第3話 誘拐
1ヶ月が過ぎ、生活も安定してきた。
宿は、3日目に現在の宿に移した。この前の宿は本当に部屋しかなくさすがに住めなかった。それに比べこの宿は、壁が少し薄いが少量の朝食はついてくるし便利だ。
そして全体的に明るい。この前の宿はおんぼろ感が強かったのとは対照的だ。
貯金が5000ミストぐらいできた。ボルノでは、今も働いている。あの居酒屋は待遇がかなり良くなかなかは入れないと聞いた。実に運が良かったと言えるだろう。
また、ボルノは比較的ホワイトで今日は休日になっている。そこで2人で街の探索に行くことになった。僕たちは、この街をあまりにも知らないのだ。通勤で通る場所は限られている。
「もう準備できたー?」
間延びした声が明るい茶色のドアの向こう側から聴こえてくる。
「まだだから、待ってて」
「はーい」
緊張感のない会話。
今日は、商店街の奥の方まで行こうと思う。ボルノがあるはセントラストに近い方の入り口の近くで、ずっと行くと門を入ってすぐのところの大きな広場にでる。
その門の方には僕達は、行ったことがないのだ。
朝の鐘が鳴る。始業のベルってやつだ。
ボルノも、このベルまでに出勤だ。
「よしっ、準備完了。」
ドアの向かうから
「じゃあ行こう!」
威勢のいい声が聞こえてきた。
商店街までは10分程で着く。
商店街の入り口には「ようこそ、マミルス商店街へ」という横断幕が掲げられているのだが、、、。
「ね、あれ見てよ。横断幕。」
なんと、まあびっくり横断幕のロープの上に1人の人間が乗っているのです。
「曲芸師かな?」
「そうじゃないだろう。だってあれ。」
横断幕で綱渡りをしている人の下にはたくさんの衛兵がいたのだ。
多分泥棒だろう。怪盗でも気取っているのかな?
まあ、僕達には関係ない。
「迂回して行くか。」
「うん、そうだね」
回り道といってもせいぜい5分程のロスだ、問題ない。
マミリス商店街、街で1番の商店街だ。いつもはボルノのある手前の方までしか行かないが、奥にもまだまだ続いている。
面白い店ないかなー、なんて歩き回ること30分。レイさんが突然右を向いた。
何があるのか、僕もそれに倣って、右を向く。
「アルバ」という店だった。
商店街の賑やかで軽い感じのイメージの中、その店だけが重い感じのイメージを放っていた。
その原因は恐らく重たそうなドアとその深い青色だろう。商店街は全体的に黄色と茶色の間のような色合いなのだ。
その中での青は、目立つ。
なんの店かは、外から見ただけでは判断しかねる。
「入ってみる?」
レイさんがどうしようか、という顔で見てくる。
僕は、面白いものには食いつくスタンスだ。
「もちろん」
そう言って僕は青い扉に手をかけた。
「いらっしゃいませ」
初老の男が、カウンターから言う。なぜかおどおどした雰囲気。
中に入るとなんの店かは一目瞭然だった。宝石屋だ。
緑色のエメラルドのような、しかしそれよりも深い色の宝石が、中央の机に飾ってあった。
綺麗だ。
「これなんて言う宝石なんですか?」
「え、えっとですね。タイパンという宝石ですね。」
男はやはりおどおどとしている。それに、メモを読みながら答えたのも不自然だ。
おっと、僕のミステリー脳がコから始まるやつだろうか。
まあ、いい。庶民には手の届かない代物だ。そうやって店を出ようとした瞬間。
パリンッ。
2階で、窓が割れる音がした。続いてドサッという人の倒れる音。
どうやら、僕のミステリー脳は鋭いらしい。事件発生だ。
1階に降りてきたのは全身に黒い服を着ている性別の分からない人だった。
その人はタイペンとか言う宝石だけをとってさっさと逃げていった。
その間20秒程であっただろう。
僕は、固まってしまった。しかし、レイさんは違った。
「ねえ、あれ。」
レイさんが指差した先には、なんと本来あるはずの男の証明書の右下にセントミストの判子がなかった。
つまり、この初老の男は犯罪者ということになる。
「おいおい、嘘だろ。」
はっ、と気づいたように男は自分の証明書を隠す。
「、、、何も見てないよな?」
それはもう脅しであった。
いや、見てしまった。
僕の頭に咄嗟に逃げるという選択肢が浮かぶ。それしかない。
しかし、足が動かない。竦んでいるのだ。
「見たんだな?見たんだろ?」
男が滲み寄ってくる。そんな男に僕は何もできない。
「見てしまったなら、生かしては置けないか。」
そんなに大きな犯罪を犯したのだろうか。
こんなところで、死ぬわけにはいかない。まだまだ僕は異世界をエンジョイする予定なのだ。
男は、奥に行き刃渡り40cm程の刃物を持ってきた。
刃の表面がギラッと光る。
ああ、終わりか。そんな感想した浮かばない。
レイさんは?、ふとそう思い見てみる。レイさんは、ドアに手をかけて動けないでいた。
自分1人だけなら逃げられるだろうに。
「逃げて」心の中で叫ぶ。叫べないわけではないのに声は出なかった。
その時、店の門が勢いよく開けられた。衛兵隊がなだれ込んでくる。
「そこを動くな、ロッジ・マーデル。」
