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第十三章 ちょっとダイビングいってくる

 今日は日曜日、あいにく空はどんよりで遠足日和ではないが、俺の向かう場所は異世界なのでこっちの天気なんて関係ナッシング! ……だと思う。

 残り数分で約束の午前十時がやってくる。


 動きやすい服にしろ、と言われたので上下ともジャージだ。これ程、学生の運動に適したものは無い。俺はそう思う。

 学校指定のは流石にダサいので嫌だが、今着ているやつは自前なので多少はましだ。

 上下セットの、黒をベースに側面に白いラインが一本入っただけのシンプルつナイスなデザインだ。まぁあくまでジャージの中での話だが……。


 目覚めはバッチシ、朝食はしっかりと取った、身支度OK!

 よし、後はその時を待つだけだ。

 そんな訳で、俺は五分程前からトイレにこもっている。

 そういえば……俺以外がトイレに入っていた場合はどうしたのだろう? まぁ運良く今日は朝から家に誰も居ないんだが……まさか、それを知っていて?


「ちょっと……恐くなってきたぞ」


 不安な気持ちが内から溢れ、独り言が漏れた。

 相手がお国さんだからそのぐらい調べられてもおかしくは無いが、やっぱり……自分の家の都合を知られるのはあまり良い気分はしない。

 それに関して怒りを覚えることはないが、なんというか抗えない力というのを感じて非常に悔しい。


「あの、お待たせしました……」


 あれ、いつの間に。気付くと便器から上半身だけを出したアズハの姿があった。

 表情が曇っていてどこか申し訳無さそうだ。


「いえ、ナイスタイミングです」


 まだ昨日の事を気にしているのだろうか? 俺はそこまで自分を責めなくていいと思うけどな。

 俺は元気が無いアズハに微笑み掛け、


「笑ってくださいよ。悪いと思っているのなら、俺に笑顔を見せてください。それのがよっぽど償いになりますよ」


 ちょっとキザ過ぎるだろうか? でも、これが正直な気持ちだしな。気にしてませんよ、と言っただけじゃあ納得できないだろうし……。

 俺の言葉に目を丸くしてキョトンするアズハだったが、すぐにその表情を笑みへと変え、


「……心掛けますね」


 と澄んだ声で俺への回答を示した。

 やっぱ可愛いな。笑顔だとなお良い! なんつーか綺麗なピンクの花を擬人化したみたいな?

 あながち間違いではない気がするけどね。アズハの見た目が特殊だからというのもあるが、雰囲気がどことなく神秘的なので、同じ人間とは思えない。


 アズハは右手首に巻き付けられた腕時計を確認した。

 淡緑の瞳が俺を見上げる。


「そろそろ、行きましょうか。少し苦しいかもしれませんが我慢してくださいね」


 アズハが華奢な両腕で俺の右手を掴む。

 これが三度目のダイビング……。


「なんとかなるか……な?」


 あの時と同じような不安感を一杯に、便器の中へ体が吸い込まれるように消えて行くアズハを追って飛び込む。

 成るように成る、そう信じよう。



 飛び込んだ俺の体は、今までの二回と同じく全身を圧迫される様な感覚に囚われた。

 目が開きたくても開けない。

 その高速で水の中を移動するようなスピード感は少し癖になるかも。

 右手には人の手の平分の温もりを感じる。アズハが掴んでいるところだ。このダイビング中にアズハは体の自由が利くのだろうか? ……そういえば、慣れない内は座標のずれがどうのこうのって言ってたから、慣れれば自由が利くって事かな。


 ……やはり三回目となると、こうして冷静に色々と考えられるものだ。これもまた、俺の高い順応性が成せる業なのだろう。

 それにしても、今回は随分と長いような…。前二回はほんの十秒程だったような気がするけど。すでに、一分ぐらいはこの状態じゃないか?


 流石に圧迫感に嫌気が差してきた、という所で俺の体に重量の感覚が襲う。


「うぉぉぉぉぉっっ!!」


 落ちている。落ちている? 落ちているって不味くない!?

 自由になったはずの体が強張り、また完全な自由が奪われる。

 一秒でも早く状況確認をする為、目を開く。


「空……!?」


 俺の体は上空を飛んで……いや、真っ直ぐ地面へと落ちて行っている。

 これは死ぬな。そう確信した。ひも無しバンジーならぬパラシュート無しスカイダイビング!!

