第二十五章 ちょっと校長室いってくる
体育の授業終了後、純岡はすぐに最初の犠牲者へと謝罪していた。だが、どうやら彼は純岡ファンの一人らしく、それほど怒っては…というより喜んでいた。まぁボール恐怖症という残念な後遺症は残ったが、本人が幸せそうなんだ別にいいのだろう。
だが、俺には謝罪の一言は無かった。むしろ憎らしげに睨まれた……。どんだけ俺の事を嫌っているんだ?
試合中に山下が純岡に耳打ちしたが、どんな内容を言ったのか後日、明良から聞いたが……だけどなんで明良が知ってるんだ? という疑問は置いといて、その内容は、
『さっきの藤崎サーブねぇ、ヒカベがあらっち(荒内さん)を狙うように指示してたよ』
というものだった。いやいやそんな事言ってません。山下は俺にどんな恨みがあるんですか? いや……無いんだろうな、ただ遊んでいるんだ。
それより、明良はおそらく確信犯だぞ。何回も荒内さんを狙っていた明良は何故純岡に恨まれない?
その謎は今も明かされていない……。まぁ俺が想像するに、うまいことやったのだろう。あの明良だ、後の処理を考えてのことだろうから。
それと、何故あんな危険(?)な試合を止めなかったのか石橋先生に聞いたが、
『先生はな、あんな素晴らしい死合を見せられたら、たとえ死人が出ても止める訳にはいかない……何故なら俺が体育教師だからだ!』
意味が分かりません。それに試合を死合と言っている時点で危険性は重々承知のようではないですか……。体育教師がそうしなくてはいけなくても、その前に教員としては失格ですよ先生。
様々な疑問を残しつつも体育の授業は終了した。
結論を言わせてもらおう、俺は何も悪くないよな? なのになんでこんな……。
体育終了は四時限目の終了を意味する。つまりは、遂に昼が訪れた!!
体操着から制服へと着替え、俺はバックから弁当を取り出した。今日の朝食はうまく出来ていた、きっとこのお昼も美味いに違いない。
期待に胸を膨らませる俺の元へ、いつものように友貴と明良がやってくる。
そして、いつもの昼食が始まる…………はずだったのだが、そこに校内放送が鳴り響く。
「一年B組の日下部直輝くんは至急、校長室まで来て下さい。繰り返します―――――」
「いってらっしゃーい」
友貴がやる気の無い声と共にやる気が無い感じにヒラヒラと手を振り、俺を見送る。
この学校に通い始めて、まだ一年も経たないが、俺は校長室に何度も呼ばれている。それは友貴も知っているので、特に特別だと思わずこのような態度を取るのだ。俺も正直、校長室に呼ばれるのは抵抗が無くなっている。
「なんだか直輝くんは忙しいね」
いつものようにのほほん口調で見送る明良。
「んじゃあ行って来る」
俺はそれだけ言うと席を立った。クラスの連中も校内放送なので何度も俺が呼ばれているのを知っている。だからたいした反応は見せない。何故呼ばれているのかは知らないだろうから、きっと俺は落ち零れか、お調子者といった認識をされているのだろうな……。
普段の態度から、不良とか悪い奴という捉え方をされてないだけましってもんか。
俺は廊下へと出て、校長室へと小走りで向かった。
ノックをせず、失礼しますと言ってドアを開き中へと入っていく。
水科校長は俺がここに来る時に大抵座っている、高そうなソファーに腰を掛けていた。
「校長先生、日下部ですけど……」
「おぉ、来てくれたか日下部くん!」
五十代ぐらいの校長は、頭の毛は薄くはないが、完全に白髪になっている。その髪のせいか瞳の黒がよく目立つ。年寄り特有の厳格なオーラを持つが、どこか茶目っ気があり、親しみやすい。
校長は俺に向かい合う位置のソファーへと座る事を促す。特に遠慮はせず俺は腰を掛けた。
「日下部くん、今日は何故呼ばれたかわかるかな?」
ビシッと決まった紺のスーツとは似合わず、子どもっぽい笑みを浮かべて俺に問う。
「いいえ……わかりませんけど……何故呼ばれてんですか?」
この校長室にはしょっちゅう呼ばれるが、その理由はというと、単純に校長が俺のことを良い意味でも悪い意味でも気に入っているからなのだ。
入学式の時に俺を見て、ビビビッと運命を感じたらしい。因みに俺はそんなものは感じてはいない。感じたくも無い。
まぁそんな訳で、たまにこのように校長室に呼ばれて話し相手をする。
校長は子どもっぽい笑みをそのままに答えた。
「明日がなんの日かわかるかな?」
「明日ですか? 明日は12月24日ですね……。それが何か?」
「ふふふっ……。日下部くん、金曜日というのはどうも授業に身が入らないものだよね?」
「それはまぁ……(俺の場合は常にだけど)」
「だからね、明日は授業を全カットし遊びたいと思うんだ」
それは少なくとも教師が口にしてはいけない言葉では? ましてや校長先生が……。
そんな感じに俺が呆けた顔をしていると、
「日下部くんも遊びたいだろう?」
「それはもちろんですけど……。単位とかの問題があると思いますし、それに特別な日でもないというのに授業全カットなんて可能なんですか?」
「私を誰だと思っているのかな日下部くん。私はこの水ノ御茶高校の校長だよ? 単位のことなど一ヶ月前より計算し抜かりは無い……。それにだ、明日は特別な日じゃないか!」
何かあっただろうか? 特に何も浮かばないが……。
俺が真面目に思案していると、校長はソファーから立ち上がり高らかに言った。
「クリスマスイブさ!!」
そうか、明日はクリスマスイブ…………。
「本気ですか?」
「私は何時でも本気だとも……」
ま、まあ確かに。女子の体操着をブルマにしてしまったり、これまでも無茶な日程でイベントをやったりはしたが……、一日全部を使って何をやる気だ?
