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第二十八章 ちょっとお願いいってくる

 友貴と共に体育館へと入場した。

 体育館の内部はすでに体育館には見えなかった。そこまでやるか? って程の飾り付けがされ、どうやって入れたんだろう? と考えてします程大きなツリーが中心にそびえ立っている。


「これはまた……」


 友貴が呆れたように言葉を漏らす。

 俺も同じような感想を抱いた。校長らしいと言えばそうなのだが、やはり…物凄いな。もう少し加減というのを知って欲しい。


 完全にパーティー会場と化した体育館の中で、生徒達のテンションは上がりっぱなしだ。


「これってクラスで纏まってた方がいいのか?」


 どうだろうか。周りを見渡すも、どうも自由にグループ作ってワイワイとやっているように見えるが。


「自由でいいんじゃないか?」


「あーそうだな」


 とりあえず人が少ない所に移動する事にした。トイレ付近の壁際は人が少なく、そこで開始まで待つことになった。

 今までもこんなふうに校長の提案で馬鹿騒ぎをしているが、今回のが一番金が掛かっているのではないだろうか。飾りは勿論の事、これからのイベントの内容にも金をたんまりと使われていそうだ。

 学校の財源は一体なんなんだ? 一年にこんな派手なイベントを何度もやっていては流石に不足するだろうに。


 そんな学校の未来を心配していると、聞き覚えのある幼げな声が聞こえてきた。


「日下部くん」


 目線を少し落とすと、そこには艶やかな黒髪を腰辺りまで伸ばす、童顔少女こと荒内さんが居て、俺を見上げるようにしている。


「どうしたの荒内さん?」


「あ、あの、その……」


 と口ごもる。到底同学年とは思えない程の容姿の所為もあるか、なんだかレジでおつりの間違いを指摘できない、初めてのお使いにやってきた小学生のような…………大丈夫だ、落ち着け、俺はロリコンじゃない。

 紳士がロリコンであるはずがない! そんな根拠も無い理由でなんとか自分の妄想に歯止めを掛ける。


 俺が頭の中でロリコン因子との戦いを繰り広げる最中さなか、荒内さんはずっと俯きぼそぼそと呟いている。

 どうしようか……対応に困るぞ。

 友貴に救援を求めようとする、が、他クラスの女子生徒をナンパしていた……あの万年欲求不満男が。使えない。


「あの荒内さん、なんの用な……」


 と言い掛けて、背後に立つ存在に気付き凄まじい悪寒を感じる。この感じ、


「日下部くんこんな所に居たのかい、随分と探したよ」


「校長先生……ど、どうしたんですか?」


 何故か悪い予感が……沸々と…………。

 必死に笑顔を作る俺に校長は、照明でてかてかとする顔にナイスなスマイルを浮かべる。


「ちょっと人手が足りなくてね、手伝って欲しいんだ」


「何をですか?」


「ただの荷物運びだよ。そんなに心配する事は無い。出来ればもう一人……あーえっと、君は確か、荒内くんだね?」


 ずっと俯いていた荒内さんが、電流が走ったように驚き顔を上げる。


「は、はい」


「じゃあ二人とも付いてきてくれ」


 俺達の返答を待たず校長は背を向け、ずかずかと人の間を縫って歩いて行く。

 納得はいかないが、校長命令ではな……と無理矢理承諾させ、校長を追った。荒内さんも同じような答えを導き出したのか、不満のような不安のような顔をしながらも俺の後を付いてきている。




 数分後、俺と荒内さんは校長の言った通り荷物運びを手伝わされていた。

 光が余り入らず、暗がりの体育倉庫で二人っきりの作業だ。最初は確かにこの倉庫まで器具などを運び入れる作業だったのだが、今はもう校長が、


『開会式は別に堅苦しくやるから別に何も楽しくないよ。だから、開会式が終わるまでここで荷物整理してくれないかな』


 と押し切られ、今は倉庫内の荷物整理をやらされている。

 それにしてもこの体育倉庫は、ちゃんとした使い方されてないだろう……。何故ここまでごちゃごちゃとしている。まぁほとんどが今日のために急遽ここに押し込まれた新入りたちなのだろうけど。ん〜不憫な奴ら。


「荒内さん……ごめんね、なんだか巻き込んじゃって」


「…………」


 あれ……? 返事が無い。

 目の前に広がる雑多の山から目を外し、荒内さんも見ると黙々と片付け作業に没頭している。


「荒内さーん……おーい」


「………………」


 返事は無く、ガサゴソと物を動かす音だけが返ってくる。

 もしかして……無視されている訳じゃないよね? そういえば……荒内さんって純岡と行動する事が多いから、俺が純岡さんと朝にやり合って(?)たの怒ってるのかな?

 あれ? でも校長に仕事を頼まれる前に話し掛けてきたのって荒内さんだったよな。


「荒内さん、荒内さーん」


 諦めずに呼び掛け続けてみると、荒内さんが肩をピクットはねらせる。


「は、はいっ!」


 上擦った声で答えた。声色から怯えているような印象を受けるが……。

 荒内さんは作業する手の動きを止めず続けた。


「あの、なんですか?」


「その……なんだか巻き込んじゃってすいません」


「えっ? あ、気にしなくていいよ」


「そう言ってもらえるとありがたい」


 さっきまでの無反応が嘘のように普通に会話が出来た。やっぱり作業に集中していて耳に届いていなかっただけだったのかな?

