第二十三章 ちょっと体育いってくる
体育館で待ち受けていたのは、体育教師こと石橋先生であった。いつも藍色のジャージを纏う運動馬鹿である。
その運動能力は計り知れず、大抵の競技を熟し、且つ上達スピードも尋常じゃない。まさに運動をするために生まれてきた様な人間だ。でもなんでそんな人が教師やってるんだろう? という疑問を抱いたが、先輩方に、
『世の中には気にしてはいけないこともあるんだ』
と、どこか物悲しげに言われそれ以来考えないことにしている。
その石橋先生が、今日の授業内容を口にした。
「適当にチーム組んでバレーボール」
余る人が出るパターンだ。だがそれは一般論、この1−Bには適用されない。純岡が男子を嫌い、特に俺を嫌っていること以外は、このクラスに問題は無い。
「直輝、とりあえず後三人はどうする?」
友貴と明良が当然のように俺の所にやってくる。考えていた事は俺も一緒なので特に驚きはしない。
「バレー部の人が入れば楽だよね」
まだチームを作っていないであろう生徒を見回す明良が言った。
「そりゃね。そういう奴はもう取られちゃってんじゃないか?」
「あっ、内山くんってバレー部だったよね? まだ一人で居るから誘ってみるね」
明良は一人ポツンと居る、内山を誘いに向かった。俺もその間に誰か強そうなの探すかな。参加しきゃいけないならやっぱ勝ちたいし。
俺も周りを見てバレーが強そう、または運動が出来そうな奴を探す。
「山下っ! 今回の勝負は勝たせてもらうぞ!!」
メンバーを探す俺の横で同じように周りを見渡していた友貴が、山下に向けて大声を上げる。
少し離れた位置で女子で固まっていた山下が、友貴の声を聞き、こちらに顔を向ける。
視線は真っ直ぐ友貴の目へと向かい、激しくぶつかりあっていた。
「ふっふっふっふ……今回も勝たせてもらうよ、藤崎……」
渋い顔をした山下が勝利宣言をする。藤崎とは友貴のことだ。藤崎友貴、それが友貴の名前だ。
この二人のやり取りはいつもの事で、山下と友貴はイベントやこういった勝負事ではいつも競い争い合っている。基本的に、友貴が山下に挑戦し、悪乗りした山下が調子を合わせ受けて立っているのだ。
そういう事が好きな山下には願ってもないことなのだろう。
明良が内山を連れて、その後も比較的強そうなのが入り、チームは完成した。
一回目の相手は、友貴がライバル意識を燃やす山下のチームだ。
それが、悲劇の始まりだった………………。
山下のチームには、純岡が居た。なんだかやり辛い。どうしても勝ちたいであろう友貴の協力はしたいが、これはちょっと……。
相手チームは、山下、純岡、荒内さん……この三人はやり辛い。他の三名は別の意味でやり辛い、なんせ現役バレー部だったのだから。
これは、力の差は歴然だ。山下はこういう勝負事は最強、純岡は運動全般が得意、荒内さんは……未知数。
対してこっちは、俺は一応はバレー経験者、友貴は山下ほどではないが勝負になると強い、明良は未知数で……、内山はバレー部だから強い、後の二人もそこそこ……。
皆それなりだが、やはりきついものがある。
これは勝利を諦めるしかないな……。そんな俺の心境を読み取ったかのように山下が口を開いた。
「この勝負でウチに負けたら〜、ヒカベ……わかってるかな〜?」
ネットの向こう側で怪しい笑みを浮かべている。不味い……これは勝たないと秘密をばらされるのか!?
負けられない。俺はグッと拳を強く握る。
とりあえずポジションを決めた。俺と内山、友貴が前衛になり後は後衛。
向こうは、山下とバレー部二人が前衛をしている。
石橋先生がくわえる笛が試合開始の合図を鳴らす。
サーブは相手チームからだ。どうやら純岡がサーブをするようだ。
ボールを高く上げ、純岡がタイミングを合わせ、高く跳ぶ。最高打点にきたところで、ボールを打った。正直、バレー部ではないというのにうま過ぎじゃないか?
純岡のサーブは素人とは思えないほどの切れとスピードがあった。
ネット擦れ擦れでこちらのコートに入り、明良がレシーブに入ろうとするが、その前にバレーボールは体育館の床へと打ち付けられた。
女子チームはサービスエースと先制点を喜び、キャイキャイと騒いでいる。対して俺達、男子チームは凍りついていた。
「内山、正直……純岡の強さは異常じゃないか?」
俺は横で呆けている内山を揺さ振る。
ハッとしたように現実へと戻ってきた内山がボソッと答えた。
「あれは……強過ぎる」
現役バレー部の内山から強過ぎると言われた女、純岡。勉強が出来、運動も得意、更に見た目は美人。完璧かよ!?
