第8話 旅の支度1
この世界は、地球と同じように太陽暦で12ヶ月で分けられている。例外は年間400日ぐらいあることで、1月に33から34日ある。
そして、今日は地球でいう11月にあたる月の10日。ここマミルスでは収穫が完全に終わり、収穫祭が開催されている。
しかし、僕とレイさんはその祭に参加することはできない。3日前の夜、営業が終わったボルノでレースさんの記憶を取り戻すための話し合いがあった。
その場には、レイさん、レースさん、店主のトバイ、そしてザーバンさんがいた。
店主がいたのは旅に出るため、ボルノをやめるか長期休暇を取るかのため店主の存在が必要だったからだ。
ここからダズデランまでは行って帰るだけで、2ヶ月はかかる。その上、ダズデラは治安がいいとは言えないため、ある程度の力は持っておいた方がいいときた。
魔法などの修行の時間や旅の時間などを合わせると最低でも半年はかかってしまうと予想された。
そのことなども考慮に入れ、考え出された結論は、僕とレイさんは解雇で、戻ってきたら雇ってやるが給料は前に戻るというものだった。
そして僕達は、11月10日からザーバンさんのところで魔法の修行を住み込みで5ヶ月やった後、ダズデラ王国に向かうというものだった。
つまり、今日から僕とレイさんは魔法の修行となるわけだ。レイさんは祖母がレースさんだから心配の必要はないだろう。問題は僕である。地球生まれの僕には魔力があるかどうかすら分からないのだ。
しかし、それはやってみなければ分からない。というわけで僕達は、ザーバンさんの家に来ていたのだが、
「ザーバンさん、とんでもない金持ちだったんだな」
「お金持ちだろうとは思っていたけどここまでとは予想外だよ」
僕の目に映ったのは、サッカーコートぐらいはある敷地と2階建てで薄い肌色の大きなお屋敷だった。
それに庭には、なにやら面白そうなものが置かれていた。
貴族でもないザーバンさんがここまで大きな屋敷を持っていることに驚愕していると、中から本人が出てきた。
「いらっしゃい」
ザーバンさんは門を開けると中へ来るよう手招きした。これから始まる修行の日々への期待に胸を膨らませながら、僕達は門をくぐった。
中に入るとまず、それぞれの部屋に案内された。部屋は2階にあった。
内装はかなりよくベッドも付いている。机もあり、窓も付いている。ベランダもレイさんと共用だがある。
まあ、ベランダに関してはバルコニーと言った方がいいかもしれないが。というのも、途中までは屋根があるのだが途中からは屋根がなく、屋根がない部分の方が広くなっているのだ。
多分ここまでバルコニーを広くできたのはちょうどバルコニーの下にも部屋があるからだろう。
このバルコニーは是非有効活用したいところだ。あとで、レイさんと話し合おう。
そんなことを考えていると
「おい、行くぞ。早速魔法の修行じゃ」
僕達の荷物の整理が終わったのを見て、ザーバンさんが言った。
ザーバンさんに連れられて僕達は研究室のような場所に来た。ザーバンさんは研究室の入り口に僕達を放置してすぐに奥に消えていった。しばらくして、
「おーい、ちょっと重たいもん運ぶんで手伝ってくれんかの?」
「「は、はーい」」
1人で運べないものなんて、どんなものを出すつもりなんだろう。
研究室は魔法によるものだと思われる明かりが点いていて、明るい。お陰でザーバンさんが持っているものはすぐに分かった。
スクロールである。僕はスクロールの用途に心当たりがあった。地球ではスクロールと言えば中を読むだけでその魔法を使えるものだ。
「たくさんあるからのう、流石に1人では無理じゃ。とりあえずリビングまで持っていくかの」
そう言って渡されたのはザーバンさんが持っていたスクロールである。6本1束になっていてその束が大量に奥の棚にはしまわれていた。
僕達がスクロールを受け取るとリビングに案内された。そこは暖炉があり、その前に赤いソファーと大人が2人寝転べるぐらいの正方形の絨毯があってその上に1m×1mぐらいの低い机が置いてあった。
そこにザーバンさんがスクロールを置いたのを見て、僕もそれに倣う。
全てのスクロールが置き終わると机の上にはスクロールで埋め尽くされた。スクロールを立てて置いたために机の高さがスクロール1つ分上がっている。
ザーバンさんはその中から1つを取ると広げてこう言った。
「これから君達の魔力量を測る。わしの研究の結果ではこの世での存在が確定した瞬間の体積とその付近の魔力の密度で魔力量は決まる。だから哺乳類が魔獣になるんじゃな。子宮の中は魔力の密度がとんでもなく高いから」
僕は驚いた。地球では魔力に関する説明は正確にはあまりされていないものが多い。まさかここまで研究が進められているとは予想外だ。
てっきり何か不思議な力とでも言われるだけかと思っていた。
「へー、そうなんですね。ショウマ君、あなたたしかチュウニとはいう特殊な人だから魔力量もすごいんじゃ、、、」
レイさんはザーバンさんに相槌をうつと、僕の方を向きながら小さな声で言った。
そういえば僕の出自については強引に誤魔化していたな。それに、はじめに自己紹介した時、中2って言ったな。
なるほど、どうやらレイさんは僕をチューニという特別ななにかだと思っているのか。全然そんなことないけどな。
「あのねレイさん、僕は別に特別な人ってわけじゃないよ?」
「知ってる、ただ特別ではなくても特殊ではあるでしょう?」
「なるほど、たしかにニュアンスが違うような、違わないような」
