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第十一章 ちょっと解説いってくる

 俺の悲しい決断はスルーされる事無く、二人を頷かせた。


「この状態、どうにかしてもらえませんか?」


 シェリアに目を向け、この不健康な体の状態を緩和するようにお願いする。


「わかりました……。少し、目を閉じてください」


 言われた通りに俺は目をつむった。

 プニョ……と多分シェリアの肉球が頬に触れる。肉球キャッホイ! とかいう肉球ファンではない俺でも、その良さがわかるほど心地が良い感触だ。

 ホワー……と触れられた頬が不思議なぬくもりを感じる。これは、良い! ここにきて落ちていたテンションが一気に上がる。

 今なら言える、肉球キャッホイッッ!!


 温もりを感じると共に、体の調子も戻ってくる。なんて言うんだっけ? こういうの……。ああ、そうだ、ヒーリングとかいうのに似ているのかもしれない。


「これで、普段状態ぐらいには緩和できたと思います。もう目を開いても大丈夫ですよ」


 俺は閉じていた目を開く。

 シェリアの前足が俺の頬から離れる。あぁぁ! 肉球ちゃ〜ん!!

 名残惜しい気持ちであったが、仕方が無いのだ、俺と肉球ちゃんは結ばれない運命……妙にテンションの調節が難しい。油断すればどこまでもいける気がする。


「体の調子はどうです?」


 どうも何も無い……。俺ってこんな体軽かったか? それとも二日間ずっと万全ではなかったからか?


すこぶるいいですよ」


「それはよかった」


 答えたのはシェリアではなく、執務机に腰掛ける局長であった。


「それにタイミングもいい。どうやら、君の待っていた『力』の専門家さんが到着したようだ……」


 局長がその言葉を言い終えるかどうかの所で、ゴンゴンとドアをノックする音が響いた。


「入りたまえ……」


「失礼します」


 引き締まった力強い声が扉の向こう側から聞こえる。

 ノブが回転し、扉が開き…………、


「局長、伊久万潤いくまじゅんただいま戻りました」


 入ってきたのはアズハとは違いちゃんとした軍服を纏った凛々しい青年だった。

 伊久万潤と名乗った青年はビシッと局長に敬礼し、腕を下ろすとそのまま入口の所で足を止めた。


「伊久万くん、こちらに来てくれ。君に紹介したい人が居る」


 そう言うと、青年は振り返る俺に一瞬目を向けすぐに局長の方へと歩み寄った。

 局長の横に青年が並ぶ。


「伊久万くん……彼が、黄金狼おうごんろうとの遭遇者、日下部直輝くんだ。そして、君の部隊に配属される新しい能力者だよ」


 無言で俺に視線を向けてくる。局長とはまた違う迫力のある眼光を宿している。


「日下部くん、こちらは伊久万潤少佐だ。一応は陸軍に属していることになっているが、メインとなる役職は、この第三水道局直属の特殊部隊、『清き水(クリアウォーター)』の隊長だ。君の上司になる人間ということだ」


 黒髪に赤茶色の瞳、細身の体に厳格なオーラを纏う……なんだか孤高の存在の雰囲気を持っている。顔は美形で背も高いのだが、その鋭い眼光と近寄りがたい感じから孤独を連想させる。

 厳しそうな人だな……と微妙に不安を抱く。


「よろしくお願いします」


「よろしく」


 本当に形だけの自己紹介だ。俺の言葉には少しは親しみがあったかもしれないが、隊長さんの声には何も無かった。


「さて、あとの説明は伊久万くんに任せるとしよう……。伊久万くん、部屋に案内してあげてくれ」


「わかりました」


 隊長さんは頭を軽く下げ、俺の方へと目を向ける。


「付いて来い」


 それだけ言うと、すたすたと早足で扉の方へと歩いて行く。

 俺は慌てて立ち上がり、局長とシェリアに一礼し、隊長さんの後に続いた。

 扉の前で隊長さんは一礼し部屋を出た。俺もそれに倣い頭を軽く下げ、部屋を後にした。


 閉まり掛ける扉の先に、アズハの姿が見えたような気がした…………。




 隊長さんに連れて来られたのは、『清き水』の使う訓練ルームとかいう部屋だった。結構広く、畳があったり、訓練道具があったり、なんだか物騒な武器(?)のようなものまであった。


