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第四十章 ちょっと苦悩いってくる

「やっぱさみぃ……」


 草むらで寝転がるのはいいが、やっぱり暦は冬であって、寝袋無しの野宿はしんどいものがある。

 上半身を起こし、一段下に広がる光の群れへと目を向けた。

 さっきまでより光が点滅し、緊急事態を表現している。


「俺、なにやってんだろ……」


 もっと真剣に考えなくてはならないんだ。だが、どうも……考えられない。

 場所は悪くは無いと思うけどな。

 一度、司令室の方に戻るか? リフレッシュのために料理を作るとか。


 何をするにしろ、ここでは何も思い付きそうにないので、司令室へと戻る事にした。



 司令室がある仮設住宅っぽい建物に辿り着くまでに、6回人にぶつかった。

 その六人中六人が、なんの謝罪もせず走り去った。

 緊急事態というのは理解しているが、なんだか俺の存在をスルーされているみたいで悲しくなる。


 生活スペースの台所へと足を運ぶと、特に問題なく料理が出来る設備が整っていた。後は食材だが、冷蔵庫はどこだ?

 きょろきょろと辺りを見回すと、それっぽい小型の箱を見つけた。


 キッチンはちゃんとしているのに、冷蔵庫は随分と小さい。

 とりあえず開いてみると、中にはたいした物は入っておらず、ほとんど調理ではなく、レンジでチンで済むものばかりだ。

 この家の持ち主の生活と性格が窺える冷蔵庫の中身だ。


「料理は諦めっかな……」


 とぼとぼとソファまで歩いていき、勢いよく飛び込む。


「……ヌグホッ!!」


 ソファのちょうど金具の部分に突っ込み、激痛が走る。

 くそぉ……今日は厄日なのか? つーか最近は毎日が厄日だ。


 ソファの上で痛みにのた打ち回りながら、不幸な自分に同情と嫌悪をする。


「あぁぁぁ……!」


 落ち着きを取り戻し、俺はソファに仰向けで寝転んだ。

 天井は余り高くなく、ジャンプをすれば頭で突撃できる。でも、ソファに寝そべりながらだとやけに高く見えた。


「なんだかな〜……」


 急に物悲しくなってきた。

 あー……俺、本当に何やってんだろうな…………。


「美影、着いたよ」


「うん……」


 ドアが開く音がした。どうやら二人が戻ってきたみたいだ。

 時刻はもう十一時過ぎだ。今回は大分時間が掛かったようだ。


「二人ともお疲れ様です」


 ねぎらいの言葉がなんだか皮肉っぽくなってしまい自己嫌悪する。

 ソファから起き、入ってきた二人を見る。


「え……?」


 アズハと美影ちゃんがそこに居た。これは問題は無い。

 問題なのは、美影ちゃんが……左腕に包帯を巻いているということだ。


「直輝さん大丈夫でしたか?」


 美影ちゃんが弱々しく微笑む。


「大丈夫って……それはこっちのセリフだろう? その怪我」


 アズハが美影ちゃんを一瞥いちべつし、ゆっくりと口を開いた。


「軽傷ですよ。もう治療も済ましてきたので大丈夫です。直輝さんは何も心配しなくてもいいですよ……」


 アズハの言葉に美影ちゃんも便乗するように続く。


「そうですよ。私の心配はいいですから、自分の事を考えて下さいね」


 二人は固い動作で洗面所の方へと歩いて行く。俺はその背中になんの声も掛けて上げられなかった。

 どうしようもないほどの罪悪感と、現実というものを突きつけられた気分だ。


 俺は……何やってんだ?

 絶望色に染まって行く。


 戦場に向かい怪我をした美影ちゃん。水害獣との戦闘はどんな戦いなのかはわからないが、少なくとも戦いなんだ。死が付き纏うことを理解していたはずだ。

 なのに……俺は、一人のんびり何をやっていた?


 考える事を放棄して、何をやっていた?