「おいおいおい! まだ始まったばっかだぞ? 何皆して辛気臭い顔してんだよ? テンション上げていこうぜ!!」
友貴が士気が落ちたチームを鼓舞する。
その通りだ、まだ序盤。これからだ……それに負けたら山下が何をするかわかったもんじゃない。
「よし! ここからだ!」
俺は戦闘モードの自分へと移行する。これは、すでに戦場での命を掛けた戦いなのだ。一瞬の油断が死へと繋がる。
純岡渾身サーブの二打目が来る。
ボールを先に上げ、追うようにしなやかな無駄の無いフォームで跳び、そして最高打点に達した時に打つ!
「明良っ! 今度は取って見せろ!」
友貴の声がコートに響き渡る。
純岡のサーブはすでにこちらのコートに入り、床へと目指している。
だが、明良はボールの落ちる場所がわかっていたかのようにその位置に居た。
「友貴くん、繋いで」
明良は見事に純岡サーブのレシーブに成功し、コントロールされたボールは友貴の元へと飛んで行く。
「おっしゃ! 任せろ!」
明良から受け取ったボールを無駄にせず、俺と内山の中間にトスを上げる。
「内山! コンビネーションアタックだ!!」
「任せろ!」
俺と内山は同時に跳ぶ。
「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」
二人の声が重なり合い、俺がボールへと伸ばす……が、触れない。空振りをし、内山が打つ! フェイント攻撃だ。
流石はバレー部なだけはあって、内山のスパイクは中々に鋭い。
俺と内山が着地するよりも早くボールが床へと落ちた。
「っしゃぁぁぁぁ!!」
内山のハイタッチをする。なんとか点は取り返した。まだまだこれからだ。
こちらの記念すべき最初のサーバーは、俺だ。
「よし! 行くぜ!」
ボールを上げ、そこに飛び込むようにしてジャンプする。純岡程ではないが、それなりのサーブは打てた。
俺の打ったボールはネットを越え、女子チームの前衛と後衛の間を突く。しかし、流石は現役バレー部、難なく処理されてしまった。
前衛のバレー部がトスを上げ、山下が跳ぶ。
「中々やりおるの〜、しかーし! 私の足元にも及ばんよ!」
山下の手から放たれた豪速スパイクは、誰が反応する間も無く床を打ち、体育館の端まで飛んでいった。
こいつ…人間の限界を超えていやがる。内山のスパイクを速いと思ったが、山下のはその比では無い。
「山下、中々やるじゃないか……。だがな、勝負はここからだ……」
友貴が山下のスパイクを見てテンションを上げる。なんだか背景に、ゴゴゴゴゴゴゴッ!! という文字が見える気が……。
サーブ権は再び女子チームに移った。サーバーはバレー部の奴だ。
やはり、と言うべきか鋭いサーブを放った。まぁ純岡に比べればどうってことないレベルだ。そう考えると純岡の恐ろしさがより深く理解できる。
「任せろ!」
後衛の一人がサーブに飛び込み、前衛へとまわす。ボールをまわされたのは内山だ。流石はバレー部、友貴へと完璧なトスを上げる。
「うぉっしゃぁぁ!!」
友貴が空へと羽ばたく。グングンと伸び、見事なタイミングでボールを打つ。
「そんな単調な攻撃じゃあ、この萌咲様は抜けないよ!」
友貴の渾身の一撃は山下のブロックに阻まれこちら側のコートへと戻される。さっきスパイクを打ったばかりだというのに友貴が逸早く反応し、再び女子チームのコートへと戻す。
「残念だったな、山下!」
「ふっふっふっふ…その程度で満足されては困るよ、藤崎」
な、なに!? 山下はすでに友貴のボールへと食いつき、こちらに返そうとしていた。
「友貴! 奴を止めろ!!」
「任せろ!!」
俺の言葉を受けて友貴もまた跳ぶ。
二人は団体競技のはずのバレーを二人でプレイした。山下と友貴のネット前の攻防には到底他の人間が参入する余地は無く、それほどまでに凄まじいものだった。
「ってぇぇっりゃ!!」
「ふんっ! 甘いよ!」
「これならどうだ!」
「甘い〜甘い〜」
しかし、山下のが一枚上手だ。プレイに余裕がある。
……それより、あいつら二人だけでいつまでラリーを続ける気だ?
その後、五分の間、二人の戦いは続いた。勝利を収めたのはなんと友貴だ。一瞬の隙を突き、横を抜いたのだ。
「よくやった友貴」
「いや、勝負はここからだ……」
2−2……、まだ同点ではあるが、実力の差は大きい。あの二点はほとんど運の様なものだ。
さて、かといって負ける訳にはいかない。最後まで粘ってやる!
学校の話は水道局と全く関係ないんで退屈な人も居るかと思いますが、段々とこの学校の話も水道局と絡めるので……ご了承ください。
さてさて、実はバレーの詳しいルールなんて知らないです。というかこれ、すでに少林バレーになっている気が。
まぁまだ戦いは続きます。