「局長に『力』についての説明は受けたか?」


 隊長さんは靴を脱ぎ畳に上がって尋ねてきた。

 俺も靴を脱ぎ捨て畳に上がった。


「いえ、水害獣や水潔獣の説明はされましたが」


「そうか……」


 目を瞑り何か思案をする隊長さんを俺はボォーっと眺めた。

 数秒経ち、隊長さんは何も無い空間を指差した。……そこにも水潔獣が居るのだろうか? 意識をその空間に集中させる。


 すると、ボンヤリとだが……何かが見えてきた。

 俺の様子を見て、隊長さんは感心したように言った。


「ほう……連想をせずに姿の確認が出来るか……」


 視線はそのままに俺は答えた。


「いえ……ボンヤリとしか見えませんし、指を差さなければ考えもしませんでした」


「十分だ。そもそも、何か居るような気がする……という感覚を持てるだけで最初から上出来のレベルだ。それをボンヤリと見えるお前は、確かに鍵を握った存在なのかもしれないな……」


 それは出来れば勘弁して欲しい。鍵など握りたく無い。


「そこには、お前の想像通り、水潔獣が居る。特徴は、左目を傷付けた隻眼で、茶色模様をしている」


 言われた姿をイメージし、その空間を凝視する。

 最初はボンヤリとした姿が段々ともやが晴れていくようにハッキリと見え始めた。

 左目が刀傷のようなもので傷付き閉ざされ、全体が茶色に包まれた水潔獣が見えた。隻眼が、黄色い閃光を輝かせている。


「なんだか隊長さんと雰囲気が似てますね」


「……もう見えたのか。やはり、相当の潜在能力を秘めているようだな」


 それまた勘弁して欲しい話だ。俺はそんな非凡に憧れるような正常な人ではないのでね。

 隊長さんはすぐ横に居る水潔獣を手の平で示し、


「名前はヒイラギという。私のパートナーだ。パートナーと言われても今一意味は理解できないだろう。まずはその説明からしようか……」


 今度は隊長さんの講義が始まった。


「人間と水潔獣は、お互いにお互いの力を引き出せるということがわかっている。二人が同化……、言葉だけでは分かりにくいだろうか。実際にやってみせる」


 そう言うと、隊長さんは横に居る水潔獣、ヒイラギの頭に手を置く。

 手を置いた瞬間、ヒイラギは光に包まれ、光そのものに変化した。ヒイラギだったその光の塊は隊長さんの体を包む。


 まばゆい光たちは、隊長さんの体に吸収されていくようにその光を弱めていく。やがて、完全に光は消え失せた。


「これが、同化だ」


 そう言われましても……。意味が分からん。つまりは、光になった水潔獣を吸収することを同化に言うのか?

 混乱する俺に向かって同化についての説明を始めた。


「これは体験するのが一番なのだが……お前の水潔獣はどうした?」


「俺の? いや、俺のも何も知りません」


 隊長さんは怪訝な顔をするが、すぐに切り替え通常時の顔に戻った。


「まさか……黄金狼がパートナーなのか? そうなると……厄介だな」


 黄金狼……確か、所長室でもそんなこと言ってたな。なんのことだろう?


