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異世界の盗賊。  作者: 佐藤 崇 satou takasi
ダズデラ王国と記憶の種
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第5話 馬車の旅の奇跡

 馬車に乗って3時間後ぐらいの時、馬車の右側200m先に突然土煙が上がった。それは何かが来たことを伝える狼煙のように空高くまで伸びっていった。

 この辺りは草原なのにもかかわらずこの規模の土煙とは大分大きな衝撃があったようだ。そして、私にはその狼煙を上げる生き物には心当たりがあった。

 昔、祖母が教えてくれた土に潜み突然に穴を空けて飛び出す生き物。そいつが魔獣化すれば厄介だと祖母に言わせた生き物。それは、

「まずい。モグラだ。モグラが出たぞ。」

 モグラ。正式名称、モードーグラ。

 グラというのは地下にいる生物を指す。

 基本的に地下に住む生物は温厚でなかなか魔獣は、生まれない。

 しかし例外もいる。それがモグラだ。モグラは地上に獲物を見つけるとすぐさまその真下から口を大きく開けて襲いかかる。その速度は、凄まじくマミルスからブズーキナまでを30分弱で行くことができる。

「みんな地面を見ろ。どこか亀裂が入っていたりしないか?」

 ハンター達のリーダー格、ゼッグが叫ぶ。モグラが地中を移動する際にはどうしても地表に亀裂が出来てしまう。それを探せばモグラの動きがある程度なら分かるということだ。

 一般人である私にはどうしようもないことなので大人しくゼッグに従うことにした。

 その数秒後、土煙が上がった方とは逆の方向から亀裂が走ってきた。凄まじいスピードだった。

「左側から亀裂が来てます。」

 私は声を振り絞って叫ぶ。

「了解!左だ。全員構えろ。」

 モグラは地中から来るために反撃がしにくい強敵だ。なんとかなれば良いが、そう簡単にはいかないだろう。

 ブジュッ、水鉄砲から水を出した時のような音が聞こえる。続いて、衝撃がありドーンという音が聞こえてきた。

 その音はモグラが地面から飛び出してきた音、ではなかった。

 モグラが地面から飛び出してくる直前、水の奔流がモグラを襲ったのだ。地面を突き抜けて。ゼッグは驚きを隠せずに後ろを振り向く。

 それは中級魔法であったのだから仕方がないだろう。私には分かるたまに祖母が見せてくれた魔法と同じ魔法だったからだ。

 使った人は私の2つ後ろの馬車に乗っているようだが、それ以上は分からない。ここからでは見えないのだ。

 中級魔法が使える人は殆どが軍の魔法使いの部隊、魔導師団に入団する。初級魔法と中級魔法では希少度が桁違いなのだ。にもかかわらず、大都市と言うほどでもないマミルスに来るとは一体どんな人なのだろうか。

「よ、よしチャンスだ。一気に攻撃しろ」

 ゼッグが我に返ったように言った。モグラは、大量の水を喰らいしばらく動くことができない。

 その時間はハンター達にとってモグラを倒すには十分な時間である。ハンター達の攻撃でモグラは血だらけとなった。

 しかし、それでもモグラはしぶとく生きている。驚異的な生命力を持っているようだ。

「早くとどめを刺せ、逃げられたら厄介だ。」

 しかし、ここで問題がある。モグラの急所はまだ分かっていないのだ。そもそも数が少ないため研究が進んでいないのだ。

「クワーーーッエ」

 モグラが叫ぶ。

 モグラが猛スピードで馬車の方に向かってきたのだ。それも私のいる馬車だ。その顔は自らの命を諦め、錯乱していることを物語っていた。

 私に戦う能力はない。初級魔法ですら使えないのだ。逃げるしかない。しかし、私の体は動かない。動かないのだ。必死に脳は動けと命令しているのに体が言うこと聞かずに震えている。

「まずいッ、可及的速やかに仕留めろ民間人を犠牲にするな。」

 頼みの綱のハンター達もモグラのスピードに追いついていけていない。こちらの方にいるのはただの乗客だ。戦闘力なんて皆無だ。あちこちで悲鳴が上がる。

「キャーーーッ」

 私と同じ馬車の人が悲鳴を上げる。私と同じく震えが止まっていない。動けない私達に向かってモグラは突っ込んでくる。

 その時、私は強く願った。ヒーローでもヒロインでもいい、どうか私を救ってください、と。

 そして、私は目を強く閉じた。

 すると、耳をつんざくような悲鳴が聞こえてきた。先程の女性とは違うものだ。

「キーーーッーーッ」

 その鳴き声のあとズーンという音ともに地面が揺れ、そしてモグラの突進する足音が聞こえなくなった。

 私はゆっくりと目を開ける。すると、モグラは仰向けになって転がっていた。そして前にはレースが立っていた。私の祖母のレースだ。死んだと思っていたおばあちゃんは私の方を見て

「大丈夫かい?お嬢ちゃん」

 と言った。まるで私のことを初めて見るかのように。私の祖母のレースと全く同じ声で、言ったのだ。

 確かに私はおばあちゃんとは1ヶ月ぐらい会っていない。しかし、だからと言って孫の顔を忘れるだろうか。おばあちゃんは1ヶ月前と何も変わっていない。少し茶色がかった瞳、白髪の髪、優しそうな顔立ち。何一つ変わったことはない。

