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第二十一章 ちょっと対処法いってくる

 ここで俺が通う学校の事を説明したいと思う。

 『水ノ御茶高校みずのおちゃこうこう』というネタ的な名前の普通ではない学校だ。校長(いわ)く、御茶なんたらという学校よりこちらが先だ、とのこと。事実は定かではない。

 普通科のみの共学だ。生徒の比率は女子のが多く、ウハウハ……ではなく、主に男子は肩身の狭い思いをしている。トホホ……。

 女子の制服は独特で、今は珍しいワンピースタイプだ。

 冬服は、黒と紺のチェック柄で、その上にクリーム色のブレザーを纏い、首元には水色のリボン。

 夏服は、白をベースにしたワンピースと紺のセーラー服を合わせたような服で、それにも水色のリボンだ。

 対して男子というと、普通に学生服だ。そう、学ランという……これぞ男女差別。なんで女子のは冬服も夏服も凝っているのに、男子は学ランで夏場になったら、ただ上がワイシャツになるだけ……。


 という全体的に男子には冷たい仕様になっているのは、初代校長であり現校長である水科みずしな校長にようものだ。

 だが、この校長は偉大だ、と俺は思う。

 まずは、女子の制服のセンスはナイスだ。これは認める、それに、女子の体操着に感動。聞いて驚け! ブルマだ!!

 これは校長の座の権力と、伝説の生徒会長と呼ばれた男の努力、二人の力により達成された偉業として今も語り継がれている。


 そんな伝説もあるユニークな学校だ。しかし、一応は県内でもトップのレベルを誇る学校なのだ! なんというか抜かりが無い。

 女子は可愛い制服、男子はそれを好きなだけ眺める! これぞ利害の一致の代表例。そんな訳で毎年倍率は高いらしい……。


 もちろん授業は普通にあるし、留年だってある。ファンタジーのように自由な場所ではない。魔法が使える生徒も居なければ、人間ではない生徒も居ない。あくまで常識内での楽しさを提供してくれる、非日常反対派の俺に優しい学校だ。





 脳内で軽い学校説明を終えた俺は、今の自分の状態に不安になった。

 俺は少し遅刻気味で、1−Bの扉の前までやってきた。山下が提案した対処法を承諾(というか脅迫されて)し、今まさに扉に手を当てたところ。


「なぁ山下、本当にこれで大丈夫なのか?」


 急に不安になった俺は、確認をするように背後に控える山下に声を掛ける。


「……山下様」


 ドスの聞いた声で指摘された。


「す、すみません……山下様!」


 俺がそう言い直すと、満足そうに笑う。


「それでよろしい。さて、ヒカベよ、今こそ歴史を刻む時!」


「いや、日下部だから」


「『日』をどうすれば『くさ』と読むのかわからんのよ……。だから、ヒカベで決定!」


 俺は呆れたように軽く溜息をつく。


「もうどっちでもいいですけど……。それじゃあ……行きますよ!」


 扉は今、開け放たれた………………。




 時は遡り、十分前。

 俺は学校内の敷地に遂に辿り着いてしまい、今は自転車置き場に居る。そこで、山下が対処法について語ってくれた。


「ようはズボンでなければ、そのモッコリはばれないと思うのよ」


 あっけらかんと言ってみせる山下、ニヤニヤと笑みを浮かべるその顔からは真意が読み取れない。


「それはそうだが、意味が分からんぞ?」


 フッフッフ……とウチに不可能は無いでぇ! という感じの頼れる気がする偉そうな笑い方をする山下。


「これを使うのさ、少年よ!!」


 自分のバックを漁り、取り出したのは…………、


「なっ!? 女子の制服?」


「そうよ!」


「そうよじゃねぇ!」


 これでどうだ! と自信満々にフフンと笑みを浮かべる山下の頭に疾風の如く突っ込みを入れる俺。


「痛いわね……。話はこれからなのに……」


「それを着るってのは却下だ!」


「え……えぇぇぇぇぇっ!!」


 俺の学ランを掴み、着てよ〜着てよ〜と駄々を捏ねてくる。てめぇは何歳だ!