 おいおい……ダイビングはダイビングでも空はちょっと……。


「おぉぉぉぉぉぉぉ!! なんかスゥーっとくるぞ…息子さんスゥーッと……ほにゃねらぬにゃ〜〜〜!!」


 力一杯の奇声を上げ、やはり落ちて行く俺。

 空気の抵抗がフワフワと腰に当たり、なんだか柔らかなウォーターベットの上にいるような。

 でも、ゴツゴツと当たる部分も、それに気のせいか? ヤケに草木の匂いが鼻を突く。

 あれ? んん? どこかで……俺の名前を呼ぶ声が…………。


 ………………

 …………

 ……


「直輝さんっ! 大丈夫ですかっ!?」


 視界がシャットアウトされ真っ暗になる。その闇に聞き覚えのある声が響く。

 アズハが俺を呼んでいる?

 あ、あれ? 俺……どうなったんだ?

 全身が鉛の様に重い。それに、横に倒れている? なぜ?


 とりあえず、混乱するのは目を開けてからにしよう。

 瞼を押し上げ一気に開こうとするが、眩しくて一瞬しか開けなかった。

 今度は目を細め、少しだけ開く。


 遥か頭上に木々が生い茂り、ぽっかりと丸く、俺の真上だけ空が広がっていた。

 どこの密林……?


「アズハ……ここは?」


 ボンヤリとしてまともな働きをしない頭が出した結論はアズハに尋ねるということだった。

 アズハは俺のすぐ横で膝を曲げ座り込み、心配そうに俺の顔を覗き見ていた。

 おたおたと、焦った口調でアズハは答えた。


「ここは、あの……多分――――」


 全身に衝撃が走る。なんで……わざわざ俺の故郷に? 奴が指定した場所なのか? それとも局長の嫌がらせか?

 横になっていた体を起こし、光に慣れた目を大きく見開き辺りを確認する。

 ここは、学校の裏山……かな。周囲でここまで高い木が多くあったのはそこだけだったし。


「もしかして、俺はさっきまで気絶してたんですか?」


 すると、アズハは泣きそうな顔になって、


「そうです……。水潔獣を連れずに長い時間ダイビングをしていたので……。すみません、私がもう少し気を使って途中で何度か休憩を入れればよかったんですが……」


 そういうことか……、さっきの空から落ちて行っていたのは夢か。あの圧迫感に負けて気を失うとは、なんだか情けない。

 まぁそれよりも重要なのはこの場所だ。


「なぜ、ここなんだ……」


 自分自身でも驚くほど、俺の声は冷たかった。そして、鋭利な刃物のように鋭かった。

 この土地を訪れる事はもう二度と無いと思ったのだけどな……。

 この場所を引っ越した特別な理由が無いのは確かだが、嫌な思い出があるのだ。


 ここで俺は人を傷付けた。

 ここで守るべき人を守ってやれなかった。


『嘘吐き』


 夢の中で少女は言った。本当はいつまでも記憶に残っている。

 俺は約束を守れなかった……。

 感慨に浸り、現実から目が背けていくようになる俺を現実に繋ぎ止めるようにアズハは俺に言葉を投げ掛けた。


「直輝さん……体の方は大丈夫ですかっ……?」


「もう大分楽になりました。それより、ここに奴が居るんですか……?」


「……はい。こちらからコンタクトを取った時、この場所を指定されて」


 奴にとってここはどんな場所なんだ?

 ここには何も無いし、何かあったとも聞かない。

 ただの田舎町だ。


 体の重さが取れ始め、身軽になった体で立ち上がり、もう一度周りを見回す。

 そういえば、ここは『水の世界』ではないのか?

 空は曇っているが微妙に太陽が見えるし、地面がプニョプニョしてない。あれ? でもこの質感はあの世界のものだ。

 戸惑う俺に対して、アズハがドンピシャな回答をくれた。


「感じが少し違うかもしれませんが、ここが『水の世界』ですよ。何故だかはわかりませんが、ここだけは汚染が少なく晴れる時もあります。地面や物の感触が違うのも、コーティングを施されていないんです。

 ……あ、コーティングについて解説してませんでしたよね? あれは、戦闘で飛ばされたり叩き付けられたりした時のダメージを軽減するための工夫なんです」


 ……おいおいおい、俺の故郷ってなんか特殊なのか? これ以上の特別待遇は遠慮したいぞ。



 なんだか俺がこの戦いに巻き込まれたのも必然だと思えてきて遣る瀬無い。

 誰か教えてくれ、俺は普通なんだよな?

戦闘は次回開始!? かな……?

会話のシーンが長引けばまた次に持ち越しに。


きっと大丈夫……戦闘もこの話のメインの一つだと思うので。

はい、頑張ります。

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