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第十二章 ちょっと紳士いってくる

 隊長さんの話はまだあの後も続いた。


 『ダイビング』は『力』の素養があるものなら多少は耐える事が可能だが、やはり水潔獣と共にしなくてはいつかは体がダメになるらしい。

 あと、隊長さんやアズハのように『力』の素養があり水潔獣を連れている人間を『ダイバー』または、『水の理解者』等と呼ぶらしい。そのままだな……と思った。


 それから、『清き水(クリアウォーター)』に所属するに当たって、俺は一応は軍に所属しなくてはいけないという。とは言っても学校には通えるし普通に過ごせるとのこと。高校を卒業後は完全に水道局の職員のような扱いをされるとのこと。就職先に悩まないのはいいが、決定されているのも難だな、と思う。


 『清き水』は隊長さんやアズハに俺を含めて、十人程しか居ないらしい。それに、各自で行動している為、ほとんど全員が揃う事は少ないという。なので、俺の自己紹介は会ったらすればいいとのこと。


 後は……毎週日曜日は水道局の方に顔を出すようにしろ、と言われた。


 隊長さんに言われたはこのぐらいだろうか……、あ、後は、隊長さんと呼ぶな! と怒られた。これからは、伊久万隊長か伊久万少佐と呼べと言われた。ん〜どっちがいいかな。





 隊長からの説明は終わり、もう一度所長室に戻ってきた。

 そこで、アトゥなんとかに会いに行く日時が指定された。明日の朝、十時に自宅トイレで待つように、とのこと。また、トイレから行くのか?

 服装は動きやすければなんでもよし、持ち物は不要、時間厳守。なんだか遠足に行く小学生の気分だ。

 それだけ話すと所長は忙しいらしく、摘み出された。


 そんな訳で、今日の用はすべて済んだ。後は家に帰るだけだ。

 シェリアのおかげで楽になった体を存分に堪能し、鼻歌を歌いながら水道局の廊下を歩いた。

 フン〜フフン〜フ〜ン〜〜♪

 とりあえずはすぐに死ぬことはなくなったので一安心。そんな考え方をしなくてはいけないのには涙が出るが……。

 正面入口まで辿り着き、俺は外に出た。


「ん〜〜〜……」


 外の空気を肺一杯に吸い込んで、大きく伸びをした。

 冷静に考えるとなんだか複雑な気分だ……。明日……失敗すれば俺はどうやら死ぬらしいからな。

 …………こうなったら自分へのご褒美に駅前の喫茶店で特大パフェを食うしかねぇ!!

 死ぬかもしれないんだ、このくらいの無駄遣い許されるだろう。いや、許せ。


「よっしゃー!! そうと決まったらダッシュで帰んぞ!」


 テンションを上げる俺に、水をさすように何者かの呼び声が聞こえてきた。


「直輝さん……!」


 ……この声はそういえば昨日から見てなかったような。いや、今日所長室でチラッと見たか?


「どうしたんです?」


 振り返った先に予想通りアズハの姿があった。

 アズハは息切れしていて、腰を曲げ両膝に手を当てるように体を支えていた。走って追い掛けて来たのか?

 とりあえず息が整うのを待った。

 呼吸が安定したのか、アズハは顔を上げ俺に目を合わせる。


「どうしたんです?」


 俺は繰り返し尋ねた。


「すみません……」


 開口一番、そんな謝られても……。意味が分からないし、面白味も無い。それに、逆に不安になってくるぞ。


「あの、何に対して謝ってるんですか? アズハは、俺に謝らなくてはいけないような事しましたっけ?」


 強く言ったつもりはないが、アズハは視線を俺から外し俯いた。

 なんだか……俺が苛めているみたいじゃないか?

 平常の呼吸に戻ったはずが、再び息を乱し、その状態でうわ言のように呟く。


「すみません……すみません」


 相手が野郎なら一発ぶちのめして終わりなんだろうが……女にはな。女子の友達はいるがこんなシチュエーションを体験した事の無い俺には、どうしていいかわからんぞ。

 ん? 待てよ、そういえば父さんが、


『謝る女性はとりあえず抱き締めとけ』


 と言っていた。その話を聞いたのはまだ小学生で、当時は純粋無垢だった俺は実行してしまい……あぁぁ思い出したくない。使えねぇ、流石は俺の親父だ。

 おっと、そんな下らない思い出はいいんだ。

 誰か、女の扱いがうまい奴は…………友貴か? 違うな、うまいというかタラシのダメ野郎か。


 くそぉぉぉっ! 俺の周りにはまともなお手本になる人間はいねぇのか!?

 どうすればいい? 逃げていいか? 逃げていいよな?

