第7話 説明会ととある噂話
「というわけで私は助かったんだよ」
そう言ってレイさんは自分の助けられた経緯を話し終えた。それはなかなかに衝撃的だったが、シーナという女なら納得できる。彼女ならロッジが逃げてもおかしくはない。
「そのシーナって女の人、どんな人だったかしら?」
レースさんが、レイさんに尋ねる。何かシーナについて知っているのかもしれない。レイさんは、
「えっと、、あまりよく覚えてないけど、確か銀髪で、めっちゃ美人だった」
それを聞いたレースさんは少し何かを考えていたようだが、
「ありがとう、なんでもないわ」
と笑顔になった。
「それじゃ、私が話す番ね」
強盗に襲われたレースさん。その本人による生還劇が今、語られようとしている!
僕はテレビのドキュメンタリーなどで見るようなナレーションを思い浮かべてしまった。
「私とレイがはここから100kmほど南にある、ルドブルドという街に住んでいたらしいわ。私達は3年前の大災害で行方不明になったレイのお母さんとお父さんを探していたみたい。元の家がアーデミナル最南端の街デスターだったから、そこから北へ北へとね。」
レイさんと会った時にレイさんが言っていた、母と父がいないっていうのは行方不明になったってことだったのか。流行り病のせいとかだと思ってた。
「まあ、それで1ヶ月ぐらい前にレイから聞いたかもしれないけど、強盗に襲われたの。いくら私は中級魔法を使えるとはいえ、今では使うまでにかなり時間を使うし2回までが限界なのよ」
確かレイさんが帰ってきた馬車隊が遭遇したモグラとの戦いの時は2回使っていたらしいが、意外と無理していたようだ。
「それで、私はロッジという男に連れさらわれた。狙いは多分、私の中級魔法だと思うわ。なぜなら、彼はそのあと私の記憶を消したのだと思うけど、45歳ぐらいまでの記憶は残っているのよ。まあそれで、そのあとはシーナというレイを助けた人と多分同じ人に助けられたの」
レースさんは何かで記憶を消された後のことについては、しっかりと覚えているようだ。
僕達は、レースさんの話を聞く。生きて帰ってこれればいくらでも解決策を練ることができる。記憶がまだはっきり残っている今のうちに、少しでも記憶を戻す手掛かりを得たい。
「それで、助けられた私はナビアを頼ることにしたわ。シーナが彼女を連れて来たの。私は彼女の様子を見て記憶がなくなっていることを確信したわ。彼女から私の色々なことを聞いて、レイのこともその時に知ったのよ」
「おばあちゃん、記憶を戻す方法に心当たりはないの?」
「残念ながら」
レースさんは、下を向きながら首を振る。
「まあ、記憶についてはおいおい戻す方法を考えていくとして、今は生還をお祝いしましょうよ」
僕は、重くなった場の空気を軽くするように言った。
「そうだね、今日はご馳走だよ。楽しく食べないと」
「そうね」
2人の会話を聞きつつ僕は3人で囲んでいた机とは別の机に置いてあった惣菜を持ってくる。
触ってみると冷めていた。先に食べておけばよかったと後悔する。せっかくの揚げたてだったというのに。
「レイさんも手伝って」
袋に種類ごとに小分けされていたりして、1人じゃすぐには運べない量があった。
「はいはい」
そう言ってレイさんはせっせと惣菜を運び始めて、ほんの1分程度で支度は終わった。そして、3人で揃って
「いただきます」
祝賀会は非常に楽しく、会ってあまり日が経っていないレースさんとの仲も深めることできた。
今は、出勤する時間になったことに気付かなかったために大急ぎで準備をしているところだ。
「急いでレイさん、あと5分で開店」
「わかってるって」
レイさんはそう言うが、店までは走っても5分はかかる。今すぐに宿をでなければ間に合わない。
「よしっ、準備完了っと。急ぐよショウマ君」
そう言って元気よく自分の部屋から出てきたレイさんは僕に構わず、走り出す。僕も負けじと走り出す。
走りながら僕はレイさんに問う。
「レースさんはどうするの?」
「今日は、セントラスト行ってから記憶を取り戻す方法を探すってさ」
空は澄み渡っていて雲ひとつない。季節の影響もあるだろうが、ここまで綺麗に晴れるのは珍しい。少し涼しいぐらいの気温はとても心地よい。
走っているとボルノの看板が見えてきた。本日2回目の鐘が鳴り出す。この鐘が鳴り終わる時に僕達は出勤していなければならない。
「やばいよ、早く、早く」
そう言ってレイさんが、僕を急かす。レイさんの運動神経を侮っていた。まさか僕よりもいいとは。これでも運動神経は男子の中では平均ちょい上ぐらいだったのに。
