆哮を上げ、俺を威圧する。


「面白いのはここからだ……」


 怪我をものともしない体は、俺を狂気へといざなう。

 懐かしい感じだ。心地良い……。ゆだねてしまいたくなる。


 俺は狂ったように笑みが零れた。

 本能がうずく。


 俺はそれに呼応するように奴へと槍を突き立てた。

 体を震わせて抵抗してくる。そして、俺にヘッドバットを喰らわして来た。奴の頭部の大きさから、尋常ではない衝撃が俺を襲う。


「っぐ」


 衝撃だけが俺に伝わり、左腕がひしゃげた。

 後ろへと飛ばされた体を地面で擦りブレーキを掛け、すぐさま奴の頭部へと突っ込む。

 俺に頭突きをするために低い位置に来ていたため、俺は斜め前に跳ねる感じで、右腕一つで槍を突き出した。


 奴の頭部へと乗り、その上で何度も槍の穂先を突き立てた。

 振り回す尾はもう無い。この位置ならあのレーザーも不可能だ。


 俺は抵抗する力を徐々に失っていく奴の上で、槍の舞を演じた。

 只管ひたすらに攻撃を加える。


 刺し、抉り、削り、切り、砕き、貫き、突き、打ち……………………。


 体が弾かれれば、すぐに戻り、また槍を突き立てる。


 緑の鮮血と赤の鮮血が交互に空へと舞う。

 全身を血に染めて、砕ける体を本能のままに動かし、戦い続けた。


 それは既に、怪物同士の争いだ。俺はそれを理解し、受け入れながら戦った。


 一際強力な一撃をかましたところで、奴は動かなくなった。それでも俺は狂ったように槍を刺し続けた。

 まるで……この戦いを終わすのを惜しむように……対戦相手を目覚めさせようとするように…。


 俺は奴の死を遅れて認識すると、腕の動きを止め呆然と立ち尽くし、そのままプツンと意識が途切れ気絶した……。



 消えゆく意識の中、俺はただ…………空虚だった。

 どうしようもないほどに、俺は、空虚だった…………。

ひ、ひぃぃぃぃって感じに直輝が狂ってます。別に著者は狂ってません、これが平常……いえ、狂ってるって事にしましょうか。

そろそろ今回の水道局編は終了へと近付いて……いるのかな? 微妙です。


次回予告?

深いまどろみへ直輝は落ちて行く。そこで見たものとは!?

こんな小学生って存在するのかって感じに物語りは回って行く。

(……最近の小学生はどうなんでしょうね)

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