 いやいや…思い出せよ、お前は紳士だ。寄って来た女性に冷たくするのはご法度はっとだろう? あ、そういえばそんな設定があったような……。自分でも忘れてた。


 あぁぁぁぁぁ!! 色々と逸れすぎだ! 前を見ろ! 現実を見ろ! アズハを見ろ!

 ほら〜? 綺麗な桃色の髪をした美少女が泣いてるよ。

 な、ない……泣いて………………泣いてる!?!?


「あ、え……あの、あのあの……何故に泣いとるのですか?」


 俯くアズハの顔から雫がポタポタと落ち、地面に跡を付ける。顔が見えないから鼻水の可能性やよだれの可能性もあるが、現実的にそれは無いだろうと思うので却下。つーか夢が無い。

 まぁその夢が無いというだけで、泣いてるってのを受け入れなくれはいけないのはなんとも歯痒い。

 アズハからの返答は無い。

 そういえばハンカチだよハンカチ! 紳士のたしなみだ、紳士の俺なら持ってるはず!

 ガサゴソとズボンの両ポケットをまさぐる。


 …………無い。 

 どうすればいい……。俺は涙を流し続けるアズハの横で途方に暮れた。


 そもそもなんでアズハは俺に謝るんだ? そこが一番の問題だ。想像がつかない……。

 俺が必死に原因を考えていると、アズハがしゃくりあげながら口を開いた。


「すみません……巻き込んでしまって……すみません……」


「あ……」


 そうか、そういうことか。最初に俺を関わらせたのはアズハだから……俺が嫌そうだったから……。きっと性格が真面目だから責任を感じているのだろう。

 俺はアズハの肩に手を置いて、口調を柔らかくし優しく言った。


「責任を感じなくていいですよ……。それに、逆に感謝してます。世界の危機が訪れるなら、傍観者や逃げ惑う民より当事者のがいいですからね……」


 正直、半分は嘘だ。世界が滅びるかもしれない、という情報は欲しい。でも、それを防ぐ人間になりたいとは思わない。隕石が落ちてきたりする映画は大概たいがい、それを阻止しようとする人たちの命を散らすことになる。

 危険な日々を送るなら、平凡に暮らしていたい。

 俺の頭の中とは裏腹に口からかろやかに紡がれる言葉たちは正義で溢れていた。


「話はよくわからないですけど、なんだか俺は世界を守れる力を潜在しているらしいですからね。守れるのなら守りたい。救えるのなら救いたい」


 笑える。今、アズハに顔を上げられたら努力がすべて無駄になるだろう。自嘲の笑みを浮かべる俺の顔は、言っている事とまるで違う事が書かれているだろうから。

 守れるのなら守りたい……、自分の人生に於いて必要な人間ならね。

 救えるのなら救いたい……、手の届く範囲でね。

 口にしていることは完全には嘘ではない。その後に言葉が付くだけでね……。

 ……俺は口にする言葉に合った表情へと変えた。


 アズハは俯きながら俺の言葉を聞き、軽く頷いた。


「でも……私、気付いてたの……水道局を初めて訪れに来た時、すぐにわかったっ。……アトゥムに毛を埋め込まれ……生命エネルギーが吸収され、やつれているのを……。本当は……あの水害獣がアトゥムだって知ってた……全部知っていて……局長に指示をされて…行ったのは本当だけど……巻き込んだのは、私だから……」


 アズハが顔を上げる。涙でくしゃくしゃにしとがの表情を浮かべていた。

 少し胸が痛んだ。確かにアズハによってもたらされた現実は俺にとっては嬉しく無いものだ。かといって、アズハにすべての罪がある訳じゃない。

 それに、何度も言うが俺は紳士だ。女を泣かせるのは本意じゃない。


 どうすればいい…。俺は、俺は………………そうだ! タオルなら持っているじゃないか!

 ずっと存在を忘れていた腰に背負った斜め掛けのバックを漁り、中から白い生地に青いラインが一本入っただけのシンプルなタオルを取り出す。

 それをアズハに差し出した。


「とりあえず、これ。涙で折角の美人さんが台無しですよ」


 躊躇ためらい首を振るが、俺が差し出す手を引かないので、申し訳無さそうにおずおずと手を伸ばし受け取った。


「あの、ありがとうございます」


「どう致しまして」


 あんな状態でも礼儀正しく頭を下げるアズハに、俺もニッコリと笑顔を作り答えた。



 女一人の対応に困る俺が、世界をどうにかするなど……夢の様な話だ。

 あーあ……俺はどこへ行くのやら…………。

次回からは、ようやく説明モードは終わり……かな?

もしかしたらまた、どこぞの誰かが語るやも知れませんが、その時は勘弁してください。

一応は、黄金狼ことアトゥムさんとのバトル? を予定しています。

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