「でしょ?」
そう言ってレイさんはクスッと笑うとこう言った。
「もしかして、私がショウマ君は特別な存在だと思っているとでも思った?」
図星な言葉に僕は下を向く。それを見てまたレイさんが笑う。
レイさんってたまにSなところあるよな。たまにはやり返したいものだ。
「ほれほれ、説明するぞい?」
ザーバンさんのその声に僕は、今は魔力量を測るところだったと思い出す。
「まず、これに書いてあることを読むんじゃ。そのスクロールは読むと一定の魔力を使う。だから魔力が無くなるまで読み続けるんじゃ」
渡されたのはスクロールの中で3番目に大きいものだった。ちなみに全部で10種類あるうちだ。
スクロールを開くとそこには長々と文字が書かれていた。ざっと原稿用紙10枚分ぐらいか。全部開くと結構な長さになった。お経みたいにとてつもなく長いわけではないが、それでも読むのは大変そうだ。
「無の力よ。目覚めよ。我が力は力を見つけ測ることにふるわれん」
読んでいくと何かが体から出ていくようなそんな感じがした。
読み終えると、興味深そうな顔のザーバンさんに
「お主、これも読んでみてくれんかのう?」
なぜか1番大きいスクロールを渡された。それはザーバンさんが運んできたもので机の上には1つしかなかった。
しかし、僕より少し遅くに読み終わったレイさんには初めのやつと同じものが渡された。
また、同じように読んでいく。流石に1番大きいものだけに書いてある文章量もとてつもなく、読み切るのに30分かかった。薄めの文庫本と同じくらいの文書量だった。
読み終わるとザーバンさんが、青くなりながらこう言った。
「お主、『無の力よ目覚めよ』と言ってくれんかの?」
「は、はい。いいですけど。無の力よ目覚めよ。どうですか」
僕がそう言うとザーバンさんは目を限界まで開いて驚いていた。レイさんは僕が長いスクロールを読んでいる間さらにどんどん小さいスクロールを読んでいっている。今もだ。
多分レイさんはすごい魔力量を持っているだろう。なんせ大魔法使いの孫だ。
僕も同じくらいの魔力は持っているはずだと信じたいところである。
ザーバンさんの反応を見る限り普通ってことはないだろう。相当悪いか、とてもいいか。
「お、お主、本当に人か?明らかに魔力量がおかしい。10万なんて有り得ない。普通で1万で、わしやレースでも1万5000ぐらいじゃぞ」
どうやら、いい方だったらしい。
それにそのとんでもない魔力量に僕は心当たりがあったので驚きはしない。先程のザーバンさんの研究が正しければ僕がこの世での存在した瞬間は外だったとは言え、受精卵と比べ遥かに大きかった。だから、話を聞いた時からもしかするとと思っていたのだ。
「まあ、魔力量については後で詳しく研究させてくれ。とりあえずはレイの魔力量を測るのが先決だ」
そう言ってザーバンさんはレイさんの方へ行ってしまった。
しばらくして、レイさんは読み終わった。そして
「とりあえず2人は部屋に戻っといてくれ」
と言って僕達を残して自分の部屋に消えていった。僕達は指示通り、部屋に戻るとバルコニーについて話し合うことにした。
結果、バルコニーに仕切りは入れないが一応部屋の壁と同じ位置に境界線を引くこととなった。
その後僕はずっと気になっていたことを聞くことにした。
「レイさん、魔力量どのくらいだった?」
お昼まではボルノで働いていたから、もう外は暗くなり始めていた。
「大体1万4000ぐらいだったよ」
「へー」
レイさんが自慢気に言うが僕は10万なので、僕には自慢できないと思う。
「へーって……じゃあ君はどうなの」
「僕?驚くなよ?」
「もちろん」
「10万」
僕はどうだ、という顔をしてレイさんの方を見た。しかしレイさんはなにも反応してくれない。嘘だと疑っているな。
「嘘じゃないからね?」
「わ、分かってるよ。君、やっぱり特別だったのかもね」
「まったく、そうであってほしいよ」
僕はこれからの魔法の修行が俄然楽しみになってきた。この膨大な魔力で脅して、記憶の種を奪うのもいいかもしれない。まあ、なしだけど。
しばらくして、
「おい君達、このスクロールに書いてあることを読んでおいてくれ。わしはしばらく部屋に籠るでの」
そう言ってザーバンさんは僕達に2つのスクロールを放ってきた。
1階のザーバンの部屋から出てすぐのところに階段がある。その階段は180度曲がるので投げるのはとても難しいと思うのだが、ザーバンさんはいとも簡単にやってのけた。やはり底が知れない人だ。
「ねえ、魔法だよ魔法。魔法を私達の歳で覚えられるなんて感激だよ」
「ああ、確かこの国では魔法は成人してからゆっくり覚えるだったっけ?」
「そう」
レイさんはとても感激していた。しかし、僕の感激を超えてはいないだろう。地球には魔法なんてものはないのだ。空想の世界にあったものに手が届く幸せ。至福である。
スクロールは前回のものと比較すれば内容は分かった。そう、火の魔法と水の魔法である。
始まりがそれぞれ、水の力よ、火の力よ、となっていた。そのままである。
多分はじめの無の力よ、というのも魔法だったのだろうが、あまり魔法という感じがしなかったが、今回のはだれがどう見ても魔法とわかるような魔法だ。
と、非常にワクワクしていた時に1つのとても重大なことを思い出した。
「レイさんレイさん、魔法って魔力がないと使えないよね?でもさっき」
その言葉でさっきまでとても楽しそうだったレイさんの表情は、固まった。
1話分では長すぎるので分けました。




