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第二十七章 ちょっと親友いってくる

 友貴に連れ出され、人気の少ない空き部屋に連れて行かれた。去年までは教室として使われていたらしく、しみったれた感じに机が並べられている。


「純岡になにをしたんだよ?」


 二人っきりの部屋で、友貴はさっきのクラスで漂っていた居心地の悪い空気を作り出した原因である俺に問い掛けた。

 俺が純岡に何かされたという可能性を完全に排除した質問だ。まぁ予想に反せず、俺が悪いのだろうけれど……。


「いや、ただ……何故俺を嫌うのかな、と気になって訊いてみちゃったり……」


「お前は馬鹿か!」


 説教をされる子どものように情けなく項垂れる俺に容赦無い言葉を浴びせる。


「ある意味では国宝級のレアだね。どうしてお前は、こう人間関係のやり取りというかそういうのは下手なんだ? もしかしてわざとか?」


「いやいやいや……そんな滅相も無いですよ」


 はぁ〜と盛大に溜息をつかれ俺はなんだか泣きたくなった。


「まぁ……純岡のお前に対する態度は俺にも理解できないけどさ……。もうちょっと気長に行こうぜ? あいつだって理由も無くて誰かを恨むような奴じゃあ無いだろう?」


「それはわかっているけどさ……。なんか……いや、うん……俺は多分……恐いだけなのかも」


 どうしようもない馬鹿を見る目をしていた友貴の表情が一瞬だけ暗くなり、すぐにパッと俺を元気付かせるように明るくなった。


「忘れろ、とは言わないけどさ……もう少し楽にしてもいいと思うぞ? ここはもうあの学校じゃないんだからさ」


「わかってる……。でも逃げたみたいじゃないか……ろくに償わず、逃げたみたいでさ……」


「親の仕事の都合だし逃げでもなんでも無いだろうに。そこまで責任を感じるなよ」


 それも、わかっているつもりなんだ。でも……忘れられるものじゃない。

 俺は誰にも嫌われたくない……あんな目で見られたくない。

 引っ越しをするたびに、俺は何か大切なものを失っている気がする。失った事に気付いたところでもう手遅れなのに……必死に、何を失ったのかを考えてしまう。


 囚われるようにして思考に溺れる俺を、友貴の光が射す。


「とりあえず! 今日は楽しくやろうぜ!」


 教室でやったように俺の背中を強く叩いた。


「おっと、もう体育館に移動し始めてるな、俺達も行こうぜ」


 窓から見える第一体育館へと続く通路にぞろぞろと歩く生徒達が見えた。ケータイで時間を確認すると、もう9時五分前だ。


「ああ……」


 俺は手を引くように誘う友貴へ答え、共にその空き部屋を後にした。




 ちょっと前の記憶だ。俺は今まで二度、親の仕事上の都合とその他諸々の事情で引っ越しをしている。そのタイミングがちょうど通う学校の卒業後の春休みなので、一度も転校というのは体験していない。

 一度目は、故郷と呼べる場所から離れたもの。そして、俺にとっては戸高さんとの別れでもある。


 引っ越し先で、誰も知らない人たちに囲まれた中学校の入学式を味わった。正直、緊張よりも恐怖を感じた。この場所でやっていけるのだろうか? という不安が一杯だ。

 俺の不安は的中し、クラスで孤立することになる。

 雰囲気だろうか、俺は話し掛け辛いオーラを放っていたと後で友貴に言われた。

 その友貴と知り合ったのもこの中学校でだ。


 そんな特別な出会いでは無い。


「なぁなぁ、どこから来たのさ?」


 そんなふうに話し掛けられた。その質問に俺はムッとする。大抵は初日などに自己紹介をするものだろう? その時に一応は出身地を言ったはずだ。つまりこんな質問をするという事は俺の話を聞いていなかった事になる。


「言ったと思うけど?」


 机にだらしなく頬を当てながら、苛立つ気持ちをあからさまなまでに曝け出し、質問に質問を重ね答える。


「いやさ、俺、初日の学校出てないから知らんのよ。他の連中は小学校からの奴らだけどお前は見ない顔だからさ」


 馬鹿だ。自分はどれだけ馬鹿なんだ……。話し掛けて来た人物が誰なのかわかっていたか? 自己紹介に参加していたなら、すぐに誰かわかるはずなのに、この男の顔を見た時、答えが出たか?

