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第三十八章 ちょっともう一つの過去いってくる

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」


 全身から力が溢れて………………こない……。


「何故!?」


 光となったアトゥなんとかは俺を包み込むだけで、隊長がやっていたように体の中へと入ってこない。

 やがて光は同化を諦めたかのように、一箇所へと集まり再び金色の獣の形をとった。


「主にはまだ心構えが出来ていないようだな……」


 アトゥなんとかは俺を憐れむような眼で見てくる。


「心構え……? んなもん腹を括った俺にはとっくに出来てる!」


「だからだ……。必要なのは、諦めでも妥協でも無い。決意、覚悟……そういうものだ」


「…………それなら、俺は、出来ている」


 俺は覚悟を決めたからここに居る。当たり前だ。こんな馬鹿げで、命に関わる戦いに参加するのになんの考えを持たない訳が無い。


「ほう……なら、もう一度、やってみるか?」


 アトゥなんとかの挑戦的な言葉に俺をすぐに答えた。


「当たり前だ」




 その後、何度もトライしたが……結果は最初と同じで、光が体に宿るようなところまで行かなかった。

 別にアトゥなんとかを拒否するような気持ちは無い。なのに、何故だ?


「一度頭を冷やしてみろ、今のお主は私との同化は無理だ」


 諭すようにそう言い残し、アトゥなんとかは種無しマジックを使い、消えた。


「…………意味わかんねぇよ」


 俺はやり場の無い思いをさっきまで座っていた椅子にぶつけた。

 蹴飛ばされた椅子は、予想より小さな音を立てるだけで、後は寂しく横になるだけだった。


「なんなんだよ……」


 体を壁に預け、俺は一人寂しく項垂れる。

 サイレンが鳴ってから一時間ほどしたが、まだアズハと美影ちゃんは戻らない。

 もしかして、と考えると今の自分が腹立たしく、苛々する。そして勝手に想像の中で人を殺す自分に嫌悪だ。


 出来るならこんな人知を超えた戦いに参戦などしたくは無かった。だが、ここまで来てしまったのに戦力外なのは、なんだか空しく悔しい。

 やっぱり俺はノーマルで一般人で、世界の終わりが近付いても知ることが出来ないただのエキストラみたいなものなんじゃないか?


 現実世界から隔絶された作戦司令室の沈黙に、俺は埋もれて行く。

 役に立てない不甲斐無さ、その場に居るのに何もしてやれないというもどかしさ。

 前にも経験がある。荒内さんとの体育倉庫もそうだが、それ以上に自分の無力さを呪った過去だ。


 力が欲しい、知識が欲しい、金が欲しい……。

 求めるだけで、何もしてあげられなかった。


「ちくしょうっ!!」


 内側から洪水のように過去の悔しさが溢れた。


「どうすればよかったんだよ……どうすれば……いいんだよ」


 過去の様々な罪が俺を奈落へと導こうとする。俺に抵抗する力など無く、ズルズルと暗い穴へ引き込まれていく。

 思考はストップされ、虚ろな意識の中……扉が開く音を聞いた。


「直輝さん、……っ!? 直輝さん! どうしたんですか!?」


 扉から入ってきたアズハに肩を揺すられる。くらくらとしてなんだか気分が悪い。

 日が沈むのと同じように、俺の視界は段階を踏みながら暗くなっていき、最後には完全に真っ暗になり意識が途切れた。


 …………


 ……………………


 ………………………………



 俺は何も見えない真っ暗な空間を闇雲に走った。

 どこまでも、どこまでも、どこまでも、いくら走っても景色は変わらず闇。

 走らなくては……そう脳が訴える。

 なんのために……?


