第二十二章 ちょっと不幸いってくる
山下の陰謀により窮地に陥った俺は、純岡の殺意を乗せたとても冷たい視線を頂戴している。恐怖の余りか、蛇に睨まれた蛙のように体が動かない。
「クソカベ、最低だとは思ってたけど……そこまでとはね」
ヒエラルキーの頂点に立つ最狂生物、純岡。その威圧するように鋭く輝くセピア色の瞳が、俺を射抜き、震え上がらせる。
ここ一週間、俺は幾つもの眼光を浴びた御蔭か僅かに体の自由がある。しかし、この瞳…局長以上の力を感じる。こいつの潜在能力は一体……ってふざけている場合じゃない。
「ヒカベはね〜さっきまでね〜、ナナミの制服に頬を当て、スリスリ、はぁはぁ、シュリシュリ…はぅん……ってやってたよ〜」
山下が何も無い空間を服があるように見立てて、頬擦りをする。
「〜〜〜〜〜〜ッッ!!」
それをマジで捉えてらしい純岡の顔が、まるで般若のように……ひ、ひぃぃぃ!!
「ちょっと待て、落ち着け! そんな事はやっていないし、これには深い事情が!」
山下が俺の言葉に対して吐き捨てるように反論した。
「深いの逆で、浅はかで事情ならぬ痴情でしょう?」
……くそぉ事実であるからに反撃し辛い。どうする? 純岡は女子から人気がある、これでは夢の学園生活を失うぞ?
俺が状況打破の考えを脳内で高速展開していると、俺を救う救世主……いや、天使が現れた。
「あ、あの…きっと日下部くんにも何か理由があるんだと思うな……。だって、理由も無くそんな事する人じゃないでしょ?」
ありがとう荒内さん! 俺にフォローを入れてくれたのは、童顔貧乳のロリロリ少女、荒内瑞希だった。艶やかな長い黒髪を不安そうに揺らしている。
「瑞希、あんたは甘過ぎ! クソカベは変態のクズ野郎よ!」
荒内さんのフォローは純岡の強い否定で一蹴された。
「あぅ……」
ただでさえ小さい体を更に小さくし、荒内さんは落ち込んでしまった。普段は気弱で会話も覚束無いというのに、勇気出して俺を助けようとしてくれた。まぁもちろん助けようとする気持ち以外に他意は無いであろうが、重要なのはそこじゃない。
彼女は真っ向からあの最狂生物に挑んだのだ。荒内さんが頑張ってくれたんだ、男の俺がやらんでどうする!
俺はこの時、世界を狭く感じるほどのパワーが体内から溢れるのを体感した。
おぉぉぉぉぉぉぉ……目覚めろ、俺の力!!
次の瞬間、俺は教室から駆け出していた……。
「なんとか……はぁ……逃げられた……か」
俺の漲るパワーはすべて逃亡に使われた。『水の世界』に居た時に起きた瞬間移動ではなかったが、なんだか俺の足、大分速かった気がする。つーか結局、逃げてきちまった……。
裏庭の茂みに体を隠し、辺りの様子を探る。どうやら、ここまで追ってきていないようだ。校舎から出た時には、あのおぞましい殺気が背中を刺していたが、今はもう完全に無い。
逃げたはいいが、どうしようか……この服は。さっきまでの緊張感漂う空気と、絶対的な死という未来のヴィジョンを与える殺気の御蔭で、息子は縮こまり……なんとか当初の目的は達成した。しかし、もっと厄介な問題が出来てしまった……。
俺は純岡に何故か物凄く嫌われている。理由はサッパリだ。その俺を嫌う純岡を本気で怒らせてしまったので、これは非常に不味い状況なのである。
ん〜どうしよう、とりあえずこれは脱ぐか?
ゴソゴソ女子の制服を脱ぎ、バックに押し込んでおいた自分の制服を着る。純岡の制服は綺麗にたたみ、一応バックに入れておく。
さて、これからが問題だ。
「教室には戻れないだろうし……」
ズボンのポケットに押し込んでいたケータイが振るえ、メールが来たことを告げる。
すぐにケータイを開き、確認する。
「友貴からか」
〔三日振りの学校でよくやった! 流石は俺の友だ。
んでも、この後の対処はどうすんだ?
来れるなら、部室棟の三階、北側の一番奥の部屋に来い〕
これは、助けてくれるのか? 流石は友貴!