 その後ろではハンター達が追いついてきて魔獣の処理を行っている。魔獣の死骸は放っておくと、その付近の生物に魔力が移り魔獣が生まれる可能性が出てくる。

 そのために今、魔獣は燃やされ灰にされている。その炎からでる煙は少し晴れ間が覗いた空をねずみ色に染めた。

「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん?」

 レースがしきりに私を呼ぶ。しかし、私は呼ばれるたびに傷ついていく。私のおばあちゃんのレースは私を「レイ」と呼ぶのだ。

「あの、あなたの名前は?」

 私は混乱したまま他人行儀に接してしまう。レースはそんな私に違和感を覚えることもなく

「レース・タキオードよ」

 と言う。名前を聞いた私は目の前にいるのは間違いなくおばあちゃんである、と確信した。しかし、混乱は深まるばかりだ。なぜレースは私を覚えていないのだろう。

「私、覚える?」

「いえ、残念ながら覚えていないわ」

 おばあちゃんと思わしき人は難しい顔をしながら決定的な言葉を発した。その言葉に私は大きなショックを受ける。やっと会えたと思ったら記憶を失っているのだ。

「そうですか」

 私はそれだけ言って自分の馬車に戻った。

 私は馬車に戻ると椅子に座った。そして下を向いて、馬車が走り出すのを待った。

 数分後、馬車は走り出した。


 僕は今朝もまた、1人でボルノへと向かった。店主は今日まではレイさんのことは仕事をしていることにする、と言っていた。

 明日になってレイさんが戻ってくるわけはない。ただの気休めだがレイさんの職が失われてしまうとレイさんは2度と帰ってこないんじゃないかと思ったのだ。

 僕はレイさんは死んだとは理解していてもレイさんが死んだことを本能の部分で拒否していたのかもしれない。


 馬車はその後問題もなく進み、夕方頃にマミルスへと着いた。夕日は雲に覆われて見えない。明日は雨になるだろう。

「ちょっといいかしら。」

 横から話しかけられる。見ずとも分かる。1年以上おばあちゃんの声を聞いていたのだ。間違うわけがない。

「はい、何でしょう?」

 案の定、そこにいたのはレースだった。

「もしかしてあなた、レイという名前ではありませんですか?」

 、、、今レースは確かにレイと言った。

「そうです、私はレイです」

 咄嗟にそう答える。僅かに見えた希望、失うわけにはいかない。レースの顔が少し曇った。

「私は、記憶をなくしたのです。だから私はあなたのことを覚えていません。」

 記憶を失ったのは分かった。しかし、ならなぜ私がレイだと分かったのだろう。

「じゃあ何で私が分かったの?」

「とある人から聞いたのよ。あなたはレイって名前の孫がいるからその人を頼りなさいってね。それで特徴がぴったり合ってたからあなたに声をかけたのよ。」

「そうですか。ではあなたは間違いなく私のおばあちゃんなんですね。」

「はい、後私に接するときは昔のままで結構です。そっちの方が楽でしょう?」

 おばあちゃんが戻ってきたわけでもないのに私にはそんな感じがした。よくよく見れば少し違いはあるもののよく似ている。

「、、、そうだね。1つ質問してもいい?」

「もちろん」

 私は、記憶を失っていることを聞いた時から気になっていることを聞いた。

「記憶は、戻るんですか?」

 おばあちゃんがほんの一瞬俯き、笑顔になって言った。

「まだ、お医者さんに診てもらっていないから分からないわ」

 私はおばあちゃんの顔の中に悲しみの色が混じっていることを敏感に感じ取った。医者に診てもらっていないのは本当だろうが、自分のことは自分が1番良くわかるという。自分の記憶は取り戻せそうにないことは分かっているのだろう。

 そんなことを考えているとまた悲しくなってくる。

「あの、これからこの街の商店街のところに行くんだけど場所教えてくれないかな?来たの随分前だから忘れちゃったのよ」

「は、はい」

 私は反射的に答える。まるでおばあちゃんは私を心配させないようにしているみたいだ。

 そこで、私はとても重大なことに気がついた。それを聞くために私は口を開く。

「ねえ、おばあちゃん。もしかして若い頃の記憶ならあるの?」

 おばあちゃんが立ち止まる。そして下を向いて、何かを小声で言う。

「そうよ、私は覚えてる。私はレース・タキオード、、、37歳。」

 37歳。本当はおばあちゃんは今62歳だったはずだ。つまり、25年分の記憶が抜けたといくことだ。

 ということは、思い出そうとすれば最近のことも。私の中に希望の光が差し込む。

「最近のことは?」

 おばあちゃんは、考え込む。1分程だったとき

「やっぱり無理だわ。最近のことは思い出せない。」

 そう簡単にはいかないか、、、。誰かに聞ければいいが誰か頼れる人はいなかったか、、、。

 そして私は自分の重大なミスに気付く。

「あ、ショウマ君のところ行かなくちゃ」

「ショウマ君?」

 おばあちゃんが聞き返してくる。説明するより会わせる方が早いだろう。

「付いてきて」

「え、ええ」

 私はおばあちゃんの手を引っ張ってショウマがいるであろうボルノへと急いだ。

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