 俺も作業をするのが止まっていた手を再び動かし、倉庫整理をしながら会話を続けた。


「そういえば荒内さん、ここに来る前にさ、何か俺に話そうとしてたよね? あれってなんの用だったの?」


 俺の言葉に一瞬だけ荒内さんの手が止まる。


「あ、え、……えっと……その、あれは……」


「あれは?」


「その……私の事じゃないんだけど……んと……七海の事なんだけど……」


「純岡の事?」


 聞き返すと荒内さんは黙り込んでしまった。

 やっぱり朝の事で俺を恨んでいるのか? 普段は温厚な荒内さんも裏では実は……ひぃぃぃ……ってそんな失礼な想像はいかんな。

 荒内さんの声のトーンが少し暗くなる。


「うんっ……。七海は、日下部くんに対していつも態度が厳しいでしょ?」


「…………」


 今だハッキリと理由は分からないけど、本人から「嫌い」という言葉を頂戴している。俺はここら辺の出身じゃないから純岡と高校以前の付き合いは無い。だから、この高校に入ってから嫌われたのだ。


「私もね、七海がなんであそこまで日下部くんに冷たくするのかわからないんだけどね……」


 そうか、何時も傍に居る荒内さんですら理由を知らないのか……。


「多分……日下部くんは何も悪く無い、とは言えないけど……きっと日下部くん自身だけの存在で嫌っているんじゃないと思うの…」


「どういう意味……?」


 荒内さんの声が更に弱々しくなる。


「つまりね……その、七海の嫌いな人と似てるとか名前が同じとかで…ここまでの態度になってると思うの。元々男子嫌いがあるから余計に……」


 荒内さんの言いたい事はわかった。そして、教室で純岡に言われた事の意味もわかった気がする。


『……一番は、あなたの日下部直輝という名前が嫌い!!』


 昔に、俺と同じ名前の奴に嫌な事でもされたのかもしれない。男嫌いもそれでなのかもしれない。


「荒内さんが言いたい事はわかるよ…。純岡って真面目だろ? なんかそういう人って昔の事とか引きずったり、トラウマになったりする事が多いらしいし……。つまり、日下部直輝っていう名前の人間が生理的に受け付けらんないんだろう」


 度が過ぎれば心の病のような扱いなのかもしれない。睨んできたりするだけで、理由も無く暴力を振ってくる訳でもないし、そこまで重症じゃないだろう。

 誰かに嫌われるってのはあんまりいい気分はしないが、しょうがなくなら我慢は出来る。

 オタクに拒否反応を示す女子だと思えば問題ナッシングだ。


「日下部くん、あの…」


 申し訳無さそうに俯く。


「どうしたの荒内さん?」


 俯いた顔を上げ、俺へと向けてくる。真剣な表情で俺を真っ直ぐと見てくる荒内さんに、ドキッとする。


「勝手な事だってわかってるんだけど……お願い、七海を嫌わないで」


「えっ?」


「七海は……そこまで日下部くん自身を嫌ってはいないと思うから……だから、ああいう態度に我慢して欲しいの。……その、私からも七海にフォローするから……」


 荒内さんは友達思いだな……。まぁそんな事言われなくても、


「大丈夫だよ……俺は別に、純岡のことは嫌ってないから……」


 悪い奴では無いというのはわかってるから。寧ろ少しずつでも話せるようになっていきたいな〜とか考えているぐらいだし。

 俺の答えに荒内さんは満面の笑みを浮かべる。


「ありがとうっ!」


 そしてこちらに駆け寄ろうと一歩踏み出そうとする……が、床に無造作に転がる用途不明の道具につまずき、バランスを崩し俺に向かって倒れ込んでくる。


「あわ、あわわわわわわっ!」


 俺は支えようとすぐに行動に移るが、荒内さんの二の舞を演じて、足元にあったなんかむにゅむにゅする物体を踏ん付けて体がかたむく。

 これは不味い……。

 崩れる体勢の中でなんとか荒内さんを助けようとするも、やはり無理だった…。唯一の救いは、俺のが先に床に倒れたので、荒内さんのクッションになれたことだ。


 俺は冷たい床の上にうつ伏せに倒れ、その上に荒内さんが倒れ込んだ。

 小柄な荒内さんは余り重くはなかったが、荒内さんを助けようとするのに必死で受身もガードを取れず、今は悶絶している。

 周りにたくさんのゴミ同然の道具やらなにやらがあって、廃棄処分された仲間みたいな感じがしてくる。


「あれ? 誰だ、倉庫を開けっ放しにしてる奴は」


 そんな声がドア付近から聞こえてきた気がする。

 次の瞬間には、倉庫は真っ暗闇となった……。

 ゴミ山に埋もれて気付いてもらえなかったのか? まさか……鍵までは閉めてないよね?



 こうして、俺の楽しい楽しいクリスマスパーティーが始まるのでした。

 なんだろうか……最近、運が悪くなったような……あは、あはははは……はぁ〜〜〜。

恋愛要素? そんなものは知りません。

次回いや、そのまた次回あたりで入れてみせます! とか言って(ry


そんな訳で、なんだかこの小説も序章の投稿から一ヶ月が経っていました。というよりもう四月に入っていたとは……。私は重症です。


なんだか純岡が病人扱いですね。さーて、本当のところはどうなんでしょうね。

そろそろツンデレを開花してもらいたいものです。


次回予告?

暗闇の体育倉庫で本能を爆発させる直輝! 荒内さんの運命やいかに!?


……というのは嘘です。信じちゃいけません。

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