第四十七章 ちょっと力の差いってくる
誕生を迎えた蛇の様な変異体は、空中で優雅に身をよじらせる。それは奇妙で、寒気がするおぞましい生物にしか見れず、剥き出しの殺意と悪意を感じる。
まるでこれから人間達をどう料理するかを考えているようだ…。
(もう逃げられもしない。主の覚悟…見させてもらおう)
「ああ、見せてやるさっ!」
自分でもわかるほどの見事な虚勢だ。俺は正直、怖気付いている。
奴を一目見れば、その戦闘能力の高さと、危険性は理解できる。それぐらいには、俺の目は鍛えられているが、それが今では仇だ。何も分からない馬鹿なら、恐怖を知らずに突っ込めるものを、これでは戦法がどうしても消極的になってしまう。
(来るぞっ!)
恐怖を抱きながらも、身構える体を緩める事はなかったので、奴の巨体によるテールアタックを後ろへ跳躍し、難なく避ける。
周囲の建物を薙ぎ払い、砂埃を立てるのを着地地点である、建物の屋根から確認した。
ああも無差別な攻撃をされては、俺の高所での足場が無くなってしまう。
奴は砂埃の中、体を丸め、とぐろを巻く。その体勢で、10メートル離れた俺の気配を察知し、口を開く。
「また…あのレーザー攻撃か」
奴の喉奥から光が込み上げ、口から眩い光が溢れ出す。
横に跳べば回避できるか…?
考えているだけでは仕方が無い。まずは行動だ。
俺は右側に低めにジャンプし、位置を移動する。それと共に、奴の口も動く。
やはり…タイミングを見計らうしかないか…。それとも棍棒で防げるのかな?
(奴の攻撃を今の主の武器で防ぐのは無理だ。強度が足りておらん)
思考を読みやがったアトゥなんとかが助言をくれる。ありがたいけど…なんだか複雑。
ん? でもアトゥなんとかの言葉は何か変だぞ?
「今は、ってどういう意味だ?」
(単純な話だ。主が同化に慣れていないこと、武器が私の本来の型ではないこと…大きな理由はその二つだ)
「そうか…」
剣を使わない事を叱られているみたいで、なんだか気分がブルーになる。
まぁ…とりあえず防御は無理っていう結論か。
まだ奴はチャージ中らしく、光を噴水のように口から溢れさせながら俺へと向け、制止させている。
放たれた後に回避はまず無理だろう。相手は偉大な光様だ。そうなると、予測し放つと思われるタイミングでその場からすぐに移動し、避けるしかないだろう。
「…………やるしかねぇよな」
何かしら放つ前に挙動を見せる筈だ。それを見逃さなければ…低い確率だが、行けなくは無い筈。
決闘での最初の出方を決めるように、張り詰めた時間がゆっくりと流れる。
………刹那、奴の頭部が揺れた。
今っ! 俺は右に大きく跳躍をした。
宙でまだ移動中の状態で、俺はさっきまで立っていた地点を射抜く光の線を確認した。
「なんとか避けられはするか…」
建物ではなく地面に着地し、奴の頭部を見上げる。
今がチャンスか…? つーか行くしかないか?
「やられてばかりは性に合わんっ!!」
まだレーザー攻撃をしての反動か、次の動きを見せない奴の巨躯へと接近する。
その間、奴の抵抗は無い。完全に俺を始末している気でいるのか?
まぁそれでもいい。そのチャンス、俺が存分に生かしてやる!!
「はぁぁぁぁあっ!!」
奴の地面へと這う部分に棍棒の一閃をくわえる。集中された俺のパワーはさっきまでの比では無いのは理解しているが、奴の表皮の硬度の変化があることをすぐに感触で認識する。
少なくとも、さっきの変態途中よりは柔らかい。
もちろん、柔らかいといっても相当の硬さを持っているのには変わりなく、油断など生まれる筈がない。
俺の攻撃は、奴の体へと減り込んだ。
打撃武器としては正しいダメージの与え方だが、使い方を熟知していない俺にはやはり反動を殺しきれず、腕への負担はある。
「もう一発っ!!」
一部を凹ませた程度で怯むことすらない奴へ、俺は追撃をかます。
ズズッと棍棒が奴の体へと吸い込まれるように打ち込まれる。
その一発ごとへの集中で、奴の体の変化を気付けなかった。
奴の頭部とは逆の先端部分が、細くなり尻尾のように変化していた。その尻尾を鞭のように地面を叩き、砂埃を起こす。
来る…それを理解した時には手遅れだった。
奴の尖った尻尾は俺を捉え、捕捉できないほどの速さで振った。
「うぐぅっ!!」
周囲を薙ぎ払うような動きをした尻尾が腹部を強襲する。
そのまま俺の体は吹っ飛ばされた。
建築物の壁へと背中を強打し、呼吸が止まる。すべるようにして、俺の体は壁伝いに地面へと落ちた。
「いっつぅっっ!」
もう痛覚を麻痺させていないので、半端じゃないほど痛い。それに苦しい。
奴は既に次の行動へと移っていた。頭部をこちらに向け、チャージ中だ。
(肋骨を数本やられたが、問題は無い。動きに支障は無いはずだ)
「ああ…本当にもう人間じゃねぇな…」