「着てよ〜着てよ〜……」と幼い笑みを浮かべていたが、急に冷え切った笑顔に早変わりし、「じゃないと息子さんの事ばらすわよ」


「なっ! 卑怯だぞ!」


「ウチは使えるものは使う、そういう強い女なのよ! いくら男女雇用機会均等法があっても寿退社の危険がある女性社員には冷たい社会! あぁぁ……ウチは強くあり続けねば!」


「意味分からんから! つーか関係ないだろう!」


 なんだか苛々してきた。いや、すべて悪いのは山下だ、それはわかってる。

 そこで自分が紳士だという設定を思い出し、冷静になるように努める。

 ふぅ〜……よし、心は落ち着いた。山下は……おぉ……まだ女性がどうのこうのと語っている。そんなコンプレックスというかなんというか、何か事情があるのか? まぁ今はそんなことよりも、


「おい、とりあえず山下、俺はそれ、着ないぞ」


 俺がそう断言すると、社会がどれだけ女性へ冷たいのか語る口が止まり、ロボットのようにかくかくとした動きで俺の方を向く。無言でそのまま視線を固定し、右手で制服のポケット弄り、ケータイを取り出し何やら文字を打ち出した。


 俺が呼びかけても反応しないので放っておくと、一分程経ち、いきなり俺にケータイの画面を向けてくる。俺は紳士スキルが発動し無意識に画面から目を避ける。どんな理由であれ、乙女(?)のケータイを見るのはご法度だ。


「ちゃんと見た方がいいと思うけどな〜」


 嘲笑うようにケータイをフラフラと揺らす。だ、ダメだ…誘惑に……負ける!

 そう思った時には、すでに俺は山下のケータイの画面を凝視していた。


「なっ……ななななななななななっ!!」


〔件名:日下部は変態

 本文:1−Bの日下部は朝から盛るけだものです。女子はご注意を……〕


「さぁ、少年よ、選択の時が来たのだ! 今こそ、セーラー服美男子戦士となって世界を救え!!」


 どうすればいい…………行くも地獄、行かぬも地獄。まさかの最悪の選択。これではまるで、仲間にしたくもないキャラが強制的にパーティーに入ってしまうような…。いや、それ以上だ。


「ふふふ……どうした、少年、月に代わってお仕置きしたくないのかね?」


 どこぞの偉そうな教授風に喋る山下。あのメールを出されたら俺の学園生活は崩壊。あの女子の制服を着たら俺の男としての破滅。

 崩壊か破滅か…………んなもん選べるかっ!!

 だが、それでも選ばなくてはいけないのだ…………それなら、冷静に考えて被害が少ない方を…。どっちだ、どっちのが被害が少ない!?


 メールの場合は、恐らく交友関係が広く噂の発信元である山下ならほぼ全校生徒がこの情報を得るだろう。冗談と捉えてくれれば助かるが、中には信じてしまう、というかまぁ事実なんだか……。

 制服を着た場合は、これは教室に入るだけならクラスの連中だけで終わるだろう、その後、噂は立つかもしれんが、誤魔化せばなんとかなる。それに、堂々と行けば、ネタで済むんじゃ?

 いや、だがやっぱり……あれだけの内容のメールなら…………。


「……少年よ、残念ながら例の写真はまだ保存されているよ?」


「なっ!?」


 例の写真とは、俺が夏にとある事情で女子トイレに入ったのをバッチリ山下に撮られたのだ。つまりは、俺に……選択権は無いんだよ。


 当初はこの元気一杯の息子を隠すためだけの話だったのが、どうしてこんな悲劇に……?




 開け放たれた扉の向こうに広がる、我が1−B!!


「おはようございますっ!!」


 俺はワンピースの制服を翻し、堂々と力強い一歩を踏み出した。

 さぁ……俺を迎えるのは、悲劇か惨劇か……俺的には喜劇がいいが、果たして……!?


「直輝…………」


 友貴の唖然とする声、そう言いながら目を擦る。

 そして次々と目を擦り現実を否定する愛すべきクラスメイト達……。

 担任の前川先生……通称まっちゃんもまた目を擦り、自分の目を疑う。


「お、おま……そ、それ…………」


 震える声が聞こえてきた。


「何か……あった……のか?」

「な、なな、何か、なやなや……悩み事ある……の?」

「だ、大丈夫だよ、うん、うん……」


 憐憫の目が俺を差す。これは、非常に不味い……状況だよな? もしかして皆、三日の間に何かあったのか、と勘繰ってるのか?


