表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/68

第四十一章 ちょっと遭遇いってくる

 もうお昼となったのだが、水害獣が出現した事を告げるサイレンは鳴らない。

 昼食はアズハが持って戻ってきた。


 その昼食を生活スペースで三人で美味しく頂き終わり、時刻は一時二十七分。

 かれこれ、十一時間は水害獣が現れていない事になる。


「もう全滅したのかな?」


 俺の素朴な疑問にアズハは少々唸り、考え出す。

 美影ちゃんは食後のお茶をすすりながら、少し表情を険しくした。


「その可能性が無い訳じゃありません。ですが、まだ油断は出来ません」


 口を開いたのはアズハだった。口調は少し強めで確かに引き締まってる感があり、油断は無いようだ。


「そうですね……。出現ペースが乱れたのが終わりを意味するのか、何か異変を意味すのかはわかりませんが、まだ油断をするべき時じゃありません」


 お茶をグッと大きく一飲み行った美影ちゃんも同意見のようだ。


「そうか……」


 逃げようとしていた事は否定しない。これで水害獣の出現が止まれば、戦わずに済む。つまりは、同化をする必要も無くなる訳だ。

 本当に俺は情けない奴だ。


 その日は一日、俺は戦う理由というものを二人に協力してもらい探したが、結局は見付からなかった。

 そして……水害獣は出現しなかった。



 12月28日。ここに着て二日が経った。

 昨日の晩はとりあえず、アズハの言って通り、寝る場所が確保され俺も一応は人並みの寝床を得た。

 そして、決していい目覚めではないにしろ、前日の疲れはそんなに残っていない。


「おはようございます」


 目をぱちくりさせていると、同じく目覚めたアズハに朝の挨拶をされた。


「おはようございます。夜も結局、こなかったですね」


「そうですね。正直、助かりますが……不気味で、何が起こるか恐いです」


 会話を終え、俺は洗面所へ行って顔を洗った。鏡で見た俺の顔は、酷く情けない。まるで、アトゥなんとかに毛を埋め込まれた時のようだ。


「俺も……兄さんみたく自分探し旅でもしてみようかな」


 半分程本気で、俺はその言葉を漏らした。聞かれていたら完全に痛い子だ。


「自分探しの旅って……何をするんですか?」


「はひっ!?」


 鏡を見ると、まだ寝惚けているのかいつも以上にポヤーっとした美影ちゃんの姿あった。

 寝癖なのか綺麗な山吹色でストレートな髪が少し乱れていた。


「何をそんな、おどろ、」


「うわ〜〜〜!! お婿に行けない〜〜〜!!」


 もう無我夢中で洗面所を走り出て、そのまま司令室から出て外まで行ってしまった。


 28日はこんな事があったぐらいで、何も進展が無かった。

 どうしても、後一歩……何かが足りないのだ。



 そうして、俺は29日を迎えた。

 昨日も水害獣は出現せず、駐屯地の空気は少し和んでいた。しかし、アズハと美影ちゃんは相変わらず厳しい表情だ。

 今日こそは……と思うが、やっぱりこういうのは切っ掛けといのが重要だよな。


 そういえば、アトゥなんとかはどこに行ったんだ? 俺に覚悟が出来てもあいつが居なきゃ意味ねぇじゃん。


 時刻は十一時二分。俺は外に出て、頭のリフレッシュのためにストレッチをしている。

 保健体育の授業で心身相関という言葉を習った気がする。確か、心が暗くなれば体もだるくなる、みたいな。よくは覚えていないが、とりあえず心と体はお互いに影響を与えてるって感じの言葉だ。


 つまりは、体を動かして肉体的にすっきりすれば心も晴れるはず! というそのまんまな作戦な訳である。

 とりあえず、父さんに剣術を習っていた時にしていた準備大層で体をほぐしてみる。


 まずは普通に、筋や間接を柔らかくする。

 次は、型の動きを剣を握らず足運びだけを意識して繰り返し行う。


「未練がましいな、俺は……」


 本来なら俺は剣を握る事をおろか、その動きもすべて止め……完全に決別しているはずだった。

 もう……剣は捨てたはずだった。

 それなのに俺は、我慢できず……たまに、素振りや型の練習をしていた。


 今もそうだ。俺は、父さんの教えを頭の中で反芻はんすうしながら、足の動きの細かな所まで、チェックしている。

 だけど……やはり胸がチクチクと針で刺さられるような後ろめたさはあるが、集中出来る。


 少し動きが鈍くなっている。

 ここは、右足にもう少し体重をかけ、バランスを……。

 この時の足の動きは踏み込むのではなく滑り込むように……。


 そんな風に……俺は自分の動きに不満があるところを指摘し、より無駄が無く効率的な動きを追求する。


「はぁ……はぁ……はぁ」


 気付くと、俺は周りの存在を完全に思考の外にやり、体力が切れるまでやってしまった。


「はぁ〜……女々しいな俺は」


 動き終わった後の脱力感には、罪の意識がにじみ、より俺の体を重くさせる。

 確かに気分は変えられた。だが、到底……リフレッシュなどではなく、また別の暗い心になっただけだ。


「戻ろう……」


 俺は作戦司令室へと戻る事にした。

 少し俯き気味にトボトボと歩く。

 行き交う人々の顔には、もう緊迫感は無く、少し緩み和んでいる。


 俺と同じように、ここの大多数の人間が水害獣の出現が終わったと考えているのだろうか?