どうして、わかったのだ?という疑問よりただ安心でへたり込んでしまった。
ロッジ・マーテルと呼ばれた男は、余裕な様子であたりを見渡した。
僕には、衛兵に囲まれてあそこまで平然としている姿が信じられない。
「動くな、絶対にだ。」
衛兵達のトップと思わしき人が叫ぶ。
「チッ、」
つい3分前までのおどおどとした雰囲気は、完全になくなっていた。
「隊長、増援部隊が急行中とのことです。後2分程で到着します。」
伝令らしき人が駆け込んでくる。
隊長と呼ばれたのは、僕がトップだと思った人だった。
「気を抜くな、相手はネームドだ。」
隊長が喝を入れる。
そこで、やっと僕はまだ自分が安全になったわけではないと分かった。
足は動く。ここにいても僕は、足でまといだろう。逃げるのが得策だ。
「レイさん、逃げるよ?大丈夫?」
レイさんは、扉のすぐ近くにいたから安全だろうと考えていた。
レイさんの方を僕が向くと、レイさんは、いなかった。
一体いついなくなったんだ。
考えられるのはレイさんが人質に取られたということ、1人で逃げられたということ、衛兵に捕まったということ。
まず1つ目は、ないだろう。ロッジは人質も持っていない。
可能性としては、3番目が1番高い気がする。扉の近くにいたから見張りだと思われたのかもしれない。
誤解を解きに行くしかないな。
僕は、包囲網の外側にいるから扉の外に出るのは簡単なはずだ。
「君達、包囲網は二重ぐらいにはしておかないと逃げられちゃうよ?」
ロッジの方を向くと、楽しむようなロッジの目が入ってきた。その目には、なんとも言えない威圧感があった。
やってやる、ロッジの目はそんな目をしていた。
ロッジは逃げるつもり満々だ。
「ロッジ、貴様はもう逃げられない。すでに応援が到着して包囲網を形成している。大人しくお縄につけ。」
「は?だから?」
その瞬間、ロッジの姿がブレた。そして、次の瞬間にはロッジは外に出ていた。
彼は、人質を取っていた。それは外で衛兵と話していたレイさんであった。
「ほら〜、言ったじゃん。この娘は人質ってことで。」
そう言ってロッジは、姿を消した。
その日の夜、僕は1人で宿に帰ってきた。
あの後、事情聴取を受けたたりロッジのことについて教えてもらった。
ロッジ・マーテルというのは10年程前に現れた強盗殺人鬼だ。その殺し方は、極めて残虐であった。
人質と言ってたいたが、レイさんの生存は絶望的だそうだ。また、レイさんの家を襲った強盗も、ロッジだったという可能性は十分にある。
これで僕の仲間は、いなくなった。ただの1人も。
ロッジ・マーテル。彼に勝つことができる人がいるならどうか願いたい。
「どうか、レイさんの仇を。」
思考の中で僕は1つの部屋を見つけた。
真っ白で、境目がない部屋。純白とは言えない薄い白。
突然、色が変わる。
白い部屋の隅の方から一気に暗くなる。いつのまにか隅が出来ている。真っ黒ではなく子供の落書きが混ざったような部屋。
深呼吸を1つする。
部屋の色は白へと戻っていった。
体が震えている。何故だろうか。
怖いからか?寂しいからか?それとも怒りだろうか?いや、全てだろう。
感情が交わる。深呼吸1つで、気持ちが大きく変わるくらいに入り乱れている。
震えが止まらないまま、僕は眠りの世界に沈んでいった。
私は遠くから、レイという少女が連れ去られるのを眺めていた。
彼女は抵抗しているようだが、まるで歯が立っていない。まあ、無理もない話だ。
「死神ロッジ」の名を知らないものはこの世にはいない。
あの男には、私も手を焼いている。彼はなによりも逃げ足を重視している。だから勝つことはできても逃げられてしまうのだ。
「ふむ、ここで彼女を助けて奴を衛兵警察に突き出すか。」
マミルスの警察、その中でも衛兵部隊は優秀だ。なんとかなるだろう、多分。
ロッジはもう隠れ家へと帰っていた。これから殺す予定の少女を連れて。
しかし、あくまでも予定だ。狂うこともある。例えば、世紀の大怪盗と呼ばれるシーナ・カルトランなんかが現れるとか。
「やあ、」
彼女は、自慢のスピードを駆使してテレポートのように移動する。それと、礼儀正しい彼女は挨拶を忘れない。
ロッジが息を飲む。
「ま、まさか貴様。」
ロッジの口調が緊張したものとなる。それに対して、彼女はどこまでも落ち着いていて、余裕だった。
「君の人質をもらいに来たんだよ。」
「さ、させるか」
ロッジは、得意のシラード流の剣術で立ち向かってくる。
彼の清潔そうな見た目とは、裏腹に豪快で大胆な剣術だった。
しかし、彼女は戦うことすらしなかった。
ただレイという少女を、抱き抱えらとすぐさま隠れ家から出ていった。
遠くからは「ロッジが発見された。厳重に警戒して乗り込むように」という衛兵部隊の隊長の声が出て聞こえる。
彼はその声を聞いて、身支度もせずに隠れ家を飛び出したのであった。
それを少し離れたところから見る影が2つ、シーナとレイだ。
「あー、逃したか。こういうのは隠密性が大事なのにな。」
これがレイが目を覚ます5分程前の話である。
読んでくださりありがとうございます。