「くそぉぉぉっっ!!」


 ソファを思いっきり殴りつける。また、金具に当たったが、今度はその痛みを素直に受け取る事ができた。




 その後、二人が洗面所から戻ってきた後、平静を保つので精一杯だった。

 三人で生活スペースで戦いを忘れるように談笑をしていると、扉をノックし軍の人が入ってきて、食料の支給をしてくれた。

 こういう食事はしょぼいものを想像してたが、やけに豪華だった。これも、『清き水』の特別待遇なのだろうか? そう考えると、能無しの俺は罪悪感を抱いた。


 食事を終え、時刻は既に十二時を回り、日が変わっていた。

 水害獣が来るまで仮眠を取ることに成り、ベットが一つしかないので、そこは美影ちゃんに譲られ、アズハはソファで、俺は床で寝ることにした。

 アズハが床は冷たいから、とごちゃごちゃ言ってたが、俺は軽くスルーし床になった。


 やはり、というか冷たいし、寒い。

 寝る前にアズハが明日にはどうにかする、とは言っていたが、この冷たさというかこの待遇はなんだか罰を受けているみたいで落ち着く。

 なんとか俺は、眠りにつくことができた。



 夜中にサイレンは鳴り響く事無く、朝までぐっすりと眠る事ができた。

 冷たい床から体を起こすと、アズハと美影ちゃんはまだ寝ていた。


「やっぱり疲れているのかな……」


 そう思うと、更に罪悪感で胸を締め付けられる。



 一時間後、午前九時頃になって二人は目を覚ました。

 寝惚ける二人にほのぼのとした日常を感じたが、その後すぐに軍人さんからの朝食と衣服の支給が来て、打ち壊された。


 服を着替え、顔を洗った後、三人で食事をし……なんだか普通の朝だった。

 十時頃になっても水害獣の出現は無く平和だ。

 今は、何か用事があると言って外に出ていったアズハは居なく、美影ちゃんとお茶飲み会に興じている。


 左腕に怪我をしていて、少し不自由そうだが、言っていた通りそこまで酷くないらしく普通に動かしている。


「美影ちゃん、その腕……大丈夫?」


 何故かキョトンとし目を丸くする。


「……あ、これですか。大丈夫ですよ。本当に掠り傷ですから」


「そう、か……」


 それでもやっぱり俺は罪を感じてしまう。

 そんな気持ちで飲むお茶は苦味を増して感じる。


「直輝さんは、『空を翔る罪深き剣の主』さんですから大丈夫ですよ」


「……え?」


 そういえば……初めて会った時もそんな事を言っていたような。つーか、何が大丈夫なんだ?


「その空を翔る罪なんとかって何?」


「直輝さんの二つ名ですよ」


「二つ名……?」


「はい」


 そんな清々しい笑顔をされても……。


「その二つ名ってなにかな?」


 美影ちゃんはお茶をテーブルの上に置き、自分の膝の上に手を置いた。


「占いみたいなもの……ですかね。えっと……言っても私を避けたりとかしませんか?」


 そう言う美影ちゃんは、膝の上で手を不安そうに擦り合わせている。


「へ? 何が?」


「これから言う事を聞いても私を気味悪がったりして欲しくないんです……」


 それは……どういう意味だ? 何か……事情でもあるのか?

 別に何があっても美影ちゃんを嫌うことは無いと思うけど……。


「何がそんなに不安なのかはわからないけど、別に気味悪がったりしないよ」


「そう、ですか……」


 俯き気味に、美影ちゃんは口を開き、『力』について語ってくれた。


「私は……自分で言うのもなんですが……超能力者です。『ダイバー』という意味ではなくて、私はそれとは別に『力』を持ってるんです。

 さっきの二つ名の事ですが、その人の目を見ると、自然にその文字が頭の中にイメージされるんです。他にも、人の目を見ると、少しだけその人の未来が視えます」


「それは……水潔獣の能力じゃなく、自分自身の?」


「そういう事です。でも、幼い頃から自分と波長の合う水潔獣とは接してきました」


 美影ちゃんはスッと息を呑み、虚空に名前を呼び掛けた。


「ルーメイ」


 すると、俺は美影ちゃんの横の空間に何かの存在を感じた。


「そこに居るの……?」


 俺はその空間を指差し、美影ちゃんに問い掛けた。


「ここに居ますよ。黄の毛色で、水色の瞳をしていて、とても大きいです」


 美影ちゃんに言われた特徴をイメージして、その空間を見詰める。

 その空間に段々と、うっすらとした水潔獣の姿が見えた。更にそこからイメージを具体的にして行くと、ハッキリと見えるようになった。


 そこには、言われた通り、もふもふとした黄色の毛に包まれ、水色の澄んだ瞳をしていて、軽く人の二倍はありそうな大きさをしている。


「これが、ルーメイ?」


「もう見えたんですね。そうですよ、これがルーメイです。私の初めてのお友達なんですよ」


 そう言って、美影ちゃんはルーメイの首に手を回し抱き締めた。


「私ちょっと病弱で友達ができなかったんで……だから、ルーメイといつも過ごしてたんです」


 人それぞれ過去があるのは理解している。でも、『清き水』の隊員たちはどんな過去を持ち、どのようにしてこの戦いに関わったのだろう……?