不安で一杯だが、この校長ならおそらく成功させてしまうのだろう。なんだかんだで皆に愛されているもんな…校長。それに生徒もノリが良いし。
一抹の不安感を抱きながらも校長の意見に賛成し、俺は校長室を後にした。俺だって授業よりは遊んでた方のがいいしね……やっぱり。
教室に戻り昼食が食べ終わり、俺は友貴と明良との談笑を楽しんだ。
「なぁ友貴、良い欲求不満の解消方法はないか?」
俺は朝の出来事を思い出し、友貴にそんな疑問を投げ掛けた。
「彼女をつくる」
「それが出来ないから困ってるんだ……」
ん〜と唸り出した友貴の横で、メロンパンに噛り付く明良が不思議そうに口を開いた。
「直輝くんは現在進行形で欲求不満なの?」
「え、あ……んーまぁ」
「へ〜、その欲求不満っていうのよくわからないんだよね。そこまで性欲ってコントロールできないもの?」
さもコントロール出来て当然といった感じに明良は疑問を口にする。
「明良がまだまだガキだからじゃないか? 普通は高校生ぐらいになりゃあ興奮を抑えられない時だってある」
さっきまで唸ってた友貴が口を挟む。
「そうかな〜? ん〜」
今度は明良が唸り出した。なんだか、下品なことを真剣に悩むってのも考え物だな…。いや、まぁ人類の存亡がどうたらと言われたら真面目な話なのかもしれないけど。
「んでもいきなりどうしたよ、直輝からそういう話するのって珍しくないか?」
「まぁそうだな。この手のネタは大概友貴からだからな」
「おいおい、なんかその言い方じゃあ俺がエロスの化身みたいじゃねぇか」
「あれ、違ったか?」
しれっと答える俺に、冗談交じりで怒ってくる友貴。二人でじゃれ合っていると、友貴が突然、頭の上に電球が浮かんだように閃いて、自分の席へと向かいバックを漁り出した。
「ねぇ直輝くん、僕ってそんなにガキかな?」
……まだ悩んでもいたのか明良よ。そんなんだからガキなんじゃないか? というのは口にしない。
「いや、俺達の中で人間的には一番大人かと……」
濁すように言葉を口にする。嘘を言ってる訳ではないが、なんとも求める答えからは外れているだろうから、なんとなく罪悪感が……うぅ。
明良とそんなやり取りをしていると、友貴が戻ってきて俺に一つのケースを差し出した。
「なにこれ?」
「エロゲ」
「ぶほっ!!」
そんなそのまんまに答えるなよ、もっとオブラートに包んで答えようぜ……。一応はここ、学校なんだ。
「なんでまた俺に? というよりなんで持ってきた?」
「いやぁ〜昨日でコンプしたからさ、直輝に貸そうかな〜と思って」
「俺ってそんなエロゲやっているような印象?」
「もちろん!」
ビシッと親指を立てて、熱い眼差しを俺へと向ける。いやいや、俺はエロゲなんてもの生まれてこれまでやったことなどございません。某動画サイトでプレイ動画をチラッと見ただけだよ。しかもそれって、友貴に強制的に見せられたような……。
「欲求不満ならこれで抜け!!」
大声で言うなアホが…。ほら、クラスの連中が汚らわしいものを見るみたいに……あれ? なんで俺までそんな目で見てくるの? 何も言ってないよね?
俺はこの時になって自覚した。俺って、巻き込まれ体質だ。
はぁ……学校ってこんな疲れる場所だったっけ? どうも俺の人生、どこかでボタンを掛け間違えたみたいだぞ…………。
はいはいまだまだ学校が続きます。次回はワイワイギャーギャーになるかな?
連続投稿です。文章が手抜きに感じるのはその所為かと……いえ、これでも頑張ったつもりです。
やっぱり読者が好きなのは、恋愛とかバトルとかなのでしょうか?
ということで、次回! 恋愛要素を入れ……入れ……られるかな?