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第二十九章 ちょっと暗闇いってくる

 突然暗闇と化した体育倉庫……まぁこれはまだいい。

 俺は冷たい床にゴミの山に囲まれて悶えながら寝そべっている。うん、これもまだいい。

 そんな所に可愛い女の子と二人っきり。えーと……これは嬉しい。


 その女の子が、俺の体の上にうつ伏せで倒れていて、背中に二つ柔らかい感触が伝わってくる。これは…………これを、耐えろと?

 俺の理性は鋼のように強固ではないぞ?

 もう世間からの目なんて気にせず本能の赴くままにいっちまって、イかせちまうぞ?


 ダメだ……不埒な妄想が頭の中に蔓延はびこる。


 神様! 俺にどうしろと!? このままじゃ俺の理性という鎖が解け、獣が自由になってしまいますよ!?

 無理です。無理ですって。これ以上は耐えられませんって……。


 すると、俺の体がガクガクと震え出した。遂に体が勝手に暴走を始めたか?

 ……いや、これは違う。震えているのは荒内さんだ。

 って……ちょ……勘弁して、そ……それは無理ですって……。


 震える荒内さんの体、それが意味するところは現在の体勢を考えてみればすぐにわかるぞ。

 さー、考えてみてくれ諸君。


 そうそう、そこの少年正解! 良い大人にはなれないかもしれないけど、少子化対策には貢献できるから安心してね。うんうん、将来有望だね。(って俺は誰に言ってるんだ?)


 不味いぞ……頭が可笑しくなってきた。何一人でクイズゲームやってんだよ、しかも何故かどこからか回答が聞こえたし……。もう末期か? いや、ペンのマッキーじゃなくて、末期。

 あぁぁ……不味いって誰にも突っ込みを入れられてないのに解説し始めたよ俺の頭。

 これはまぁ……致し方ないのかもしれないが……だってさ、荒内さんの体が震えている場所がどこかわかってるかい?


 そうそう、震える体がさ、俺の背中に擦り付けるように……む、むむむむ胸がさ、あた、あたあた当たっているんだよ。それがさ、気持ちいい……じゃなくて、俺の理性を狂わせるんだよ。

 これで落ち着けっていう注文が無茶なんです……はい。


 あれ? 頭の中に、なんかキャッチコピーが……。


 〔一生のチャンスを捨てますか? それとも人生を捨てますか?〕


 おいおい薬物乱用のポスターにそんな感じの事書いてあったぞ。いや、それにしても今の俺にはこんな選択のチャンスが迫っている訳だ。

 さぁどうする!? って考えればわかるけど、人生を棒に振るう気にはならん。断じてならん……とは言い切れないのが、悲しいかな男のさが


 まぁとりあえずだ! 冷静になろう。冷静になれ、そうだ! クールになるんだ。

 …………よし、少しは落ち着いた。

 冷静になった俺には見える、エロゲーふうの選択肢がっ!!


 〔甘い言葉を囁く〕←

 〔無言で抱き締める〕

 〔相手の服を脱がす〕


 よーし、どの選択肢がいいかな〜。


 〔甘い言葉を囁く〕

 〔無言で抱き締める〕←

 〔相手の服を脱がす〕


 ん〜甘い言葉は苦手だから却下。抱き締めるか……ん〜もう胸の感触は堪能中なわけだしな……。


 〔甘い言葉を囁く〕

 〔無言で抱き締める〕

 〔相手の服を脱がす〕←


 やっぱり、服を脱がす…………………………………………っておい!

 お、俺は……何をしようとしていた!? 遂に狂い出したか?


 今度こそ、落ち着くんだ。そんな選択肢が見えないほどに落ち着くんだ…。

 ………………よし、今度こそ大丈夫だ。

 俺はくろがねの城と呼ばれた元祖スーパーロボットの装甲のような固い理性を手に入れた。

 状況を冷静に分析しろ、今俺はどこに居る?

 第一体育館体育倉庫だ。


 何をしていた?

 荒内さんと校長に頼まれた荷物整理をしていた。


 そして今はどういう状況だ?

 何者かによって扉を完全に閉められ、真っ暗闇の中床に倒れていて、俺の上に荒内さんが居る。


 よーし、落ち着いたぞ。

 では次に何をするべきなのか考えろ。

 上に乗っている荒内さんにどいて……もらう。

 少しの躊躇いがあった事に怒りを覚え、俺は理性軍を鼓舞し、完全にふしだらな考えを排除する。


「荒内さん、そろそろどいてもらえると嬉しいんだけどな……」


「………………」


 返事が無いぞ……。

 荒内さんが俺の服にしがみ付くようにしていた手の力が強まる。それと同時に震えを大きくなる。

 もしかして……荒内さんは、暗所恐怖症?


 不味いぞ、本当にそうだとしたら非常に不味い。

 慌てる俺に、荒内さんの小さな声が届く。

 え……? さっきなんて言ったんだ?

 俺は慌てる心を落ち着かせ、すぐに耳を澄ましてみる。


「……ぅぅ…………恐いっ……恐いよぉ……」


「……!?」


 本格的に不味い状態だ。荒内さんは泣きながら、狂ったように小さな声で恐い恐いと繰り返している。

 扉を開けて、光を入れる? いや、こんな状態の荒内さんから離れるのは……それに、こんな暗闇では足場が散らかっているのが見えず辿り着けるかどうかも怪しい。最悪……鍵を閉められていたら……無駄骨だ。

 どうすれば荒内さんを安心させてやれる?