(私の再生能力は他の水潔獣の比では無い)
「……そうかい」
まぁゾンビみたいなアズハや美影ちゃんをみたいとは思わないけどな。
「さて、今度こそ奴の変態は終了だろうな」
俺は立ち上がり、棍棒を持つ右腕をダランと下ろす。
防御は無理らしいし、またタイミングを取って避けるしかない。
「さぁこいよ」
そして、奴は癖なのか、必要な動きだかはわからないが、頭部を震わせた。
俺のその動きを見て、すぐに上へと跳ぶ。
跳び立ち下を見ると、眩い閃光と共に一筋の収束された光線が通り抜けていく。
まさか目視できるとは…恐るべき『ダイバー』の動体視力。
今回はただ上に真っ直ぐ跳んだだけで、座標はずらしていない。なので、そのレーザーが削って行った大地へと着地する。
「おっと…」
着地するにあたって、地面の変化に驚く。
水の流れた後のように、見事なまでに通り道を形成していた。
「あれの太いのに直撃したら死ぬな…」
改めて奴の攻撃力を認識する。攻撃力というより、ほぼ即死攻撃だ。避けなければ、THE END…大変わかりやすく恐縮です。
「接近すれば…あれはやってこないよな」
宙で体をぐにゃぐにゃ動かしながら、周囲を探る奴を見ながら作戦を練る。
速い動きには付いてこれないのか? それとも…フェイク? いや…あいつってそんな頭脳あんのかな。
「ヒット・アンド・アウェイ戦法でいってみるか…」
とりあえず突き崩せるようなところを攻めて行こう。こちらには考える脳があるんだから。
俺は出来るだけ建物に身を隠しながら、奴へと近付いていく。
やはり気付いていないのか、すぐに側まで辿り着けた。
「今だっ!」
俺は奴の下へと潜り込み、棍棒を空を薙ぐように振り上げた。
奴の表皮を歪めさせる。
すぐに引き抜き、バックステップで距離を置く。
俺が後方へと下がった時、俺が攻撃したらへんの箇所を奴の尻尾が強襲する。
「…この戦法ならいけるか?」
まだわからないが、身を隠していれば奴の攻撃は当たらずには済みそうだ。
俺はその戦法で繰り返し奴へとダメージを与えていく。
少しずつだが、奴の体が痣のように変色するのが確認できた。やはり、攻撃はくらっているみたいだ。
「このまま長期戦なら…倒せるかな……」
同化のおかげか、まだ肉体的疲労は感じない。精神的にはハラハラドキドキの展開が連続で続き、正直に言うと休みたいところだ。
「さて、行くか…」
身を隠す位置を変えるために、俺は奴にばれないように一歩踏み出した。
スニーキングみたいで周囲への意識が高まったていたおかげか、奴の不意打ち的なレーザー攻撃を避ける事が出来た。
「なっ!?」
奴の体は今までより高い位置で漂い、地面へと無差別に神の雷のような、SFものでよくある衛星からのレーザー攻撃的な……そんな恐ろしく、計算されたようなされていないようなレーザーを放つ。
俺はそれを間一髪で避けて、避けて、避けまくった。
なんだこの弾幕シューティングの耐久的仕打ちは……。奴のスペルカードは化け物か!?
いや…奴自身が化け物なんだ。
「こちらの戦法が気に食わないってか…おいおい、圧倒的戦力差で押し切るってのは馬鹿な上官がやることだ…」
愚痴をタレながら俺は避けることへの意識は欠かさない。
正面から挑めってか…。俺は出来れば御免だ。いくらなんでも格上過ぎる。
「くそぉ…いつまで続けやがる!?」
雨霰と降り注ぐ、閃光は周囲の地形すらも変えていく。
建造物を砕き、地面を抉り…………光が止んだ時には既に、そこは廃墟と成り果てていた。
「最終ラウンドには相応しいね」
上空でうねる奴が、ゆっくりと下降してくる。
俺はそれはまるで人間の運命を握っているような…そんな絶対的なものに見えた。
恐怖で震える体を好きなだけ震わせてやる。奴が下降し切ったら嫌でも戦わなくてはいけないんだ。その時感じる分の恐怖を今の内に味わっておけ。
(………主の判断、後悔することになったな)
「まだ決まっちゃいないさ…これからだ」
跳躍で届く高さまで降りて来た奴を睨み付け、俺は棍棒をグッと握り締める。
「やってやるさっ!!」
全力で奴へと向かって走る。
もう隠れる場所なんてすべて破壊された。正面から、自分の全身全霊を懸けた実力で挑むしかないのだ。
後はただ、正面から全力で、俺は死ぬ気で戦う。
きっと無謀で、湧き上がる何かも蛮勇しか過ぎなかったとしても………。
予定より長くなりました……。
戦闘はこの章で終わるような気がしたのですが、これから……って感じですね。あぁ……。
もう少し状況描写は細かくした方がいいですよね。一人称だと説明を入れすぎるのは変な気がして、少し対策を考えています。
次回予告?
直輝はすべてを懸けた一撃を放つが…………。
廃墟と化した駐屯地の中心で、遂に決着が!?
(うわお……なんか苦しい…………)