 だから皆、こんなに穏やかな顔をして笑っているのかな…。


 戻るまでの間に出会った人のほとんどが、今の状況に油断していた。



 一時……正確には一時二分、遂に……第二十二波の水害獣が出現した。

 やかましいサイレン音が響き渡る。


『所定の位置につき、水害獣の出現に備えて下さい』


 慌てた女性の声がアナウンスを流す。

 それが駐屯地に滞在する兵士たちに更なる焦りをつのらせている事だろう。


 『清き水』の隊員は指令室内での会議中に、その音を聞いた。


「直輝さんはここで待機を!」


 サイレンの音が鳴り響いたのとほぼ同時にアズハと美影ちゃんが走り出す。

 俺は言われた通り、手を振って、見送る事しかできない。

 本当に、情けない。


 俺は諦め、生活スペースでボンヤリと戦う理由を脳内で模索した。

 当然の如く何も浮かばない。

 もう気が気じゃない。怪我人の美影ちゃんを黙って見送ることしか出来ないのは本当に悔しいし、自分が汚く思えてくる。


 時刻は二時三十分を回った。今回も随分と遅い。

 俺は二人の無事を祈る事しか出来ない。


 三時を回った。

 二人はまだ戻ってこない。


「まさか……」


 嫌な想像が頭をぎる。

 不安と罪悪感が体の中で暴れ狂い、俺をおかしくさせる。


 抗えない衝動を抑えるために、自傷行為へと走ろうとしたその刹那、小さな揺れを感じた。


「地震……?」


 揺れ幅はどんどん大きくなり、その頻度も増え、家が震動する。


「な、何が起きてんだ!?」


 揺れでバランスが保てない体を柱で支え、外へと繋がる扉を目指す。

 俺の動きを妨害するように揺れがでかくなって行く。



 そして、世界が揺れた――――。



 まるで世界が生まれ変わるような、そんな……激しくも儚げな衝撃。世界の脈動。

 俺はその一際大きい鼓動に吹き飛ばされるように仰向けで床に強く打ち付けられる。


「いっつッッ……! 何が起こってんだ?」


 体を起こし、外への扉に手を掛け、開け放つ。

 外は、騒がしかった。皆、異変を感じ取っているようだ。水害獣出現から、まだ臨戦態勢にいるであろうから、迅速な対応が出来ただろう。

 揺れは弱くなったが、まだ続いている。


「まさか……水害獣…………」


 悪い予感は当たって欲しくないものだ。ここまで水害獣が来てしまったという事は、『水の世界』の前線に立つ二人がやられたことになる。そんなものは御免だ。

 俺はどこかに行かなくてはいけない訳でも無いのに、自然と足が走り出そうとする。


 一歩……足を進めた。だが、足はそこで止まった。

 目の前に……灰色のボールが一つ浮いている。大きさはバスケットボール程あり、ただ空中に漂っている。


 まさに、局長が言っていた通りの姿形をしていた。


 そう…………水害獣だ。


 俺は警戒心を極限まで高める。そいつとの距離は、目算で2メートルちょい。

 L1の水害獣は特に何もしてこない。


「………………」


 真ん丸とした灰色のボールは風にそよぎ、フラフラと揺れる。

 本当に危険なのか…? 何も危険性を感じないが……。


 奴は目が無く、睨めっことは言えないが、俺は穴が開くぐらいに凝視した。

 警戒を強め、奴へと一歩にじり寄る。


 その時、銃声が鳴り響いた。警察の威嚇の為の一発とかそういう平和的ではない、機関銃だ。

 機銃を連射する発砲音が駐屯地を支配する。

 そしてそれと共に、各地から人々の怒声が響き渡る。恐らく、指示の声だ。

 こいつ以外にも水害獣が居るのかもしれない。


「もう……現実から目をそむけるのは無理か……」


 『水の世界』で何か異常があったのだ。それだけは確かだ。

 俺は…二人が死んでいない事を祈る。

 だが、もしも――――――。


「クソがっ!!」


 最悪の未来が正確に脳内でイメージされ、血塗れの二人の姿を映し出す。

 そのビジョンは俺の心の一部を麻痺させた。

 俺は横に積み重なられていた鉄パイプの一本を手に取る。長さは1メートル弱、ちょうどいい。両手でしっかりと握り締める。


 ゆっくりと鉄パイプを頭の上へと持っていき、構える。


「お前らがなんなのかなんてのはサッパリだ。だけど、」


 握る手が僅かに汗をかく。そして、全身が少しだけ震えた。


「もしも……あの二人に何かあったのなら、」


 目を数秒瞑り、ゆっくりと開く。


「貴様らは一匹たりとも生かしてはおかないっ!!」


 そして、目の前にプカプカと優雅に浮いている水害獣に、全力で鉄パイプを振り下ろした。



 この一撃が俺の水害獣への宣戦布告となった。

 俺は、少し答えへと近付けた気がする……。

なんだか今回の章、納得が行かない。(文章的な意味で)いつもの調子で書いたのだけど、どうも読み辛い。

内容の変更は無いと思いますが、もしかしたらこの章は大幅な修正をするかもしれません。


次回予告?

鉄パイプ片手に戦場へ参入!?

だが、そこにビックなゲストが登場し……危機に陥る。

(さぁ……遊びすぎですね)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