 こういう時に有効なのはやっぱり、人肌というやつか?

 人のぬくもりは安心させたり落ち着かせたりする効果があるらしいし。

 でも……それはつまり、抱き締めるってことだよな。荒内さんに悪くないか……?


「恐いっ……誰か……誰かぁ…………恐いよぉ…………」


 そんな事考えている場合じゃないか……。もう可能性がある方法は試すしかない!

 俺は上に被さる荒内さんを出来るだけ動かさないように、体を起こす。


「うぅ……ぁああ! ……恐い、恐い……恐いっ」


 体が俺から少し離れただけで、すぐに壊れたように叫びを上げ、またしがみ付いてくる。

 放さないようにギュッと俺の学ランを掴み、俺の体に顔をうずめる。

 まだ少し躊躇いはあったが、俺は泣きじゃくる荒内さんを優しく包み込んだ。


「恐い……恐いよぉ……………………」


 落ち着いてきたのか、恐いと言う間隔が段々と長くなった。

 それにしても、本当に荒内さんはどうしちゃったんだろう? 暗所恐怖症って感じじゃないような……なんか精神的なトラウマ的な……荒内さんにも暗い過去があるのかな?

 皆、苦しい思いしてきて、頑張ってるのかな……。

 なんだか……俺ばっかが不幸ですよ〜って言いふらしてるみたいで格好悪い。


「荒内さん……もう大丈夫だから、大丈夫だからね」


 そんな子どもをあやすような言葉を俺は言い続けた。少しでも安心してもらう為に……。


「うぅぅ……うわぁぁぁんっ! ……ぅああ……あああ……」


 恐いとは言わなくなったが、今度は怯えるように大声で泣き出してしまった。

 俺には大丈夫だよ、って優しく声を掛けてあげる事しか出来ない。本当に無力だ……。


 今の状況にデジャブのようなものを感じる。


 体育倉庫という場所で、暗い中、泣いている女の子が居て、何もして上げられない俺が居る。

 そうだ、小学生の頃に戸高さんとこんな事があったな。

 高校生になっても俺って成長してねぇや……。


 どのぐらいの間、そうしていただろう。

 そんなに長くは感じなかったような、物凄く長かったような不思議な感じだ。

 荒内さんは泣き疲れたのか、スヤスヤと寝息をたてている……俺に密着して。


 寝てしまっている内に、ドアに鍵を掛けられているか確認してくるかな。ゆっくりと進めばなんとか辿り着けるかもしれない。

 荒内さんが起きないように少しずつ体を動かす……が、グイッと服を引っ張られて、まるで行かないで、と言った感じに身動きさせてくれない。

 困ったもんだ。嬉しいんだけど……今の状況だとなぁ……。


「やれやれ……」


 俺は諦めるように軽く息をつき、その場で誰かの助けを待つことにした。




 それからしばらくして、俺と荒内さんは体育倉庫から出る事が出来た。

 荷物を置きに来た先生が俺たちを見付けてくれたのだ。

 その時の体勢が、荒内さんが俺にもたれ掛かるようにしていて、それを俺が抱き締めていた訳で……いい感じに誤解されちゃった訳である。

 その先生にがみがみと言われ、なんとか誤解を解き、すぐに荒内さんを保健室へと運んだ。

 何があったかを軽く説明し、解放されたのが昼過ぎ頃だった。


 遅めの昼食を取り、もうなんだか疲れ切ったので教室で一人で寝た。

 そのままクリスマスパーティーの午後の部は寝て過ごした訳で、実質参加はしてない。イベントの全日程を終え、教室に戻ってきた友貴と明良にどこに行ってたのかとか何をしていたのかとか訊かれたけど、軽くスルーした。

 その後、家に帰る前に一応保健室を寄ってみたら、まだ荒内さんは目覚めていなかった。保健室には他に純岡やクラスメイトが何人か居た。


 どういう説明をされたのかは知らないけど純岡に、


「このクソカベがっ!!」


 と怒声を浴びせられ、殴られた。そりゃあもう力一杯。殴られたところは今だジンジンと痛む。

 色々あったけどとりあえず我が家には帰れた。

 それはとても幸せな事なはずだ。そう思わなくてはやってられないっていうのが悲しいな。



 何しに学校に行ったんだっけ? えーと、深く考えない方がいいか。

 明日は土曜日、ゆっくりと体を休めよう…………はぁ〜〜〜〜。

前半はハイテンション、後半はシリアス(?)に……。

物凄い落差というか……いや、こういうキャラなんです直輝は。

さて、そろそろ読者の頭から水害獣の存在が……って事になりそうですね。想像以上にスローペースで物語りは展開してますんで、大分長くなるかと……何章まで行くんだろう。


まだまだ続きます。というかまともに始まっていないようにも思います。学校編も水道局編もこれからです。


次回予告?

朝、目覚めると、二つの刺客が襲い掛かる。

そして、退屈の余りに直輝は遂に例の物へと手を伸ばす…………っていうのに期待をすると損します。

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