 俺は馬鹿だ。そこから導き出される答えなんて単純、こいつはその時に教室に居なかったということだ。


 余りの馬鹿さかげんに自分自身を見限りたくなる。

 そんな悶々とする俺に突っ込みを居れず、その男は俺に質問を重ねてくる。


「んでさ、どこ出身?」


 半分放心状態でその男の質問に答えた。


「へ〜……つーか随分と遠い所から来たな。家の都合かなんかか? おっとそれはプライバシーかな。

 まあ、細かい事は置いといて、俺は藤崎友貴っていうもんです! よろしく直輝!」


 あれ? 俺名乗って無い。

 あ、そうか……机に付いているネームプレートか。だが、随分と馴れ馴れしい奴だな。まぁいいか。一人で居るよりマシだし。


 友貴は、実はすごい奴だ。

 本当は学年トップ、それ程に勉強は出来るはずだ。だが、授業への意欲は無く、テストもやる気が無いので平均点分ぐらいの問題を解くとペンを止め寝る。

 何か一つのスポーツに取り組む事は無いが運動神経が良い。これは、人より少し上ということでそこまでは凄く無いが、テンションが上がるとやたら強い。

 一番驚いたのは、礼儀作法だ。普段からは想像出来ない優雅な物腰でお辞儀をする姿は今でも覚えている。


 それは友貴の努力の結晶と言えばそうだが。実際のところは、強制的にやらされたのだ。

 友貴は世界的に展開している『藤崎工業』という会社の社長の令息なのだ。

 本人は継ぐ気は気が無いようだが、それだけの教育を受け、それだけの才能がある友貴は、もう継ぐ事は避けられない運命だ。


 だから今は、好き勝手やっている。

 継がなくてはいけないのなら、それまでは好きにやる。半分諦めのような感じで、毎日を楽しくやっているのだ。


 この友貴の真実を知る人は少ない。学校側も知らないらしい。どんな方法だかはわからんけど、色んなところに働き掛け、周囲の認識は、普通の藤崎さんなのだ。

 それも自由のための一つだろう。


 そんな友貴のおかげで中学校生活は楽しく過ごせた。

 中学卒業後、俺は引っ越しが決まっていた。

 そして、中学三年のある日、俺は一つの事件を起こし、クラスメイトに教師に保護者達に恨まれる存在になった。

 卒業後、二度目の引っ越しで逃げるような形で俺はその地を去る。高校の受験はすでに引っ越し先の学校のを受けている。今通っている水ノ御茶高校だ。


 高校での入学式で、俺を衝撃が襲った。


「おいっす!」


 元気よく俺に挨拶をしたのは友貴だった。

 色んな疑問はあったが、友貴のことだ……俺を心配してくれたのだろう。

 これは自惚れでも勘違いでもない、それが友貴だし、親友だからだ。

 いつだってやる事は大胆で、非常識な友貴らしい行動なのだ。



 俺は友貴に感謝している。

 今の俺があるのは、友貴がいつも傍に居てくれたからだ……。 

急遽予定変更により、友貴の話へ。

今回は短めです。えっと、語るべく事はたくさんあるのですが、とって置きます。事件の事や中学校生活についてもまた今度……。


はい、恋愛要素皆無ですね。だが、次こそは、次こそは入れてみせる! なんかもう意地です。

と言いながら入れないんですよ、きっとこの人はって目で見ないで下さい。


次回予告?

校長主催のパーティー開催! だがその時、直輝は冷たい土の中……というのは冗談です。

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