僕は返事をせずに最後の力を振り絞って走る。あと50m。鐘は3秒程の周期で鳴り、後3回しかならない。つまり残された時間は9秒ぐらい。間に合う、僕はそう確信した。
僕より一足先にレイさんがゴールしている。僕もゴールしようと足を踏み出す。しかし、踏み出した先にあったのは拳サイズの石だった。そんなものに思い切り体重をかけた僕はもちろん、ずっこけた。
「グハッ」
「おいおい、大丈夫か?」
心配しながら店主が出てくる。そして、店から少し顔を出したレイさんは大爆笑していた。
ひどい話だ。
足は捻りかけたが、なんとか捻挫はしなかった。しかし、
「残念ながら、遅刻だ。タカハシショウマ」
あと1歩及ばず遅刻となってしまったのだ。今まで僕は遅刻を1回もしなかったと言うのに。ちなみに僕は、というのはレイさんはつい最近寝坊したための表現である。
「すいません、以後気をつけます」
僕はうなだれる。遅刻の場合その日の給料は半分になってしまう。ミスをすれば、相応のペナルティがあるというところもボルノの良いところだろう。能力が高い者はちゃんと評価してくれる店主だし。
「いいだろう」
中に入ると店長から、皿洗いから料理人見習いへの昇格を言い渡された。給料も少し上がって650ミストから680ミストとなった。時給換算25円アップ、、、、、少ない。
しかし、それも1ヶ月働けば900円の差だ。少し、ほんの少しは贅沢ができるだろう。
もう大半の人は仕事が終わり、居酒屋は最も繁盛する時間帯。常連さんの人数も多いこの店だが、それでも最近になると名前もかなり覚えている。
その中でも特に僕が、好感を持っているのがザーバンという仙人のような見てくれでガハハハと笑うおじさん、そうあのおじさんである。
最近は僕の事を「しょうちゃん」なんて呼んで孫のように接してくれる。
今もそのザーバンさんは来ていて、飲み仲間と一緒に話している。料理人見習いになると皿洗い以外もするので中の様子が見えるのだ。
しかし、今日の飲み仲間はザーバンさんの隣にはいなかった。なぜかそこにはレースさんが座っていたのだ。その上何か、話し込んでいる。
記憶のことについて話しているのだと思うが、なぜザーバンさんなのだろう。そんな事を考えているとレイさんが近づいてきた。
「あの2人、昔ハンター仲間だったらしいよ」
「へー、よく見つけたね」
「街で聞き込み調査したみたい」
「な、なるほど」
レースさんは結構変わった人らしい。そんな事を考えていると、レイさんの表情が急に真剣なものへと変わった。その目につい吸い寄せられてしまう。
「あと1つ分かったことがあるんだけど、おばあちゃんここに来る前に病院にも行ってみたらしいの」
「結果は?」
「今の技術では無理って言われたって」
「そうか」
「でも」
そうレイさんは勢いよく言った後、自分のボリュームが大きすぎたことに気付き、下げながら次の言葉を続けた。
「ザーバンさんいるでしょ。あの人によるとアーデミナルの北にあるダズデラ王国の首都にある研究機関が記憶を改変したり付け足すことのできる薬を開発したらしいの。その名も『記憶の種』」
「つまり、それを使えば失われた記憶を取り戻すこともできるってことか」
「その通りだよ、おばあちゃんの記憶がないの、」
そこまで話したところで、「すいませーん」という声が聞こえてきたので、レイさんは行ってしまった。
続きは帰りに話そう思った。レースさんも交えて。
いつもは帰るのは12時ぐらいだが、今日の朝来る時間を遅くしたために帰るのは1時ぐらいとなった。実質仕事が終わったのは12時で、そこからボルノで夜ご飯を食べていたわけだが。
話によると、どうやらレースさんの記憶がないのは正確にいうと50歳の誕生日より少し前の日かららしく、2、3年分はないもののある程度ならレイさんの記憶や周りの仲間の記憶から記憶を取り戻せるらしい。
人探しは大変だが、まだ希望がある。もっと希望がないのが記憶の種である。まずダズデラ王国の首都ダズデランというのが、王国の中でも北の方にあり、ここからは1000kmぐらいあるらしい。さらにダズデラ王国は治安が悪い上、記憶の種がある首都の研究機関は戦争などに用いる兵器を開発するところのようで開発されていて、とてもではないが買えるようなものではないらしい。
つまり、強奪するしかないわけだ。しかしそれはあまりにも危険なので、今はどうするか相談中である。
しかしどちらにせよ、ダズデラ王国には行くことになる。旅の準備をしつつ相談しようと決まった。ちなみに準備にはザーバンさんも協力してくれるらしい。非常に頼もしい。