俺は早速、友貴に指定された部屋へと走った。
部室棟に入り、指定された部屋の前までやってきた。そこで、再びケータイが震える。
〔罠だ! 部室棟には行くな!〕
友貴からのメールにはそう書かれていた。これは、もしかして……。
俺が扉に手を掛けていないというのに、自然と空き部屋の入口が開く。
「嵌められた……」
その扉は地獄への入口だった………………。
今回の事件を纏めるとこうなる。俺が教室から逃亡後、友貴は俺を追おうとしたが阻まれ仕方なく、隠れて俺にメールを打ったのだ。しかし、メールを送った所でばれてしまい、ケータイを確認され先回りをされた。本来なら、この部屋には友貴の友人で俺の協力員になる奴が居るはずだったのだ。
純岡に協力するクラスメイトAにより動きを封じられた友貴は、その状態でなんとか俺にメールをもう一通送ったが……時既に遅し、俺は先回りした純岡によりズタズタのボコボコにされたのだった…。
その後、俺は変態という二つ名を手にすることになりそうになるも、荒内さんの助けにより、少しやり過ぎてしまう事がある面白い奴、ということで済んだ。
よかった……俺の学園生活は無事だ!
その代わりと言ってはなんだが、俺の体は全体的に熱い。特に顔なんか倍以上に膨れ上がってる。もちろん、純岡に連続コンボを叩き込まれたからだ。
言っておくが、これはまだ朝の出来事だ。学校はスタートをまだ切っていない。そうだ、恐ろしいのはこれから…………もう体が持ちそうに無い。
俺と同じく友貴の体もボロボロになっている。中々不憫な奴だ。
この一件で俺は更に純岡に嫌われた。いや、なんか、山下が全部悪いはずなんだが……。でもまぁそこまで変な噂が立たなかったんだからよしとしよう。
諦めと妥協により、朝の出来事をなんとか許せた俺は、一時限目から受ける気の無い数学なので、寝た。ついでに二時限目も寝た。おまけに三時限目も寝た。
四時限目は体育という事で、起きていなくてはダメなので仕方なく参加。
スタートが悪い時はその後もうまくいかないものだ……、という誰かの名言(?)がふと頭を過ぎる。なんだか、悪い予感が……。
体操着に着替え……冬場なので女子は皆、折角のブルマをジャージの下へと隠し何の楽しみもない体育の授業が行われる体育館へと、重い足を運ぶ。
その間に事件が起こって授業が中止にならないかな〜とか考えて、周りをキョロキョロと見ると、友人との談笑を楽しむ純岡が目に入った。
そういえば、なんで純岡の制服を山下が持ってたんだろう? ……まぁそんな事はいいか。
ボンヤリと純岡の事を眺めていると、俺の視線に気付き、嫌悪の表情を露骨なまでに一切隠そうとせず、俺に向ける。
やれやれ……でも、今日の事で完全に正当な嫌われる理由が出来てしまったのがからしょうがないことか。
せめて愛想だけでも良くしようと、嫌悪の表情に対して微笑みで答える。
俺の対応が意外だったのか、純岡は驚きで目を見開き、戸惑いを浮かべる。
「何一人で顔芸やってんだよ?」
横を一緒に歩いていた友貴が、俺の顔の変化を疑問に思い、尋ねてきた。
「いや、ちょっと……」
どう答えていいかわからず、歯切れの悪い回答になってしまう。
「ふ〜ん」
だが、特に友貴は特に気にする様子を見せず、今度は明良の方へと声を掛けていた。どうやらただ話し相手がいなく暇していただけのようだ。
その後、体育館に入るまで純岡の安定しない視線を受け続けた。なんつーか心臓に悪い。
その後、体育の授業では更なる悲劇が待ち受けていた。
俺は運命に屈することなく立ち向かえる勇気と力が欲しい、そう思うのだった。
直輝が不憫でならないのは何故だろう。まぁいいか。
さてさて、純岡が段々と最狂キャラへの道を……。果たしてデレは来るのか?
まぁ彼女にも色々とあるんです……きっと。
次回予告?
直輝を襲う不幸の数々、そして体育の授業は仁義無き戦いへと変貌して行く……。
って次回予告をやってみたかったのですよ。まぁ次の内容は概ねそんな感じ。