「直輝くん、大丈夫だよ。君に女装癖があったって僕は友達だよ」


 今の状況では明良ののほほんとした声に安らぎを感じず、その言葉は俺の心を抉る。

 どうする、俺!? 今まさに、俺の学園生活を賭けた一大勝負がやってきた。


「おはよう〜」


 俺の背後から山下の暢気のんきな挨拶、そして、俺の横を通り教室へと入る。


「ねぇねぇ〜ナナミ〜。ナナミの制服をね、ヒカベくんが、着たい! って言って無理矢理取ったの……」


「……はい?」


 ナナミ……? ナナミってあの純岡七海すみおかななみ? あの、栗色の髪で美人で……何故か俺を嫌っている?

 ゆっくりとした動作でその人物へと目を向ける。

 純岡は制服を着ておらず、学校指定の青色のジャージを纏っていた。

 えっと……じゃあ俺が着てるのは、純岡の制服?


「萌咲……それって……どういう……意味?」


 ぎこちなく純岡は言葉を紡ぐ。まだ状況を理解できていないようだ。


「だ〜か〜ら〜、ヒカベくんが〜、ナナミの温もりを感じたいよ〜はう〜はぁ……はぁ……って感じでウチから奪い取ったのよ!」


「ちょっと待て! 俺はそんなどこぞの変質者ではない!」


「じゃあ不審者?」


 キョトンとし、俺の言葉に軽やかに反撃してくる。


「不審者でもない」

「じゃあ犯罪者?」

「違う!」

「じゃあ変態?」

「それはお前だ!」

「いや、だって……そんな女子の制服を着た男子生徒に言われても〜」

「てめぇがやらせたんだろうが!」


 不味いぞ、非常に不味い、比較的……学校では良識ある人間として生きてきた俺だが、今回の件、下手をすれば俺の人生そのものの崩壊!

 考えろ、俺! 冷静になれば何かが分かるはずだ。いや、お前なら出来る!

 その時だ、俺の横数センチをシュンッと風を切り裂き何かが通る。


「ク〜ソ〜カ〜ベ〜……」


 俺に対して純岡は憎らしげに鋭い眼光を浴びせてくる。これは、殺気!? それに、クソカベ? くそぉ……みんな俺の名前を好き勝手呼びやがって……。

 先ほどの俺の横を通った物体の正体が知りたくて振り返ると、壁に突き刺さった消しゴムがあった。け、消しゴムだと!? 普通はナイフとかカッターとかコンパスとか……いや、そんなことより、どうすれば消しゴムが壁に突き刺さるんだ?


 その消しゴムに対しての議論を脳内で展開していると、再び強い殺気を背後から感じる。

 また体を純岡の方へと向ける。


「クソカベ〜……制服、制服を……返しなさいっ!!」


 獰猛なまでの獣のオーラを放出する純岡にたじろぐ。

 や、られる!?

 本能が訴える、これは逃げるが勝ちだ、と……。

 勝ち誇る笑みを浮かべる山下、憐れみの目を向けるクラスメイト、こっちの対処はとりあえず置いておこう。今は、純岡だ。

 席から立ち上がり、ジリジリを詰め寄る純岡……。


「早く脱いで、こっちに渡しなさい……」


 脱げだと? それこそ無茶だ。このスカートの中には俺のはっちゃける息子さんが居るんだ。当初の目的を果たせず、ここでスカートを奪われては二重の恥! 死んでも渡さん!

 つーかなんでこんな修羅場でも元気なんだよ、SON!?



 俺は、今日を生き抜くことが出来るのか?

 それさえも定かではない……まるで戦場だ、いや、学校という名の戦場なのだ!

テンション上げ上げで書いた文章です。

後先考えずの展開に自分自身で四苦八苦しております。


さて、1万PV突破! ユニークアクセス2千人突破!

感謝感謝です。本当にありがとうございます。

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