表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/68

第三十六章 ちょっと戦う敵いってくる

 隣りに俺が座るのと同じデザインの椅子にチョコンと座り微笑を顔に貼り付ける美影ちゃんは、どうしてもこの場の雰囲気に似合わず浮いている。

 しかし、水害獣の討伐に共に行くという事は『ダイバー』なのだろう。この道に関しては俺より先輩かもしれない。いや、先輩に違いない。


「日下部くん、前に水害獣の概要は説明したね。……今日はもっと見た目や行動、きみのこれからの戦いでの重要である事を話そう」


 美影ちゃんを見ていて少し集中が途切れていた俺は、再び気を引き締める。

 執務机に座る局長は両肘を机につき、仕事用の顔へと切り替え、淡々とした声で説明を始めた。


「水害獣と言っても、様々な種類が居る。まずはじめに、幼生体。

 幼生体との遭遇はあまり見られない。その理由はいたって単純に、成長しなくては彼らの使う移動方法に耐えられないからだ。原理は『ダイビング』に近いものらしく、恐らく体に大きな負担が掛かるのだろう……。

 そして…もう一つ、来る必要が無いからだ。彼らの詳しい生態系は不明だが、一般的な動物と同じく、狩りをするのが親……つまり成体であると考えられるからだ。わざわざ他の生物を襲わなくても成長出来るのだよ。

 二つが大きな理由だが、裏付けるものはないのであくまで仮定ということになる」


 説明の合間に俺の顔を話を聞いてるかどうか確認するように見てくる。

 見られるたびに俺は動揺してしまう。水害獣について語る局長の瞳はいつも以上に強力な光を宿している。


「さて、特に幼生体は気にする必要は無い。問題はここからだ。先ほどまでに少し出たが、成体について話そう。

 成体、または基本種と呼ぶその生物こそが、我々の言う水害獣だ。L1と言ったが、ある情報を元に成体をL1からL10に分けている。


 この(レベル)というのは、危険度の事だ。つまり今日、日下部くんが向かう地にいるのは危険度が最も低い、最弱の水害獣ということになる。だが、たくさんの種類が居る訳ではない、L1はL1という水害獣という意味だ。

 ボールに例えよう。L1という種類のボールがある。赤や青、黄……様々な色のボールがある。だが、水害獣の場合は、その中の一色で大きさもほぼ同じ。L1と言われて、想像した姿がすべてで、その一色のボールがL1のすべてなのだよ。

 もっと言ってしまえば、成体は十種類しか居ないということだ。


 そして、ここからが重要だ。L1でも成体は成体、これ以上の変化は無い。もちろん…例外はあるが、原則…最終形態ということだ。つまり、L1は何時までたってもL1、L3はいくら時間が経ってもL3ということになる。

 理解できたかな?」


 俺は頭の中で情報を自分なりに整理し直し、こくりと頷く。


「では、先ほどの例外について話そう。彼らは何が原因かは不明だが、成体から何かしらの刺激を受けると変異する。この変異をした成体を、変異体、または奇形体と呼んでいる。

 具体的に奇形体というのは、そのままの意味で、元の成体とは形、大きさ…など見た目が異なるものだ。形だけの変化でこれにはさしたる問題は無い。問題なのは変異体だ。


 変異体、見た目はもちろんの事、その生物の性質、気性までも変化する。これには基本種と同じ対応は出来ない。全く別の生物として考えるしかないのだよ。

 そして一番厄介なのは、変異体はその場限り、一代だけのたった一体だけの生物ということだ。情報が無く戦闘に備える事が不可というのを意味するのだよ。


 だが、さいわいにも、この奇形体と変異体は滅多に現れない。これが唯一の救いだよ」


 横に座る美影ちゃんは、どこか楽しそうに高めの椅子なので床に付かない足をぶらつかせている。俺はその姿を見て少し恐くなった。

 彼女にとって水害獣という存在は既に現実であって、それとの戦いは当然の事、そんな思いを感じる。

 俺の変化を気にせず局長は続けて語る。


「さて、ここからは私の主観の話だ。実際に私が出会った水害獣は、L8までだ。今は時間が無いので一体ずつの細かい説明は出来ないが、きみが赴く戦場に居るL1について説明しよう。

 L1の戦闘能力は油断さえしなければ皆無に等しい。彼らの姿は、宙に浮く灰色一色のボールだ。大きさはバスケットボールほどある。

 彼らの攻撃方法は、噛み付きと汚染物を飛ばすだけだ。稀に奇行をなす特殊な個体も居るが、それも油断させなければ対処に困る事はない。


 また、積極的にあちらからこちらに向かってくる事はない、これには一つ仮説がある。彼らL1の目的が環境の汚染と考えられるからだ。他の水害獣にも該当するが、L1はその活動が一番活発なのではないかと考えれている。