「すいません、黄金狼ってなんですか?」


 またもや怪訝そうに見られた。


「知らないのか? お前が『水の世界』で会った金色の水潔獣のことだ。あれは、自由奔放……というより縛られるのが嫌いなようで、パートナーと常に行動を共にしないらしいからな」


「あいつですか……」


 あいつがパートナー……? 今現在、命の駆け引きをしている相手が? うは……やってらんねぇ。あれ、でもあいつには、アトゥなんとかっていう名前があったような……。

 諦めたように隊長さんは首を振り、


「実際にやるのはまた今度にしよう。とりあえず言葉で同化について説明する」


 と切り出し、続けて語った。


「最初に言ったが、人間と水潔獣はお互いの力を引き出すことが出来る。それが、この同化している状態だ。水潔獣は人間の体を強化し、俊敏な動き、人並み外れた怪力を得ることが出来る。どの部位をどれほど強化できるかは、水潔獣によってだ。私の場合は、特に足が強化される。


 そして、人間が水潔獣の力を引き出すというのは、水潔獣が持つ、……まあ私たちがよくいう魔法や超能力といったたぐいの力をより引き出すこと出来る。その能力もまた、水潔獣によるが、例を挙げるとだな……単純に火を操る者、傷を治療する者など様々だ。


 また、水潔獣は、体の形を変え武器になる。それぞれに得意な型というのがあってなんにでもなれる訳じゃない。私の場合は……」


 隊長さんは右手を体の前に突き出す。すると、手の中から光が溢れ、やがてその光は形を取っていき、茶色の湾曲した鞘となった。隊長の右手は鞘の中心部を掴んでいる。


「抜けばわかるが、刀だ」


 ……そうか。アズハがやっていたのはこれなんだ。アズハの場合は杖だったな。


「同化は理解できたか?」


「ええ……わかりました」


 そう言って頷くと、隊長さんは手に中に収められた刀を光へと戻し、光は体へと戻っていった。


「次は、順番が逆になったが戦闘ではなくこの『力』自体について説明しよう。

 水潔獣は基本的にパートナー以外には見えない。感覚を鍛えれば居るというのは誰にも言われずに気付く事ができる。しかし、そこまでだ。ある程度の情報を持たなければ姿は確認できない。

 よく言われるが、霊が見える時、その霊と波長が合っているから、という話があるだろう? それと同じなのだ。水潔獣は自分から姿を見せる、というのは出来るがこちらから見る、というのは出来ない。だが、波長が合うものなら意識せずとも見ることが出来る。


 更に、代償……というのが存在する。水潔獣の力を使うことが出来る人間は限られているが、その中でも力を使う事で自分の体を蝕むケースがある。

 具体例は……私だ」


 瞳を見開き、その眼球を指差す。


「私の目は元々は黒だった。しかし、水潔獣の力を使い始めて瞳の色が茶色へと変わった。何故茶色なのかは恐らく、ヒイラギの毛色が茶だからだろう……。使い続けることで、他に異常をきたすのか……またはこれで終わりなのか、それはわからない」


 代償……。黒の瞳が茶に……。では、まさか局長やアズハの髪の色は代償で?

 隊長さんと目が合う。それだけなのに、俺の考えている事は見透かされた。


「その通りだ。お前の想像通り……局長やアズハ伍長の髪は代償によるものだ。局長室でシェリアを見ただろう? 彼女の毛色は銀、そして局長の髪も銀だ」


「見た目の変化以外の代償は……?」


 その質問にあからさまな嫌悪の色を浮かべる隊長さん。だが、嫌々ながら言葉を濁し答えてくれた。


「最悪の場合は命を落とすことになる……」




 ……なんだか俺の人生に於いて死亡フラグは日常なのかと思えてきてしまう。

 一難去ってまた一難去ってまた一難…………無限ループだけは勘弁して欲しいものだ。

はい、解説です。

なんだか……文の量の割には情報が少ないような……。

まぁドンマイです。

今回投稿した章は後で、大幅改稿するかもしれません。

さて、次回も説明が続く……のですよ。バトルを期待している方には退屈だと思いますが、今しばらく辛抱を。

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