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序章 ちょっとトイレいってくる

「ちょっとトイレ行ってくる」


 俺は遊びに来ていた二人の友人にそう告げ、自分の部屋を後にした。

 トイレに行く、という日常的な行動なのに妙な違和感を感じた。毎日上り下りする階段が歪んで見える。


「ん〜? んん?」


 目を擦ってもう一度確認する。

 すると、視界は元通りになり特に異常は見られなかった。

 昨日まで学校の試験が続いていたので、今になって疲れが出たのだろうか?


「まぁいいか」


 思考を振り払い階段を一段降りる。


「ッッ!?」


 なんだろうか……。床が冷たい? そりゃあこよみの上では冬で当然なんだが、そんな生温なまぬるい冷たさじゃない。左足から伝わるこれはまるで氷の上に立っている様な…そんな感覚。

 さて、どうしたことだろう。俺の家はフローリングだったはずなんだがな。


「いやいや、冗談を言ってる場合じゃない……か」


 もう一段降りてみるか?

 右足を左足がある段から一つ下に移動させる。


「……冷たい」


 兄さんの悪戯? いやいや昨日から、「自分探しの旅に出る!」とか言って今ん所は家には居ないはずだ。兄さん……今頃何やってんだろうか。


「おーっとそんな下らない事はいい! 今はこっちだ」


 階段の床を凝視するが、特に怪しい所も変な所も無い……と思う。そんな家の階段をまじまじと見た経験など無いのだからハッキリしないのはしょうがないというもの。

 床は冷たいだけで氷みたくツルツルする訳じゃないみたいだ。


「ん〜〜……」


 異常なのは分かる。だけど、どうも危機感を感じるものでは無いし、冷たくて気持ち良いしな。


 ……………………ん?

 …………なにか忘れてないか?

 …………………………あーそうだ、



「トイ……漏れるっ!!」


 床が冷たい? 知るか! そんな事よりトイレへダッシュ!!

 軽快なステップで階段を降りて行く。

 他の段も一階の床も冷たかった。しかしそんなことは知らん!

 一階へ降り、すぐに体を左に曲げ、廊下を進む。

 トイレが見えた!!


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 少年漫画張りの熱い雄叫びを上げ、俺はトイレに駆け込んだ。


 トイレロックOK! 

 社会の窓に手を掛けて、チャックOPEN!

 さぁー行くんだSON!


「あ、待ってましたよ」


 そうかそうか。息子よそんなに我慢していたのか…………はい?

 便器の中から、なんか……えっと人間? うん、可愛い女の子が俺を見てる。


「ほひゃぁっっ!?」


 俺はズボンに手を掛けたままバックステップで便器から距離を置く。距離といっても残念ながら俺の家族は庶民で見栄も張る気ないのでトイレは狭い。よって40センチほどしか間がない。


「あんた誰だよ!? つーかなんだよ!?」


 俺の怒声を無視し、少女は便器の中から上半身だけを出してトイレを見回す。

 キョロキョロと忙しく目を動かす少女。なぁ、俺はどこに突っ込みを入れれば良いんだ? 教えてくれ。誰でもいいから……。


 とりあえず、だ。あの少女の体ってどうなってんだ? 上半身は普通の人間となんら変わっている箇所は無い……いや、ある。

 最初に言うけど。マジ可愛い、これはホント。それに、髪はロングで桃色をしている。服は、なんだろう? コスプレ……というか、軍服のように見えるが、なんかファンシーでかしこまった感じじゃない。肌は雪の様な白さをしていて、目元は二重でパッチリだ。って、どこのエロゲのキャラだよ。

 少女は見飽きたのか視線を俺に移した。


「小さいですね」


 小首を傾げ、少女はボソッと呟いた。

 俺はズボンの方に目をやった。…………OH MY SON!!