 その回答は示されなかったが、それでも走る事に疑問を抱く事無く走る。


 走り続けた。


 すると、闇の中に一筋の光が射し込んだ。

 俺はそこに向かって走っていく。


 光の出所へ着くと、視界が一気に開け、背景が病院の病室になった。

 病室は一人用で、ベットがポツンと一つだけあり、その上に上半身を起こす少女が居た。


「逃げないで!」


 俺の口が勝手に動いて、その言葉を紡いだ。

 少女はこちらを見ず、ウェーブの入った栗色の長髪で顔を隠し俯く。


「でも……失敗したら…………」


 再び俺の体が勝手に動き、ベットの方へと近付く。そして、少女の両肩を掴んだ。


「―――――――」


 俺はもごもごと何かを口にした。俺が喋ったのに、俺自身が何を喋ったのかわからなかった。

 少女は、驚き目を丸くさせたが、すぐに柔らかく微笑んだ。


「ワタシ……――――――」


 少女の言葉を受けて俺は少女を抱き締める。

 柔らかで、良い匂いがした。

 とても、幸せな気分になれた。


 視界がおぼろげになり出す。病室が激しい光に包まれて、やがてすべてが消えた。


 ………………………………


 ……………………


 …………



「ん……あ、れ?」


 さっきまでベットに寝る人と相対していたというのに、眼を開けるとベットに寝ていたのは俺だった。

 生活感溢れる作戦司令室の隣りの部屋のベットで俺は横になっていた。

 何故か背中にじっとりと汗をかいていて、気持ち悪い。


「何があったんだっけ……?」


 上半身を起こし自分自身に問い掛ける。


「作戦司令室の床で倒れたのをここに運んだんですよ」


「そうか……って誰かいたのか!?」


 すぐ横に、正座をし体がよく温まりそうなお茶をすする美影ちゃんが居た。


「その言い方、酷いです。私……ずっと看病してあげてたのに……」


 美影ちゃんが目元を潤ませ泣きそうな顔をする。


「あ、ごめんごめん! 看病してくれてありがとう」


 慌ててすぐさま謝罪とお礼を言う。


「しょうがないから許してあげます。でも、なんであんな所で寝ていたんですか?」


「いや、別に寝ていた訳じゃ……。それより、アズハは?」


「直輝さん酷いです。頑張って看病した私をほうって、すぐに他の女の人を……」


「あああ……ごめん! そういう意味じゃなくて、ただ……倒れた俺を運んだのをお礼言おうと思って」


 また慌てて俺は説明する。


「わかってますよ。アズハは今、お風呂です」


「あ……そうなんだ。じゃあ後で言うか」


 美影ちゃんは急須でお代わりを注ぎながら微笑む。


「その方がいいですね。行ったら犯罪です」チラッと俺の顔を覗き見る。「直輝さんはそんなことしないですよね」


「あ、ああ……。もちろん」


 何故か俺はうろたえてしまった。別に覗く気は無いが、美影ちゃんに言われて不埒な妄想をしてしまい、俺の言葉を濁らせたのだ。

 そんな俺を見てくすくすと笑いながら、美影ちゃんはどこからともなくもう一つ、湯呑みを出し、お茶を注いだ。


「乱れた心にはお茶がいいですよ。心が安定して落ち着きます」


 妄想の事を言ったのか、倒れた事を言っているのかはわからないが、俺はお言葉に甘えて、差し出すお茶を受け取った。


「いただきます」


「どうぞ」


 湯気の上がる熱いお茶を少量、喉に流し込む。

 前に飲んだものより苦味が強く、つい顔をしかめてしまう。


「人に心配掛けた事への反省のお茶です」


 澄ました顔でお説教っぽく美影ちゃんは言った。


「……心配掛けてごめんなさい」


 苦味で顔をしかめながら、反省していることを示すために全部飲み干した。


「もう一杯飲みますか?」


「いや、それはちょっと……」


「冗談です。もう反省してるのはわかりましたから。……でも、なんで倒れたんですか?」


 直球ど真ん中の質問が飛んできて、俺は正直…回答に困った。


「ん……ちょっと……」


「そういえば……戻ってくる時にアトゥムルスに会いましたけど、もしかして…同化の練習をしていたんですか?」


 アトゥムルス……? ああ、アトゥなんとかの正式名か。


「まぁそうだけど」


「何度も?」


「何度も」


「…………だからですか。初めの内は同化は体に大きな負担が掛かるので、体調を崩したり意識が飛んだりするので」


 そうか、あれは精神的に来るだけじゃなくて肉体的にも負担が掛かったから、あんなにネガティブになったのか。

 美影ちゃんは、大きな溜息をつき、


「無茶はしないでくださいね。焦らなくても、L1なら私とアズハだけでなんとかなりますから……。それに、同化が出来るかどうかは、心の問題です。焦るのではなく、じっくりと考えて下さい」


 と長々と説明された。

 微妙に用無し宣言されたような気がしたが、気にしないことにした。


「わかった……。もう少し、冷静になってやってみる」


 俺の言葉に美影ちゃんが微笑む。


「そうして下さい。それじゃあ私も、汗を流してくるので……」


 美影ちゃんは茶飲み道具を片付けると、すたすたと風呂場の方へと歩いていった。

 ……アズハが入ってるって言わなかったっけ?

 二人で入るのかな。本当に仲がいいんだな〜。


 美影ちゃんが部屋から去り、俺はまた一人となった。


「……それにしても、なんでこのタイミングであれを思い出したんだろう」


 今は過去を振り返ろう週間とかいうキャンペーンでもやってるのか?

 忘れたつもりは無いが、ハッキリとここまで記憶を振り返るのはそんなに無い。戸高さんの事は夢で見たり、アトゥなんとかの事があって振り返ったが、今度は中学の思い出か。


 本当に……俺は馬鹿をやり過ぎだな。

 どれだけの後悔をすれば馬鹿って直るのだろうか……。

 それとも、馬鹿につける薬は無いって感じに、永遠に直らないのだろうか。


 罪はあるより無い方のがましだ。だけど、今の俺はこの罪があるからこそなんだろうな。


「背負う覚悟はあるけどね…………」


 誰かに語り掛ける訳でもなく、俺はもう一度……弱々しくだが背負う覚悟を引き締めた。

 もう振り返るだけで、取り返す事は出来ないけど……いや、だからこそ……俺は背負おう。ずっと、ずっと……苦しみを刻み付けよう。



 初めての任務は、戦闘技術の上達、『ダイバー』というものの理解を深める、そんな当初の目的を無視し俺の過去を嫌というほど引き出した。

 俺は、同化に成功した時、どんな答えを出しているのだろう……。

ちょっと考えていた方向から290度ぐらい曲がりました。曲がりすぎかな……。

直輝のこの過去はまたあとで出そうと思ったのですが、ここでいいかな、と。まぁどんな過去なのかは詳しく書かず内容は後で、です。


次回予告?

水害獣の出現は止まらず、その数は増えていく……。

過去に囚われた直輝は、果たして答えを出せるのか?

(うお……またまともな次回予告)

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