「……アズハとはどこで仲良くなったの?」


 俺の問い掛けで何故か美影ちゃんの顔に影が差す。

 スッとルーメイを抱き締めていた手を離し、また膝の上に戻した。


「アズハとは、水道局で……。私、小学生の頃から水道局育ちなんです。アズハもそのぐらいには水道局に居て……それで仲良くなったんですよ」


 ……小学生の頃から水道局で日々を送っていた。アズハの場合は、家族を失い国の保護を受けて、ここに居たのだろう。でも、美影ちゃんは……?


「美影ちゃん…………」


 訊こうとした、だが途中でそれを訊くのを躊躇い、言葉を止める。

 そうだ…最初に美影ちゃんが言ったじゃないか、気味悪がらないで……と。俺の想像だが、その希有けうな『力』のせいで……何かあったのかもしれない。


「どうしたんですか?」


 俺が言葉を言い掛けて止めたので、やはりというか美影ちゃんは疑問に思い、俺へ問い掛ける。


「い、いや……」


 何か誤魔化さないと……。何か、何か…………、


「そういえば、俺以外の人の二つ名は?」


 これは、俺にしてはナイスだ。


「他の人のですか……?」


 えーと……と、ルーメイの毛を弄繰り回しながら考えている。


「んーと…、アズハは『陰鬱な光の巫女』で、局長さんは『強心の支配者』さんです」


 なんか……っぽいぞ。アズハの陰鬱な、っていのは少し酷いが、局長さんのは本人のまんまだな。


「結構しっくり来るな。それに、それはその人物のその後も示している訳か……。だから占いね、納得だな」


「変な子だと……思わないんですか?」


 驚愕と不信を合わせた顔を俺に向け、せがむように言った。


「何が……?」


 何故か急に慌てだす。本当にどうしたんだ?


「その、私の言ってる事、変じゃないですか? ……変な子だと思わないんですか?」


 何を言い出すんだ? 俺なんか不味いこと言っちゃったかな?

 ちょっと不安になってきてそわそわしてくる。


「え……あ、俺なんか不味い事言った? それなら謝るけど……?」


「いや、あのそうじゃなくて……。その私の事変だと思いませんか?」


「……いや、別に。変じゃないと思うよ。まぁ不思議だと思うね。お茶とかどこから出してるかとか謎だし。それ以外はそんな人と変わらないよ。不思議な力なら皆持ってるじゃないか。アズハも局長も隊長も、それに一応俺も。

 何も変じゃないよ。未来が見える人なんてテレビつければ腐るほど居るだろう?」


「あ……あの……そうじゃなくて、」


 美影ちゃんは逃げるように視線を泳がせる。


「とりあえず、周りの目なんて気にしなければいいさ。美影ちゃんは美影ちゃんだろう?」


「あの……そうですけど…………そうですね」


 なんか呆れた感じな顔をされた。やっぱり俺なんか間違った?

 と思っていたら、俯き気味の顔を上げ、俺を真っ直ぐ見てくる。その顔は、綺麗な笑顔が咲いていた。


「直輝さんはやっぱり酷い人です。人が真剣に悩んでるのに……なんだかそんな自分が馬鹿に思えてきます」


 人を酷い呼ばわりしながらの笑顔はとても新鮮だ。普通味わえないよなこんなシチュエーション。いや、そんなことより、なんで笑顔で人をけなす!?


 まぁいいか……よくわかんないけど、美影ちゃんが笑ってるんだから。

 ルーメイも幸せそうだしね。


 俺は笑顔の美影ちゃんに何故か戸高さんを重ねた。もしかしたら、周りの目を気にしすぎているという部分が似ているからだろうか?

 ……過去の罪か。



 『空を翔る罪深き剣の主』という二つ名は何を意味するのだろう。罪深いのは、剣か、それともおれか。……そもそも俺はもう剣を握るつもりは無い。

 こんな調子で、俺は戦う理由を見付ける事が出来るのだろうか……?

ちょっと引き伸ばし過ぎですかね? でも……美影のことも出したかったので……OK?

ちょっと描写が足りない感がありますね。後で加筆しますんでご了承を。

(4月13日加筆しました〜)


3万PV突破! アクセス数6千突破!

ランキング上位の作品にはどうってことない事かもしれませんが、私の作品では小躍りするほどです。

読んでくれた方々へ感謝です!


次回予告?

逃げ惑うエキストラ……では無く、人々……。事態は最悪の方向へと走り出す。

そして遂に直輝に選択の時が迫る!?

(最初以外は真面目な次回予告。もちろん本当かどうかは知りません)

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