 やっぱ小さいのか? うあ…女に言われるとやっぱショック。男としての自信が無くなる。すいません神様、少子化に貢献出来ないかもしれません。


 凹む俺の顔を見ていた少女の視線が、下へ下へと……。そして、


「きゃっ! そんなもの早くしまってください!」


 そんなもの!? うはっ……ダメージでか過ぎる。見たくも無い大きさ……か。

 両手で目を覆い、少女は頬を紅潮させた。

 息子をそんなものと言われたショックと顔を赤らめる少女の可愛さを同時に味わうという新感覚を堪能する。

 ……と、そんな新世界を楽しんでいる場合じゃない! 俺はズボンへ押し込みチャックで塞ぎ、息子を家に帰らせた。


「ちゃんとしまいました……」


 目を覆う手の指を開き、その間から覗き見るように確認し、両手を下ろした。


「もうっ! 女の子の前でそんなもの出すなんて最低です!」


 便所ここで出さずにどこで出せと……? という屁理屈は置いといて、


「どちら様でしょうか?」


 すると少女は急に真面目な顔になり、ビシッと敬礼した。


「申し遅れました。私は、この地域の護衛を担当するアズハと申します」


「すいません…色々と端折はしょり過ぎていて意味が分かりません」


 敬礼した手はそのままに、真っ白な頬に朱色を浮かべ、


「第三水道局直属特殊部隊『清き水(クリアウォーター)』のアズハ伍長であります」


 と堅苦しく言って見せたが、どこか恥ずかしげで雰囲気が伝わってこない。

 ……それに、さっきより言ってる事の意味が分からん。どこの電波情報だよ……。


「そうですか……。それで、下半身どうなってるんですか?」


 水道局がどうのこうのは軽くスルーする事にして、気になることを訊いてみた。


「えっと……大丈夫ですよ。少し勢いが足らなかっただけですから」


「はぁ……?」


 どうも会話が噛み合わない。どうしようか、この電波美少女。

 ん〜そういえば、もう尿意がしないな。あれか? あの、ビックリしたらしゃっくりが止まる法則みたいな。


「あの〜すいません、用件を伝えてよろしいでしょうか」


「え、あーはい」


 用件……? 便器から出てくるような人の用ってなんだろうか? 物凄く不安だぞ。

 アズハは可愛らしく咳払いをすると、


「第三水道局より、あなたの身柄を確保せよとの指令を受けました。なお、手段は問わず抵抗するようであれば強硬手段に出ることも許可されています」


「……はい?」


「えーとですね。つまり、私に付いて来てくださいませんか?」


「……はい?」


 こんな美少女にデートに誘われるのは嬉しいのだが、下半身が蛇のように細長いのは御免だな。それに、水道局ってそんなかっこいい所だっけ?


 俺が「はい?」としか答えないので、アズハは、子犬の様なつぶらな瞳を向けてくる。


「来てくれませんか……?」


「あの、これって、何かの冗談ですか? ドッキリとか?」


 ドッキリならそう言ってくれ。正直、便器から出てくる美少女は勘弁してほしい。

 アズハは俺の言葉を無視して、右手首に付けられていた腕時計を確認し、


「詳しく話している時間が無くなりました。申し訳ありませんが強硬手段を取らさせていただきます」


「え、ちょっ」


 左腕をアズハに掴まれる。すべすべで柔らかな手は大歓迎なのだが、この状況は……。


「少し苦しいかもしれませんが我慢してください」


「な、なにを……するんですか?」


「慣れない内は窮屈ですが、痛くは無いですからね」


「だから……なに、えっ……ちょっと引っ張らないで下さいよ! 俺にここへ入れと? 無理ですって、俺は何処の軟体動物ですか? あ、あぁぁ……、無理無理無理!!」


 アズハの華奢な腕からは想像出来ないほどの強い力で体を引かれる。


「あまり暴れないで下さい! 座標がずれてしまうので」


「そんなこと言われたって……!」


 アズハの体が便器に沈んでいく。だが、よく見ると、蜃気楼のようにモヤモヤ(?)した空間が便器の中に溜まる水の上にあって、そこでアズハの体は切れていた。これがちまたで噂のワームホールというやつなのか?


 そんな事を考えている内に、アズハの体は俺の左腕を掴む手しか見えなかった。


「次は俺の番ってか……」


 是非ともお断りだね。この手が放してくれるのなら。

 俺は死ぬのか? ……あぁ〜非現実を楽しむなら美少女に囲まれるエロゲの世界がいいなぁ。


 俺の左腕が、モヤモヤに突入する。

 なんだろうか、この感覚。水の中にいる感覚に近いが、ちょっと違う。四方から圧迫され、フィットする感じだ。


「死なないよね……?」


 一抹の不安が残るが、もう流れに任せて諦める事にした俺は、抵抗する力を抜き、自分から便器へと飛び込んだ。



 これが俺、日下部くさかべ直輝なおきの戦いの始まりである。

 この経験で最も勉強になったことは、美少女には付いて行くな、という事であった……。



はい、長い長い物語の始まりです。

謎を少しずつ明かしていくので、少しまどろっこしい所はあると思いますが、よければ、どうぞ。

誤字脱字の指摘をして下さると大変ありがたいです。

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