 これには裏付けがあり、確かに他のLより汚染するスピードが早いのだ……。実際の所は不明だが、この仮説が最も可能性があるだろう。


 また、L1が単体で現れる事が珍しい事からも、役割分担で汚染を受け持っているのではないかという仮説もある」


 局長は語り終わったと言うように、一度目を閉じて黙り込む。

 チャンスかと思い質問を口にしようとしたが、ナイスなタイミングで局長の口が再び開いた。


「今回のL1の大量発生は正直、前例が無く異常だ。だが、チャンスでもある。L1との戦闘で少しでも水害獣というものを直接体感し、知ってもらいたいのだよ。

 もしもの場合のために、不来方くんの同行、そして現地にはアズハくんも待機させてある。万が一不測の事態になったとしても問題は無いはずだ……。

 話は以上だ。細かい指令は現地の部下に任せてある。では、気を付けて行き給え……」


 俺たちが口を開くのを待たずに局長は立ち上がり、部屋の奥にあるもう一つのドアから局長室から出て行ってしまった。




 所長室から出た後、美影ちゃんに案内されるように、俺は水道局の屋上へと上がった。

 屋上にはなんだかごつい戦闘ヘリが離陸体勢で待機していた。


「お待ちしておりました! 現地より報告で、現地の『ダイバー』の体力が限界に達しようとしているとの事です……。お急ぎ下さい」


 パイロットらしき軍人さんに急かされる。

 俺は少し早足で促されるままヘリに乗り込んだが、美影ちゃんはマイペースキープでのんびりと歩いて乗り込んだ。

 軍用ヘリになんだかムードも感慨も無いが、これが初めてのヘリへの搭乗だ。

 中は快適とは言い難いが、軍事オタクには堪らないほどの体験なのかもしれない。残念ながら俺はそれに該当しないので、ただだるいだけだ。


 大した感動も無く、ヘリは離陸した。

 操縦席に人はいるが、……なんというかわからないが、後部には俺と美影ちゃんしか居ない。


 俺は少し酔いそうなのに耐えながら、ここでも正座をしお茶をすする美影ちゃんの姿を見た。

 やはりちょっと不思議ちゃんっぽいが、見た目は普通の可愛い中学生だ。


「あらあら?」


 そうやって感慨深げに美影ちゃんの顔を見ていると、視線に気付いた美影ちゃんが首を傾げる。


「どうしたんですか直輝さん? お茶、欲しいですか?」


 背中へと手を回し、異次元空間(?)か背後に隠された未来から来た猫型ロボットの持つポケットからお茶の道具を出そうとする。


「い、いや、お茶はいい」


 それを慌てて制止する。正直、余りお茶というのは好きじゃない。


「では、なんでしょうか……。私の顔に何かついていましたか?」


「そうじゃなくて……。ただ、年齢が気になってさ」


 美影ちゃんは俺のその言葉に肩をピクッと震わせる。


「……その疑問は失礼ですよ。私も一応は女性なんですから」


 一丁前に憤慨してみせる。だけどそんなところが逆に子どもっぽい。


「俺が見た感じ、中学一年か二年ぐらいに見えるけど?」


 そう言うとさっきまで子どもっぽく怒ってたというのに、酷く悲しい顔をする。


「直輝さんって……性格悪いです。私はそんなに幼くないです」


「……そうですか」


 悲観する少女の顔をしていたが、やっぱり子どもっぽくプンスカと怒り出して、俺は無視されてしまった。苦そうなお茶をゴクゴクと無心で飲んでいる。

 なんだかんだで、子どもっぽいな。

 最初はちょっと見た目と物腰にギャップを感じたが、無理をしているのかもしれない、そう思った。俺みたく、巻き込まれた事に怒って屈折して育ったのだろうか?


 いや、単純に俺が予想を大きく外したからか?

 まぁ……どっちでもいいか。


 まだ怒りながらお茶をすする美影ちゃんをボォーっと眺め、暇な移動時間を過ごした。


 それから三十分ほどしても、目的地には着かないみたいだ。


 小さな窓から外をボンヤリと見下ろしてみると、結構な高度ならしく眼下に広がる見知らぬ

町は小さく見える。外の景色に集中する俺にずっと黙っていた美影ちゃんが話し掛けてきた。


「直輝さん、恐いですか?」


 機嫌が直っていないのか、言葉は少しキツめだ。


「別に高所恐怖症じゃないから問題ないよ」


「いえ……そうじゃなくて、これから……水害獣との戦闘に行くのが、です」


 窓から顔を離し、まだ正座をする美影ちゃんの方を見る。

 恐いか、と問いた顔はどこか心配げで優しさが垣間見えた。


「そうだね、恐いね……。でも、逃げてもダメだしね。なら腹を括って戦うしかない。そう考えると、恐くない、というのは嘘になるけど、少しは和らぐよ」


「そうですか……」


 嘘は言わずに正直に答えた。すると、美影ちゃんはどこか悲しそうに俯いてしまった。


「水害獣は、私たちがどうにかしなくてはいけない……それはわかってるんです。でも、恐怖とは違う何かで、逃げ出したくなります」


 言い捨てるようにして、言葉を言い切った後、ヘリの中で美影ちゃんは何も言わなくなった。

 それは……到着まで続く。

 その事から、最後の言葉には深い何かがあるのかな、と俺は酔いで苦しみながら考えた……が、案の定纏まらず無駄となった。



 俺はこの時はわからなかった美影ちゃんの思いを知った時、自分自身がその重みを一番痛感し苦しむ事になる。

 だが、それにまだ気付かない馬鹿な俺は……なんとなく生きていくのだ。

水害獣の説明が足らない気がしますが、まぁ……少しずつってことで。

もちろん、色々物語の進行上の問題があって……嘘じゃないです! ほ……本当だってばっ! ぅぅぅ……信じてよぉ……。

って一人で何やってんのって話です。


次回予告?

やってきた初めての戦場、初めての任務、初めての同化…………その勢いで大人の初体験!?

(最後の所に期待す………エッチっ! でもそういう男の子は……すき……な、なななななんにも言ってないわよっ!!)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